Grieg, Schumann: P-Con@Janne Mertanen, Hannu Koivula/Gävle SO. |
http://tower.jp/item/3301352/
Edvard Grieg: Piano Concerto in A minor Op.16
Allegro molto moderato
Adagio
Allegro moderato molto e marcato
- Quasi presto - Andante maestoso
Robert Schumann: Piano Concerto in A minor Op.54
Allegro affettuoso
Intermezzo: Andantino grazioso
Allegro vivace
Janne Mertanen (Pf)
Gävle Symphony Orchestra, Hannu Koivula
グリーグ: ピアノ協奏曲 イ短調 Op.16
シューマン: ピアノ協奏曲 イ短調 Op.54
ヤンネ・メルタネン(ピアノ)
イェヴレ交響楽団 ハンヌ・コイヴラ(指揮)
四半世紀ほど前まで、典型的なピアノ協奏曲と言えばベートーヴェンの5番・皇帝、チャイコン、そしてこのグリーグとされたのではなかろうか。それが、皇帝もグリーグも余り弾かれなくなって久しい気がする。因みに、チャイコンはいまだに根強い人気があって、それは若手登竜門としてのチャイコフスキー国際コンクール・ピアノ部門の永遠の準テーマ曲とされていることに由来しているのかもかもしれない。また、若手PfソリストがCDデビューを果たしてからそれほどの間隔を開けずしてチャイコンを録音することが半ば慣例化している気もする。これは、Vnソリストの多くがチャイコン(Vnのほう)を一つの通過点としていることに似通っている。コンサートピアニストへの道標に使われるのは、何故かグリーグや皇帝ではなくてチャイコフスキーらしい。
グリーグPコンOp.16は個人的には幼少期からよく聴いている曲。最初はカデンツァだけと思って、確か小学5年の時にピアノ譜を手に入れて練習していたが、その後、中学に入ってから全楽章をほぼ弾けるようになっていて、今でもだいたい暗譜していることから特別に馴染み深いもの。この曲は難易度は高いと思われているかもしれないが、左右それぞれでオクターブ届くようになるとそれ程の難曲ではなく、主旋律も左手対旋律も伴奏部も奇を衒った譜面ではないので誰でも比較的容易に弾ける曲だと思う。但し、それなりの指回りがしないと指定テンポは維持できない。
さて、このメルタネンというピアニストの名を目にするもの聴くのも初めてだし、イェヴレ響というのもハンヌ・コイヴラという指揮者も全然知らない。だが、こういったドメスティックでマイナーなCDに思わぬ演奏が含まれていることがたまにあり、この盤はその稀なケースに該当するものだ。メルタネンの演奏は、グリーグPコンとしては異例の無装飾無塗装と言って良いもので、いわばピアノ譜にある音符と楽想記号をそのまま指定通りに、そして過度な情感や特異な演出を一切籠めずに弾いたもの。つまり、暗譜している譜面が音としてそのままの姿で再生され、さらさらと眼前に湧き出てくるのだ。
この曲の場合には非常にロマンティックであって、なおかつ奏者の独自解釈や遊び、自由表現幅に対し非常に広いマージンを残していることから、世の中で弾かれるOp.16はそれこそ百花繚乱の態をなしている。そして、著名なソリストは大概は一度以上この曲を録音しているだろうから、そうそう差別化した好演を期待することはできない。メルタネンの演奏はそういった今までのヴィルトゥオーゾのパフォーマンスとは全然違うもので、グリーグが譜面に記した素の音をトレースすることにより成り立っている。もともとこの作品は奏者が特別に感情移入しなくてもそのまま間違えずに弾けば深い感動が得られるよう、巧妙に設計されていると思うのだ。
シューマンに関しても特段に変わったことをしている演奏ではなく実にシンプルだ。風光明媚かつ冷涼な勁さを内包したグリーグと違って、センチメンタルで甘美、そして軟弱な面も併せ持つこの曲の場合には弾き手の個性によって出来栄えや印象の振れ幅は大きくなる。メルタネンの場合はどちらかというと女性的で濃やかな表現を骨格としており、従って荒れた箇所や突出したエキセントリックさはない。しかし、淡々と訥々と進められる歩によって、こういった解釈法、演奏設計法があったのか、とはっとさせられるパッセージが何ヶ所も出現し軽い驚きを覚えるのであった。王道のロマン派を突き進んできた典型的なピアニストたちとは語法が少々違うようだ。良い悪いでいうと、悪い方ではないけれども諸手を挙げて優れているというには評価時間が足りない。だが、面白い演奏であることには違いはない。
ハンヌ・コイヴラ率いるイェヴレ響はスウェーデンで一世紀に及ぶ歴史を持つという名門楽団らしい。聴く限りでは大規模なロマン派交響曲やオーケストラルをカバーできるほどの規模ではなさそうだが、地味ながら相当に鍛えられた基本性能は相応の水準に達しており、音色は野太く粗そうだがブレがなくて好感度が大きい。
(録音評)
Alba ABCD 356、SACDハイブリッド。録音は2012年6月11-15、Gävle Concert Hallとある。プロデュース、エンジニアリング、編集担当はSimon Fox-Fál、SACDミックスダウンはロンドンのClassic Sound Limitedが行ったとある。ピアノはスタインウェイD 587481とある。Dとあるから恐らくコンサートグランドのDシリーズだろう。後ろの6桁の数字は製造番号かもしれない。音質だが、今まであまり経験のないSACDサウンドであり、従来からよくあるDSDとも勿論ハイビットPCMとも異なるこの音質はちょっと異次元だ。背景は恐ろしく静寂であり、ここにふわりとピアノ、そしてオケが重畳されてくる。どこまでもゆとりのあるヘッドルーム、まったくブレのない定位、リニアに奥へと浸透する深い音場空間と、どこをとっても完璧な録音。音色的にはDAD AX24に通じるものがあり、ひょっとするとAX24をDSDモード、あるいはDXDモードで動作させ録ったものかもしれない。オーディオ的にはノルウェーの2Lなどに見られるような目が覚めるほどスーパー・ディテールではないにせよ相当なレベルに到達しているDSD録音のうちの一枚。北欧レーベルの国内輸入は数が少ないが、なにげに超高音質であることも多く、目は離せないのだ。
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