2014年 07月 10日
Janacek: Violin Sonata Etc@Kathrin ten Hagen, Christina Wright-Ivanova |
Ars Produktionの新譜SACDハイブリッドから、テン・ハーゲン/イヴァノヴァによるEastern Impressions(東の印象)というテーマアルバム。

http://tower.jp/item/3537190/
Eastern Impressions
Sergey Prokofiev: Violin Sonata No. 2 in D Major, Op. 94bis
1. Moderato
2. Scherzo: Presto
3. Andante
4. Allegro con brio
Leos Janacek: Violin Sonata, JW VII/7
1. Con moto
2. Ballada: Con moto
3. Allegretto
4. Adagio
Bela Bartok: Rhapsody No. 1 for Violin and Piano, BB 94a
1. Lassu: Moderato
2. Friss: Allegretto moderato
Pancho Vladigerov: Bulgarian Rhapsody, Op. 16, "Vadar"
Kathrin ten Hagen (Vn), Christina Wright-Ivanova (Pf)
東の印象 - ヴァイオリンとピアノのための音楽
プロコフィエフ(1891-1953):ソナタ第2番ニ長調 Op.94bis
ヤナーチェク(1854-1928):ヴァイオリン・ソナタ
バルトーク(1881-1945):狂詩曲第1番 Sz.86
パンチョ・ヴラディゲロフ(1899-1978):ブルガリア狂詩曲「ヴァルダル」Op.16
キャスリン・テン・ハーゲン(ヴァイオリン)
クリスティーナ・ライト=イヴァノヴァ(ピアノ)
独奏Vnのキャスリン・テン・ハーゲンはドイツのシュタインフルト市の出身、生まれは1982年というから今年で32歳という新鋭だ。いままで彼女の名は目にしたことはなかったが、それ相応のキャリアを積んだ新進の女流らしい。デビューは14歳、ニュールンベルク響の定演でメジャーVnコンをいくつも弾いたという。その後はベルリン芸術大学でアンチェ・ヴァイトハース、ザルツブルク・モーツァルテウムでイゴール・オジム、ニューイングランド大学でドナルド・ワイラースタインに師事したとある。また音楽をやっている兄弟がいるらしく、彼らと結成したテン・ハーゲン弦楽四重奏団というユニットも主宰するという。
一方、クリスティーナ・ライト=イヴァノヴァはニューヨーク生まれの伴奏を専門とするPf奏者(Collaborative Piano)であり、ピアノ専攻としてヴィクトリア大学を卒業、ピアノ伴奏専攻でニューイングランド大学で修士課程を修了、テキサス大学で博士課程を修了している。現在はボストンを中心に演奏活動をしていて、一方において声楽にも長けていて、ピアノの他には声楽のコーチとしても有名なようだ。テン・ハーゲンとはボストンのニューイングランド大学で知り合ったのであろうか。
このアルバムタイトルはEastern Impressions、直訳すれば"東の印象"とのことだが、これは、恐らくは19世紀末から20世紀初頭の地政学上のヨーロッパ東地域のことを意味している。また、東ヨーロッパ=東欧と日本的に直訳してしまうと不適切である。つまり、東西ドイツ/ベルリンの統合、ソ連邦の崩壊といった一大地殻変動の前の東欧とは、即ち、鉄のカーテンで西側と隔てられた東側を暗に意味するからだ。
この頃というのはどういった時代だったのかは今となっては想像の域を出ないが、この作家たちが生きた時代から1世紀ほど前に起きた産業革命の成果が人々の生活を徐々に変革し、即ち生活物資が豊かになるとともに蒸気機関という強力な動力を手にした欧州列強は鉄道や船舶などの劇的な移動手段を用い、また電力エネルギーの萌芽を背景として世界各地へと積極的に進出していった時期だ。人的な交流が増え、交易も盛んになり、また武力侵略による植民地の獲得とその地からの産物の流入等、人種的、政治的にも経済的にも、また文化的な面からも様々なシャッフルが起きたと想像される。
