2014年 12月 14日
Respighi: Brazilian Impressions@John Neschling/O.P.Royal de Liege |
BISの新譜から、レスピーギの管弦楽作品集。ブラジルの大御所・ネシュリングが北欧の実力派オケを振るという異色ともいえる組み合わせ。

http://tower.jp/item/3495287
Ottorino Respighi:
Impressioni brasiliane
La Boutique Fantasque, PP120
Orchestre Philharmonique Royal de Liege, John Neschling
レスピーギ:
ブラジルの印象
1.熱帯の夜/ 2.ブタンタン/ 3.歌と踊り
風変わりな店
1.序曲/ 2.タランテラ/ 3.マズルカ/ 4.コサックダンス/
5.カン・カン/ 6.ゆっくりなワルツ/ 7.夜想曲/ 8.ギャロップ
ジョン・ネシュリング(指揮) リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団
レスピーギは20世紀初頭に活躍したイタリアの作曲家で、代表作には鮮烈でカラフルな交響詩、とりわけ金字塔として音楽史に名を残すローマ三部作、すなわち、ローマの噴水、ローマの松、ローマの祭りが有名だ。ブラジルの印象は、前述の交響詩と同様の手法と雰囲気で書かれてはいるが、より小規模な三部からなる組曲風の作品で、これはレスピーギがリオデジャネイロに渡航し滞在した1927年夏の風景描写とされている。
このときレスピーギはブラジルの地元の音楽に魅了されたが、そればかりでなく自然の豊かさ=リオ地区の熱帯雨林の印象、動物の生き様=有毒なヘビとクモで有名なButantan Collection・・毒蛇研究所に併設の一種の動物園・・への訪問時の印象、カラフルで喧噪なカンツォーネを踊るダンサーで溢れる街角のカーニバルの描写を三部構成で組み立てている。
第2曲ブタンタンの中ほどの展開部に、なぜか不意にディエズ・イラ(グレゴリオ聖歌の怒りの日)のモチーフがVn合奏でひっそり現れる。因みにディエズ・イラの旋律とは、ベルリオーズの幻想交響曲:第5楽章第2主題にコピーされて大変有名になったもの。その他、リストが死の舞踏に使ったり、マラ2(復活)、ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲、鐘などへの引用が挙げられる。
管弦楽曲の作家としてのレスピーギの秀逸さは、自身のオリジナル曲に留まらず、他の作者の作品からのアダプテーションからも垣間見ることができる。その典型例の一つがLa Boutique Fantasque(邦題=風変わりな店)であり、その店とは面白い玩具屋、とでも翻訳するのであろうか。これは、ディアギレフ率いるロシアバレエ団(バレエ・リュス)のために彼が1918年に書き下ろしたとされる作品で、初演以降、数年の間に1000回を超えて上演されたと言われている。
レスピーギのこの曲は当時未出版だったロッシーニのピアノ小曲集「老いのいたずら」(第2曲は歌曲=音楽の夜会から採取)を編曲したバレエ音楽である。そのあらすじは、熟達した玩具専門の製作家の手になる踊る二体の美しいマリオネットへの偏愛がモチーフとなっているもの。その人形たちが、その風変わりな店を訪れる客たちを惹きつけるために様々なダンス・・タランテラ、コサックのダンス、カンカンなどなど・・を踊る、という設定。レスピーギは、喩えるならば彼が持ち得た音のパレット上の全ての絵の具を駆使してオーケストレーションに挑んでおり、計算され尽くした極彩色の分厚いハーモニーは、恐らく原曲を遥かに凌駕した効果を発揮している。残念ながら原曲は聴いたことがないのだが。
このCDはリエージュ・ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団のBISレーベル初登場盤となるらしい。精緻にして細大漏らさない現代的でハイスピードな演奏が展開される。これは、日本の在京オケの精密なテクニックに通じるものがある反面、ロマンティックでありながら力強さがあり、そしてエモーショナルな歌心とプレゼンスにおいては比較すべくもない傑出した楽団と言える。
