2013年 08月 25日
Debussy: La Mer, Première Suite d'Orchestre@ François-Xavier Roth/Les Siècles |
フランスActes Sudレーベルの新譜で、このところ注目のグザヴィエ・ロト/レ・シエクルによるドビュッシー:ラ・メールと第一組曲から。

http://tower.jp/item/3230811/
Debussy:
・Première Suite d'Orchestre - first recording
Fete
Ballet
Reve
Cortege et Bacchanale
・La Mer
De l'aube a midi sur la mer
Jeux de vagues
Dialogue du vent et de la mer
Les Siècles (on period instruments), François-Xavier Roth
ドビュッシー:
・管弦楽組曲第1番 (1882)【祭/バレエ/夢/行列とバッカナール】
・海~ 3つの交響的スケッチ
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮) レ・シエクル
Actes Sudとは見慣れないレーベルだが、フランスにおける大手出版社らしく、この盤はその音楽出版部門の制作となるようだ。ロトの録音は既に何枚かあるようだが、それ以外にはそんなに多くのラインナップはなさそうだ。単に日本国内に入ってきていないだけなのかもしれないが。
このアルバムのメインディッシュはラ・メール(交響詩・海)であるが、話題性という点においてはPremière Suite d'Orchestre(管弦楽第一組曲)のオケ版の世界初録音ということになるだろう。この作品はドビュッシーが学生時代に書いたとされる初期作品なのだが、手掛かりとなる情報も今まで殆どなく、そして譜面は2008年までは完全に紛失していたのだ。2008年になってようやく草稿が発見されたのであるが第三楽章は依然として見つかっていない。幸運なことにこの第一組曲の縮減版である4手連弾用ピアノ譜は現存していて、Cité de la musique Paris(シテドラムジーク・パリ=一種の音楽博物館でありコンサートホールなども経営)の要請により仏現代音楽作家=フィリップ・マヌリが補筆していた。それがこのほどようやく完成したとのことで、ロト率いるシエクルが世界初録音を敢行したというのがこのCD。
第一組曲であるが、これがドビュッシー作と告げられなければ、恐らくはメンデルスゾーンかシューマンの作品と断定してしまうかもしれないほど素直で明るく、そしてギミックのない音楽に仕上がっている。オーケストレーションとしてはラヴェルのような絢爛豪華さに似通っていながらストラヴィンスキーやプロコフィエフのような立体的かつ浸透力のあるシンプルな効果音も混ざっていてなんとも面白い展開。若い頃からピアノ弾きとしては神童ぶりを見せつけて来ていたが、オーケストレーションについても並々ならぬ才能を持っていたことを如実に裏付けるもので、音楽大学の学生の習作とはとても思えない完成度。但し、フランス印象楽派としての特徴である全音音階や6度音階は全く見られず、従って一種独特の翳りや明滅する妖艶で不可思議な風情は全く感じられない。このことから、ドビュッシーは後にこういった技法を作曲に応用するように変貌を遂げていって得も言われぬ孤高の境地に到達したと言える。この全音音階が全く使われないドビュッシーは、例えばピカソの若年期の、歪曲やデフォルメが一切含まれない非常に精緻なデッサンを見ているような気分であり、これは非常に新鮮。
ラ・メールは聴き慣れた一般的な超有名作品であり、世に録音は非常に多く、また演奏機会も非常に多いドビュッシーの代表作だ。しかし、このロト/シエクルのこの演奏はまさにエポックメーキングな出来栄えで度肝を抜かれた。時には寄せては返す漣(さざなみ)、また時には大きく盛り上がる大海原(うなばら)と荒れ狂う波濤と、その描写力には恐れ入る標題音楽であるが、これほどリアルで細かく細密に描いた演奏はいまだかつて聴いたことがないほど。
ピリオド楽器を使っているというが、現代を代表する現代メーカー製の新品楽器としか思われないほど先鋭的で霊妙な音に満ちている。終楽章=Dialogue du vent et de la mer(風と海との対話)はオケのダイナミックレンジとソノリティ、そしてローレベル分解能が試される難曲だが、シエクルの超高性能が遺憾なく発揮された凄まじいパフォーマンスが聴かれる。
強い風に煽られて盛り上がった波面が落下して炸裂する様子を音で描いたシーンは、どうしてもこの名画を連想してしまう。そしてこのシエクルの演奏の場合、静止画ではなくゆっくりとコマ送りされる動画として脳裏に侵入してくるのであった。

(写真上)
1905年に初出版された時のラ・メールのスコア表紙
葛飾北斎:冨嶽三十六景「神奈川沖波裏」の一部分が使用されていたのは有名な話
(写真下)
神奈川沖波裏の全景
因みに、この絵は現在の横浜市神奈川区台町の沖合から陸地を眺めるように描かれたとされる(場所的には現在の神奈川区青木町あたりと思われるが、埋め立て前の当時は当然に海だった)
(録音評)
仏Actes Sudレーベル、ASM10、通常CD。録音は、第一組曲:2012年2月2日 シテ・ド・ラ・ムジーク(パリ)、ラ・メール:2012年4月13日 聖チェチーリア音楽院(ローマ)(ともにライヴ)とある。音質は超の付く超高音質録音。空間再現性も器楽音のリアルさも定位の自然さも群を抜いて優秀。プレイボタンを押した瞬間、眼前にステージが出現し瞬く間にライブコンサートのアンビエンスに全身を包まれてしまうのだ。
一般書籍の出版を生業とするActes Sud社が自前の録音部門を持っているとも思われないので、当然にどこかの専門レーベルや録音スタジオ、或は録音制作会社に委嘱したものと思われるが、それに類するクレジットは見当たらない。裏表紙には小さくharmonia mundi distributionと表記されているので流通経路は仏ハルモニア・ムンディの販売網を使っているものと思われ、ひょっとすると録音制作もHarmonia Mundiが担当しているのかもしれない。しかし、それにしてはちょっと異質すぎるくらい超高音質である。この音録りのパターンは今まで経験したことはないもの。凄いのひとこと。
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♪ よい音楽を聴きましょう ♫

