2014年 06月 03日
Beethoven: P-Sonata Op.27-2, Schumann: Symphonic Etudes Op.13@Sachiko Furuhata-Kersting |
OEHMSの新譜でサチコ・フルハタ・ケルスティングのベートーヴェン+シューマン。なお、このCDはユーロ圏ではリリースされ始めているが、日本国内では6月下旬から入手可能とのことだ。

http://tower.jp/item/3593111
Sachiko Furuhata-Kersting plays Beethoven & Schumann
Beethoven:
Piano Sonata No. 14 in C sharp minor, Op.27 No.2 ‘Moonlight'
Variations(32) on an Original Theme in C minor, WoO 80
Schumann:
Etudes symphoniques, Op.13
Five Variations (posthumous)
Sachiko Furuhata-Kersting (Pf)
ベートーヴェン:
ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調 Op.27-2『月光』
創作主題による32の変奏曲ハ短調 Wo080
シューマン:
交響的練習曲 Op.13
交響的練習曲への追加-5つの遺作
サチコ・フルハタ=ケルスティング(ピアノ)
サチコ・フルハタ・ケルスティングのOEHMSへのデビュー録音はじっくり聴いていた。そのピアノ演奏技法には特徴があって脳裏には少なからずや焼き付いていた。今回のこれはOEHMSからの2枚目の盤ということになる。彼女のOEHMSへのデビュー盤のレビューを書いたのは震災前の2010年の年末だったので4年ほど前ということになる。
彼女は2012年には来日公演を果たし、サントリーでリサイタルを開いたそうだ。そのあとは足繁く日本に戻り、震災の被災地を回ったりとかなり精力的に活動しているとのこと。その頃から現在に至るまで月日が更に過ぎ去っており、なんと時が経つのは速いことか。以前はネットには彼女に関する情報は殆どなかったが、現在ではいくつも散見されるようになっており、それによれば彼女の日本名(旧名)は古畑祥子さんというらしい。
このCDに入っているプログラムはベートーヴェンの月光ソナタと作品番号無しのハ短調変奏曲、そしてシューマンの交響的練習曲全曲という内容。月光ソナタ以外は日本国内では余り馴染みがないであろうマニアックな内容だが、ピアノをやったことのある人であれば曲自体には触れたことがあるはず。月光ソナタを含み、このアルバムのテーマは変奏曲に対する一つの取り組み方と心得を表現したものと直感できる。
さっそく針をおろす。月光ソナタは全3楽章のソナタとされているが、冒頭に緩徐楽章があって変わった形式であるし、ミクロ的にみるとソナタ形式は破綻しており、寧ろロンド形式の変形とも見て取れる独創的な曲だ。なお、この作品の全てのパートおよびエレメントは最後楽章のPresto agitatoの一点に向かって収斂されて行く非常に複雑で多様性を内包した変奏曲と言って良い内容なのだ。
彼女の演奏は4年前の印象とは随分と違っていて驚く。まずスピード感が凄まじい。デビュー盤では慎重で着実なピアニズムが全体を支配していたのであるが冒頭の月光ソナタにおけるアグレッシブな解釈は素晴らしい。特に、2楽章からフィナーレに入って行くところ、そして煩瑣に繰り返される分散和音とカスケードされた16分音符の執拗なスタッカートの連打で思わず気分はトランスしてしまう。このエモーションというか凄まじい熱い情念は並大抵ではないし、デビュー盤においては感じられなかった一面だ。
月光ソナタは素晴らしい出来栄えだが、実はそれは序の口でしかないことがこの後のハ短調変奏曲で分かる。このワルトシュタインに似通ったテンペラメンタルな小品は侮れない難曲であり、国内奏者でこれをリサイタルに使う人はあまりいないと思うし実際に生演奏を聴いたことはない。個人的にはかなり好きな曲で、特に過度に上下動する極端な変奏の進行がこれまたトランスさせられる。つまり酔える内容となっていてたまらないのだ。彼女の演奏は微細にして大胆、そして特有の静謐なタッチにして大胆なデュナーミク、そして急峻なアチェレランドとその緩解と目まぐるしい。けれども破たんが一切なく精緻かつ強靭な技巧はデビュー盤に見られる着実で穏当なテクニックを更に進化させたものであることが理解できる。そう、上部雑音(フィンガーノイズ)が皆無であり、指先がハンマーに接着され直結しているのでは?と思われるような、介在物を全く感じないシュアな打鍵技法はこの盤においても健在なのだ。
後半のシューマンでは、ベートーヴェンの思索的かつ重々しい作風から解放されてポップに弾むような華やいだ気風を味わうことができる。交響的練習曲も国内では演奏機会が少ない味のある作品で、シューマン好きの私としてはかなりのストライクゾーンなのだ。ショパンやリスト、ドビュッシーなども同様形式の変奏的作品を書いていて、12の変奏曲という形式(多くの場合には主題の明確な提示でなく12曲で構成されるが、この作品については主題部は独立した譜面としているので計13曲)を取っている。ここに収録されているのはシューマンの死後、当初の12曲に含めなかったものをブラームスがレストアして加えた遺作と称される5曲。
