2013年 11月 17日
Biber: Guardian Angel@Rachel Podger |
チャンネル・クラシックスのSACDハイブリッドの新譜で、ポッジャーが久し振りに弾く無伴奏Vn曲集。ポッジャーといえばバッハ無伴奏、およびモーツァルトの協奏曲集で極めて高い完成度によって世に認められたVnソリストであり、またピリオド系の専門アンサンブルの主宰者としても有名な人物だ。

http://tower.jp/item/3300442/
Guardian Angel: Rachel Podger
Music by Bach, Matteis, Tartini, Pisendel, Biber
Bach, J S:
Partita in A minor for solo flute, BWV1013
Matteis the Younger:
Passagio rotto
Fantasia
Movimento incognito
Tartini:
Violin Sonata in A minor, B: a3
Sonata No.13 in B minor - Brainard h1
Pisendel:
Sonata for Violin Solo in A minor
Biber:
Passacaglia for violin solo in G minor (from Mystery Sonatas)
Rachel Podger (Vn)
守護天使: 無伴奏ヴァイオリン作品集
J.S.バッハ: 無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調 BWV.1013
(ポッジャー編曲/ト短調版)
マッテイス:《ヴァイオリンのためのエアー集》より
パサージオ・ロット、ファンタジア、ムーヴィメント・インコグニート
タルティーニ: ソナタ イ短調, B:a3、ソナタ第13番ロ短調, B:h1
ピゼンデル: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ
ビーバー: パッサカリア ト短調《守護天使》
レイチェル・ポッジャー(ヴァイオリン/ペザリニウス1739年製)
ポッジャーはピリオド系の大家としての評価を得てから久しい気がする。しかし、昨今では馴染みのあるオールラウンダーのVnソリスト、例えばファウスト、ムローヴァ、ヤンセン、シュタインバッハーらがピリオド的なアプローチに研鑽を積んその効果を発揮し始めてきているせいか、演奏を聴いただけではポッジャーがその道のスペシャリストといわれても差異がわからずピンとは来ない。そしてイブラギモヴァなどのようにピリオド系を出自とはするが古典派から近々のロマン派作品までを幅広に手中に収めているソリストもいることから、ポッジャーの演奏が殊更にピリオド系と言うには抵抗感はある。ということで、この曲集はポッジャーだから、とか、ピリオド系だから、という先入観をもって聴くのはあまり意味がないことと思う。
このアルバムはバッハのフルート無伴奏の編曲版を頭に、バッハと同時代を生きた作家たちのセンザ・バッソ、即ち無伴奏作品を集めた曲集となっている。マッテイス、タルティーニ、ピゼンデル、ビーバーの名も作品も耳にするのは初めて。冒頭バッハ作品は対位法によるバッハ得意の無伴奏であり、ポッジャーにとっては手慣れた領域の作品だろうが、非常に丁寧な展開と今までの特徴であるきびきびとした元気の良さをある程度抑制した静謐で思索的な解釈だ。出来は非常に良い。
マッテイス、タルティーニの作品は無伴奏であってダブルストップ、トリプルストップを駆使した技巧的には高難度の曲だがよくよく聞くと対位法表現は殆どなくて低域部と高域部での役割分担が明確に分かれた、いわゆる古典派以降ポピュラーな伴奏部+旋律というスタイルに則った作品。伸びやかで歪感のない明晰かつ透過性の高いポッジャーの演奏はやはり思索的であり、過度の感情表出は抑制されている。これらは、この当時に好まれたであろうシンプルなメロディーライン、奇を衒わない和声展開などが端的に写像した内容といえようか。また、この当時、すでに独奏楽器を用いてポリフォニーを操る無伴奏曲への造詣・技法が確立されていたことも興味深い点だ。
ピゼンデルのVnソナタはバッハの手法と殆ど同じ対位法を用いた無伴奏作品である。この曲は表現幅や音楽設計の規模が大きな優れた作品であり、複数の旋律ラインが互いに高度に作用しあって風雅だが深い情感の襞を表現したもの。単にバッハに似ているとかバロック期の気風を今に伝えているとか、そんな陳腐な評価が当てはまらない個性的で音楽的な構造体が内包されている。ポッジャーの技巧は完璧であってトリプルストップ、クオドルプルストップと縦横に繰り出しながら重層的な音世界を紡いでいく。
