A. Steffani: Stabat Mater@Cecilia Bartoli, Diego Fasolis/I Barocchisti |
http://tower.jp/item/3286880
Agostino Steffani:
Stabat Mater
Beatus Vir
Non Plus Me Ligate
Triduanas A Domino
Laudate Pueri
Sperate in Deo
Qui Diligit Mariam
Cecilia Bartoli, Nuria Rial, Yetzabel Arias Fernandez,
Franco Fagioli, Julian Prégardien, Daniel Behle, Salvo Vitale
I Barocchisti & Coro della Radiotelevisione Svizzera, Diego Fasolis
ステッファーニ: スターバト・マーテル
チェチーリア・バルトリ(Ms)
フランコ・ファジョーリ(C-T)
ダニエル・ベーレ(T)
ユリアン・プレガルディエン(T)
サルヴォ・ヴィターレ(Bs)
スイス・イタリア語放送合唱団
ディエゴ・ファソリス(指揮) イ・バロッキスティ(ピリオド楽器オーケストラ)
オペラの世界ではスーパースターのメゾであるバルトリは、バロック期など古楽の研究についても熱心であり、このアルバムはあまり有名とは言えないステッファーニの作品群を発掘・披露した第二弾にあたる録音だそうだ(因みに第一弾は聴いていない)。ステッファーニについてはその名を耳にしていたが音楽自体を聴くのは初めてだ。
ステッファーニがイタリアで生まれたのはバッハ/ヘンデルの30年ほど前の1653年とされる(因みにヘンデルもバッハもどちらも1685年生まれ)。バッハとの親交はなかったようだが、ヘンデルとは面識・音楽的な繋がりもあったようで、彼は自身の後継世代の作家としてヘンデルを高く評価していたようだ。
この録音だが、まず、スターバト・マーテルはその道では割と有名な作品らしい。しかし、ステッファーニという作家自体、殆ど知られていないためかこういったブリリアントなパッセージは初めて聴くものだ。ヴィヴァルディでもバッハでもなく、そしてヘンデルでもない、それでいてポリフォニーが美しいのだけれども抑揚はそれほどでもなくて平坦といえばその通りで、何らかのインパクトだとか特異形質だとかを期待すべき音楽ではないようだ。後から調べて知ったことだが、グスタフ・レオンハルトがこの曲を取り上げて録音していたようだ。勿論、残念ながらそれも入手できていないのだが。
スターバト・マーテルは13世紀頃を起源とした「悲しみの聖母」という名作の詩を題材にして数々の曲が書かれた。これらはキリスト世界ではポピュラーな鎮魂歌・ミサ曲に似た形態の音楽であり、多くの作家が同名の作品を書いている。大概は悲壮で、哀悼を想起させられる短調の曲なのだが、ステッファーニのこの曲は長調が主体で暗くはない。このアルバムのジャケットは聖母マリアが磔刑に処せられた我が子を驚きと諦念の眼差しで上目使いに眺める様が描かれたものだが、曲自体はそんな極限状況を描いたものではなくて、寧ろ世俗的・身近な、かつ讃美歌のような素朴で小さな歌が断片的に並んだ格好となっている。
バルトリは天賦の才を持つ声楽家であるとこのアルバムを聴いて改めて思う。太めなのに清冽で澄み渡った声を出し、そして敬虔で真摯な祈念が根底に横たわる哀愁に満ちた発声は群の抜いているのだ。バルトリが余りに優秀なので陰に隠れる格好となっているが、カウンタ・テナーのファジョーリは天然ソプラノ以上に清冽な歌声で呼応しているし、朗々たるプレガルディエン、地を這うようなベースラインが印象的なヴィターレの歌声もまた素晴らしいと言わざるを得ない。
ファソリス/イ・バロッキスティというピリオド楽団は初めて耳にするが、何ともいえない哀愁に満ちたバロック・ヴァイオリンが特徴となる渋い音でこの聖なる曲たちをサポートする。バロック期の隠れた名作家発掘に向けたバルトリの発する明確な提案が含まれるアルバムで、しかもさすがにDECCAだ、と言える調和のとれた録りかた、仕上げかたとなっている。宗教音楽が好きな人には是非ともお勧めの一枚。
(録音評)
DECCA 4785336、通常CD。録音は2013年6月、スイス、ルガーノ、スイス・イタリア語放送、オーディトリオ・ステリオ・モロとある。音質はDECCAらしい繊細で均整がとれた美しいもの。超絶的な高音質ではないけれども、音楽作品を収録する工業製品としてのCDとしては模範的な仕上がりであり、程々の解像度、心地よいアンビエント、そして何よりも各パートをバランスよく過不足なく配した定位が心地よい。チャレンジャブルなオーディオ性能を追い求めるよりかは優れた音楽を優れた方法で世に伝えて行くことの重要性を身にしみて感じる出来栄えに敬服する。ユニバーサルの傘下に収まったとはいえ、DECCAの良心は今なお健在であることを示している一枚だ。軽薄短小なデジタル配信方式が主流となりつつある現在、こういった優れた音楽CDパッケージを依然として出し続けるパブリッシャーが廃頽しないことを祈るばかりだ。
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