Chopin: P-Cons@Nikolai Lugansky, Alexander Vedernikov/Sinfonia Varsovia |
http://tower.jp/item/3452238/
Chopin: The Piano Concertos
Chopin:
Piano Concerto No. 2 in F minor, Op. 21
Piano Concerto No. 1 in E minor, Op. 11
Nikolai Lugansky (Pf)
Sinfonia Varsovia, Alexander Vedernikov
ショパン:
ピアノ協奏曲第2番ヘ短調Op.21
ピアノ協奏曲第1番ホ短調Op.11
ニコライ・ルガンスキー(Pf)
アレクサンドル・ヴェデルニコフ(指揮)、シンフォニア・ヴァルソヴィア
ピアノの詩人といわれるショパンは生涯でPコンを2曲しか書いていない。因みにピアノの魔術師といわれるリストも2曲だけ書いている。この二人の旺盛な創作欲からして、思ったよりも少ないという印象だ。ショパンのPコンは、中庸の長さの曲が2つだけなので、CD一枚で全集を収めることができる。ショパンのPコンは2番、1番の順に録音ないし演奏されることが殆どだが、それは作曲された順番がそうであるからだ。つまり2番が最初にかかれたPコンであり、1番はその後に書かれている。
ショパンのPコンは世間的にはオーケストレーションが貧弱であって独奏ピアノに偏重しすぎていると評価される。特に2番のオケ部の脆弱ぶりはその指摘の通りで、和声の多重度が低く、また独奏ピアノに対抗する対旋律に捻りがなくて美しくない。だが、後から書かれた1番はそれほど批判されるには当たらないと個人的には思っている。これらPコンは、謂うならば「オーケストラによるオブリガート付きピアノ・ソナタ」だと思って聴けば大きな間違いはないだろう。蛇足だが、ブラームスのPコンは独奏ピアノに華がなく、即ちメロディーラインも和声も脆弱で、反面オケ部があまりに重厚過ぎ、曰く「ピアノ伴奏付き交響曲」と揶揄されたりしている。ブラームスのPコンは独奏ピアノとオケの関係がショパンのそれと真逆なのだ。
ルガンスキーはロシア出身の俊英であり、昨今ではかなり著名となってきたので改めての解説は必要なかろう。しかし、ベレゾフスキーやスドビンといい、またメルニコフといい、このところの優秀な若手男性ピアニストはその多くがロシア出身である。一方、オケは馥郁としたプレゼンスと抜群の音楽センスを誇るシンフォニア・ヴァルソヴィアであり、かの名盤=フォーレ:レクイエムをコルボのリードで録った小規模アンサンブルである。ここがショパンPコンのバックをやるというのはちょっと意外、というか反則技かもしれない。
さて、演奏だが、両曲ともにルガンスキーの理知的なピアニズムが光る孤高の仕上がりとなっている。まさに21世紀のショパン。世の中的にはショパンのPコンはほぼ例外なく美しく滑らかに紡いだレガートを基調とするのが王道であって、それ以外の解釈は余り聴かれない。ところがルガンスキーは2番を明晰な点描のノンレガートで構成している。特徴となる1楽章第1主題のメロディアスな流れについても点描画の技法を用いて敢えて不連続な音符を淡々と並べていく。情感表現はうねりの大きなアゴーギクを多用することで実現している。続く緩徐楽章においてもこの技法を貫いており、ある意味全然メロディックでないのだ。特に中間の展開部では転調後のレチタティーヴォを強調されたスタッカートを用いており、世の中のスタンダードの逆を行く。3楽章は民族楽的、つまりマズルカやワルツ風の勇壮なパートであるが、ここでも滑らか基調は一切聴かれず、明晰なステップを超高速に踏むことにより重層的な和声を組み上げているのだ。ここでのシンフォニア・ヴァルソヴィアの伴奏はルガンスキーとのシナジーもあってか目を見張るヴィヴィッドさで、他の一般的な演奏と一線を画する熱い展開だ。
1番は更に潔癖なマルカートで弾いており、実に男性的で剛直なショパンである。オーケストレーションに関しては、前述の通り2番よりかは重層感があって音数が多く、従って独奏ピアノだけが目立つというわけではないが、それでもルガンスキーの毅然とした切れの良いピアニズムが際立っており、常にオケの前面へと迫り出して主旋律を刻んでいく。理性的でクールなルガンスキーではあるが、これまた民族舞踊風のロンド形式である最終楽章に入るや強調気味のアチェレランド、極端なテンポ・ルバートを駆使しつつ激烈に突き抜けて行き、コーダの高みへと一気に駆け上る。
滑らかで感傷的、そして女性的でやるせないレガートで弾くべきなのか、濁りを排除し、一音一音を明晰な筆致で点描する男性的なマルカートで弾くべきなのかは多分に好みによるであろう。果たして生前のショパンは初演に際してはどんな解釈を見せたのであろうか。
(録音評)
Ambroisie AM212、通常CD。録音は2013年7月ポーランド放送ヴィトルド・ルトスワフスキ・コンサートスタジオ(ワルシャワ)でのセッション録音とある。アンブロワジーはnaïveに買収されたが、芸術性を特段に追求するシリーズとして現在でもこのレーベル名を残しており、この盤もまたその例に漏れず芸術の香り高い仕上がりとなっているのだ。naïveと異なり、使用機材等の明示はないが、恐らくはnaïveと大差のない録り方だ。但し、なんとなく懐かしい、縁取りのくっきりとしたこのPCMサウンドは往時のdCSのADCを思い出した。だが、クォリティ的には昨今のDAD AX24によるものであろう。自然なアンビエンスを背景に広大に拡がる音場、そして中央に明確に定位するピアノ、そして横長配列で並んでいるシンフォニア・ヴァルソヴィアの面々が見え透くような優秀録音だ。セッション録りとのことだが、とても自然なこの残響成分からはライブ盤のような風情が漂う。
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