この曲を聴き込むと、シューマンは改めてメロディー作家として天才であったと再認識させられる完成度の高さには頷かざるを得ない。それにもまして古畑祥子さんの解釈と演奏が軽量かつフローラルで素晴らしいのであって、彼女はどこかでシューマン解釈に特化した特別なトレーニングを受けていたのではないかと勘繰るくらいなのだ。特に、第6変奏から10変奏までの間の明滅する気忙しい離散的なコード進行においてその真価が発揮され、譜面に潜む激しいテンペラメントの起伏がアチェレランドとリタルダンドとなって現れ、なおかつ極端なマルカート奏法による点描的スタッカートがまたもや私をトランス状態にしてくれる。
気怠い第11変奏を経てから至る最終変奏はちょっと規模の大きなゴージャスな内容で締めくくられるが、ここには彼女のこの数年間の集大成が詰め込まれていると思うのだ。デビュー盤におけるレガートの美しさ、そして芯の強いマスを感じる太い基音、指先がバキュームで鍵盤面にぴったり貼り付いたような精緻な運指はそのままに、よりブリリアンスの強い色彩感と飛翔する強いエモーションを基底とした表現方法、即ち、急激かつクイックに反応するデュナーミク、計算され尽した嫌みのないアゴーギクの制御に磨きがかかっていて素晴らしいのひとことなのだ。この4年間、相当な鍛錬を積み、またいろんな経験がこういった多様性とか多面性を湛えた演奏につながっていると感じ入った次第。
(録音評)
OEHMS OC434、通常CD。録音は2013年3月19-20日、カイザースラウテルンのSWR(南西ドイツ放送)スタジオとある。音質はOEHMSの最新CD-DAの中でも素晴らしいものであり、スタインウェイのちょっとタイトながら美しく無駄のない響きを全て捉えていて爽快である。調律が巧みであることは勿論だろうが、古畑祥子さんのキータッチの柔らかさからか不快な音が殆ど出ていないのに加え、弦の芯を突くタイミングが正確であるがゆえに混変調や歪成分も全く感じられず、言ってみればスタインウェイなのにファツィオリのようなまろび出る音がする盤なのだ。このような美しく整ったスタインウェイの音は生演奏および録音でも殆ど聴いたことがない。現代ピアノ録音の一つの頂点といっても過言ではないだろう。昨今のビットマッピング技術がいかに優れているかを思い知らされた一枚。
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Sachiko Furuhata-Kersting plays Beethoven & Schumann
Beethoven:
Piano Sonata No. 14 in C sharp minor, Op.27 No.2 ‘Moonlight'
Variations(32) on an Original Theme in C minor, WoO 80
Schumann:
Etudes symphoniques, Op.13
Five Variations (posthumous)
Sachiko Furuhata-Kersting (Pf)
ベートーヴェン:
ピアノ・ソナタ第14番嬰ハ短調 Op.27-2『月光』
創作主題による32の変奏曲ハ短調 Wo080
シューマン:
交響的練習曲 Op.13
交響的練習曲への追加-5つの遺作
サチコ・フルハタ=ケルスティング(ピアノ)
サチコ・フルハタ・ケルスティングのOEHMSへのデビュー録音はじっくり聴いていた。そのピアノ演奏技法には特徴があって脳裏には少なからずや焼き付いていた。今回のこれはOEHMSからの2枚目の盤ということになる。彼女のOEHMSへのデビュー盤のレビューを書いたのは震災前の2010年の年末だったので4年ほど前ということになる。
彼女は2012年には来日公演を果たし、サントリーでリサイタルを開いたそうだ。そのあとは足繁く日本に戻り、震災の被災地を回ったりとかなり精力的に活動しているとのこと。その頃から現在に至るまで月日が更に過ぎ去っており、なんと時が経つのは速いことか。以前はネットには彼女に関する情報は殆どなかったが、現在ではいくつも散見されるようになっており、それによれば彼女の日本名(旧名)は古畑祥子さんというらしい。
このCDに入っているプログラムはベートーヴェンの月光ソナタと作品番号無しのハ短調変奏曲、そしてシューマンの交響的練習曲全曲という内容。月光ソナタ以外は日本国内では余り馴染みがないであろうマニアックな内容だが、ピアノをやったことのある人であれば曲自体には触れたことがあるはず。月光ソナタを含み、このアルバムのテーマは変奏曲に対する一つの取り組み方と心得を表現したものと直感できる。
