C.Gibbons: Motets Etc.@R.Egarr, Academy of Ancient Music |
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Christopher Gibbons: Motets, anthems, fantasias & voluntaries
Not unto us, O Lord
Organ Voluntarie in C
Above the Stars my Saviour dwells
Fantasy-Suite in D minor
Ah, my Soul, why so dismayed
Organ Voluntary in C
O bone Jesu
A Voluntary for ye Duble Organ in A minor
Fantasia
The Lord said unto my Lord
Verse for the Double Organ in D minor
Fantasy-Suite in F
Philippa Hyde (Sop), Jacqueline Connell (Mezzo-sop),
Charmian Bedford (Sop), Alastair Ross (Org)
Richard Egarr (Org, Cond)
Choir of the AAM & Academy of Ancient Music
クリストファー・ギボンズ(1615-1676):
モテット、アンセム、ファンタジー、ヴォランタリー集(全12曲)
パヴロ・ベズノシウク(Vn)
ロドルフォ・リヒター(Vn)
マーク・レヴィ(Gamb)
リチャード・エガー(指揮、オルガン)、
アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック(AAM)& 合唱団
例によって時間がなく買って来てからずっと積んでいた為体で、聴いたのは最近だ。最初のトラックから落ち着いたコーラスが聴こえて、これは誰の作風か、と訝しんでいる間に短めの楽章で構成される音楽はどんどん進行する。オルガンのソロが訥々と語りかけて来たかと思うとヴィオールが憂愁を誘う調べを奏で、そして独奏ソプラノが二人で掛け合って歌い、そしてまた通常コーラスに戻る、それからオルガン独奏が始まって・・・、と、おおよそ概形が定まっているかの様式で演奏が進むのである。
文字表現は難しいが、ルネサンスからバロック期のよくある旋律の特質はほぼ全て網羅し切っているようで、ヴィオールたちが展開するセピアな独特の旋律、及びバックから小音量でこれら前景を支える中型オルガンの鄙びた音形が、いまだかつて見たこともない英国の辺境の景観を想像させられ、そして得も言われぬ旅情を掻き立たせるのである。こういった、時代考証的な理論ではなく、かつ音の美しさという論拠だけで構築された純朴な音楽は洋の東西、また時代の新旧を超えて共通する感慨を内包しているようで、聴き始めて途中からなぜか涙腺が膨満してくるのを感じるのだ。
ギボンズという人は1615年生まれで1676年没。因みにバッハは1685年生まれで1750年没とされていて、ということはバッハよりも半世紀以上前に生また計算になる。そして音楽的には現代においては広く認められているとは言えない・・・但しビートルズを除いては・・・英国において、なおかつこういった古い時代にこれだけの作品を既に書いていたということは驚嘆を禁じ得ない。ギボンズの父親はオーランド・ギボンズといい、彼もまた高名な音楽家だったそうで、この非凡なるメロディー・メーキングの技は言わば血筋なのかもしれない。
ビートルズはともかくとして、英国ではジョン・ダウランド、トーマス・タリスの作品は僅かだが所有していて何度も聴いたことがある。また、ドイツからの移住組ではあるがヘンデルは殆ど英国の人と言ってもよいだろう。勿論、近代においてはベンジャミン・ブリテンが余りに有名で、それほど多くはない作品のどれもが秀逸なものである。いずれにも共通する傾向としては底抜けの明媚さはなくてどこか翳りがあって、そして闇の部分の描き方が実に巧いのである。
