2014年 02月 09日
Schumann: Dichterliebe Op.48 Etc@Jan Vogler, Hélène Grimaud Etc |
ソニー・クラシカルの新譜から、若手チェリスト、ヤン・フォーグラーが弾くシューマン作品集。なお、3つの作品のうち二つのピアノ伴奏を務めるのはDGからレンタルしたエレーヌ・グリモーだ。
http://tower.jp/item/3291253
Fantasiestucke Op.73
I. Zart und mit Ausdruck
II. Lebhaft, leicht
III. Rasch und mit Feuer
Dichterliebe Op.48
I. Im wunderschonen Monat Mai
II. Aus meinen Tranen spriesen
III. Die Rose, die Lilie, die Taube, die Sonne
IV. Wenn ich in deine Augen seh'
V. Ich will meine Seele tauchen
VI. Im Rhein, im heiligen Strome
VII. Ich grolle nicht
VIII. Und wussten's die Blumen, die kleinen
IX. Das ist ein Floten und Geigen
X. Hor ich das Liedchen klingen
XI. Ein Jungling liebt ein Madchen
XII. Am leuchtenden Sommermorgen
XIII. Ich hab' im Traum geweinet
XIV. Allnachtlich im Traume
XV. Aus alten Marchen
XVI. Die alten, bosen Lieder
Andante und variationen Op.46
Jan Vogler(Vc)
Helene Grimaud(Pf) - Op.73, Op.48
Moritzburg Festival Ensemble - Op.46
シューマン: 室内楽作品集
シューマン:
幻想小曲集Op.73
歌曲集「詩人の恋」Op.48 (チェロ用編曲版)
アンダンテと変奏曲 変ロ長調Op.46 (オリジナル室内楽版)
ヤン・フォーグラー(Vc)
エレーヌ・グリモー(Pf) - Op.73, Op.48
モーリッツブルク祝祭アンサンブル - Op.46
ヤン・フォーグラーがチェロの手ほどきを受けたのは6歳の頃、父親で音楽学者であったペーター・フォーグラーからだという。その後、ベルリンではジョセフ・シュヴァブ、その後ハインリッヒ・シフ、ジークフリート・パルムの各氏に師事する。そして弱冠20歳でシュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場)の首席チェリストに起用され、これはこのオケの歴史上最も若い年齢での就任であったとのこと、ある種の天才だったと言えよう。シュターツカペレ・ドレスデンには数年在籍したが、更なる活躍を求めて辞めてしまう。そして彼の妻=ミラ・ワン(中国系Vnソリスト)と二人の子供を住まわせていた家があったというニューヨークに拠点を移し、ソリストとして活動を始めた。その後は、ドレスデンとニューヨークを行ったり来たりの時間を過ごしているようだ。また、彼はドレスデン音楽祭の総監督であり、モーリッツブルク室内音楽祭の創立者にして芸術監督でもある。使用楽器は1707-1710 Stradivarius 'Ex Castelbarco/Fau' 、1721 Domenico Montagnana cello ‘Ex-Hekking’。
幻想小曲集Op.73は、元々はCl(クラリネット)とPfのために書かれた3部形式の3つの作品の総称だが、最初の出版社がClの代わりにVnやVcで演奏しても良いと記したため、そのあと現代に至るまでClよりかはVnやVcでの演奏機会が多い。作曲は1849年2月11日から3日間で書き上げたとされ、初演は1850年1月14日との記録が残っているそうだ。3つの曲にはテーマにおいて疎な連関性があって、似た主題が引き継がれて大域的な大きな構造を作り出しているもの。なお、シューマンは、ソロPf向けにも同名の「幻想小曲集」を書いており、こちらはOp.12が与えられている。Op.12の方が演奏機会としては多いかもしれない。
