2015年 05月 20日
Liszt: P-Sonata in B min. Etc@Angela Hewitt |
バックログとなっていたヒューイットのもう一枚、リストのロ短調ソナタだ。なんと意外なことにヒューイットは今までリストを録音していないのだそうだ。当代最高と言って差し支えない最強女流が初めて録音するロ短調ソナタはどんなものかという期待は否が応でも高まる。

http://tower.jp/item/3770523/
Liszt:
Piano Sonata in B minor, S178
Sonetto 47 del Petrarca (Années de pèlerinage II,S.161 No.4)
Sonetto 104 del Petrarca (Années de pèlerinage II,S.161 No.5)
Sonetto 123 del Petrarca (Années de pèlerinage II,S.161 No.6)
Après une lecture du Dante, fantasia quasi sonata
(Années de pèlerinage II,S.161 No.7)
Angela Hewitt (Pf)
フランツ・リスト:
ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178
巡礼の年第2年《イタリア》より
ペトラルカのソネット第47番 S.161-4
ペトラルカのソネット第104番 S.161-5
ペトラルカのソネット第123番 S.161-6
ソナタ風幻想曲《ダンテを読んで》 S.161-7
アンジェラ・ヒューイット(ピアノ/ファツィオリ)
ロ短調ソナタもまたショパンのエチュード集などと同様に売るほど所蔵しているので、これからはもう買うまいと決心していた曲。だがヒューイットの演奏となるとやっぱり別で、是非とも聴いてみなければならない。別に義務感に駆られる必要はないのだが、先ほどの強い決心はあっけなく覆されてしまった。それで、ヒューイットのことだから、きっとパワフルで男前の演奏を吹き込んでいるんだろうと確信、あるいは期待をこめてこのリスト集に針を下した。
リストのロ短調ソナタに関しては今までもこの場で何度も説明してきたから詳細は割愛するが、単一楽章、内部は5部構成(説によれば3部構成)の力作であり、バロック期から現代に至るまでほぼ類型を見ない稀有な形式をもったPソナタ。長くて不気味、ゆっくりと低音弦を揺らす導入部(=これが第一主題との説も)に続くデモーニッシュで不愉快極まりない第一主題は循環形式で最終部まで持ち越されるし、第一主題を反転および一部鏡像化して長調に仕立てた極めて美しい第二主題もずっと最後まで連れ添ってくる。つまりこのPソナタは、フランクのあの名作と同様の構造を持った循環形式と言ってよいだろう。
ヒューイットは、第一主題を限界まで強打してパワフルに叩くだろうと踏んで聴き始めた。しかし、実際にはエナジー感を抑制し、ルバートを主体とした揺らぐような粘性の強い主題を刻んできた。男前からはほど遠く、逆に女性的で丸くて刺激の少ない主題提示部は意外だった。本来のヒューイットならば太い強打で走り抜けるであろう。しかし、妙に理性的で、しかもタメを何重にも作るヒューイットのこの冒頭部の入りは違和感があった。
この冒頭部はその後、例のデモーニッシュな第一主題が幾つかの変奏を経ながら去来しつつ緩徐部に入り、そしてまたあのドロドロとした主題が再現されて終わりに向かうという作りなのだが、この辺でヒューイットの演奏設計の全貌がわかってきた。そう、長調に転じる第二主題にひたすらフォーカスして楽想の基底を作っていたのだ。なので、冒頭から始まって途中にも何度も執拗に現れるあのグロテスクなパートに関しては、また同様に循環的に出現する緩徐な長調のやるせないパートを高度な連続性を保ったうえでクローズアップするためには抑制気味に、そしてソステヌートで弾かねばならないという設計思想だ。おそらくは・・。
先ほどの仮説がほぼ正しいだろうと確信するのは第二部。ここは、独立楽章のソナタで言えば緩徐楽章に相当する部分。このパートは第一部の激しいデモーニッシュ・パートと甘美な長調部を取り換えたような構成としていて、ゆったりと深い洞察を施した長調を主体としたコンポジションに時折訪れる不穏な第一主題がスパイスとして効いているという趣向の作りなのだ。ヒューイットはここを実に丹念に明晰に、そして非常に美しく弾き通していて、こんなにも女性的な描写は逆に彼女らしくないと思える曲想。