さっそく針をおろす。月光ソナタは全3楽章のソナタとされているが、冒頭に緩徐楽章があって変わった形式であるし、ミクロ的にみるとソナタ形式は破綻しており、寧ろロンド形式の変形とも見て取れる独創的な曲だ。なお、この作品の全てのパートおよびエレメントは最後楽章のPresto agitatoの一点に向かって収斂されて行く非常に複雑で多様性を内包した変奏曲と言って良い内容なのだ。
彼女の演奏は4年前の印象とは随分と違っていて驚く。まずスピード感が凄まじい。デビュー盤では慎重で着実なピアニズムが全体を支配していたのであるが冒頭の月光ソナタにおけるアグレッシブな解釈は素晴らしい。特に、2楽章からフィナーレに入って行くところ、そして煩瑣に繰り返される分散和音とカスケードされた16分音符の執拗なスタッカートの連打で思わず気分はトランスしてしまう。このエモーションというか凄まじい熱い情念は並大抵ではないし、デビュー盤においては感じられなかった一面だ。
月光ソナタは素晴らしい出来栄えだが、実はそれは序の口でしかないことがこの後のハ短調変奏曲で分かる。このワルトシュタインに似通ったテンペラメンタルな小品は侮れない難曲であり、国内奏者でこれをリサイタルに使う人はあまりいないと思うし実際に生演奏を聴いたことはない。個人的にはかなり好きな曲で、特に過度に上下動する極端な変奏の進行がこれまたトランスさせられる。つまり酔える内容となっていてたまらないのだ。彼女の演奏は微細にして大胆、そして特有の静謐なタッチにして大胆なデュナーミク、そして急峻なアチェレランドとその緩解と目まぐるしい。けれども破たんが一切なく精緻かつ強靭な技巧はデビュー盤に見られる着実で穏当なテクニックを更に進化させたものであることが理解できる。そう、上部雑音(フィンガーノイズ)が皆無であり、指先がハンマーに接着され直結しているのでは?と思われるような、介在物を全く感じないシュアな打鍵技法はこの盤においても健在なのだ。
後半のシューマンでは、ベートーヴェンの思索的かつ重々しい作風から解放されてポップに弾むような華やいだ気風を味わうことができる。交響的練習曲も国内では演奏機会が少ない味のある作品で、シューマン好きの私としてはかなりのストライクゾーンなのだ。ショパンやリスト、ドビュッシーなども同様形式の変奏的作品を書いていて、12の変奏曲という形式(多くの場合には主題の明確な提示でなく12曲で構成されるが、この作品については主題部は独立した譜面としているので計13曲)を取っている。ここに収録されているのはシューマンの死後、当初の12曲に含めなかったものをブラームスがレストアして加えた遺作と称される5曲。
この曲を聴き込むと、シューマンは改めてメロディー作家として天才であったと再認識させられる完成度の高さには頷かざるを得ない。それにもまして古畑祥子さんの解釈と演奏が軽量かつフローラルで素晴らしいのであって、彼女はどこかでシューマン解釈に特化した特別なトレーニングを受けていたのではないかと勘繰るくらいなのだ。特に、第6変奏から10変奏までの間の明滅する気忙しい離散的なコード進行においてその真価が発揮され、譜面に潜む激しいテンペラメントの起伏がアチェレランドとリタルダンドとなって現れ、なおかつ極端なマルカート奏法による点描的スタッカートがまたもや私をトランス状態にしてくれる。
気怠い第11変奏を経てから至る最終変奏はちょっと規模の大きなゴージャスな内容で締めくくられるが、ここには彼女のこの数年間の集大成が詰め込まれていると思うのだ。デビュー盤におけるレガートの美しさ、そして芯の強いマスを感じる太い基音、指先がバキュームで鍵盤面にぴったり貼り付いたような精緻な運指はそのままに、よりブリリアンスの強い色彩感と飛翔する強いエモーションを基底とした表現方法、即ち、急激かつクイックに反応するデュナーミク、計算され尽した嫌みのないアゴーギクの制御に磨きがかかっていて素晴らしいのひとことなのだ。この4年間、相当な鍛錬を積み、またいろんな経験がこういった多様性とか多面性を湛えた演奏につながっていると感じ入った次第。
(録音評)
OEHMS OC434、通常CD。録音は2013年3月19-20日、カイザースラウテルンのSWR(南西ドイツ放送)スタジオとある。音質はOEHMSの最新CD-DAの中でも素晴らしいものであり、スタインウェイのちょっとタイトながら美しく無駄のない響きを全て捉えていて爽快である。調律が巧みであることは勿論だろうが、古畑祥子さんのキータッチの柔らかさからか不快な音が殆ど出ていないのに加え、弦の芯を突くタイミングが正確であるがゆえに混変調や歪成分も全く感じられず、言ってみればスタインウェイなのにファツィオリのようなまろび出る音がする盤なのだ。このような美しく整ったスタインウェイの音は生演奏および録音でも殆ど聴いたことがない。現代ピアノ録音の一つの頂点といっても過言ではないだろう。昨今のビットマッピング技術がいかに優れているかを思い知らされた一枚。
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by primex64
| 2014-06-03 00:11
| Solo - Pf
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