From the Imperial Court - Music for the House of Hapsburg@Stile Antico |
http://tower.jp/item/3652631/
From the Imperial Court - Music for the House of Hapsburg
C. Morales: Jubilate deo
Crecquillon: Andreas Christi famulus
Tallis: Loquebantur variis linguis
Despres: Mille Regretz
Senfl: Quis dabit oculis
Gombert: Magnificat primi toni
P. Rue: Absalon fili mi
Gombert: Mille regretz
Clemens: Carole magnus eras
A. Lobo: Versa est in luctum
Isaac: Missa 'Virgo prudentissima'
Stile Antico
ハプスブルク家の音楽
1. クリストバル・デ・モラレス(c.1500-1553): 神のうちに喜べ(ユビラーテ・デオ)
2. トマス・クレキロン(c.1505-1557): キリスストのしもべ、アンドリュー
3. トマス・タリス(c.1505-1585): 使徒は様々な言語で主を讃美した
4. ジョスカン・デプレ(c.1440-1521): 1000の後悔
5. ルートヴィヒ・ゼンフル(c.1486-c.1543): 我々の目に涙をもたらすもの
6. ニコラ・ゴンベール(c.1495-c.1560): 私の魂
7. ピエール・ド・ラ・ルー(1460-1518): おおアブサロムよ
8. ニコラ・ゴンベール: 1000の後悔
9. ヤコブ・クレメンス・ノン・パパ(c.1510-c.1555): Carole magnus eras
10. アロンソ・ロボ(1555-1617): 私のハープは
11. ハインリヒ・イザーク(c.1450-1517): 賢き処女が
スティレ・アンティコ
ここに収録されているのは、全てハプスブルク家のために作曲された歌曲群だそうだ。ハプスブルク家とは言うまでもなく中世から近現代に至るまで欧州全体を陰日向から支配した名門貴族ファミリーのことである。ハプスブルク家については他を調べれば詳細が記してあるが、ここではこのアルバムに収められている作品に関係する人物が生きた時代についてのみその概略を記しておく。
ハプスブルク家は、かのマリア・テレジアを輩出した独系貴族の名門であり、出自は紀元前・古代ローマ帝国のカエサル家であると自称し、彼らはその正統の末裔であったというプレゼンスをもって威厳を保ってきた。記録が残っている範囲で追跡すると、この桁外れに強力なファミリーは11世紀にはその存在が確認されており、そしてオーストリア=ハンガリー帝国が瓦解する1918年まで、時代による波はあるものの、その実効的な政治的権限・統治能力を欧州の大部分あるいは一部の領域に行使してきたこととなる。
その長い歴史の中でも絶頂期とされるのが16世紀であって、それはこのアルバムが取り上げている作家・作品たちの時代と一致をみている。特にマクシミリアン1世が君臨していた頃にその勢力を大いに伸ばしたが、端緒となったのは彼とバーガンディーのマリー(=マリー・ド・ブルゴーニュ:ブルゴーニュ公国の女王)との結婚で、のちに彼らの息子フィリップ(妻はフアナ=カスティーリャ王の娘)の隆盛へとつながっていく。更にはマクシミリアン1世の孫のカール5世(=神聖ローマ皇帝、スペイン王の名前としてはカルロス1世)の代までに、ハプスブルク家はカスティーリャ(=スペイン)、ドイツ、オーストリア、ブルゴーニュその他の小国を本質的に支配することとなる。その後1555~6年にはこの広大な領地を彼の息子であるフィリップ2世と弟のフェルディナンド(=時のオーストリア王)に割譲するに至る。このような連綿とした勢力および支配領域拡大に連れて、彼らは自分たちの周囲にその時代その時代の著名な作曲家を参集させた。