そんなこんながあって最終部。冒頭の不気味な第一主題が蘇り、低く垂れこめるようなアンニュイな気分がサウンド・ステージ全体を覆う。再び悪魔のようなあの烈火がやってくる。ここでのヒューイットは箍が外れたようにハイスピードにノイジーにあの主題を叩いて行く。冒頭部では過度なソステヌートが気になったがここはあっけらかんと弾き倒している。よって粘着質の妙なルバートもテヌートもなくひたすら厳しく強く弾いていくのだ。一点だけ。彼女の腕力と直進性を用いればもっともっと激しく鮮やかなテンペラメントが発揮されたはずだが、やっぱりこのロ短調ソナタはなぜかわからないが抑制気味だったというのが耳に残った印象。
後段のペトラルカのソネットはポピュラーなものとそうとも言えないものを並べているが、これらはロ短調ソナタよりかなり良い出来栄え。詩的で華やか、そして勁(つよ)い。こういった主張の強い曲想はヒューイットの得意技であり、この小曲たちをあっという間に通り過ぎてしまうので、これは是非とも生チクルスで全曲バージョンを聴いてみたいと思ってしまう。最後のダンテ・ソナタだが、これがこの盤の白眉と言ってよい素晴らしい出来栄え。テンペラメンタルでありながら静謐で理知的。基本ノンレガートを貫き、揺蕩う時間軸制御においてはリアルタイムで良好なレスポンス性能を見せつけるアチェレランド/リタルダンドを駆使。彫り込みが丁寧で精緻な緩徐部、トゥッティにおけるエナジーの瞬発力、凝集力とどこをとっても自由自在。このダンテ・ソナタは本当に男前だ。
(録音評)
Hyperion CDA68067、通常。録音は2014年5月19日-22日、ベニューは例によってお馴染みのイエス・キリスト教会(ベルリン)だ。音質だが前回のフー技と殆ど同じ形質なのだが印象はまるで違う。こちらのリストの方がフローラルで闊達な印象だ。それは、ヒューイットの打鍵方法が全然違うことに起因しているのは明らかで、この盤の方がピアノが躍動して良く鳴っているからだ。こうして静的な演奏と動的な演奏を並べて聴いてみるとよくわかるのであるが、ファツィオリは微細なセンシティビティ、高度なリニアリティと広大なダイナミックレンジを備えて本当に優秀なピアノである。
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Liszt:
Piano Sonata in B minor, S178
Sonetto 47 del Petrarca (Années de pèlerinage II,S.161 No.4)
Sonetto 104 del Petrarca (Années de pèlerinage II,S.161 No.5)
Sonetto 123 del Petrarca (Années de pèlerinage II,S.161 No.6)
Après une lecture du Dante, fantasia quasi sonata
(Années de pèlerinage II,S.161 No.7)
Angela Hewitt (Pf)
フランツ・リスト:
ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178
巡礼の年第2年《イタリア》より
ペトラルカのソネット第47番 S.161-4
ペトラルカのソネット第104番 S.161-5
ペトラルカのソネット第123番 S.161-6
ソナタ風幻想曲《ダンテを読んで》 S.161-7
アンジェラ・ヒューイット(ピアノ/ファツィオリ)
ロ短調ソナタもまたショパンのエチュード集などと同様に売るほど所蔵しているので、これからはもう買うまいと決心していた曲。だがヒューイットの演奏となるとやっぱり別で、是非とも聴いてみなければならない。別に義務感に駆られる必要はないのだが、先ほどの強い決心はあっけなく覆されてしまった。それで、ヒューイットのことだから、きっとパワフルで男前の演奏を吹き込んでいるんだろうと確信、あるいは期待をこめてこのリスト集に針を下した。
リストのロ短調ソナタに関しては今までもこの場で何度も説明してきたから詳細は割愛するが、単一楽章、内部は5部構成(説によれば3部構成)の力作であり、バロック期から現代に至るまでほぼ類型を見ない稀有な形式をもったPソナタ。長くて不気味、ゆっくりと低音弦を揺らす導入部(=これが第一主題との説も)に続くデモーニッシュで不愉快極まりない第一主題は循環形式で最終部まで持ち越されるし、第一主題を反転および一部鏡像化して長調に仕立てた極めて美しい第二主題もずっと最後まで連れ添ってくる。つまりこのPソナタは、フランクのあの名作と同様の構造を持った循環形式と言ってよいだろう。