一方、指揮のジョン・ネシュリングはBISではベテランのブラジル国籍の指揮者であり、レスピーギのローマ三部作に関するエキスパートと称される人物の一人だ。ネシュリングは1947年、リオにてオーストリア系ユダヤ人家系に生まれた。彼が生まれる前、欧州ではナチの台頭とともに他国へ逃れる家族が多く、彼の家系もまたその例に漏れなかったもの。彼の祖母であるマルヴィナ・ゴールドスミスはかの有名な現代作家=シェーンベルクの従妹であり、後に音楽監督として名高かったアルトゥーロ・ボダンツキーと結婚している。ネシュリングは指揮法をウィーンにてハンス・スワロフスキー、ラインホルト・シュミットから学び、タングルウッドではバーンスタイン、小澤征爾のもとで学んだ。
若くして国際的な指揮者コンクールで名声を得た彼は1973年に祖国のブラジルに戻り、サンパウロおよびリオデジャネイロの国立劇場の立ち上げを任され、そして首席音楽監督としての長いキャリアを積むこととなる。壮年から晩年を迎えた昨今、ネシュリングへは欧州からのオファーがいくつかあって、このたび由緒あるリエージュの王立楽団のバトンを執ることとなったという経緯らしい。
(録音評)
BIS BISSA2050、SACDハイブリッド。録音は2013年4月 フィルハーモニーホール、リエージュ、ベルギーとある。録音機材は、マイクNeumann、RME Micstasy mic-pre & A/D、Yamaha 02R96 digital mixer、Sequoia Workstation、Pyramix DSD Workstation、オリジナルフォーマットは24bit/96kHzとある。音質だが、BISらしく地味でブリリアンスを抑制した静謐なもの。国内で言えばDENONや、かつてのNHKなどのフラット系の調音であり一聴するだけだとハイエンド音質には感じられない。しかし、展開される漆黒の音場空間は奥行き方向へ深くて見通しが良い。また、器楽音の肌理は超微粒子の集合体であって、これはハイビットL-PCMの質感そのもの。途中のマスタリングはDSDワークステーションを使用しているらしいが音の性質としてはPCMであることに間違いはない。
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Ottorino Respighi:
Impressioni brasiliane
La Boutique Fantasque, PP120
Orchestre Philharmonique Royal de Liege, John Neschling
レスピーギ:
ブラジルの印象
1.熱帯の夜/ 2.ブタンタン/ 3.歌と踊り
風変わりな店
1.序曲/ 2.タランテラ/ 3.マズルカ/ 4.コサックダンス/
5.カン・カン/ 6.ゆっくりなワルツ/ 7.夜想曲/ 8.ギャロップ
ジョン・ネシュリング(指揮) リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団
レスピーギは20世紀初頭に活躍したイタリアの作曲家で、代表作には鮮烈でカラフルな交響詩、とりわけ金字塔として音楽史に名を残すローマ三部作、すなわち、ローマの噴水、ローマの松、ローマの祭りが有名だ。ブラジルの印象は、前述の交響詩と同様の手法と雰囲気で書かれてはいるが、より小規模な三部からなる組曲風の作品で、これはレスピーギがリオデジャネイロに渡航し滞在した1927年夏の風景描写とされている。
このときレスピーギはブラジルの地元の音楽に魅了されたが、そればかりでなく自然の豊かさ=リオ地区の熱帯雨林の印象、動物の生き様=有毒なヘビとクモで有名なButantan Collection・・毒蛇研究所に併設の一種の動物園・・への訪問時の印象、カラフルで喧噪なカンツォーネを踊るダンサーで溢れる街角のカーニバルの描写を三部構成で組み立てている。
第2曲ブタンタンの中ほどの展開部に、なぜか不意にディエズ・イラ(グレゴリオ聖歌の怒りの日)のモチーフがVn合奏でひっそり現れる。因みにディエズ・イラの旋律とは、ベルリオーズの幻想交響曲:第5楽章第2主題にコピーされて大変有名になったもの。その他、リストが死の舞踏に使ったり、マラ2(復活)、ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲、鐘などへの引用が挙げられる。