かように、この頃には多様な民族が各地へ移動して経済・文化活動をすることにより各種の複雑な交流/流動を生んだことは間違いないことだ。しかし、前述の欧州列強とは主には西欧=ヨーロッパの西地域の国々のことを指しており、このアルバムで取り上げられている東地域では、ロシアを除き国家そのものが強大な勢力を誇ったということは歴史を顧みても認められない。
ここに収録されている作家たちは19世紀末に生を受け、西欧を起点として牽引された経済成長や文化・文明的な大変革の奔流を経験し、そして不幸にして勃発した色々な革命や一次大戦など動乱の時代に生きた人たちである。しかし、基本的にはドメスティックな文化が西欧の列強の影響によって完全に破壊・駆逐されたわけではなく、いわゆる民族・民俗的な文化(=民謡、舞曲、謡曲等))が温存された地域であったと思われるのだ。ここでいう東とは、具体的には現在でいうところのロシア、チェコ(旧モラヴィア)、ハンガリー(旧トランシルヴァニア)、ブルガリアの4ヶ国を指す。このアルバムは、その時期、この地域に生きた作家たちが生み出した民族楽的なカルチャーと近代クラシックを結ぶクロスオーバーな作品群に焦点を当てている。
プロコフィエフの2番Vnソナタ、ヤナーチェクのVnソナタ、バルトークの狂詩曲はかなり有名であり、他の録音も聴いたことはあるが、前述のような民族楽的なエッセンスが入っているということをこれまで意識して聴いたことはなかった。今回のこのアルバムを聴くにあたり、その辺の共通点に思い当たると、確かにどれもが舞曲にインスパイアされたような独特の付点リズム、またちょっと変わった韻を踏んでいて固有の特徴があるように思われる。
そして、どの作品もが共通しているのは、確かな調性があるものの、その存立は非常に危ういものがあって、殆どが無調性に向かおうという機運が感じられること、そして、コスモスよりはケイオスを目指した頽廃的な志向を感じる破滅的な語法が基底を象っている、にも拘わらず、儚く脆い非常に美しいメロディーがそこかしこに出現することである。パンチョ・ヴラディゲロフのブルガリア狂詩曲「ヴァルダル」は初めて聴いた。これに関しては美しく純朴なフォルクローレが基調となっているようであり、前半の3作品よりかはかなり聴きやすく、そしてストレートで音的(トーナル)な快感が得られるもの。
こういったちょっと小難しい解釈を要する曲群において、キャスリン・テン・ハーゲンの語法は意外に明瞭であって、つまり、衒いなく剛直で太く、殆ど脚色はない。しかも技巧的にはとても高速かつ現代的で低歪率、高音圧なサウンドを発するヴァイオリニストなのだ。このアルバム内では、特にヤナーチェクのソナタを聴いた時、イザベル・ファウストのHarmonia Mundiデビュー盤におけるジョリベとショーソンの演奏を想起させられ、ちょっとぞくっと来た。クリスティーナ・ライト=イヴァノヴァの伴奏Pfは、単なる伴奏という枠を超えた素晴らしいコラボレーションを示しているというコメントを加えておく。彼女のPfはふくよかで表現幅が広大、かつ、とてもチャーミングなのだ。
(録音評)
Ars Produktion ARS38147、SACDハイブリッド。録音は2013年10月、インマヌエル教会、ヴッパータール、ドイツとある。音質だが、これは素晴らしいのひとこと。真のHDクォリティにして細大漏らすことなく器楽音がそのまま収録されている。さりとて単にオーディオ品質上の「興味本位のハイファイ」を達成しているわけではなく、醸される残響成分、PfおよびVnの楽器の音そのものの正確性と品位においても素晴らしい再現性であって、芸術作品を収めるための音楽媒体としてのCD/SACDの規範と言ってよい仕上がりなのだ。テン・ハーゲンの上部雑音や息遣い、イヴァノヴァのペダリング時の床の雑音など、非常にリアルで、思わず周囲を見渡してしまうほど自然な音の伝播には驚くばかり。