このアルバムには15~16世紀の歌曲、つまりマクシミリアン1世、カール5世とフィリップ2世と強い連関性のある作品を中心に収録している。作曲家としては著名なトーマス・タリス、それにハプスブルク家の枢要な領地であったカスティーリャ(スペイン)およびフランドル地方で活躍した多声音楽作家たち(いわゆるフランドル楽派)である。
音楽は多声、すなわちポリフォニーによる純粋歌曲(アカペラ)であり、この時代は、オルガンを例外として複数の楽器による本格的伴奏を交えたバロック期以降のような歌曲様式はほ見られなかったといってよいだろう。従ってどの作品も基本は混声4~6部に重唱や独唱を組み合わせた合唱形態であり、その和声はシンプルなものからかなり輻輳した複雑なものまで多様だ。
まずはトーマス・タリスだが、これは複雑系の極みであり、フローラルで不可思議な音空間が支配する華麗な音楽だ。他の作品よりもずば抜けた構築性と美しさを備えているのは彼特有の形質か。短調ではないけれどもどことなく寂しげな長調の旋律と和声は限りなく短調に近い雰囲気に聴こえるのは不思議。
次にジョスカン・デ・プレ。これも複雑系で和声が多いのだが、塗り重ねの声部そのものの多重度は多くはないようであり前出のタリスよりも直進性が強い感じがする。だが、通奏的に刻まれる低域部がしっかりとしているからか、重厚でどっしりと落ち着いた基礎部が印象的。そこに荘厳な中高域が重畳されて豊かなピラミッド・バランスを形成する。これを聴きくと、その後の音楽構築法の世界で隆盛を極めるモノフォニーの萌芽を強く感じる。ひょっとすると近代的モノフォニーの中興の祖はジョスカン・デ・プレだったのかもしれない。
ルートヴィヒ・ゼンフルは後述するイザークの弟子で、マクシミリアン1世に遣えた宮廷楽師・作曲家の一人であった。この人の作品を耳にするのは初めてだが、3度または6度の断続的なポリフォニーが耳に残る。このシンプルな古典定旋律はなんと抒情的で美しいことであろうか。重層的に響く和声も勿論素晴らしいし、ところどころで見せる半音階的展開など、その後のモダンな作法にも通じる陰影の付け方にも長けていて素晴らしい作家だと思う。この「我々の目に涙をもたらすもの」は、個人的にはこのアルバムの中の頂点の一つ。
そしてハインリヒ・イザークだが、彼はマクシミリアン1世に遣えるオフィシャルな宮廷楽長であった人物。この最後に入っている「賢き処女が」は15分を超える大作。静謐で穏やか、だが抑制の効いた盛り上がりと鎮静とが交互に巧妙に仕組まれた多声作品で、詳しくはわからないが何らかの典礼文もしくは祈祷文からテキストを引用して作っているようだ。ゼンフルのような目の覚める鮮やかな旋律展開とは感じられないものの荘厳さという点においてはこのアルバム中随一といってよい風格が感じられる。
スティレ・アンティコは古楽の声楽作品を専門とするイギリスの若手集団で、同種の合唱隊では同じくイギリスのタリス・スコラーズがあまりにも有名。スティレ・アンティコについては過去にHeavenly Harmoniesというアルバムを聴いており、これはとても素晴らしかったが、このアルバムもまたそれに勝るとも劣らない優秀な出来栄え。合唱隊で個人的に優秀と思っているのはエストニア・フィルハーモニー室内合唱団、アクセントゥスとあるが、スティレ・アンティコの澄明で低い温度感と浸透力の強いトランスペアレンシーは独特であり、これは孤高の立ち位置といってよい。
(録音評)
Harmonia Mundi USA HMU807595、SACDハイブリッド。録音は2013年10月、All Hallows Church, Gospel Oak, Lodonとある。尚、この教会は前述のHeavenly Harmoniesの収録場所と同じだ。エンジニア:Brad Michel、プロデューサー:Robina C. Youngと、HMUの定番コンビによる。音質だが、全く期待を裏切らない素晴らしい超高音質であり、現代声楽録音の一つの頂点と言っても過言ではない。再生系には極めて高い忠実度、即ち良好な直線性、低ジッター、広大なダイナミックレンジ、ブロードな周波数特性が求められることは言うまでもない。このハイブリッド盤の再生ははっきり言って難しい。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。
♪ よい音楽を聴きましょう ♫