Prokofiev & Khachaturian: P-Cons@Nareh Arghamanyan,Alain Altinoglu/RSB |
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Prokofiev & Khachaturian: Piano Concertos
Khachaturian: Piano Concerto in D flat major
1.Allegro maestoso
2.Andante con anima
3.Allegro brillante
Prokofiev: Piano Concerto No.3 in C major, Op.26
4.Andante - Allegro
5.Tema - Andantino - Var.1-5 - Tema - Listesso tempo
6.Allegro ma non troppo
Nareh Arghamanyan (Pf)
Rundfunk-Sinfonieorchester Berlin, Alain Altinoglu
ハチャトゥリアン:ピアノ協奏曲 変ニ長調(1936)
プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番 ハ長調 Op.26(1921)
ナレ・アルガマニヤン(ピアノ)
アラン・アルティノグル(指揮)、ベルリン放送交響楽団
アルガマニヤン(アルメニア語の発音ではオラマニヤン:ここでは輸入元の販促テキストに合わせて英語読みとする)の存在はちょっと前から知ってはいた。一昨年だか彼女の販促用のfacebookページへの「いいね!」要求が来たのでずっとフォローしていたというわけだ。勿論、個人ページでも「facebook友達」の関係であり、時折、彼女自身の筆によりリサイタル/コンサート/CDの情報が発信されてきた。つい先月も来日して京都に逗留、そして京都市響との共演でグリーグPコンを弾いたという日記も書いていた。
彼女は日本国内ではまだあまり有名とはいえないが、欧州の複数の音楽専門誌の評価はなかなかのものがある。当代の若手アーティストの中でもその際立って高い技巧を基盤とした才能溢れるピアニストの一人で、更にその一種独特の音楽解釈やカラフルで明るいサウンド、それらと組み合わさったストーリー・テラーとしての雄弁な表現能力には顕著なものがあり、有能な若手の中でも特段に抜きんでた存在であると評されている。ただ、こういった下馬評の高い若手の場合には注意が必要で、実際に聴いてみたらがっかりしたという例も少なくない。
今回のこのPコン集はペンタトーンからの3枚目のアルバムとなる。デビュー盤はラフマニノフ作品集、2枚目はリストのPコン集だったが、これらの評価はおしなべて高かったようだ。私は聴いていないが。そしてこの3枚目は個人的には好きな作品が二つ並んでいたので思わず買ったという次第。因みにこの盤における私の興味の中心はもっぱらハチャトゥリアンのPコン。
この曲は戦前に書かれた前衛的なくせにノスタルジック、かつ未来志向の素晴らしい現代作品。ちょっと癖があるけれども誰の作品にも似ていないユニークな組み立てとプレゼンスが耳を捉えて離さない佳曲なのだ。見た目の構造としては普通の3楽章から成っていて、1楽章=ソナタ形式、2楽章=三部形式、そして終楽章をロンドとしている。だが、私はこの曲の核心と白眉は2楽章だと思っており、1楽章はとても長いプレリュード(前奏曲)、3楽章は大規模なポストリュード(後奏曲)と思って聴いている。勿論、1楽章も3楽章も音楽としては単体で十分に楽しめるスペクタクル調、重層的な構造となっている。
1楽章アレグロ・マエストーソの入りはドスンと来て、間髪なく激しいトゥッティで序奏部が始まる。しかし重々しさや粘質感は全くなくさらさらした肌触り、アルティノグルは颯爽とした現代曲向けのタクトを振る人なのだなあと感心する。現代作品のこういった曲は重々しく深層心理を抉って深堀りするような、つまりデモーニッシュさを過度に強調したようなストイックな解釈は似合わなくて、ちょっと軽くおどけたような雰囲気を醸して楽観的に流す鳴らし方が正解だと常々思っている。
