Liszt: P-Sonata, Schumann: Carnaval Etc@Sophie Pacini |
http://tower.jp/item/3167073/
Sophie Pacini plays Schumann & Liszt
Schumann: Carnaval, Op.9
Preambule. Quasi maestoso
Pierrot. Moderato
Arlequin. Vivo
Valse noble. Un poco maestoso
Eusebius. Adagio
Florestan. Passionato
Coquette. Vivo
Replique. L'istesso tempo (Sphinxes)
Papillons. Prestissimo
A.S.C.H.-S.C.H.A. (Lettres dansantes). Presto
Chiarina. Passionato
Chopin. Agitato
Estrella. Con affeto
Reconnaissance. Animato
Pantalon et Colombine. Presto
Valse allemande. Moto vivace
Paganini. Presto
Aveu. Passionato
Promenade. Con moto
Pause. Vivo
Marche des 'Davidsbundler' contre les Philistins. Non allegro - Molto piu vivo - An
Schumann: Intermezzi (6), Op.4
Allegro quasi maestoso
Presto e capriccioso
Allegro marcato
Allegretto semplice
Allegro moderato
Allegro
Liszt: Piano Sonata in B minor, S178
Lento assai - Allegro energico - Grandioso
Allegro energico - Andante sostenuto
Allegro energico - Piu mosso
Stretta (quasi Presto) - Prestissimo - Andante sostenuto
Sophie Pacini (Pf)
シューマン:
謝肉祭op.9
6つの間奏曲op.4
リスト:
ピアノ・ソナタ ロ短調
ソフィー・パチーニ (Pf)
またまたセンセーショナルなセールストークで飾られた新進ピアニストの登場。若き天才○○、○○の貴公子、○○が絶賛、○○の再来・・など、こういった余りに派手なキャッチ・コピーを冠される人に限って期待外れであることも多くて、実際には自分の耳で確かめるほか方法はない。以下、キングインターのコメントを引用:
アルゲリッチも認めたドイツの新星!
ソフィー・パチーニによる圧巻のシューマン&リスト
かのアルゲリッチが「まさに若い頃の自分を思い出すよう!」と絶賛したことで、世界から一躍注目を集めたドイツの麗しき新星ソフィー・パチーニが、C Aviレーベルから待望の新盤をリリースしました! ピアノ協奏曲はこれまでにもいくつかリリースしてきたパチーニですが、独奏曲を収録したものとしてはこのCDが記念すべき1stアルバムとなります!注目必至の収録内容は、シューマン&リストというプログラム。リストのピアノ・ソナタロ短調は2012年3月の来日リサイタルでも演奏され、絶賛を浴びたばかりなだけに期待も高まりましょう!アルゲリッチからもお墨付きの演奏技術は文句なしの素晴らしさですが、やや大柄な体から繰り出される力強い表現力と、構成力に優れた理知的な演奏もパチーニの大きな魅力。早咲きの才能と内に秘めた可能性の大きさは確かにアルゲリッチの若き頃を思い出すようですが、その演奏スタイルはむしろ落ち着きのある正統派寄りといえるかもしれません。とはいえ、パチーニは未だ21歳(2012年現在)。今はまだ大粒の原石ともいえる彼女が、これからどのように磨き抜かれていくのか…今後の活動からも目が離せない、注目必至のアーティストといえましょう!
ソフィー・パチーニは1991年、ミュンヘン生まれのピアニスト。わずか10歳でザルツブルクのモーツァルテウム音楽院に入学を認められ、ケマーリンクに師事した早熟の若手実力派です。2000年よりソリストとして活動を開始し、2004年には最も才ある音楽家に贈られるレオポルト・モーツァルト賞を獲得しました。その後も数々の賞に輝いたことに加え、2010年にマルタ・アルゲリッチから称賛されたことで更なる注目を集めます。2011年にはルガーノでのアルゲリッチ音楽祭にも出演。2012年3月に武蔵野でソロ・リサイタルを開催。同年4月には東京フィルハーモニー交響楽団の定期公演でシューマンのピアノ協奏曲を演奏し、日本においても高い注目を浴びる屈指の若手実力派です。
キングインターナショナル
アルゲリッチが絶賛した、というのは実際には以下のような出来事を言っているらしい。
After a chance meeting in a hotel in Italy, pianist Sophie Pacini has become firm friends and concert partner with Martha Argerich who has said of her performance style: “You very much remind me of myself.”