このルネサンスからバロックに至る時期の宗教曲の多くはユニゾンのみで構成される世俗的な歌曲であったのに対し、ギボンズのこの作品たちはポリフォニーを主体とし、なかんずく対位法による重層感に満ちた上下パートが多く、この多元性にはとても驚かされるのだ。どの曲も演奏時間としては3~5分、長くても10分程度で収まる小曲の集まりとして作曲されている。この3~10分程度の対位法主体の室内楽作品と言えば実はバッハの多くの作品がそれに類型化されるものであって、心を虚無にして聴いているとこれはバッハが壮年期から老年にかけて書いた作品と確信させられるほど瞑想的かつ求道的な出来栄えだ。特にオルガン独奏においては基本となる二声のカノンの取り運び方がバッハのオルガン曲、とりわけフーガの技法、あるいは音楽の捧げものに非常に似ていて驚くし、四声ないし六声のフーガ(リチェルカーレ)もまた同様にBWV5XXシリーズ(プレリュードとフーガ、あるいは小フーガ、トッカータとフーガなどの単独曲)と殆ど同じ手法で風景を描き出しているのだ。
これらは、要はバッハに酷似してるが、時代背景的にはギボンズが70年も古いオリジナルであって、その遥か後に生まれて活躍し名声を得たバッハがこれらギボンズ作品を見聞きしていた可能性は概ね高いと推論する。ともあれ、その時代の譜面が残っていて、そして現代においてもその音楽再現と演奏が可能であるということの方が実は驚異とすべきなのかもしれない。デジタル式の情報記録が全盛である現代、数百年を単位とした極めて古い時代の音楽演奏情報=譜面が今も劣化せずに残されているという事実から我々が学ぶべきことは多いと思うのだ。
この演奏自体が巧いのかそうでないのかは分からないが、少なくともバッハ演奏の延長線を年表上で逆に辿った場合には頷ける演奏スタイルでありパフォーマンスなのである。AAMの面々、及び声楽セクションのソリストたちは適度な緊張感をもって抑揚の強いこのギボンズの作品を紡いでいく。率いるエガーの並々ならぬこれら作品への熱意と敬意、ギボンズ作品と対峙しつつ相互で交信するかのような霊感というか空間も時間も超越した対話というか、そういったダイアログを基調とし、技巧的なバックがさりげなくサポートに回るという奥ゆかしいリードを規範としている風なのだ。このギボンズという作家のことはもうちょっとよく知りたい。
(録音評)
Harmonia Mundi USA、HMU807551、SACDハイブリッド。録音は2010年11月、オール・ハロウズ教会、ゴスペル・オーク(ロンドン)とある。古楽系の音楽としてはとても興味深く、そして心に染み入るものであった。その感動を支えているのはHMUのシュアな録音技術とアーティスティックな調音であるのは間違いのないところ。何とも奥ゆかしく、そして限りなく解像度の高い録音は現在のところ世界最高峰と評価しても叱られないだろう。
ところが、この録音は従来のHMUのひたすら高解像な路線とは一線を画しているのだ。どちらかというとアナログ時代を思わせるシルキーで艶めかしくて豊か、しかし極めて静謐で刺激がなくて一見すると情報量が少ないように感じる。しかし、よく聴き込んでみるとディテールが全部見え透くような超絶的な基本性能を備えており、解像度の高さを敢えて隠したかのような制作ポリシーなのだ。いずれにせよHMUのアンサンブル/コーラス/オルガンのジャンルとしては新機軸の音質傾向といえる。
HMUはアンシェントからコンテンポラリーまで広いジャンルを扱うが、声楽や室内楽を基本に据えている。従って、世にいう古典派~ロマン派のポピュラーな作品(モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームス、シューマン、マーラー、ブルックナーらの交響曲など)は殆ど録音していない。そして、録音ヴェニューとしては小規模な古典的コンサートホール、教会の礼拝堂、歴史的な音楽学校の講堂などが選ばれ、数少ない高性能マイクからDSD変換し、空間丸ごとを切り取ったかのような鮮烈な収録が特徴である。ここへきてこの盤は、ニーヴのコンソールとスカーリーの76cmマルチトラック・レコーダーの組み合わせに似たシルキータッチの風合いが感じられ、つまりこれは超高性能アナログレコーダーの音を連想させるものなのだ。この盤は音場空間フェチには堪らない内容となっており、その系統に興味ある人は必聴である。
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