第1曲は「やさしく、表情豊かに」イ短調4分の4拍子。Pfが主導的に導入部を形作り、それに少しずつソロ楽器が呼応するように主旋律を歌い出す。後のフォーレが確立したような半音階クロマティックが印象的な甘美で夢見るような旋律進行は秀逸。第2曲は「活き活きと、軽快に」イ長調4分の4拍子。変形3部形式で末尾にはコーダを配する。この曲はソロ楽器が第1主題を繰り返し主導して始まり、まさに快活な旋律進行を示す。中間部は第1主題の変奏という位置づけとなり、Pfも重層的に対話を繰り返し煌びやかな熱気を帯びる。第3部では冒頭のシンプルな主題へと立ち返り、リタルダンドをかけながらテンポを落としコーダへと入っていく。 第3曲は「急速に、活気をもって」嬰ヘ短調 4分の4拍子。3部形式でコーダを配する。活気に漲った冒頭部と憂愁に満ちた気怠い中間部の対比がシューマンらしい明確なコントラストを形成している美しい曲。技巧的には高速に上下するスケールを正確、軽やかにトレースすることが難題だ。ここでのフォーグラーの情感とグリモーの濃密かつ深い弾き込みは白眉であって素晴らしいのひとこと。
詩人の恋Op.48はハインリヒ・ハイネの詩にシューマンが曲を付けた有名な連作歌曲であり、1840年の作曲とされている。今まであらゆる歌手が手掛けてきており、いわゆる名演奏・名盤が数多く存在する。このCDでは歌曲パートをVcでそのまま編曲せずにフォーグラーが弾き、Pf伴奏をグリモーが付けている。シューマンはシューベルトほど歌曲を書いたとは一般的には思われていないかもしれないが、実は1840年を「シューマンの歌曲の年」といい、割とたくさんの歌を書いている。なお、シューベルトと違ってPfが巧かったシューマンらしく、伴奏部の充実ぶりには目を瞠るものがある。いや、伴奏部という域を超え、協奏的要素としてPfを位置付けている作品であり、Pf抜きにはこの作品の本質は語れないのである。
ボーカルを独奏楽器に替えて演奏する場合、言葉を失ってしまうため、表現振幅が狭まってしまうのは致し方のないことで、たとえどんなに優秀なソリストが演奏しようが言葉を伴わないハンディを克服することはできない。だが、ここでのフォーグラーはそんなディスアドバンテージを感じさせない鷹揚で雄弁なVcを聴かせてくれ、またグリモーは多少暗めの翳りを伴いつつも深く研ぎ澄まされたエクスプレッシブな演奏を展開していて素晴らしい。テクニカル面でもほぼ完璧と言える指回りの速さとタッチの精密さ、低域弦の芯を突く強烈なアタックなどは彼女の美点であって、それはほぼ全て発露していると言ってよい。グリモーの秀逸なPfと自由に、そして柔軟に飛翔するフォーグラーのVcが高度に共鳴し合う素晴らしい演奏である。
最後には「アンダンテと変奏曲」が入っている。これはシューマン作品中では風変わりな曲で、作曲当初は2台のPf、2挺のVc、そしてHrという室内楽編成として書かれたもの。これは一旦は非公式の場で試奏され、その評価を踏まえシューマンは最終的に2台のPf連弾用に改訂してしまったのだ。改訂と同時に室内楽版の序奏部分、間奏部分、および第10変奏を削除したと言われている。原曲の室内楽版は、Vc、Hrという独奏楽器が含まれているが、旋律の殆どをPfが担っている。Vcが対旋律と伴奏的な使われ方、Hrが特殊効果音というか打楽器的な使われ方であり、そういった背景もあってPf連弾版への改訂が容易だったと考えられている。
Pf連弾版も室内楽版も古くから譜面は出版されているが、どちらの演奏機会も多くはないと思われる。なお、作品番号が与えられているのは改訂されたPf連弾版の方である。このライナーにはOp.46との明記があるが、これは正しくはなくて、WoO.(Werke ohne Opuszahl 作品番号なし)とすべきもの。Pfがグリモーからこちらの二人に代わり、急に静かで音数が減り、寂しくなった感覚を受けるのはご愛嬌。シューマンらしい明媚で機転に富んだ、遊び心たっぷりの変奏曲集であり聴いていて楽しい。確かに、Hrはフィーチャーされているけれども茫洋としていて立ち位置がはっきりとはせず結局、最後まで旋律らしい旋律を刻むことはない。が、ちょっと変わったこの使われ方は面白い。
(録音評)
Sony Classical 88697892582、通常CD。録音はOp.73と48が2011年12月、Op.46が2013年1月。トーンマイスターは、Op.73+48がAndreas Neubronner(Tritonus Musikproduktion)、Op.46がMarkus Heiland(Tritonus Musikproduktion)で、いずれもソニー純正ではなくTritonusの制作となる。音質はTritonusの典型的な超高音質。特にOp.73+48の仄暗くて深々とした陰影は何とも言えず品があって良い。また、Vc、Pf共にオンマイクながら肥大化せず、また音場空間の拡がり方も自然であって、さすがと言わざるを得ない出来栄えに唸ってしまう。音楽的な曲目構成が面白く、演奏は秀逸であり、また録音は超優秀。
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♪ よい音楽を聴きましょう ♫