ガーディアン・エンジェル(守護天使)とは、ポッジャー自身のことかと思っていたが、これはそうではなくて、アルバムの末尾に入っているビーバーのパッサカリアの別名だった。このパッサカリアは対位法表現を用いた作品であり、今までにどこかで頻繁に聴いたことがあるという既視感(デジャヴ)に襲われる作りをしている。しかし、実際にはこれに近い旋律も聴いたことはないし、この和声だって誰々の何々という作品と瓜二つだとかそういった記憶もまったく蘇ってはこない。これは割とシンプルな主題が幾重にも変奏が重ねられて徐々に姿を変えていき、これが習慣性の高い麻薬のように耳の奥に残る響きだし、曲全体を重苦しくてアンニュイ、ある意味で物悲しい雰囲気が支配するのは複雑な対旋律の運びに由来するものだろう。
どちらかというとバッハの音楽の捧げものに近い瞑想的な風情かと思って聴きながら、ふとなにげなくライナーを覗いたら、バッハは無伴奏パルティータ2番ニ短調BWV1004の終楽章シャコンヌにこの守護天使の構造を見習って取り入れたらしい、ということが書いてあった。勿論、当時、バッハがビーバーの守護天使の譜面にアクセスできたという証拠はないけれども、との注釈つきで。そこでムローヴァの無伴奏パルティータ&ソナタ集を取り出して該当箇所を聴いてみたが、確かに言われてみると対位法上の旋律の取り運び方は似ている。しかし、あからさまに真似た部分があるかというと、どうもそれはなさそう、という結論である。構造的な面白味、音楽的な躍動感、洗練度合いはバッハのパルティータに軍配は上がるが、簡素だけれども求道的で迫り来るこの守護天使はバッハとは違った明確な強点を持っているのだ。
(録音評)
Channel Classics CCS SA 35513 SACDハイブリッド。録音は2013年5月、メノナイト教会(ハールレム、オランダ)とある。音楽的な出来栄えが素晴らしいこのSACDは音質も素晴らしくて言うことはない。Channel Classicsの従来からの特徴であるフローラルで陽性の形質はちょっと影を潜めていて、少し仄暗く落ち着いてしっとりとした調音となっている。音場は深くそして幅広に展開し、その中央にちょっとオフマイクで捉えられたポッジャーが駆るペザリニウスが小さく定位する。音はハイビット・ハイサンプリングPCMのようなくっきりとした隈取ではなく、さりとてSACDのような茫洋とした柔らかな肌合いでもなく、以前よりよく引き合いに出しているスカーリー社製のマスターレコーダーのような音と表現しておこうか。とにかくシュアで綺麗で非の打ちどころのない録音である。
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♪ よい音楽を聴きましょう ♫

http://tower.jp/item/3300442/
Guardian Angel: Rachel Podger
Music by Bach, Matteis, Tartini, Pisendel, Biber
Bach, J S:
Partita in A minor for solo flute, BWV1013
Matteis the Younger:
Passagio rotto
Fantasia
Movimento incognito
Tartini:
Violin Sonata in A minor, B: a3
Sonata No.13 in B minor - Brainard h1
Pisendel:
Sonata for Violin Solo in A minor
Biber:
Passacaglia for violin solo in G minor (from Mystery Sonatas)
Rachel Podger (Vn)
守護天使: 無伴奏ヴァイオリン作品集
J.S.バッハ: 無伴奏フルートのためのパルティータ イ短調 BWV.1013
(ポッジャー編曲/ト短調版)
マッテイス:《ヴァイオリンのためのエアー集》より
パサージオ・ロット、ファンタジア、ムーヴィメント・インコグニート
タルティーニ: ソナタ イ短調, B:a3、ソナタ第13番ロ短調, B:h1
ピゼンデル: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ
ビーバー: パッサカリア ト短調《守護天使》
レイチェル・ポッジャー(ヴァイオリン/ペザリニウス1739年製)
ポッジャーはピリオド系の大家としての評価を得てから久しい気がする。しかし、昨今では馴染みのあるオールラウンダーのVnソリスト、例えばファウスト、ムローヴァ、ヤンセン、シュタインバッハーらがピリオド的なアプローチに研鑽を積んその効果を発揮し始めてきているせいか、演奏を聴いただけではポッジャーがその道のスペシャリストといわれても差異がわからずピンとは来ない。そしてイブラギモヴァなどのようにピリオド系を出自とはするが古典派から近々のロマン派作品までを幅広に手中に収めているソリストもいることから、ポッジャーの演奏が殊更にピリオド系と言うには抵抗感はある。ということで、この曲集はポッジャーだから、とか、ピリオド系だから、という先入観をもって聴くのはあまり意味がないことと思う。
