2015年 04月 30日
Dvorak: Sym#8 Etc@Manfred Honeck/PSO |
随分前に聴いてはいたが、まとめるのを躊躇していたら時機を逸してしまった盤。少し迷ったが書いておくこととする。というのはこの盤が直近のグラミー賞にノミネートされたから。残念ながら受賞は逃したが。

http://tower.jp/item/3601463/
Manfred Honeck conducts Dvorak & Janacek
Dvorak: Symphony No.8 in G major, Op.88 "English"
Janacek: Jenufa – Suite
conceptualized by Manfred Honeck, realized by Tomas Ille
Pittsburgh Symphony Orchestra, Manfred Honeck
ドヴォルザーク: 交響曲第8番ト長調 Op.88
ヤナーチェク: 交響的組曲「イェヌーファ」
(編曲: マンフレート・ホーネック&トマーシュ・イレ)
マンフレート・ホーネック(指揮) ピッツバーグ交響楽団
ホーネックはちょっと前までMDRの首席、その後はシュトゥットガルト歌劇場の音楽監督を歴任したオーストリア出身の指揮者で、古典派から中期ロマン派までを得意とする中堅との認識だった。それが2008年から米国の古豪=ピッツバーグの首席を務めている。このSACDは Pittsburgh Live! という楽団公認のマルチチャンネル・ハイブリッドSACDのシリーズとなり、さらにリファレンス・レコーディングスでは fresH! シリーズと呼ぶ高音質盤のブランドの一枚となる。
創立から116年、PSO=ピッツバーグ交響楽団は芸術的卓越性で世に知られ、現在まで世界有数の指揮者や演奏家によりその歴史が彩られてきた。過去の首席等を挙げればきりがないが、ライナー、スタインバーグ、プレヴィン、マゼール等々、その他の客演は数知れない。また、当時のローマ法王ヨハネ·パウロ二世のシルバー・ジュビリー(即位25周年)の祝福の一環での演奏会が2004年1月にバチカンで行われ、史上最初のアメリカ大陸のオーケストラとなったという快挙も。
PSOはまた、録音やラジオコンサートというアメリカならではの分野で長い歴史を持っていて、それは日本においては戦後しばらくして発足したNHK交響楽団と似たような経緯かもしれない。1936年には公衆無線やラジオ放送を利用してコンサート・ライブ配信を開始し、1982年には東海岸から西海岸までの全域をカバーする広域放送を開始する。これらはPSO Priシリーズと呼ばれ、そのプログラムはピッツバーグのクラシック専門局であるWQED-FM 89.3HMHzで今でも聴くことができるようだ(この局はPSOの息がかなりかかっていると思われるが)。もちろん、私は聴いたことはない。
前置きが長くなった。この盤はドヴォルザークの8番がメインで、この曲の成り立ちについてはネット上に色々と解説があるからそちらを参照してほしい。ホーネック指揮のこの演奏は力の漲った渾身の演奏で、オーケストレーションの巧みさと絶大な音響効果の威力によって一大スペクタクルを現出しているといってよい8番である。
私の8番に対する従前からの印象はもっとこぢんまりとした純朴なものであって、こんなに大袈裟なものではなかった。冒頭の主題提示からして豪壮な組み立てであり楽章の最後までパワー全開で突き進む。テンポは工夫しつつ緩急を付けてはいるけれども得てして速足傾向。そして緩徐楽章は一息かと思われるのだが、ここは感涙に咽ぶようなお涙頂戴なノスタルジーが充満していて、ドヴォルザークがおそらく描いたであろうボヘミアンな朴訥さは皆無。むしろケンタッキーやアイダホあたりの田舎の光芒とした地平線まで続く農場をイメージしているのではないか。
最終章は弾むような妙な明るさと屈託のない炸裂を見せるオケの大団円で閉じられるのであるが、終わってみて感じるのは、ちょっと違うのではないか、という疑問。ま、表現としては自由だし、8番にどんなイメージを含めようがそれは自由なのであって、これは新たな可能性だ、とは言えなくはない。私だってそれを頭から否定する気はないのだ。しかし、9番の新世界が描きだしているピルグリム・ファーザーの時代のちょっと不安だけれども期待に胸膨らませる希望感、望郷の念に駆られて挫折しそうな弱い心と対峙する先駆者の克己の心情とはあまりに乖離しているのではないか。つまり、この8番の演奏は「屈託なく明るく強いアメリカ」を表現していると思われる。アメリカの純正オケが国内向けに出したSACDなのでこの翳のない曲想は致し方ないところだろうが。