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Fantasiestucke Op.73
I. Zart und mit Ausdruck
II. Lebhaft, leicht
III. Rasch und mit Feuer
Dichterliebe Op.48
I. Im wunderschonen Monat Mai
II. Aus meinen Tranen spriesen
III. Die Rose, die Lilie, die Taube, die Sonne
IV. Wenn ich in deine Augen seh'
V. Ich will meine Seele tauchen
VI. Im Rhein, im heiligen Strome
VII. Ich grolle nicht
VIII. Und wussten's die Blumen, die kleinen
IX. Das ist ein Floten und Geigen
X. Hor ich das Liedchen klingen
XI. Ein Jungling liebt ein Madchen
XII. Am leuchtenden Sommermorgen
XIII. Ich hab' im Traum geweinet
XIV. Allnachtlich im Traume
XV. Aus alten Marchen
XVI. Die alten, bosen Lieder
Andante und variationen Op.46
Jan Vogler(Vc)
Helene Grimaud(Pf) - Op.73, Op.48
Moritzburg Festival Ensemble - Op.46
シューマン: 室内楽作品集
シューマン:
幻想小曲集Op.73
歌曲集「詩人の恋」Op.48 (チェロ用編曲版)
アンダンテと変奏曲 変ロ長調Op.46 (オリジナル室内楽版)
ヤン・フォーグラー(Vc)
エレーヌ・グリモー(Pf) - Op.73, Op.48
モーリッツブルク祝祭アンサンブル - Op.46
ヤン・フォーグラーがチェロの手ほどきを受けたのは6歳の頃、父親で音楽学者であったペーター・フォーグラーからだという。その後、ベルリンではジョセフ・シュヴァブ、その後ハインリッヒ・シフ、ジークフリート・パルムの各氏に師事する。そして弱冠20歳でシュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場)の首席チェリストに起用され、これはこのオケの歴史上最も若い年齢での就任であったとのこと、ある種の天才だったと言えよう。シュターツカペレ・ドレスデンには数年在籍したが、更なる活躍を求めて辞めてしまう。そして彼の妻=ミラ・ワン(中国系Vnソリスト)と二人の子供を住まわせていた家があったというニューヨークに拠点を移し、ソリストとして活動を始めた。その後は、ドレスデンとニューヨークを行ったり来たりの時間を過ごしているようだ。また、彼はドレスデン音楽祭の総監督であり、モーリッツブルク室内音楽祭の創立者にして芸術監督でもある。使用楽器は1707-1710 Stradivarius 'Ex Castelbarco/Fau' 、1721 Domenico Montagnana cello ‘Ex-Hekking’。
幻想小曲集Op.73は、元々はCl(クラリネット)とPfのために書かれた3部形式の3つの作品の総称だが、最初の出版社がClの代わりにVnやVcで演奏しても良いと記したため、そのあと現代に至るまでClよりかはVnやVcでの演奏機会が多い。作曲は1849年2月11日から3日間で書き上げたとされ、初演は1850年1月14日との記録が残っているそうだ。3つの曲にはテーマにおいて疎な連関性があって、似た主題が引き継がれて大域的な大きな構造を作り出しているもの。なお、シューマンは、ソロPf向けにも同名の「幻想小曲集」を書いており、こちらはOp.12が与えられている。Op.12の方が演奏機会としては多いかもしれない。
第1曲は「やさしく、表情豊かに」イ短調4分の4拍子。Pfが主導的に導入部を形作り、それに少しずつソロ楽器が呼応するように主旋律を歌い出す。後のフォーレが確立したような半音階クロマティックが印象的な甘美で夢見るような旋律進行は秀逸。第2曲は「活き活きと、軽快に」イ長調4分の4拍子。変形3部形式で末尾にはコーダを配する。この曲はソロ楽器が第1主題を繰り返し主導して始まり、まさに快活な旋律進行を示す。中間部は第1主題の変奏という位置づけとなり、Pfも重層的に対話を繰り返し煌びやかな熱気を帯びる。第3部では冒頭のシンプルな主題へと立ち返り、リタルダンドをかけながらテンポを落としコーダへと入っていく。 第3曲は「急速に、活気をもって」嬰ヘ短調 4分の4拍子。3部形式でコーダを配する。活気に漲った冒頭部と憂愁に満ちた気怠い中間部の対比がシューマンらしい明確なコントラストを形成している美しい曲。技巧的には高速に上下するスケールを正確、軽やかにトレースすることが難題だ。ここでのフォーグラーの情感とグリモーの濃密かつ深い弾き込みは白眉であって素晴らしいのひとこと。