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♪ よい音楽を聴きましょう ♫

http://tower.jp/item/3537190/
Eastern Impressions
Sergey Prokofiev: Violin Sonata No. 2 in D Major, Op. 94bis
1. Moderato
2. Scherzo: Presto
3. Andante
4. Allegro con brio
Leos Janacek: Violin Sonata, JW VII/7
1. Con moto
2. Ballada: Con moto
3. Allegretto
4. Adagio
Bela Bartok: Rhapsody No. 1 for Violin and Piano, BB 94a
1. Lassu: Moderato
2. Friss: Allegretto moderato
Pancho Vladigerov: Bulgarian Rhapsody, Op. 16, "Vadar"
Kathrin ten Hagen (Vn), Christina Wright-Ivanova (Pf)
東の印象 - ヴァイオリンとピアノのための音楽
プロコフィエフ(1891-1953):ソナタ第2番ニ長調 Op.94bis
ヤナーチェク(1854-1928):ヴァイオリン・ソナタ
バルトーク(1881-1945):狂詩曲第1番 Sz.86
パンチョ・ヴラディゲロフ(1899-1978):ブルガリア狂詩曲「ヴァルダル」Op.16
キャスリン・テン・ハーゲン(ヴァイオリン)
クリスティーナ・ライト=イヴァノヴァ(ピアノ)
独奏Vnのキャスリン・テン・ハーゲンはドイツのシュタインフルト市の出身、生まれは1982年というから今年で32歳という新鋭だ。いままで彼女の名は目にしたことはなかったが、それ相応のキャリアを積んだ新進の女流らしい。デビューは14歳、ニュールンベルク響の定演でメジャーVnコンをいくつも弾いたという。その後はベルリン芸術大学でアンチェ・ヴァイトハース、ザルツブルク・モーツァルテウムでイゴール・オジム、ニューイングランド大学でドナルド・ワイラースタインに師事したとある。また音楽をやっている兄弟がいるらしく、彼らと結成したテン・ハーゲン弦楽四重奏団というユニットも主宰するという。
一方、クリスティーナ・ライト=イヴァノヴァはニューヨーク生まれの伴奏を専門とするPf奏者(Collaborative Piano)であり、ピアノ専攻としてヴィクトリア大学を卒業、ピアノ伴奏専攻でニューイングランド大学で修士課程を修了、テキサス大学で博士課程を修了している。現在はボストンを中心に演奏活動をしていて、一方において声楽にも長けていて、ピアノの他には声楽のコーチとしても有名なようだ。テン・ハーゲンとはボストンのニューイングランド大学で知り合ったのであろうか。
このアルバムタイトルはEastern Impressions、直訳すれば"東の印象"とのことだが、これは、恐らくは19世紀末から20世紀初頭の地政学上のヨーロッパ東地域のことを意味している。また、東ヨーロッパ=東欧と日本的に直訳してしまうと不適切である。つまり、東西ドイツ/ベルリンの統合、ソ連邦の崩壊といった一大地殻変動の前の東欧とは、即ち、鉄のカーテンで西側と隔てられた東側を暗に意味するからだ。
この頃というのはどういった時代だったのかは今となっては想像の域を出ないが、この作家たちが生きた時代から1世紀ほど前に起きた産業革命の成果が人々の生活を徐々に変革し、即ち生活物資が豊かになるとともに蒸気機関という強力な動力を手にした欧州列強は鉄道や船舶などの劇的な移動手段を用い、また電力エネルギーの萌芽を背景として世界各地へと積極的に進出していった時期だ。人的な交流が増え、交易も盛んになり、また武力侵略による植民地の獲得とその地からの産物の流入等、人種的、政治的にも経済的にも、また文化的な面からも様々なシャッフルが起きたと想像される。
