American Journey@Tai Murray,Jean-François Heisser/Poitou-Charentes O. |
http://tower.jp/item/3484309
American Journey
Bernstein: Serenade (after Plato's 'Symposium')
Barber: Adagio for Strings, Op.11
Herrmann: Psycho: A Suite for Strings
Gershwin: Preludes (3)
Ives: The Unanswered Question
Tai Murray (Vn) & Jean-François Heisser (Cond, Pf)
Orchestre Poitou-Charentes
アメリカン・ジャーニー
バーンスタイン:セレナーデ(プラトンの「饗宴」による)
バーバー:弦楽のためのアダージオ
バーナード・ハーマン:弦楽のための「サイコ」組曲
ガーシュウィン:3つの前奏曲(ピアノ独奏)
アイヴズ:答えのない質問
タイ・マレイ(Vn)、
ジャン=フランソワ・エッセール(Pf と指揮) ポワトゥ=シャラント管弦楽団
以下はMIRAREの輸入元であるキング・インターナショナルの解説から:
プラトンの「饗宴」によるバーンスタインの「セレナード」はヴァイオリン独奏、弦楽、ハープと打楽器から成り、ヴァイオリン独奏をアメリカの女流タイ・マレイが務めています。また、ヒッチコックの映画「サイコ」のあの不気味な音楽を最新録音で聴くことができるのも魅力。さらにエッセールは、バーバーの「弦楽のためのアダージョ」を情感たっぷりに、ガーシュウィンの「3つの前奏曲」ではスウィングをきかせたジャズ風演奏でたっぷり楽しませてくれます。
バーンスタインのセレナーデは、Serenade for Solo Violin, Strings, Harp and Percussion (after Plato's "Symposium")・・「独奏ヴァイオリン、弦楽器、ハープおよび打楽器のためのセレナーデ(プラトンの"饗宴"による)」・・という長い正式名称を与えられていて、構成的には一種のVnコンと言える作品。
Wikiには割と簡潔な解説が出ていて、それによればあの紀元前の超著名な哲学者=プラトンの対話篇(ダイアログを主体とした古典的な物語の一種)の「饗宴」という作品からインスパイアされて書かれたとある。私はバーンスタインの作品はよく知らないが、このセレナーデは彼の作品中ミュージカルを除きポピュラーな作品なんだそうだ。聴くと、確かに編成的にはバルトークの弦チェレやオケコンのストリング・パートないしパーカッションの使い方あたりが雰囲気的に似ていたり、どことなくオリエントを想起させれるようなムーディでヒューミッドな和声も聴こえる現代音楽と言ってよい。尚、管楽器は一切フィーチャーされていない。
ベートーヴェンの交響曲第5番のオーボエの引用が入っていることでも有名とWikiにあるけれど、どのあたりなのかは分からない。そもそもベートーヴェンの交響曲は殆ど聴かないので馴染みはないのであるが。寧ろ、Vnソロをとるタイ・マレイが冒頭から紡ぎ出しているのは、ノスタルジックな名曲=チャイコSQ#1 Op.11(弦楽四重奏曲第1番ニ短調 作品11)の2楽章第1主題だ。その頭の3~4小節を展開・アレンジしてどことなくアンニュイで現代的、アメリカ風な頽廃イメージなどを構成していると確信するのだ。このチャイコSQ#1に酷似した主題は4楽章の冒頭には明確に再現され、そして終楽章でも断片的に顔を覗かせる。音楽全体としてみれば複雑系。そして音の自由度が高く、ある意味洒脱だがある意味堕落した現代の断面を切り取ったような味のある作品だ。
演奏は極度の緊張と適度の弛緩を周期的に繰り返ししつつ、全体としては透明度の高い明晰なものだ。ポワトゥ=シャラント /エッセールについてはデュボアの協奏曲集で好感を得たが、今度のこれもまた素晴らしい演奏を聴かせてくれている。それにも増して、タイ・マレイのクールでハイスピードなVnソロが極めて秀逸、いろんなシーンで駆使される超絶技巧に唸ってしまうし、このはっきりしない茫洋とした和声に対し明晰な解釈の旋律を乗せているのも凄い。
次に入っているのはサミュエル・バーバーの不朽の名曲=弦楽のためのアダージオ。なんとも切なく美しい旋律、和声であって、別に悲しくもないのに涙腺が刺激されるという特殊な性質を持った純粋弦楽5部のための曲。様々な映画、テレビ番組、各所のBGM等で頻繁に用いられているので大概の人は聴けば分かるのではないだろうか。この演奏もエッセール/ポワトゥ=シャラントの懐深い弦楽隊のお蔭で彫りの深い感動的な仕上がりとなっている。
こういった物悲しくて極めて美しい、弦が切々と歌う曲は世の中的には幾つか認められている。このバーバーの曲以外で涙腺刺激型の作品と言えば、私ならマーラーSym#5の4楽章アダージェット、マスカーニ/歌劇カヴァレリア・ルスティカーナの間奏曲、シベリウス/悲しきワルツあたりを挙げておこうか。
バーナード・ハーマンのサイコについては、これまた管楽器抜きの構成であり、かつ緊張・緊迫度の高い演奏となっている。譜面は見たことはないが耳でトレースする限り、VnやCbにはかなりの高速パッセージを求めているようで超絶的なボウイングが聴き取れる。あの不気味な映画の各シーンを連想してしまうのが玉に瑕だが、往時のサウンドトラックの演奏/音質とは比べ物にならないほど進化した内容である。
ガーシュウィンの3つの前奏曲はエッセールによるピアノ独奏。これはまるっきりの純粋ジャズピアノであり、プレリュードという名称はこじ付け的である。あんまり深く考えずに楽しみたい綺麗で洒落た作品だ。もし可能ならこれをオーケストレーションしてビッグバンド用に仕立て直しても面白いかもしれない。しかし、純粋クラシックの指揮を生業としているエッセールがここまで崩したジャジーなピアノを鷹揚に弾けるなんて目から鱗。
アイヴズの「答えのない質問」は特別な音響/心理効果を狙った珠玉の絶品であり、このアルバムのトリを飾るにふさわしい作品だ。そして、このラスト・トラックにして初めて管楽器(木管/金管とも)が登場する。浮遊感のある不可思議系の雲のような音粒たちが漆黒を背景にしてぽっと浮かび出る仕掛けはアイヴズの真骨頂であり、得も言われぬ精神状況へと誘ってくれるのだ。類似のものとしてはアルヴォ・ペルトあたりがこの種の浮遊的な要素を多く取り入れた作品を書いている。なお、浮遊感といってもドビュッシーやフォーレ、フランクなどのフランスの全音音階系の音楽とは全く違う技法である。こういった特殊なプレゼンスの曲をやらせるとエッセール/ポワトゥ=シャラントは実にハイセンスで嵌るのだ。
(録音評)
MIRARE MIR244、通常CD。 録音は2013年10月、場所は高音質で定評のあるTAP(Théâtre & Auditorium de Poitiers:ポワティエ・オーディトリアム)である。音質はレンジがブロードで透過性が高く、かつ背景雑音がほぼ皆無なため静謐かつコントラストの高い録音となっている。Cb(コントラバス)の深々とした胴鳴りから突き抜けるVnまで音の数が極めて多く、そして音場展開が重層的でまさに三次元ホログラムのような録音なのだ。MIRAREの録音品質はこのところまた一歩進化しており目が離せないところ。
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