フィルアップと思われるヤナーチェクの作品は、2013年にホーネックとチェコの作家トマーシュ・イレがヤナーチェクのオペラ作品であるイェヌーファからハイライト部を抜き出して編曲しオムニバス化した作品とのこと。このイェヌーファ縮刷版は、多元的な要素を複雑なテクスチャで描き出していてとても秀逸。もともとヤナーチェクはメロディーメーカーであり面白い曲を書いたのだが、これを聴くと彼の根底にあった情感が豊潤で色彩感溢れるものであったことに気が付く。要は陰影が濃いのであり、民族的な土の匂いと明媚な響きが演奏を通して伝わってくる。PSOがネーティブでこの土着のプレゼンスを表現する土壌を持っているとは思われず、つまり編曲担当のホーネックの綿密な指導の下にこの演奏をしたのであろうけれど、これは本当に出色。残念ながらメインの8番よりかはこのイェヌーファ編曲版のほうが遥かに出来が良い。
(録音評)
Reference Recordings FR710SACD、SACハイブリッド。2013年10月11-13日/ピッツバーグ、ハインツ・ホール=あのハインツ・トマトケチャップの所有・運営、プロデューサー&編集: ディルク・ソボトカ(sound mirror)、バランス・エンジニア&マスタリング: マーク・ドナヒュー(sound mirror)、レコーディング・エンジニア: ジョン・ニュートン(sound mirror)、ハロルド・チェンバーズ(ピッツバーグ響)、Sound Mirror社はリファレンス・レコーディングス社の全ての録音制作を担当している音楽録音専業会社とのこと。肝心の音質だが、これはオーディオ好事家向けとしか言いようがない輪郭強調と帯域強調型調音が施された典型的なもの。まっとうな再生能力と忠実度を備えた再生装置にあってはあまりにささくれ立ったブリリアンスに耳が疲れ切ってしまうかもしれない。私の場合、この一枚が終わると暫くは耳を塞いでしまいたい心境になった。
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Manfred Honeck conducts Dvorak & Janacek
Dvorak: Symphony No.8 in G major, Op.88 "English"
Janacek: Jenufa – Suite
conceptualized by Manfred Honeck, realized by Tomas Ille
Pittsburgh Symphony Orchestra, Manfred Honeck
ドヴォルザーク: 交響曲第8番ト長調 Op.88
ヤナーチェク: 交響的組曲「イェヌーファ」
(編曲: マンフレート・ホーネック&トマーシュ・イレ)
マンフレート・ホーネック(指揮) ピッツバーグ交響楽団
ホーネックはちょっと前までMDRの首席、その後はシュトゥットガルト歌劇場の音楽監督を歴任したオーストリア出身の指揮者で、古典派から中期ロマン派までを得意とする中堅との認識だった。それが2008年から米国の古豪=ピッツバーグの首席を務めている。このSACDは Pittsburgh Live! という楽団公認のマルチチャンネル・ハイブリッドSACDのシリーズとなり、さらにリファレンス・レコーディングスでは fresH! シリーズと呼ぶ高音質盤のブランドの一枚となる。
創立から116年、PSO=ピッツバーグ交響楽団は芸術的卓越性で世に知られ、現在まで世界有数の指揮者や演奏家によりその歴史が彩られてきた。過去の首席等を挙げればきりがないが、ライナー、スタインバーグ、プレヴィン、マゼール等々、その他の客演は数知れない。また、当時のローマ法王ヨハネ·パウロ二世のシルバー・ジュビリー(即位25周年)の祝福の一環での演奏会が2004年1月にバチカンで行われ、史上最初のアメリカ大陸のオーケストラとなったという快挙も。