管弦楽曲の作家としてのレスピーギの秀逸さは、自身のオリジナル曲に留まらず、他の作者の作品からのアダプテーションからも垣間見ることができる。その典型例の一つがLa Boutique Fantasque(邦題=風変わりな店)であり、その店とは面白い玩具屋、とでも翻訳するのであろうか。これは、ディアギレフ率いるロシアバレエ団(バレエ・リュス)のために彼が1918年に書き下ろしたとされる作品で、初演以降、数年の間に1000回を超えて上演されたと言われている。
レスピーギのこの曲は当時未出版だったロッシーニのピアノ小曲集「老いのいたずら」(第2曲は歌曲=音楽の夜会から採取)を編曲したバレエ音楽である。そのあらすじは、熟達した玩具専門の製作家の手になる踊る二体の美しいマリオネットへの偏愛がモチーフとなっているもの。その人形たちが、その風変わりな店を訪れる客たちを惹きつけるために様々なダンス・・タランテラ、コサックのダンス、カンカンなどなど・・を踊る、という設定。レスピーギは、喩えるならば彼が持ち得た音のパレット上の全ての絵の具を駆使してオーケストレーションに挑んでおり、計算され尽くした極彩色の分厚いハーモニーは、恐らく原曲を遥かに凌駕した効果を発揮している。残念ながら原曲は聴いたことがないのだが。
このCDはリエージュ・ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団のBISレーベル初登場盤となるらしい。精緻にして細大漏らさない現代的でハイスピードな演奏が展開される。これは、日本の在京オケの精密なテクニックに通じるものがある反面、ロマンティックでありながら力強さがあり、そしてエモーショナルな歌心とプレゼンスにおいては比較すべくもない傑出した楽団と言える。
一方、指揮のジョン・ネシュリングはBISではベテランのブラジル国籍の指揮者であり、レスピーギのローマ三部作に関するエキスパートと称される人物の一人だ。ネシュリングは1947年、リオにてオーストリア系ユダヤ人家系に生まれた。彼が生まれる前、欧州ではナチの台頭とともに他国へ逃れる家族が多く、彼の家系もまたその例に漏れなかったもの。彼の祖母であるマルヴィナ・ゴールドスミスはかの有名な現代作家=シェーンベルクの従妹であり、後に音楽監督として名高かったアルトゥーロ・ボダンツキーと結婚している。ネシュリングは指揮法をウィーンにてハンス・スワロフスキー、ラインホルト・シュミットから学び、タングルウッドではバーンスタイン、小澤征爾のもとで学んだ。
若くして国際的な指揮者コンクールで名声を得た彼は1973年に祖国のブラジルに戻り、サンパウロおよびリオデジャネイロの国立劇場の立ち上げを任され、そして首席音楽監督としての長いキャリアを積むこととなる。壮年から晩年を迎えた昨今、ネシュリングへは欧州からのオファーがいくつかあって、このたび由緒あるリエージュの王立楽団のバトンを執ることとなったという経緯らしい。
(録音評)
BIS BISSA2050、SACDハイブリッド。録音は2013年4月 フィルハーモニーホール、リエージュ、ベルギーとある。録音機材は、マイクNeumann、RME Micstasy mic-pre & A/D、Yamaha 02R96 digital mixer、Sequoia Workstation、Pyramix DSD Workstation、オリジナルフォーマットは24bit/96kHzとある。音質だが、BISらしく地味でブリリアンスを抑制した静謐なもの。国内で言えばDENONや、かつてのNHKなどのフラット系の調音であり一聴するだけだとハイエンド音質には感じられない。しかし、展開される漆黒の音場空間は奥行き方向へ深くて見通しが良い。また、器楽音の肌理は超微粒子の集合体であって、これはハイビットL-PCMの質感そのもの。途中のマスタリングはDSDワークステーションを使用しているらしいが音の性質としてはPCMであることに間違いはない。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2014-12-14 23:17
| Orchestral
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