Stravinsky: Le sacre du printemps@The 5 Browns |
http://tower.jp/item/3323136/
The Rite of Spring / The 5 Browns
1. The Planets, Op. 32/H 125: Mars by Gustav Holst
2. The Planets, Op. 32/H 125: Neptune by Gustav Holst
3. The Planets, Op. 32/H 125: Jupiter by Gustav Holst
4. Dance Macabre: Bacchanal for 5 Pianos [after Saint-Saëns] by Greg Anderson
5. Le sacre du printemps by Igor Stravinsky by Jeffrey Shumway.
The 5 Browns
- Ryan, Melody, Gregory, Deondra and Desirae(Pf: Steinway & Sons )
THE 5 BROWNS: 春の祭典
1-3.ホルスト(1874-1934): 惑星から<火星/海王星/木星>
4.サン=サーンス(1835-1921): 死の舞踏
ストラヴィンスキー(1882-1971):
春の祭典<5-11.第1部 大地の礼賛/12-17.第2部 生贄の儀式>
THE 5 BROWNS(ピアノ・アンサンブル)
クラシックの世界で連弾を生業としているユニットとしては、フランスのラベック姉妹を連想する。というか彼女らくらいしか知らない。また、ピアノ初心者向けのディアベリ連弾曲集は2台4手または1台4手のための曲集であるし、6手以上のオリジナル多声曲は知らない。ことほど左様に連弾とは精々で2台のPfで弾くものとおよそ相場は決まっている。そして、はっきり言うとラベック姉妹の音楽は純粋なクラシックとは思っていないので端から聴こうという気がしない。
ファイブ・ブラウンズがデビューしたのは10年ほど前になるけれども、2台のPfであったって聴く気がしないのに5台も並べて何をかいわんやである。
当然に一過性のサーカス的な興行の一種としてしか捉えていなかった。
Pfの連弾作品としては前述のディアベリの曲集を別としても、それはあるにはあるけれども数は非常に少ない。このため、ジャンルとしてのPf連弾というのは明確には確立されておらず、時に余興のように弾かれることがあって、それはルガノ祭においてアルゲリッチが自分のお気に入り若手ピアニストを連れてきては一緒に弾いたりという手慰みの範疇が目立つ気がする。
一方では、連弾であることを明確には謳ってはいないけれどもツイン・ピアノで刮目すべきパフォーマンスを発揮している演奏作品も実在する。MusicArenaで過去に取り上げたものの中からいくつか紹介すると、まず、ラ・フォル・ジュルネ・デ・ナントのライブ収録盤から、クレール・デゼールとエマニュエル・シュトロッセの弾くドヴォルザークのスラブ舞曲は二人の演奏が精密にシンクロしていて醒めた曲想が秀逸だ。次に、ブラームスの連弾作品である愛の歌とハンガリー舞曲、それとラフマニノフの2台のPfのための組曲をあげる。いずれも、今は亡きフランスの名ピアニスト、ブリジット・エンゲラーと、浅田真央のフリー曲=ラフ2番を弾いていることで有名となったボリス・ベレゾフスキーの妙なる世紀の連弾が存分に楽しめる。最後だが、Pf連弾曲ではないけれどもブラームスのドイツ・レクイエムのロンドン版をあげておく。ブラームス自身の手によって編曲されたロンドン版は、伴奏部がオケではなくて2台4手のPf連弾で書かれているもので、この盤は同じくエンゲラー/ベレゾフスキーの演奏による。意味もなくぞくぞくする非常なる名演である。
前置きが長くなった。さてこのファイブ・ブラウンズのアルバムだが、結論から言うと、作品の正面から真面目に取り組んだ純粋で真摯な演奏かと問われると多少の疑問符は付くものの、まずまずの音楽的/音響的成果をあげていると言える。また、現代ピアノを5台並べることによって得られる最大音圧は凄まじいものがある、ということも副次的によく理解できた。さすがにスタインウェイ社が自らがプロデュースしたCDであって、まさに自社製品のプロモートとしてはいかにも的を射ている。
但し、どの曲も編曲がオケ版とは大いに異なっていて今まで聴いたことのないようなパッセージや和声がそこかしこに鳴り響いてある種の違和感を覚えるのも事実。あと、鍵盤経由の打鍵のみにとどまらず、弦に人の手の爪先を当ててはじいたりという個所もあって目まぐるしいのだ。
まず、ホルストの惑星から火星、海王星、木星と進む。この順番でテンションが上がっていくが、中音量時には一糸乱れぬアインザッツがff部では僅かなズレを生じて音の滲みにつながっているのが少々残念。やはり5台を同時に完璧にシンクロさせるのは至難の業だ。中間部に挿入されているサン=サーンスの死の舞踏は意外なチョイスという気がしたが、聴いてみると納得の出来栄えで、10手連弾に向いたたおやかで多元的な性質を備えている譜面と思った。そしてメインのハルサイだが、ここに至ると惑星よりも更に音数が増えて目まぐるしいこと極まりない。多少なりともがちゃがちゃ言って五月蠅いのは否めないけれども万華鏡のような色彩感覚と広大なダイナミックレンジはオーケストレーション版を凌駕するほどの出来栄えだ。また、これだけ大規模な旋律を多人数で分担しているにも関わらず、アインザッツ=リリースの打点=消失点は割と正確に合っていて不快感は殆ど感じられない。
最後に盛大なアプローズが入っていて、これが正真正銘のライブ収録であることに気が付く。なるほど鬼気迫る演奏にして密なる連携とシンクロの正確性は生演奏の一発録りの緊張感がなせる業だったということか。チャレンジャブルなこのハルサイは決してスタンダードな演奏として評価されることはないだろうが、しかし、まるでサーカス興行だと蔑むような低俗なものでもなかったことを申し添えておく。
(録音評)
Steinway & Sonsレーベル、STNS30031、通常CD。録音は2013年5月29-30日、Helen Filene Ladd Concert Hall, Arthur Zankel Music Center, Skidmore College, Saratoga Springs, NY とある。音質的には普通だが、ライブ収録というハンデを考えると健闘しているほうだ。とにかく音が多いし、少々ざわついたアクションノイズ等が耳に障るがご愛嬌だろう。もうちょっと録音品位が高ければオーディオ・ファンが喜ぶ格好のオフ会素材となったことだろう。
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