かように、この頃には多様な民族が各地へ移動して経済・文化活動をすることにより各種の複雑な交流/流動を生んだことは間違いないことだ。しかし、前述の欧州列強とは主には西欧=ヨーロッパの西地域の国々のことを指しており、このアルバムで取り上げられている東地域では、ロシアを除き国家そのものが強大な勢力を誇ったということは歴史を顧みても認められない。
ここに収録されている作家たちは19世紀末に生を受け、西欧を起点として牽引された経済成長や文化・文明的な大変革の奔流を経験し、そして不幸にして勃発した色々な革命や一次大戦など動乱の時代に生きた人たちである。しかし、基本的にはドメスティックな文化が西欧の列強の影響によって完全に破壊・駆逐されたわけではなく、いわゆる民族・民俗的な文化(=民謡、舞曲、謡曲等))が温存された地域であったと思われるのだ。ここでいう東とは、具体的には現在でいうところのロシア、チェコ(旧モラヴィア)、ハンガリー(旧トランシルヴァニア)、ブルガリアの4ヶ国を指す。このアルバムは、その時期、この地域に生きた作家たちが生み出した民族楽的なカルチャーと近代クラシックを結ぶクロスオーバーな作品群に焦点を当てている。
プロコフィエフの2番Vnソナタ、ヤナーチェクのVnソナタ、バルトークの狂詩曲はかなり有名であり、他の録音も聴いたことはあるが、前述のような民族楽的なエッセンスが入っているということをこれまで意識して聴いたことはなかった。今回のこのアルバムを聴くにあたり、その辺の共通点に思い当たると、確かにどれもが舞曲にインスパイアされたような独特の付点リズム、またちょっと変わった韻を踏んでいて固有の特徴があるように思われる。
そして、どの作品もが共通しているのは、確かな調性があるものの、その存立は非常に危ういものがあって、殆どが無調性に向かおうという機運が感じられること、そして、コスモスよりはケイオスを目指した頽廃的な志向を感じる破滅的な語法が基底を象っている、にも拘わらず、儚く脆い非常に美しいメロディーがそこかしこに出現することである。パンチョ・ヴラディゲロフのブルガリア狂詩曲「ヴァルダル」は初めて聴いた。これに関しては美しく純朴なフォルクローレが基調となっているようであり、前半の3作品よりかはかなり聴きやすく、そしてストレートで音的(トーナル)な快感が得られるもの。
こういったちょっと小難しい解釈を要する曲群において、キャスリン・テン・ハーゲンの語法は意外に明瞭であって、つまり、衒いなく剛直で太く、殆ど脚色はない。しかも技巧的にはとても高速かつ現代的で低歪率、高音圧なサウンドを発するヴァイオリニストなのだ。このアルバム内では、特にヤナーチェクのソナタを聴いた時、イザベル・ファウストのHarmonia Mundiデビュー盤におけるジョリベとショーソンの演奏を想起させられ、ちょっとぞくっと来た。クリスティーナ・ライト=イヴァノヴァの伴奏Pfは、単なる伴奏という枠を超えた素晴らしいコラボレーションを示しているというコメントを加えておく。彼女のPfはふくよかで表現幅が広大、かつ、とてもチャーミングなのだ。
(録音評)
Ars Produktion ARS38147、SACDハイブリッド。録音は2013年10月、インマヌエル教会、ヴッパータール、ドイツとある。音質だが、これは素晴らしいのひとこと。真のHDクォリティにして細大漏らすことなく器楽音がそのまま収録されている。さりとて単にオーディオ品質上の「興味本位のハイファイ」を達成しているわけではなく、醸される残響成分、PfおよびVnの楽器の音そのものの正確性と品位においても素晴らしい再現性であって、芸術作品を収めるための音楽媒体としてのCD/SACDの規範と言ってよい仕上がりなのだ。テン・ハーゲンの上部雑音や息遣い、イヴァノヴァのペダリング時の床の雑音など、非常にリアルで、思わず周囲を見渡してしまうほど自然な音の伝播には驚くばかり。
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by primex64
| 2014-07-10 22:07
| Solo - Vn
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