若い頃からアルゲリッチを尊敬し憧れ、その演奏スタイルや技巧を目指して鍛錬してきたソフィーは、たまたま演奏旅行でイタリアに逗留しているときアルゲリッチもまた来ていることを知り、彼女が投宿していたホテルに押しかけて面談を申込み、そして自らの演奏を聴かせることにも成功した。最初は乗り気でなかったアルゲリッチだが、次第にソフィーの熱気溢れる演奏に引き込まれて傾聴し、そして“You very much remind me of myself.”=若い頃の自分を思い出すよう と述べたという逸話。これを機にアルゲリッチとの親交を確立したソフィーは様々なオポチュニティを得て一気呵成に世界の大舞台へと進出していったという武勇伝なのだ。
そんなこんなの予備知識をある程度得たうえでこの盤に静かに針を降ろした。私が大好きなシューマン謝肉祭の1曲目で既にノックアウトされてしまった。これを驚天動地と言わずして何と表現すべきか。適切な言葉は見つからない。1991年生まれというから今年で22歳ということだが、この衝撃はあのリーズを発見した時とほぼ同じレベルの深いものであり、昨今ではカティア・ブニアティシヴィリのインパクトも非常に大きかったのであるが、それを軽く凌いで余りあるものがある。暫し放心状態で、眼前を軽いタッチで高速に流れ行くシューマンのメロディーを眩しい思いで眺めていることしかできなかった。そして、マイナーだがこれまた私好みのインテルメッツォがまたまた良い出来栄えなのだ。これで終わりになっても十分に満足・満腹なのだが、なんと最後にリストのロ短調ソナタが入っているという。
これ以上なにをどう聴けばよいのだろうか、という矢先に不気味な最遅のテンポで低音弦スケールが鳴り始め、ロ短調ソナタがスタートしてしまった。最初の一音でまたまた2度目のノックアウト。ソフィーの特徴を端的に整理するとこうだ。つまり、尋常ならざる超絶技巧の持ち主であり指回りが異常に速いこと、これによって作家が譜面の裏側に込めたエレメントまでをも詳らかにトレースしていること、情感の表出はそれほど強くはないけれども要所での聴かせどころが分かっていて、かつその捉え方・検知の仕方に天性のものがあると言わざるを得ないこと、パッセージが遅くても速くても音の生成が極めてスムーズ・自然であって混変調歪やジッター、ノイズがほぼ皆無なこと・・。
ロ短調ソナタにおいてはこのところ新世代の優秀録音が相次いで出現しているけれども、それぞれに強点・弱点があって総合的にはいずれも良い演奏だ。ソフィーのこれに関しては、例えばアルゲリッチの若い頃のロ短調ソナタに比べても技巧的には同等あるいは優れていて、そういった点においては若い頃の尖がったアルゲリッチを彷彿とさせられるものがあるのは事実で、あちこちで誇張気味に言われていることはあながち間違いではない。しかし、違う点も多く、例えば突出したエキセントリックさはなく、肩肘を張らないフランクで大胆な演奏設計、全体構図であること。終始にわたり超高速演奏となっているにも拘らず荒っぽい個所はなく、また妙に突っかかったりどこかを必要以上に強調したりという箇所も殆どない。ある意味、アルゲリッチの若い頃の演奏を高純度に研ぎ澄まし、一切の夾雑物を取り除いたかの演奏だ、と言っておこう。キングインターのコメントは的を射た実に適正な内容であり、まさにおっしゃる通りだ。このコメントを書いた人の聴感と見識の確かさ、今までのピアノ演奏評に係る経験の深さを思い知らされる。
ここのところMusicArenaで取り上げた幾つかのロ短調ソナタと簡単に比較試聴してみた。
レスチェンコのロ短調は勢いがあって力強く、中庸のテンポでもって緊迫感が最初から最後まで持続する非常に大規模な構造体を形成する優れた解釈・演奏で、どちらかというと暖色系の熱気を帯びた演奏。今聞くと、レスチェンコのテンペラメンタルな弾き方の方が若い頃のアルゲリッチに似ている。
ブニアティシヴィリのロ短調は勢いはあるけれどもテンポが速めでどちらかというと温度感を抑えた寒色系のクールな演奏。全体構図としては透明度の高いすっきりとした中規模なものだが特有の強調感が随所に散らされていてかなり技巧的でエキセントリックかつ瞑想的な演奏となっている。
メジューエワのロ短調は静謐で穏健かと思いきや、中々に骨太の大胆構図であり、循環形式をきっちり踏まえた理論的で明晰なストーリーを持った演奏設計だ。テンポが遅く聴こえてしまうためにエキセントリック感は後退しているが、その代り一音一音の純度が高く、また音数が非常に多くて普通の演奏の1.5倍ほどの量の音符が見え透くというもの。
ソフィーのロ短調は温度感ではブニアティシヴィリに近いクール・カラー、スケールのトレースなど技巧面での綺麗な音作り、および循環形式を意識した主題の承継方法等はメジューエワのそれに近しいものといえようか。そして、ダイナミックレンジの広さとヘッドルーム(音の飽和点から最大音圧までの間)のマージンは現代トップクラスであり、例えば最低音域弦をこれ以上大きな音で鳴らせるのかと思われるほどの強い打鍵だが和声は破綻なくリニアに吹け上がっていく。そんな最大音圧にして歪感が皆無であり混変調で同時打鍵の他の音がマスクされたり曇ったりということが一切ないのが凄いところで、これはレスチェンコの有する最大音圧に比肩するが、混変調の少なさではソフィーに軍配だ。そういえばレスチェンコもブニアティシヴィリもアルゲリッチがお気に入りであったがこのソフィーもまたその仲間に加わったわけで、このところアルゲリッチは超有望女流の発掘に余念がないといった感じだ。
このところ女流の超優秀ピアニストが多く台頭してきていていずれの演奏も素晴らしいのであるが、このソフィー・パチーニという気鋭のピアニストがここにきて世界の舞台へと参画してきた意義は大きい。
(録音評)
Avi Music 8553269、通常CD。録音は2012年11月、Deutschlandfunk Kammermusiksaalとある。Aviと言えば、ちょっと前に聴いたエフゲニア・ルビノヴァのラフマニノフの録音も優秀だったが、この録音は新しいだけに更に素晴らしいものがあって、引き締まったLPCM系にしてハイビット・ハイサンプリング系の柔らかい肌触りも兼ね備えており、加えて、どこまでも深く透過的に展開する音場が素晴らしい。そしてピアノの音の美しさが少々細身ながら際立っている。ピアノ録音としては太いボディ質感を表現した若林工房の音と対極をなすが、これはこれでAviの理知的な美学が貫かれた録音といえる。クォリティ的にはSACDハイブリットと言われても区別がつかないくらいの超優秀音質である。
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