このアルバムはバッハのフルート無伴奏の編曲版を頭に、バッハと同時代を生きた作家たちのセンザ・バッソ、即ち無伴奏作品を集めた曲集となっている。マッテイス、タルティーニ、ピゼンデル、ビーバーの名も作品も耳にするのは初めて。冒頭バッハ作品は対位法によるバッハ得意の無伴奏であり、ポッジャーにとっては手慣れた領域の作品だろうが、非常に丁寧な展開と今までの特徴であるきびきびとした元気の良さをある程度抑制した静謐で思索的な解釈だ。出来は非常に良い。
マッテイス、タルティーニの作品は無伴奏であってダブルストップ、トリプルストップを駆使した技巧的には高難度の曲だがよくよく聞くと対位法表現は殆どなくて低域部と高域部での役割分担が明確に分かれた、いわゆる古典派以降ポピュラーな伴奏部+旋律というスタイルに則った作品。伸びやかで歪感のない明晰かつ透過性の高いポッジャーの演奏はやはり思索的であり、過度の感情表出は抑制されている。これらは、この当時に好まれたであろうシンプルなメロディーライン、奇を衒わない和声展開などが端的に写像した内容といえようか。また、この当時、すでに独奏楽器を用いてポリフォニーを操る無伴奏曲への造詣・技法が確立されていたことも興味深い点だ。
ピゼンデルのVnソナタはバッハの手法と殆ど同じ対位法を用いた無伴奏作品である。この曲は表現幅や音楽設計の規模が大きな優れた作品であり、複数の旋律ラインが互いに高度に作用しあって風雅だが深い情感の襞を表現したもの。単にバッハに似ているとかバロック期の気風を今に伝えているとか、そんな陳腐な評価が当てはまらない個性的で音楽的な構造体が内包されている。ポッジャーの技巧は完璧であってトリプルストップ、クオドルプルストップと縦横に繰り出しながら重層的な音世界を紡いでいく。
ガーディアン・エンジェル(守護天使)とは、ポッジャー自身のことかと思っていたが、これはそうではなくて、アルバムの末尾に入っているビーバーのパッサカリアの別名だった。このパッサカリアは対位法表現を用いた作品であり、今までにどこかで頻繁に聴いたことがあるという既視感(デジャヴ)に襲われる作りをしている。しかし、実際にはこれに近い旋律も聴いたことはないし、この和声だって誰々の何々という作品と瓜二つだとかそういった記憶もまったく蘇ってはこない。これは割とシンプルな主題が幾重にも変奏が重ねられて徐々に姿を変えていき、これが習慣性の高い麻薬のように耳の奥に残る響きだし、曲全体を重苦しくてアンニュイ、ある意味で物悲しい雰囲気が支配するのは複雑な対旋律の運びに由来するものだろう。
どちらかというとバッハの音楽の捧げものに近い瞑想的な風情かと思って聴きながら、ふとなにげなくライナーを覗いたら、バッハは無伴奏パルティータ2番ニ短調BWV1004の終楽章シャコンヌにこの守護天使の構造を見習って取り入れたらしい、ということが書いてあった。勿論、当時、バッハがビーバーの守護天使の譜面にアクセスできたという証拠はないけれども、との注釈つきで。そこでムローヴァの無伴奏パルティータ&ソナタ集を取り出して該当箇所を聴いてみたが、確かに言われてみると対位法上の旋律の取り運び方は似ている。しかし、あからさまに真似た部分があるかというと、どうもそれはなさそう、という結論である。構造的な面白味、音楽的な躍動感、洗練度合いはバッハのパルティータに軍配は上がるが、簡素だけれども求道的で迫り来るこの守護天使はバッハとは違った明確な強点を持っているのだ。
(録音評)
Channel Classics CCS SA 35513 SACDハイブリッド。録音は2013年5月、メノナイト教会(ハールレム、オランダ)とある。音楽的な出来栄えが素晴らしいこのSACDは音質も素晴らしくて言うことはない。Channel Classicsの従来からの特徴であるフローラルで陽性の形質はちょっと影を潜めていて、少し仄暗く落ち着いてしっとりとした調音となっている。音場は深くそして幅広に展開し、その中央にちょっとオフマイクで捉えられたポッジャーが駆るペザリニウスが小さく定位する。音はハイビット・ハイサンプリングPCMのようなくっきりとした隈取ではなく、さりとてSACDのような茫洋とした柔らかな肌合いでもなく、以前よりよく引き合いに出しているスカーリー社製のマスターレコーダーのような音と表現しておこうか。とにかくシュアで綺麗で非の打ちどころのない録音である。
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by primex64
| 2013-11-17 23:10
| Solo - Vn
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