Saint-Saens: Vc-Con#1 Op.33 Etc.@Natalie Clein, A Manze/BBC Scottish SO. |
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The Romantic Cello Concerto, Vol.5: Saint-Saëns
Saint-Saëns:
Cello Concerto No. 1 in A minor, Op. 33
Cello Concerto No. 2 in D minor, Op. 119
La Muse et le Poète, Op. 132
Allegro Appassionato in B minor Op. 43
Le carnaval des animaux: Le Cygne
Natalie Clein (Vc)
BBC Scottish Symphony Orchestra, Andrew Manze(Cond)
Antje Weithaas (Vn) (La Muse)
Julia Lynch (Pf) & Judith Keaney (Pf) (Cygne)
ロマンティック・チェロ・コンチェルト・シリーズVol.5 ~ サン=サーンス: チェロ協奏曲集
サン=サーンス:
チェロ協奏曲第1番イ短調 Op.33
チェロ協奏曲第2番ニ短調 Op.119
ミューズと詩人たち Op.132 *
アレグロ・アパッショナート ロ短調 Op.43
白鳥~動物の謝肉祭より **
ナタリー・クライン(チェロ)
アンドルー・マンゼ(指揮) BBCスコティッシュ交響楽団
アンティエ・ヴァイトハース(ヴァイオリン)*
ジュリア・リンチ(ピアノ)**
ジュディス・キーニー(ピアノ)**
ナタリー・クラインのEMIメジャー・デビュー盤であるエルガーVcコンを聴いたのはもう8年ほど前の話になる。優雅で繊細、そして情感表現も巧みであって印象に残るよい演奏だった。そして順番が逆になったが、その後、本当の初録音であるEMICFP盤も手に入れ、軽やかで飛翔感の強いブラームスVcコン#2、アルペジオーネ・ソナタなども聴いた。
そして、相当期間が経ってふと目に留まったのがハイぺリオンからリリースされていたサン=サーンスのVcコンのアルバム。ちょっと前に取り上げたイングリット・フリッターのLINN盤と同様、ナタリー・クラインもまたEMIから他へ移籍していたということに遅まきながら気付いた。時期的に見ると他にもEMIから移籍して行ったアーティストがいたことから、EMIがソニーに買収されたことに関係しているのかもしれない。
この盤はハイぺリオンに移籍して3枚目のアルバムとなるらしく、1枚目はコダーイ、2枚目はブロッホ&ブルッフと民族楽派のプログラムを収めたこれら2枚はなかなかに好評だったとのこと。そして、この捻りのないジャケットは「ロマンティック・コンチェルト・シリーズ」というハイぺリオンの特別企画のものらしく、錚々たるアーティストが演奏したロマン派協奏曲を並べているそうだ。そのシリーズの中にナタリーも名を連ねることとなったのがこの盤、ということらしい。
サン=サーンスのVcコンは1番が有名だが、なぜか2番は演奏機会も録音機会も殆どない。凄くよい曲なのでもっと露出が多くてもいいと思うが。比較のためイッサーリスの盤を探したが見当たらないし、過去日記を探しても見当たらない。他にはNAXOS盤や巨匠時代のものがあるが古くてピンとこない内容。イッサーリスのRCA盤は確かに聴いていて演奏の骨格も明確に覚えているのだが、日記を書いた記憶はない。管理が悪いのか、それとも誰かから借りて聴いて感想も書かずに返したのか、その辺の足元の記憶が覚束ない。加齢とは残酷なもので、ぐっと気落ちした。
このナタリーの盤を通勤途上で聴くためiPodに入れようとiTunesライブラリを開いたら、なんとイッサーリスのアルバムが見つかった。そうだ、思い出した。家でオフ会をやった時に参加者の一人から貸して欲しいと言われて手渡し、そのままになっている。その人とはもう連絡はつかないだろう。盤は失ったこととなるが気持ちがちょっとすっきりした。iTunes上のイッサーリスの演奏をざっと復習してからナタリーの盤を聴き始めた。
