2013年 12月 24日
Stravinsky: The Rite of Spring@Yannick Nezet-Seguin/Philadelphia O. |
前回はヤニック・ネゼ=セガンが振る悲愴を聴いたわけだが、ちょっとオケが残念な感じだった。そうこうしているうちに別のオケで録った新譜がたまたま出ていたので買ってみた。但し、チャイコとは全然違う流れのハルサイなのだが。

http://tower.jp/item/3279979/
Stravinsky: The Rite of Spring
Part I: L'Adoration de la Terre (Adoration of the Earth)
Introduction
Les Augures printaniers
Jeu du rapt
Rondes printanieres
Jeux des cites rivales
L'adoration de la terre
Cortege du sage:
Danse de la terre
Part II: Le Sacrifice (The Sacrifice)
Introduction
Cercles mysterieux des adolescentes
Glorification de l'elue
Evocation des ancetres
Action rituelle des ancetres
Danse sacrale (L'Elue)
J.S.Bach (arr. by Stokowski):
Toccata & Fugue in D minor, BWV565
Fugue in G minor, BWV578 'Little'
Passacaglia & Fugue in C minor, BWV582
Philadelphia Orchestra, Yannick Nezet-Seguin
ネゼ=セガン/ストラヴィンスキー&ストコフスキー
ストラヴィンスキー: バレエ《春の祭典》
J.S.バッハ(ストコフスキー編曲): トッカータとフーガ ニ短調 BWV565
J.S.バッハ(ストコフスキー編曲): パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582
J.S.バッハ(ストコフスキー編曲): 小フーガ ト短調 BWV578
ストラヴィンスキー(ストコフスキー編): パストラーレ
フィラデルフィア管弦楽団
ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)
結論から言うと、これは驚くべき鮮烈な演奏で、かつ録音も非常に優秀。なお音質については恒例により最後に書く。
リーマン・ショックの煽りを受けて景気低迷に陥った米国にあって、暫らくは大丈夫だろうと思われていたフィラデルフィア管は2011年にチャプター・イレブンの適用を申請し破綻した。更生手続に入って何とか存続の道を歩み始めたわけだが、実はその救世主はネゼ=セガンだったという。ネゼ=セガンについては前回のチャイコでその可能性の片鱗を大いに見せつけてくれたのだが、オケの相性・特性面から、いや、基本性能からか期待したほどの出来栄えではなかった。
しかし、さすがにフィラデルフィア管とはぴったりと息が合っていてしかもエナジーに満ち満ちていてダイナミック、勇壮、そして相反するようであるが何とも緻密でハイスピードなハルサイに仕上がっているではないか。幼少期から憧憬の存在であったかつてのオーマンディ/フィラデルフィアが築いてきた伝統の名跡をネゼ=セガン自身が振ることになろうとは。そして類例を見ない米国名門オケの破綻という事態から救い出すのが自らのタクトであるとはなんとも言えない因縁めいたものを感じているのではなかろうか。
ハルサイはどのカットもハイレゾリューションかつハイスピード、そして、超ワイドなダイナミックレンジであり、しかも第一部も第二部もその緊張感が途切れる個所はない。昨今の同曲の録音としては異例の極めて高いテンションを示している。特に、Jeux des cites rivales~L'adoration de la terre(敵の部族の遊戯~長老の行進)で眼前に現れる音絵巻は凄まじいとしか言いようがない。このセクションはハルサイ全体を通じて最もバイオレントなピークを形作り、また大規模オケにとっての難所なのだが、ネゼ=セガンのクールな解釈をもってすると難なく平易に聴こえてしまう。
つまり、すべてのパートが強奏となり、特にパーカッションが縦横に炸裂するなか、大概の演奏/録音では歪が急増して耳を劈くような轟音と狂ったようなノイズを発するところ、この演奏はどこまでも冷静で音の分離が良く、どのパートにも破綻がない。これはフィラデルフィア管の基本性能の高さ、とりわけダイナミックレンジの広さをまざまざと誇示しているものであり美点でもある。こういった迫力と冷静さを兼ね備えた演奏には流石と膝を打ってしまうが、その特性を熟知したうえで最大音圧を持続させ、なお余裕をもって各パートに目を配って微細な和声と旋律を引き出していくネゼ=セガンの指揮者としての才覚と拘りを強く感じるところだ。オケの面々が嬉々として演奏に参画している様が目に見えるようなブリリアントでビビッドな演奏となっている。