詩人の恋Op.48はハインリヒ・ハイネの詩にシューマンが曲を付けた有名な連作歌曲であり、1840年の作曲とされている。今まであらゆる歌手が手掛けてきており、いわゆる名演奏・名盤が数多く存在する。このCDでは歌曲パートをVcでそのまま編曲せずにフォーグラーが弾き、Pf伴奏をグリモーが付けている。シューマンはシューベルトほど歌曲を書いたとは一般的には思われていないかもしれないが、実は1840年を「シューマンの歌曲の年」といい、割とたくさんの歌を書いている。なお、シューベルトと違ってPfが巧かったシューマンらしく、伴奏部の充実ぶりには目を瞠るものがある。いや、伴奏部という域を超え、協奏的要素としてPfを位置付けている作品であり、Pf抜きにはこの作品の本質は語れないのである。
ボーカルを独奏楽器に替えて演奏する場合、言葉を失ってしまうため、表現振幅が狭まってしまうのは致し方のないことで、たとえどんなに優秀なソリストが演奏しようが言葉を伴わないハンディを克服することはできない。だが、ここでのフォーグラーはそんなディスアドバンテージを感じさせない鷹揚で雄弁なVcを聴かせてくれ、またグリモーは多少暗めの翳りを伴いつつも深く研ぎ澄まされたエクスプレッシブな演奏を展開していて素晴らしい。テクニカル面でもほぼ完璧と言える指回りの速さとタッチの精密さ、低域弦の芯を突く強烈なアタックなどは彼女の美点であって、それはほぼ全て発露していると言ってよい。グリモーの秀逸なPfと自由に、そして柔軟に飛翔するフォーグラーのVcが高度に共鳴し合う素晴らしい演奏である。
最後には「アンダンテと変奏曲」が入っている。これはシューマン作品中では風変わりな曲で、作曲当初は2台のPf、2挺のVc、そしてHrという室内楽編成として書かれたもの。これは一旦は非公式の場で試奏され、その評価を踏まえシューマンは最終的に2台のPf連弾用に改訂してしまったのだ。改訂と同時に室内楽版の序奏部分、間奏部分、および第10変奏を削除したと言われている。原曲の室内楽版は、Vc、Hrという独奏楽器が含まれているが、旋律の殆どをPfが担っている。Vcが対旋律と伴奏的な使われ方、Hrが特殊効果音というか打楽器的な使われ方であり、そういった背景もあってPf連弾版への改訂が容易だったと考えられている。
Pf連弾版も室内楽版も古くから譜面は出版されているが、どちらの演奏機会も多くはないと思われる。なお、作品番号が与えられているのは改訂されたPf連弾版の方である。このライナーにはOp.46との明記があるが、これは正しくはなくて、WoO.(Werke ohne Opuszahl 作品番号なし)とすべきもの。Pfがグリモーからこちらの二人に代わり、急に静かで音数が減り、寂しくなった感覚を受けるのはご愛嬌。シューマンらしい明媚で機転に富んだ、遊び心たっぷりの変奏曲集であり聴いていて楽しい。確かに、Hrはフィーチャーされているけれども茫洋としていて立ち位置がはっきりとはせず結局、最後まで旋律らしい旋律を刻むことはない。が、ちょっと変わったこの使われ方は面白い。
(録音評)
Sony Classical 88697892582、通常CD。録音はOp.73と48が2011年12月、Op.46が2013年1月。トーンマイスターは、Op.73+48がAndreas Neubronner(Tritonus Musikproduktion)、Op.46がMarkus Heiland(Tritonus Musikproduktion)で、いずれもソニー純正ではなくTritonusの制作となる。音質はTritonusの典型的な超高音質。特にOp.73+48の仄暗くて深々とした陰影は何とも言えず品があって良い。また、Vc、Pf共にオンマイクながら肥大化せず、また音場空間の拡がり方も自然であって、さすがと言わざるを得ない出来栄えに唸ってしまう。音楽的な曲目構成が面白く、演奏は秀逸であり、また録音は超優秀。
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by primex64
| 2014-02-09 19:07
| Solo - Vc
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