かように爽快なRSBをバックとしてアルガマニヤンが軽やかに、そして鮮やかにオクターブ・ユニゾンを叩きながら入ってくる。最初の1音でこのピアニストの形質がおおよそ理解できる。弦楽隊との丁々発止のセッションには力感があって良い。アルガマニアンは指周りが恐ろしく速く、ここ数年で聴いた中ではトップクラス。また打鍵音圧はffにおいては非常に強く、フレディ・ケンプやエフゲニー・スドビンといった、どちらかというと硬派若手男性Pfの剛健なタッチを想起させらるもの。
そして2楽章。豪快でハイスピードな1楽章とはうって変わった緩徐楽章となるのだが、このメランコリックなのに近未来的、そして静寂で浮遊感の強い夢のような曲は稀代の傑作だと信じて疑っていない。独特の浮遊感の演出に欠かせないポヨヨンとした音を出す楽器としてスコア上ではフレクサトーンが指定されているが、この盤ではミュージックソー(鋸の刃のような鋼板を弓で擦る一種の打楽器)に差し替えている。が、このミュージックソー奏者の音程操作があまりに巧すぎて周波数偏移(揺らぎ)が少なく、よって浮遊感は弱めの設定だ。そしてアルガマニヤンの緩徐部と弱音。強奏における音圧レベルからは想像できないほど弱音コントロールはうまく出来ていて微視的な描き込みも巧みなものがある。この楽章は割と音価が少ない離散的なピアノ譜なのだが、それでもよく語りよく歌うのだ。彼女をストーリー・テラーと評していたのは確かグラモフォン誌だったと思うが、そのように比喩した慧眼には敬服だ。
3楽章の怒涛の主題提示部から先はドラマティックで派手な展開。カデンツァでは緩急を出し入れしながらも潔く軽めのタッチで淡々と進む。展開部や再現部の高速なパッセージでも減速せずに軽々とそのまま突き抜けて行ってしまう。全体を通じて低域弦の打鍵圧が十分でない気もするが実際には底まで突き通っているはず。プロコの方は割愛するが、ハチャよりかは多少質量感を伴ったフレージングとトレースであった。全体を通じてライトで、決してどろどろとはしないアップツーデートな演奏設計は個人的には大いに共感するところであり、この軽妙な音楽センスは評価に値する。この一枚しか聴いていないのでその範囲からの物言いとなるが、以下、総括。
アルガマニヤンのピアニズムの第一の特徴は広大なダイナミックレンジにある。ローレベルの描写能力が高いのと音圧レベルが大きいこと。但し、ffでは少々荒れ気味。第二の特徴はドライで淡色系の音色と軽量ハイスピードなスケール/和声部の速度感。とにかく指回りの速さは天性のものがある。若手の同世代で言うと、湿潤で重量感のあるたおやかさと高速性能とを両立させたブニアティシヴィリ、色彩感が強くコントラストが濃い高貴なプレゼンスを放つリーズなどとは正反対のキャラクタ。敢えて探すならば、ソフィー・パチーニの高速・淡麗系の小気味よいプレゼンスに似通ったところがある。この盤は良い出来栄えで彼女の実力は十二分に窺えたわけだが、実際はもうちょっと上を目指せるレベルにあるのではないかと思量する。濃やかなアーティキュレーションの醸成、強奏時のオーバーシュート・リンギングの抑制が今後の鍵かもしれない。このところ主に新鋭の女流Vnに注目してきたが、実はPfにもまだ注目株がいたのである。
(録音評)
PentaTone PTC5186510、SACDハイブリッド。録音は2013年10月とちょっと古く、場所はベルリン=ブランデンブルク放送、放送局ビルとある。ペンタトーンとベルリン=ブランデンブルク放送の共同制作、録音担当は例によってポリヒムニア・インターナショナルB.V。
音質だが、透明感溢れる細身の質感で、従来から馴染みの演色がかった明るくブリリアントなPentaToneサウンドが蘇った。音色は少し弄ってはあるけれども音像がシャープに結ぶし音場展開もかなり優秀で空気感とサウンドステージの拡がりが印象的な高解像度録音だ。ピアノもオケも全体的に俯瞰傾向のオフマイク収録。そのためか、前述の通りピアノの低音弦が弱く感じられる。しかし、グランカッサやコンバスの最低音域はブロードに捕捉されており、録音自体のローカットもなくて優秀な周波数特性である。音楽としては前衛的で面白く、演奏もシャープに尖った淡麗辛口、そしてオーディオ的には一種の演出効果が加えられておりオーディオファンには特にお勧めできる面白い盤だと思う。
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