PSOはまた、録音やラジオコンサートというアメリカならではの分野で長い歴史を持っていて、それは日本においては戦後しばらくして発足したNHK交響楽団と似たような経緯かもしれない。1936年には公衆無線やラジオ放送を利用してコンサート・ライブ配信を開始し、1982年には東海岸から西海岸までの全域をカバーする広域放送を開始する。これらはPSO Priシリーズと呼ばれ、そのプログラムはピッツバーグのクラシック専門局であるWQED-FM 89.3HMHzで今でも聴くことができるようだ(この局はPSOの息がかなりかかっていると思われるが)。もちろん、私は聴いたことはない。
前置きが長くなった。この盤はドヴォルザークの8番がメインで、この曲の成り立ちについてはネット上に色々と解説があるからそちらを参照してほしい。ホーネック指揮のこの演奏は力の漲った渾身の演奏で、オーケストレーションの巧みさと絶大な音響効果の威力によって一大スペクタクルを現出しているといってよい8番である。
私の8番に対する従前からの印象はもっとこぢんまりとした純朴なものであって、こんなに大袈裟なものではなかった。冒頭の主題提示からして豪壮な組み立てであり楽章の最後までパワー全開で突き進む。テンポは工夫しつつ緩急を付けてはいるけれども得てして速足傾向。そして緩徐楽章は一息かと思われるのだが、ここは感涙に咽ぶようなお涙頂戴なノスタルジーが充満していて、ドヴォルザークがおそらく描いたであろうボヘミアンな朴訥さは皆無。むしろケンタッキーやアイダホあたりの田舎の光芒とした地平線まで続く農場をイメージしているのではないか。
最終章は弾むような妙な明るさと屈託のない炸裂を見せるオケの大団円で閉じられるのであるが、終わってみて感じるのは、ちょっと違うのではないか、という疑問。ま、表現としては自由だし、8番にどんなイメージを含めようがそれは自由なのであって、これは新たな可能性だ、とは言えなくはない。私だってそれを頭から否定する気はないのだ。しかし、9番の新世界が描きだしているピルグリム・ファーザーの時代のちょっと不安だけれども期待に胸膨らませる希望感、望郷の念に駆られて挫折しそうな弱い心と対峙する先駆者の克己の心情とはあまりに乖離しているのではないか。つまり、この8番の演奏は「屈託なく明るく強いアメリカ」を表現していると思われる。アメリカの純正オケが国内向けに出したSACDなのでこの翳のない曲想は致し方ないところだろうが。
フィルアップと思われるヤナーチェクの作品は、2013年にホーネックとチェコの作家トマーシュ・イレがヤナーチェクのオペラ作品であるイェヌーファからハイライト部を抜き出して編曲しオムニバス化した作品とのこと。このイェヌーファ縮刷版は、多元的な要素を複雑なテクスチャで描き出していてとても秀逸。もともとヤナーチェクはメロディーメーカーであり面白い曲を書いたのだが、これを聴くと彼の根底にあった情感が豊潤で色彩感溢れるものであったことに気が付く。要は陰影が濃いのであり、民族的な土の匂いと明媚な響きが演奏を通して伝わってくる。PSOがネーティブでこの土着のプレゼンスを表現する土壌を持っているとは思われず、つまり編曲担当のホーネックの綿密な指導の下にこの演奏をしたのであろうけれど、これは本当に出色。残念ながらメインの8番よりかはこのイェヌーファ編曲版のほうが遥かに出来が良い。
(録音評)
Reference Recordings FR710SACD、SACハイブリッド。2013年10月11-13日/ピッツバーグ、ハインツ・ホール=あのハインツ・トマトケチャップの所有・運営、プロデューサー&編集: ディルク・ソボトカ(sound mirror)、バランス・エンジニア&マスタリング: マーク・ドナヒュー(sound mirror)、レコーディング・エンジニア: ジョン・ニュートン(sound mirror)、ハロルド・チェンバーズ(ピッツバーグ響)、Sound Mirror社はリファレンス・レコーディングス社の全ての録音制作を担当している音楽録音専業会社とのこと。肝心の音質だが、これはオーディオ好事家向けとしか言いようがない輪郭強調と帯域強調型調音が施された典型的なもの。まっとうな再生能力と忠実度を備えた再生装置にあってはあまりにささくれ立ったブリリアンスに耳が疲れ切ってしまうかもしれない。私の場合、この一枚が終わると暫くは耳を塞いでしまいたい心境になった。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2015-04-30 09:18
| Symphony
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