Road 66@Shani Diluka |
http://tower.jp/item/3446776
Road 66: American Piano Music
1-John Adams: China Gates
2-Keith Jarrett: My Wild Irish Rose
3-Percy Grainger: Lullaby
4-Samuel Barber: Pas de deux arr. from Souvenirs, Op.28
5-Amy Beach: Young Birches
6-Bill Evans: Waltz for Debby
7-Philip Glass: Etude No.9
8-Leonard Bernstein: For Felicia Montealegre
9-John Cage: In a Landscape
10-George Gershwin: I Love Porgy, arr. Keith Jarrett
11-Leonard Bernstein: Interlude
12-Hyung-ki Joo: Chandeliers
13-Albert Ginastera: Danzas Argentinas: Danza de la moza donosa
14-Leonard Bernstein: For Aaron Copland
15-Aaron Copland: Piano Blues Number 1 For Leo Smit
16-Bill Evans: The Peace Piece
17-George Gershwin: Love Walked In arr. Percy Grainger
18-Cole Porter: What is this thing called love, arr. Raphael Merlin
Shani Diluka (Pf)
Natalie Dessay (sop) - trk 18
ルート66~アメリカ音楽ピアノ作品集
ジョン・アダムズ: 中国の門
キース・ジャレット: マイ・ワイルド・アイリッシュ・ローズ
グレインジャー: 子守唄
バーバー: パ・ドゥ・ドゥ
エイミー・ビーチ: ヤング・バーチズ
ビル・エヴァンス: ワルツ・フォー・デビイ
フィリップ・グラス: エチュード第9番
バーンスタイン: フェリシア・モンテアレグレのために
ジョン・ケージ: イン・ア・ランドスケープ
ガーシュウィン(キース・ジャレット編): 愛するポーギー
バーンスタイン: 間奏曲
ヒャン-キ・ジュー: シャンデルアーズ
ヒナステラ: 優雅な乙女の踊り
バーンスタイン: アーロン・コープランドのために
コープランド: ピアノ・ブルース第1番「レオ・スミットのために」
ビル・エヴァンス: ピース・ピース
ガーシュウィン(グレインジャー編): 愛が訪れた時
コール・ポーター(ラファエル・メルラン編): 恋とはなんでしょう*
シャニ・ディリュカ(P)
ナタリー・デセイ*
以下はMIRAREの輸入元であるキング・インターナショナルの解説から:
「恋とはなんでしょう」も収録!
シャニ・ディリュカが選曲したアメリカ・ピアノ作品集
スリランカ人を両親に持つモナコ出身のピアニスト、シャニ・ディリュカ。アメリカのビート・ジェネレーションを代表する作家ジャック・ケルアックの著書「路上(オン・ザ・ロード)」にインスパイアされて彼女自身が選曲したアメリカ・ピアノ音楽集。アルバムのタイトルにもなっている「ルート66」は、ケルアックの「路上」にも登場するシカゴとサンタモニカを結んでいた国道66号線。今は廃線になっていますが、20 世紀中頃のポップ・カルチャーの中で度々題材とされ愛され、今なおその名が残っています。
アルバムは、ミニマル音楽のジョン・アダムズ「中国の門」にはじまり、キース・ジャレットの名曲「マイ・ワイルド・アイリッシュ・ローズ」、ジャズ・ピアニストのビル・エヴァンスの愛らしい作品「ワルツ・フォー・デビイ」、バーンスタインの奥さんフェリシア・モンテアレグレに捧げられたピアノ曲、ガーシュウィンの傑作<ポーギーとベス>からキース・ジャレット編曲の「愛するポーギー」など多彩な内容で、若い男女の青春と苦悩を描いた「路上」と同じく、喜びや切なさ、孤独感、渇望、さまざまな感情が入り混じったピアノ作品が収録されています。
さらにアルバムの最後にはコール・ポーターがミュージカル「ウェイク・アップ・アンド・ドリーム」のために作曲した「恋とはなんでしょう」をフランスの歌姫ナタリー・デセイが歌っています。穏やかな美しいデセイの歌声で響く極上の一曲となっています。
キングインターナショナル
このアルバムは、上記のキングインターのテキストには書かれていないが今年のラ・フォル・ジュルネのテーマ・アルバムの一枚であり、ジャケットの端にla Folle journeeのロゴとDisque Officiel(公式ディスク)という文字が印刷されている。やはりアメリカを題材としたピアノ曲集であり内容的に充実しており大いに楽しめる内容となっている。尚、英語タイトルは「Road 66」だが、輸入元の日本語解説ではどういうわけか「ルート66」としている。