ヒューイットは、第一主題を限界まで強打してパワフルに叩くだろうと踏んで聴き始めた。しかし、実際にはエナジー感を抑制し、ルバートを主体とした揺らぐような粘性の強い主題を刻んできた。男前からはほど遠く、逆に女性的で丸くて刺激の少ない主題提示部は意外だった。本来のヒューイットならば太い強打で走り抜けるであろう。しかし、妙に理性的で、しかもタメを何重にも作るヒューイットのこの冒頭部の入りは違和感があった。
この冒頭部はその後、例のデモーニッシュな第一主題が幾つかの変奏を経ながら去来しつつ緩徐部に入り、そしてまたあのドロドロとした主題が再現されて終わりに向かうという作りなのだが、この辺でヒューイットの演奏設計の全貌がわかってきた。そう、長調に転じる第二主題にひたすらフォーカスして楽想の基底を作っていたのだ。なので、冒頭から始まって途中にも何度も執拗に現れるあのグロテスクなパートに関しては、また同様に循環的に出現する緩徐な長調のやるせないパートを高度な連続性を保ったうえでクローズアップするためには抑制気味に、そしてソステヌートで弾かねばならないという設計思想だ。おそらくは・・。
先ほどの仮説がほぼ正しいだろうと確信するのは第二部。ここは、独立楽章のソナタで言えば緩徐楽章に相当する部分。このパートは第一部の激しいデモーニッシュ・パートと甘美な長調部を取り換えたような構成としていて、ゆったりと深い洞察を施した長調を主体としたコンポジションに時折訪れる不穏な第一主題がスパイスとして効いているという趣向の作りなのだ。ヒューイットはここを実に丹念に明晰に、そして非常に美しく弾き通していて、こんなにも女性的な描写は逆に彼女らしくないと思える曲想。
そんなこんながあって最終部。冒頭の不気味な第一主題が蘇り、低く垂れこめるようなアンニュイな気分がサウンド・ステージ全体を覆う。再び悪魔のようなあの烈火がやってくる。ここでのヒューイットは箍が外れたようにハイスピードにノイジーにあの主題を叩いて行く。冒頭部では過度なソステヌートが気になったがここはあっけらかんと弾き倒している。よって粘着質の妙なルバートもテヌートもなくひたすら厳しく強く弾いていくのだ。一点だけ。彼女の腕力と直進性を用いればもっともっと激しく鮮やかなテンペラメントが発揮されたはずだが、やっぱりこのロ短調ソナタはなぜかわからないが抑制気味だったというのが耳に残った印象。
後段のペトラルカのソネットはポピュラーなものとそうとも言えないものを並べているが、これらはロ短調ソナタよりかなり良い出来栄え。詩的で華やか、そして勁(つよ)い。こういった主張の強い曲想はヒューイットの得意技であり、この小曲たちをあっという間に通り過ぎてしまうので、これは是非とも生チクルスで全曲バージョンを聴いてみたいと思ってしまう。最後のダンテ・ソナタだが、これがこの盤の白眉と言ってよい素晴らしい出来栄え。テンペラメンタルでありながら静謐で理知的。基本ノンレガートを貫き、揺蕩う時間軸制御においてはリアルタイムで良好なレスポンス性能を見せつけるアチェレランド/リタルダンドを駆使。彫り込みが丁寧で精緻な緩徐部、トゥッティにおけるエナジーの瞬発力、凝集力とどこをとっても自由自在。このダンテ・ソナタは本当に男前だ。
(録音評)
Hyperion CDA68067、通常。録音は2014年5月19日-22日、ベニューは例によってお馴染みのイエス・キリスト教会(ベルリン)だ。音質だが前回のフー技と殆ど同じ形質なのだが印象はまるで違う。こちらのリストの方がフローラルで闊達な印象だ。それは、ヒューイットの打鍵方法が全然違うことに起因しているのは明らかで、この盤の方がピアノが躍動して良く鳴っているからだ。こうして静的な演奏と動的な演奏を並べて聴いてみるとよくわかるのであるが、ファツィオリは微細なセンシティビティ、高度なリニアリティと広大なダイナミックレンジを備えて本当に優秀なピアノである。
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by primex64
| 2015-05-20 00:40
| Solo - Pf
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