http://tower.jp/item/3230811/
Debussy:
・Première Suite d'Orchestre - first recording
Fete
Ballet
Reve
Cortege et Bacchanale
・La Mer
De l'aube a midi sur la mer
Jeux de vagues
Dialogue du vent et de la mer
Les Siècles (on period instruments), François-Xavier Roth
ドビュッシー:
・管弦楽組曲第1番 (1882)【祭/バレエ/夢/行列とバッカナール】
・海~ 3つの交響的スケッチ
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮) レ・シエクル
Actes Sudとは見慣れないレーベルだが、フランスにおける大手出版社らしく、この盤はその音楽出版部門の制作となるようだ。ロトの録音は既に何枚かあるようだが、それ以外にはそんなに多くのラインナップはなさそうだ。単に日本国内に入ってきていないだけなのかもしれないが。
このアルバムのメインディッシュはラ・メール(交響詩・海)であるが、話題性という点においてはPremière Suite d'Orchestre(管弦楽第一組曲)のオケ版の世界初録音ということになるだろう。この作品はドビュッシーが学生時代に書いたとされる初期作品なのだが、手掛かりとなる情報も今まで殆どなく、そして譜面は2008年までは完全に紛失していたのだ。2008年になってようやく草稿が発見されたのであるが第三楽章は依然として見つかっていない。幸運なことにこの第一組曲の縮減版である4手連弾用ピアノ譜は現存していて、Cité de la musique Paris(シテドラムジーク・パリ=一種の音楽博物館でありコンサートホールなども経営)の要請により仏現代音楽作家=フィリップ・マヌリが補筆していた。それがこのほどようやく完成したとのことで、ロト率いるシエクルが世界初録音を敢行したというのがこのCD。
第一組曲であるが、これがドビュッシー作と告げられなければ、恐らくはメンデルスゾーンかシューマンの作品と断定してしまうかもしれないほど素直で明るく、そしてギミックのない音楽に仕上がっている。オーケストレーションとしてはラヴェルのような絢爛豪華さに似通っていながらストラヴィンスキーやプロコフィエフのような立体的かつ浸透力のあるシンプルな効果音も混ざっていてなんとも面白い展開。若い頃からピアノ弾きとしては神童ぶりを見せつけて来ていたが、オーケストレーションについても並々ならぬ才能を持っていたことを如実に裏付けるもので、音楽大学の学生の習作とはとても思えない完成度。但し、フランス印象楽派としての特徴である全音音階や6度音階は全く見られず、従って一種独特の翳りや明滅する妖艶で不可思議な風情は全く感じられない。このことから、ドビュッシーは後にこういった技法を作曲に応用するように変貌を遂げていって得も言われぬ孤高の境地に到達したと言える。この全音音階が全く使われないドビュッシーは、例えばピカソの若年期の、歪曲やデフォルメが一切含まれない非常に精緻なデッサンを見ているような気分であり、これは非常に新鮮。
ラ・メールは聴き慣れた一般的な超有名作品であり、世に録音は非常に多く、また演奏機会も非常に多いドビュッシーの代表作だ。しかし、このロト/シエクルのこの演奏はまさにエポックメーキングな出来栄えで度肝を抜かれた。時には寄せては返す漣(さざなみ)、また時には大きく盛り上がる大海原(うなばら)と荒れ狂う波濤と、その描写力には恐れ入る標題音楽であるが、これほどリアルで細かく細密に描いた演奏はいまだかつて聴いたことがないほど。

強い風に煽られて盛り上がった波面が落下して炸裂する様子を音で描いたシーンは、どうしてもこの名画を連想してしまう。そしてこのシエクルの演奏の場合、静止画ではなくゆっくりとコマ送りされる動画として脳裏に侵入してくるのであった。

(写真上)
1905年に初出版された時のラ・メールのスコア表紙
葛飾北斎:冨嶽三十六景「神奈川沖波裏」の一部分が使用されていたのは有名な話
(写真下)
神奈川沖波裏の全景
因みに、この絵は現在の横浜市神奈川区台町の沖合から陸地を眺めるように描かれたとされる(場所的には現在の神奈川区青木町あたりと思われるが、埋め立て前の当時は当然に海だった)
(録音評)
仏Actes Sudレーベル、ASM10、通常CD。録音は、第一組曲:2012年2月2日 シテ・ド・ラ・ムジーク(パリ)、ラ・メール:2012年4月13日 聖チェチーリア音楽院(ローマ)(ともにライヴ)とある。音質は超の付く超高音質録音。空間再現性も器楽音のリアルさも定位の自然さも群を抜いて優秀。プレイボタンを押した瞬間、眼前にステージが出現し瞬く間にライブコンサートのアンビエンスに全身を包まれてしまうのだ。
一般書籍の出版を生業とするActes Sud社が自前の録音部門を持っているとも思われないので、当然にどこかの専門レーベルや録音スタジオ、或は録音制作会社に委嘱したものと思われるが、それに類するクレジットは見当たらない。裏表紙には小さくharmonia mundi distributionと表記されているので流通経路は仏ハルモニア・ムンディの販売網を使っているものと思われ、ひょっとすると録音制作もHarmonia Mundiが担当しているのかもしれない。しかし、それにしてはちょっと異質すぎるくらい超高音質である。この音録りのパターンは今まで経験したことはないもの。凄いのひとこと。

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by primex64
| 2013-08-25 21:49
| Orchestral
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