Schumann: Vn Cons Etc.@Baiba Skride, John Storgårds/Danish National SO |
http://tower.jp/item/3290013/
Schumann:
Violin Concerto in D minor, WoO 23
In kraftigem, nicht zu schnellem Tempo
Langsam
Lebhaft, doch nicht zu schnell
Fantasie in C major for Violin and Orchestra, Op.131
Violin Concerto in A minor, Op.129 (arranged from the Cello Concerto)
Nicht zu schnell
Langsam
Sehr lebhaft
Baiba Skride (violin)
Danish National Symphony Orchestra, John Storgårds
シューマン:
ヴァイオリン協奏曲ニ短調WoO23
ヴァイオリンのための幻想曲ハ長調Op.131
チェロ協奏曲イ短調Op.129(ヴァイオリン編曲版)
バイバ・スクリデ(Vn)
使用楽器: ストラディヴァリウス/ エクス・バロン・フォン・ファイリッチュ(1734)
デンマーク国立交響楽団 ヨン・ストゥルゴールズ(指揮)
これらの作品はシューマンの晩年、それも人生の最後の3年余りの間に書かれたもの。このニ短調協奏曲は元々は名Vnソリスト=ヨーゼフ・ヨアヒムの要請によって書かれたとされている。そして、シューマンが性病の悪化から脳を病んで倒れた1854年にこのニ短調Vnコンがちょうど完成したことは実に不幸なことだった。
それを境に症状はますます悪化し、ライン川に投身自殺を図るまでとなった。その後は施設に収容されるわけであるが、こういった不吉で縁起の悪い状況などが絡んでヨアヒム自身がこの作品を取り上げて初演することを忌避し、妻のクララ・シューマンもこれまでと異質な作風、および著作過程上の疑念から演奏不能との決断を下し、結果、この自筆譜はその後80年ほど封印されてしまったという不幸な道程を辿った。
スクリデはこのアルバムにVnコンだけではなく幻想曲も録音しており、これらにはシューマンのVn向け作品のほぼ全てについて、一流たるVnソリストとしての彼女の視点あるいは遠近感が凝縮して提示されていると言えるだろう。シューマン自身の生涯は「ファンタジー」そのものだったと考えられ、つまり、活力に漲ったリズミック(律動)、高度でヴィルトゥオージティックなカデンツァで最も認知されていたといえるだろう。
曰くつきのこれら晩年作品は、前述のとおりの黎明期のシューマンのポップで技巧的な特徴をあまり承継したものではなく、どちらかというと夢遊する不安定な不協和音と協和音が交錯しつつちょっと重苦しく仄暗い雰囲気を漂わしているのである。そうは言いつつも精神を病んでいたとは思われない明晰で構造的な譜面の設計となっているのは流石にシューマンと言わざるを得ないところがある。私自身は、底抜けに明るく美しい旋律、対位法に基づく天才的なリトミック、陰日向を交互に行き交う洒落た和声がシューマンの好きなところであり、このニ短調Vnコンはあまり好んではいなかった。
しかし、スクリデとストゥルゴールズが織り成すこれらの作品の提示は別次元の深い愉しみかたを新たに付与してくれている。思考回路における音感の整合性がまさに途切れようとするシューマンの内面を慮りながら聴かされる困惑気味のパートが多いのである。ニ短調の1楽章は颯爽とした反面、重々しくて苦手であったが、実はこの部分の入りはブラームスのVnコンとベートーヴェンの管弦楽作品に類似性を見出すことができることに気が付いた。
主題から展開部に至ってはシューマンとしてはシンプルすぎる構図なのだが、もうこの時には多様性と意外性を追求する能力も気力も残っていなかったのかもしれない。Vn独奏が活躍する場面は非常に少なくてカデンツァもないし、Vn独奏付き交響曲といった形態とでも言っておこうか。それでも最低限度の和声展開を見せて締めくくっているのは流石。
ノーブルで落ち着いた緩徐部を経たこの終楽章は、実質シューマンの辞世の曲となったものだが、エナジー感は後退していて往時のヴィヴィッドさは既に見られない。それでも律動としては舞曲というかポロネーズ風の韻を踏んでいるベースラインが綺麗な曲で、やはりシンプルすぎる主題旋律が意識レベルと物欲の減退を象徴している感じで少し寂しい風情だ。
一方のOp.129は1850年に完成したとされているVcコンが原曲で、同年にシューマン自身がヨアヒムのためにこのVcコンをVn向けに編曲したものだった。譜面の出版は1854年とかなり遅れ、これはシューマンの死の2年程前にあたる。この曲も不幸なことに生前に初演されることはなかったとみられている。ヨアヒムやクララがこういった忌避の姿勢を貫いたことがシューマンの晩節を寂しいものにしたと考えられるのである。しかし、このOp.129はシューマンの往時の輝きをかろうじて保っている、途切れない一楽章形式の協奏曲であって華やかで美しくポップな仕上がりとなっている。いまだって他の著名VcあるいはVnコンと比較してもなお均整の取れたロマンティックな作品なのだ。
スクリデは、このアルバムにおいては指揮のヨン・ストゥルゴールズ(元々はVn奏者)及びロマン派レパートリーで著名なデンマーク国立響と親密な信頼関係を確立しており、シューマンのVn向け作品を演奏するためには理想的なコンビネーションを形成していると言えよう。スクリデの演奏は、適度な質量感にふくよかで滑らかなレガートが重畳された彼女一流のVn技巧が鏤められたもので素晴らしいのひとこと。シューマンの若い頃の作品に向かう姿勢とは明らかに異なるアプローチを適用し、翳りを重視した内面的な歌い込みを徹底的に追及している。ストゥルゴールズ/デンマーク国立響のバックはとても豊かで歪感が少ないフローラルなもの。直接音よりかは反響音に着目した包み込む解釈であって、スクリデが示す曲想とマッチしているのは言うまでもない。シューマン晩年のVn作品群がこれほどまでに耽美的でうら寂しい美しさを湛えていたとは新たな発見であった。
(録音評)
ORFEO 854131、通常CD。録音は少し古くて2011年8月16-18日、2012年11月16日(Op.131)、DRコンサート・ホール、コペンハーゲン(デンマーク国立放送の本社内に設置されている音楽専用大型ホール)。ORFEOらしいバランスが取れた滑らかで豊かなアンビエントが特徴だ。抉り出すような高解像度路線ではないが、スクリデが弾くストラドがメローでありながら実体・実像感に漲っていて素晴らしい。オケの器楽配列は正確に定位しておりこの高音質ホールの奥へと深く浸透する音場成分が非常に美しく捉えられている。スクリデは以前はソニー専属であったが、その頃のVnの音よりも今のORFEOの音の方がフローラルで柔らかく深い味わいが感じられる。
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