アメリカ発祥の音楽ジャンルと言えば、筆頭に上がるのがジャズだろう。その代り、国の成り立ちから言ってバロック、古典派、また中期ロマン派までの作家も存在しないこととなる。その点においては後期ロマン派とコンテンポラリー、及びジャズを結ぶ役割を果たしたガーシュウィン、その跡目を継いだ格好のバーンスタインが入っているのは当然だろう。また、コンテンポラリーからはジョン・アダムズ、バーバー、ジョン・ケージらが選ばれているのは当然と言えば当然。ジャズの世界からはキース・ジャレット、ビル・エヴァンス、ミュージカル/映画音楽分野からコール・ポーターを選んでいる。
注釈として作家ジャック・ケルアックの著書「路上(オン・ザ・ロード)」にインスパイアされたとあるので、選んだ彼女なりの思いがあってか偏りはあるようだ。そういった観点から言うと、例えばジャズと言ってもディキシーランド・ジャズなど土着で黒人臭の強いジャンル、カントリー&ウェスタンも代表的と言えるだろうし、ボブ・ディランやドアーズなどのロック、またバート・バカラックなどが確立し、大御所歌手を多数輩出した歌謡曲(ポップス)という金字塔分野もあるのだが、そこからの選曲はなかった。
曲目が多岐に渡るので一部についてインプレッションを述べる。キース・ジャレットの マイ・ワイルド・アイリッシュ・ローズは意外にも素直で古典的手法による美しい曲で、シューベルトの歌曲=水車小屋の娘などの正統的ドイツ・リートの系譜を感じるもの。グレインジャーの子守唄は、テンポが速めで多少煩いものの確かにララバイと言える優しく平易な旋律、過度にメランコリックでないところが現代的か。
フィリップ・グラスのエチュード第9番は完全な現代曲で、聴きづらい面もあるけれども前衛的な切れた和声はこのアルバム中随一。ジョン・ケージのイン・ア・ランドスケープは、一瞬でケージと分かる独特のミニマル進行でかなり長く、シャニ自身も弾きながら徐々にトランスして入れ込んでいるのが感じられる。この曲あたりがロード66の神髄であるアンニュイで頽廃的な「路上」を描写した頂点なのかもしれない。ガーシュウィン&キース・ジャレット編の愛するポーギーだが、いかにもアメリカ中産階級的な健全で幸福そうな部分と、多民族国家ならではの多感でセンシティブ、退廃的な部分とを交錯させて描いている傑作で、シャニは翳り深く弾きこんでいる。
ショパンのベルスーズ(berceuse=子守唄)Op.57に似たビル・エヴァンスのピース・ピースは物静かで文字通り平和を感じるたおやかな作品。左手の規則的で単純な循環和音に乗せて平易で訥々とした穏健な旋律がシャニのフェザータッチの右手からさらさらと流れ出てくる。そして、私たちが普段から聴き慣れているヴィレッジ・ヴァンガードのワルツ・フォー・デビィがシャニの手にかかるとこうも清らかで極上の美麗な曲に変貌するのかと驚く。
この清らかな美しさは女性側から見たデビィに対する視線、あるいは幼い頃のデビィ自身の視線が醸すものであって、エヴァンス(叔父)から見たデビィ(姪)への視線とは全く違うものだと確信した。但し、当然にスコット・ラファロの切れ切れのベースが支えるわけでもなく、インプロヴィゼーション(アドリブのセッション)があるわけでもないので呆気にとられるほど短くてすぐに終わってしまう。ヴィレッジ・ヴァンガードやブルーノートのテーブル席にたちこめる煙、アルコール臭、ざわついた雑談、ノイズが全くしない、まるで高度浄化されたような澄明な空気の中で弾かれるWaltz for Debbyは邪道と言われればそれまで。だが、この曲を譜面に起こしノイズ除去して真摯に演奏するとこうなるのか、との新しい感慨の方が大きかった。
最終トラックのコール・ポーター(ラファエル・メルラン編) What is this thing called loveにはなんとナタリー・デセイ(=フランス人名なのでドゥセが正しい発音だが)がゲスト参加、艶やかかつ湿潤に切ない名曲を謳い上げ、この長大な旅のようなアルバムが静かに閉じる。全体的に俯瞰すれば実に多彩な音楽要素が詰まった深く楽しいアヴァンギャルドな一枚だ。そしてシャニの楽曲に対する多彩で多感なセンス、ますます磨きがかかったピアニズムに改めて敬服。
(録音評)
MIRARE MIR239、通常CD。録音は2013年11月、場所は Maison de la musique de Nanterre とある。ピアノはベヒシュタインD.282とあり、軽やかにまろび出るような湿潤な音色がこのアルバムの曲の傾向に似合っている。ソリッドでピーキーな音を出すスタインウェイだと雰囲気的にちょっと合わなかったであろう。音質はMIRAREの伝統的な高S/Nなものであり、そして直接音と間接音のポートフォリオが絶妙であってとてもハイセンスだ。それにしてもシャニ・ディリュカのピアノはとても巧く、彼女の舐めるような鍵盤捌きと、それに連動する弦・ダンパーなどのアクションノイズがそこはかとなく捉えられていて臨場感が豊かだ。但し、細部を殊更に暴き出すような過度に高コントラストな録音ではない。
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