後半にはフィラデルフィア管でオーマンディの前に首席指揮者を務めていたあのストコフスキーが編曲したバッハのオルガン名曲のオケ版、そしてストラヴィンスキーのパストラーレが入っている。ストコフスキーはオルガニストとしても有名だったためかラショナルで穏和な和声にしっかりとバッハの主旋律を刻み込んで音を組み立てており、また指揮者としての長い経験から来るバランス感覚によって和声(伴奏部)に対位法の効果を積極的に織り込みながらこれらのオルガン曲を絶妙に再構築している。ただ、風情としては2手+足鍵盤で刻まれるオルガン原曲とは根本的に異なっている。このオケ版からはゴージャスで深い味わいは感じられるものの、鋭敏で鮮烈、そして求道的な対位法表現をオケ版で達成するのは無理というもの。これらはそういったラディカルな聴き方をするための編曲ではなく、オーケストラを用いてバッハの世界を悠然と揺蕩う大音響でゆったりと味わうためのものなのだ。
(録音評)
DG 4791074、通常CD。録音は2013年3月 フィラデルフィア キンメル・センター、ヴェライゾン・ホール。トーンマイスターはCharles Gagnonとある。このCDの音質はDGとしてはエポックメーキングなもの。即ち、従前からの高演色で不明瞭な空間再現を示す旧態依然とした音質とは明らかに一線を画しており、高度に洗練された音場再現性と極めて優秀な音像定位感を備えているのだ。音色も原音にかなり忠実であって華美さはなくてどちらかというと地味で仄暗い。それでいてフィラデルフィア管の煌びやかな側面も着実に捉えている。特に前半のハルサイについては広大なダイナミックレンジ、そして元々の音数の多さをものともしない余裕度が感じられ、一点の濁りもないすっきり伸びやかな録音となっている。また、グランカッサによって駆動されるヴェライゾン・ホールの大容量の空気が重低域のうねりを伴って押し寄せる様子、金管隊の鋭くハイスピードなビームがコヒーレントに伝播してくる様子が克明に捉えられている。このハイスピードで遅延のない音は、欧米の録音レーベルで昨今多用され始めたDAD(Digital Audio Denmark)社製のADCのそれに極めて似ているし、このニュートラルな音色はDPA社のマイクで捉えられたものに酷似している。いずれにせよ、DGがCD録音プロセスをようやく近代化し始めた萌芽が感じられる一枚だ。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。
♪ よい音楽を聴きましょう ♫

http://tower.jp/item/3279979/
Stravinsky: The Rite of Spring
Part I: L'Adoration de la Terre (Adoration of the Earth)
Introduction
Les Augures printaniers
Jeu du rapt
Rondes printanieres
Jeux des cites rivales
L'adoration de la terre
Cortege du sage:
Danse de la terre
Part II: Le Sacrifice (The Sacrifice)
Introduction
Cercles mysterieux des adolescentes
Glorification de l'elue
Evocation des ancetres
Action rituelle des ancetres
Danse sacrale (L'Elue)
J.S.Bach (arr. by Stokowski):
Toccata & Fugue in D minor, BWV565
Fugue in G minor, BWV578 'Little'
Passacaglia & Fugue in C minor, BWV582
Philadelphia Orchestra, Yannick Nezet-Seguin
ネゼ=セガン/ストラヴィンスキー&ストコフスキー
ストラヴィンスキー: バレエ《春の祭典》
J.S.バッハ(ストコフスキー編曲): トッカータとフーガ ニ短調 BWV565
J.S.バッハ(ストコフスキー編曲): パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV582
J.S.バッハ(ストコフスキー編曲): 小フーガ ト短調 BWV578
ストラヴィンスキー(ストコフスキー編): パストラーレ
フィラデルフィア管弦楽団
ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)
結論から言うと、これは驚くべき鮮烈な演奏で、かつ録音も非常に優秀。なお音質については恒例により最後に書く。