1番の冒頭からふわりとした軽いフェザータッチのナタリーの擦弦が印象的。アンドルー・マンゼのリードが巧み、かつオケがそれに呼応して精緻で綺麗な演奏をする。しかもナタリーの細めの音色にマッチする知的で重くならないこのバックは優秀だ。この1楽章形式のコンチェルトの内部は3つに明確に分かれていて、これは3楽章形式の普通のコンチェルトと言っても良い内容。但し、各パートはほぼ繋ぎ目なしに演奏されるという点だけが他と違う。
世には色んなタイプのVcソリストがいて、彼らの演奏上の特徴をどう分類するかについては諸説あろうかと思う。そのうち、楽器の固有音色及び楽想上の表現方法が太い・細いという観点がある。つまり、絵画で例えるなら、絵具を含ませた筆で実体感を伴った描画をするのか、それともドライポイント・リトグラフのように極細線の集合体で精緻に描画するのか、という違い。若手中堅で例えるならフォーグラーやウィスペルウェイ、ミューラー=ショット、ガイヤールなどは太く、ホルヌング、ドマルケット、ゴーディエ・カプソン、ガスティネルなどは細い。
ナタリーに関しては明らかに後者のタイプであり、軽量かつ極細の絹糸を束ねて音を編み上げるという楽想なのだ。しかも技巧的にはとてもハイスピードであり高域弦の鳴らし方はVaかVn並みの精巧さ。巨匠と比べるのは違和感があるかもしれないが、この弾き方を微視的に聴き込むとマイスキーの語法に似たところがあり、端々で既視感を覚えるのだ。
それでは、勇壮で憂愁感を湛える太い骨格の1番がスケールダウンした鳴り方をするのかというと、そういうことはなくて、当たり前だが譜面上の音価はその通りに弾かれる。ただ、荒れたところが皆無、どこまでも心地よい肌触りの演奏/解釈なのである。
希少な2番だが、この曲は全2楽章形式。しかし1楽章は前半と後半とではまるで違う曲となっているし、コーダに至るまで前半の主題が再現されることもない。これは1番の建付けと同様で、前半部と後半部とが途切れなく演奏されるというもの。前半は1番と似通った、割と強めの動機と毅然とした旋律が支配的で、本当はイッサーリスのようにゴリゴリと鳴らした方が目鼻立ちが整ってアピーリングなのかもしれないがナタリーは自らのペースを崩すことなくメロウに、そして繊細に弾き込んでいく。
この盤の白眉はここの後半だ(=一応、同じ第1楽章の中なので第2主題というのが正しい)。この第2主題は恐ろしく綺麗な旋律と、夢見心地のアンビエントを放散する甘美な和声とによって構成された緩徐な曲であり、ナタリーの弾き方が本領を発揮してシナジー効果を生み出しているといってよい。このパートがどれくらい夢見心地かというと、マーラーでいうと2番4楽章(=いわゆる原光)や5番4楽章アダージェットに匹敵するくらい。
長くなったので残りはクイックに書く。ミューズと詩人たちOp.132もなかなか楽しめる内容で、ナタリーの紡ぐ琥珀色の主旋律に対して相方のアンティエ・ヴァイトハースのVnは柔肌の質感であり、聴感の襞の奥まで迫り来る素晴らしい演奏。アレグロ・アパッショナートOp.43についてはパワフルで聴かせられる演奏。最後を締める謝肉祭の白鳥は、呆気にとられるくらいドライで素っ気ないが、実はナタリーの本質はここにあり、という具合にべたつかないハイスピードな稀有なボウイングには快哉を送りたい。
(録音評)
Hyperion CDA68002、通常CD。録音は2013年6月12日-13日、シティ・ホール(グラスゴー、イギリス)とある。音質は典型的なハイペリオンであり、軽くてシズル感が強い録音ポリシーは一貫している。音場展開はトラックごとに微妙に変化するが、トータルとしては奥行きがあって、かつ左右への展開もナチュラル、そして、オケも独奏楽器も音色がとても綺麗。サン=サーンスの音楽はハイセンスで軽いイメージがあるのだが、実際には意外なほど奥深い入念な音絵巻を形成していることが録音媒体を通して理解できるという作品であった。音楽ファンにもオーディオファイルにもお勧めできる一枚。
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