Gershwin,Ravel: P-Con@Hélène Grimaud,David Zinman/Baltimore SO. |

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Ravel & Gershwin: Piano Concertos
Gershwin: Piano Concerto in F major
Ravel: Piano Concerto in G major
Hélène Grimaud (Pf)
Baltimore Symphony Orchestra, David Zinman
ガーシュウィン: ピアノ協奏曲ヘ調
ラヴェル: ピアノ協奏曲ト長調
エレーヌ・グリモー(P)
デイヴィッド・ジンマン(指揮) ボルティモア交響楽団
もともとグリモーはDENONレーベル(日本コロムビア)が発掘し育ててきた才気溢れる女流で、当時の成長ぶりから将来ともにDENONの看板ピアニストとして盤石に思えた。しかし、結構な録音枚数をDENONに残してERATO、TELDECへと移籍してしまう。このCDはERATO(現在はワーナー・クラシック)時代の録音の再発であり、また初回限定スタンプということだ。グリモーはその後DGへと移籍し、その第一弾のCredoでセンセーショナルな国際デビューを果たしたといってよいだろう。その後の彼女の活躍ぶりは衆知のところ。
DENONを去ってからDGで日の目を見るまでのグリモーの盤は、実は個人的には1枚も持っておらず、しかもパリ系風味のPコンとしては代表的かつ外せないものだったのでこの限定版を購入した。そして聴いてみたところ目から鱗というか、全開のヴィルトォージティとまでは言えないもののなかなかに充実した演奏ぶりで驚いた。
この二つのPコンをパリ系風味と評した。ラベル作品はともかく、生粋アメリカ人のガーシュインの作品については違和感があるのではなかろうか。前述の意味するところだが、それは、ガーシュインはパリへはたびたび渡航しており、そしてラヴェルらパリ在住の音楽家とは親交が深かったのだ。ガーシュインが生きていたころのアメリカは開拓途上の田舎じみた半未開の大陸であり、歴史や文化、音楽的なベースという点においては立ち遅れており見るべきものはまだなかった。随分と前から新大陸のガーシュインとラヴェルら旧大陸の作家たちの接点をテーマとしたアルバムは多く制作されていて、その一端がこのアルバム評に書いてあるので参照のこと。
さて、コンチェルト・インFだが、これが意外とさらさらと流れる瑞々しいオーケストレーション解釈、そしてピアノであり、そして技巧的にはすでにDENONで定評があったものの、このERATO時代には更なる深みに到達していたことが窺い知れる。情感の起伏という点においては現在のグリモーのほうが巧く表現するかもしれないが、若いエナジー感、目標物に向かって一直線に駆け抜ける馬力というか勢いを感じるガーシュインとなっている。
そしてラヴェルの両手のPコンだが、これまた良い出来栄えであり、特にグリモーのキータッチが霊妙かつダイナミック、そしてジャズっぽい独特のアーティキュレーションに完全に乗っていて非常にリズミカルかつポップで聴かされる演奏となっている。短い最終楽章のトランス感はただならぬものがある。
ガーシュインを演奏するボルティモア響というのはまさに嵌り役であって、清潔すぎないちょっとスモーキーなサウンドがとてもマッチしている。そして、とても意外なことに指揮しているのがあのジンマンなのだ。チューリッヒ・トーンハレ/マーラー・チクルスにあったような瞑想的で思索的な演奏設計をする人物がボルティモアでガーシュンなどを振っていたとは余りに驚きだ。しかし、演奏自体はアメリカ的、いやパリの街角風の小洒落た雰囲気が出ていて良い。
(録音評)
ERATO 2564633311、通常CD。録音は1997年、ボルティモア、ヨーゼフ・マイアーホフ・シンフォニー・ホールとある。ソースは古くて出来栄えはどうかと危惧したが、これが意外に鮮烈なマスタリングが施されていて優秀な音質だ。特に音場感は自然に生成され、あたかもデッカツリーだけでライブ収録されたような俯瞰のアングルとなっていて結構楽しめる。ERATO伝統のちょっと硬くて細身の透明感も両立しており、なかなかに巧妙な調音である。昨今のリマスタリング技術の優秀さ、およびそれを使いこなすこのエンジニアの聴感には感じ入るところがある。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