リーマン・ショックの煽りを受けて景気低迷に陥った米国にあって、暫らくは大丈夫だろうと思われていたフィラデルフィア管は2011年にチャプター・イレブンの適用を申請し破綻した。更生手続に入って何とか存続の道を歩み始めたわけだが、実はその救世主はネゼ=セガンだったという。ネゼ=セガンについては前回のチャイコでその可能性の片鱗を大いに見せつけてくれたのだが、オケの相性・特性面から、いや、基本性能からか期待したほどの出来栄えではなかった。
しかし、さすがにフィラデルフィア管とはぴったりと息が合っていてしかもエナジーに満ち満ちていてダイナミック、勇壮、そして相反するようであるが何とも緻密でハイスピードなハルサイに仕上がっているではないか。幼少期から憧憬の存在であったかつてのオーマンディ/フィラデルフィアが築いてきた伝統の名跡をネゼ=セガン自身が振ることになろうとは。そして類例を見ない米国名門オケの破綻という事態から救い出すのが自らのタクトであるとはなんとも言えない因縁めいたものを感じているのではなかろうか。
ハルサイはどのカットもハイレゾリューションかつハイスピード、そして、超ワイドなダイナミックレンジであり、しかも第一部も第二部もその緊張感が途切れる個所はない。昨今の同曲の録音としては異例の極めて高いテンションを示している。特に、Jeux des cites rivales~L'adoration de la terre(敵の部族の遊戯~長老の行進)で眼前に現れる音絵巻は凄まじいとしか言いようがない。このセクションはハルサイ全体を通じて最もバイオレントなピークを形作り、また大規模オケにとっての難所なのだが、ネゼ=セガンのクールな解釈をもってすると難なく平易に聴こえてしまう。
つまり、すべてのパートが強奏となり、特にパーカッションが縦横に炸裂するなか、大概の演奏/録音では歪が急増して耳を劈くような轟音と狂ったようなノイズを発するところ、この演奏はどこまでも冷静で音の分離が良く、どのパートにも破綻がない。これはフィラデルフィア管の基本性能の高さ、とりわけダイナミックレンジの広さをまざまざと誇示しているものであり美点でもある。こういった迫力と冷静さを兼ね備えた演奏には流石と膝を打ってしまうが、その特性を熟知したうえで最大音圧を持続させ、なお余裕をもって各パートに目を配って微細な和声と旋律を引き出していくネゼ=セガンの指揮者としての才覚と拘りを強く感じるところだ。オケの面々が嬉々として演奏に参画している様が目に見えるようなブリリアントでビビッドな演奏となっている。
後半にはフィラデルフィア管でオーマンディの前に首席指揮者を務めていたあのストコフスキーが編曲したバッハのオルガン名曲のオケ版、そしてストラヴィンスキーのパストラーレが入っている。ストコフスキーはオルガニストとしても有名だったためかラショナルで穏和な和声にしっかりとバッハの主旋律を刻み込んで音を組み立てており、また指揮者としての長い経験から来るバランス感覚によって和声(伴奏部)に対位法の効果を積極的に織り込みながらこれらのオルガン曲を絶妙に再構築している。ただ、風情としては2手+足鍵盤で刻まれるオルガン原曲とは根本的に異なっている。このオケ版からはゴージャスで深い味わいは感じられるものの、鋭敏で鮮烈、そして求道的な対位法表現をオケ版で達成するのは無理というもの。これらはそういったラディカルな聴き方をするための編曲ではなく、オーケストラを用いてバッハの世界を悠然と揺蕩う大音響でゆったりと味わうためのものなのだ。
(録音評)
DG 4791074、通常CD。録音は2013年3月 フィラデルフィア キンメル・センター、ヴェライゾン・ホール。トーンマイスターはCharles Gagnonとある。このCDの音質はDGとしてはエポックメーキングなもの。即ち、従前からの高演色で不明瞭な空間再現を示す旧態依然とした音質とは明らかに一線を画しており、高度に洗練された音場再現性と極めて優秀な音像定位感を備えているのだ。音色も原音にかなり忠実であって華美さはなくてどちらかというと地味で仄暗い。それでいてフィラデルフィア管の煌びやかな側面も着実に捉えている。特に前半のハルサイについては広大なダイナミックレンジ、そして元々の音数の多さをものともしない余裕度が感じられ、一点の濁りもないすっきり伸びやかな録音となっている。また、グランカッサによって駆動されるヴェライゾン・ホールの大容量の空気が重低域のうねりを伴って押し寄せる様子、金管隊の鋭くハイスピードなビームがコヒーレントに伝播してくる様子が克明に捉えられている。このハイスピードで遅延のない音は、欧米の録音レーベルで昨今多用され始めたDAD(Digital Audio Denmark)社製のADCのそれに極めて似ているし、このニュートラルな音色はDPA社のマイクで捉えられたものに酷似している。いずれにせよ、DGがCD録音プロセスをようやく近代化し始めた萌芽が感じられる一枚だ。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2013-12-24 00:03
| Orchestral
|
Trackback
|
Comments(0)