Brahms: Quintets Op.34 & 115@J.Manasse,J.Nakamatsu/Tokyo SQ |
http://tower.jp/item/3153336/
Brahms: Quintets Op.34 & 115
Clarinet Quintet in B minor, Op.115
Piano Quintet in F minor, Op.34
Jon Manasse (Cl)
Jon Nakamatsu (Pf)
Tokyo String Quartet
- Martin Beaver(1Vn), Kikuei Ikeda(2Vn),
Kazuhide Isomura(Va), Clive Greensmith(Vc)
ブラームス:
クラリネット五重奏曲 ロ短調op.115
ピアノ五重奏曲 ヘ短調op.34
ジョン・マナシー(Cl)
ジョン・ナカマツ(Pf)
東京クヮルテット
マーティン・ビーヴァー(Vn)、池田菊衛(Vn)、
磯村和英(Va)、クライヴ・グリーンスミス(Vc)
東京SQの成り立ちについてはあまりに有名なのでここでは語らない(Wiki等を参照のこと)。メンバーを交代させながら、とにもかくにも長い道程を歩んできた超一流の室内アンサンブルであった。私がこちらの大学に入学した頃には既にNHK-FMでルツェルン音楽祭だかのライブが放送されていてその名は知っていた。就職したころには上野の小ホールにたまに来ていて、思いのほか安いので何回か聴きに行っていたことが思い出される。重層感に満ちた、そして音量が破格に大きな本格的なSQであり、そして気鋭のゲスト・ソリストを加えた定番のクインテットは非常に楽しいものであった。弦楽アンサンブルとは、楽器の数が少ないにもかかわらず音が非常に通るものだと長く信じていた(実際にはそんなことはなくて、音が小さな虚弱なアンサンブルが太宗を占めるということは後日思い知る)。
創始メンバーは斎藤秀雄門下のジュリアード音楽院留学組の日本人Vn奏者=原田禎夫はじめ4名で構成されていたことから東京SQと名付けられていたのだが、結局は彼らの生活拠点はNYはじめ東海岸に留まることとなったことからその後の日本公演は当初ほどは多くはならなかった。日本人創始メンバーやその後の代のメンバーも居を日本に移した人はいなかったと記憶する。創始メンバーで残っているのは磯村和英だけで、彼がリタイアを申し出たことで結局は東京SQの存続が困難となってしまった。しかし、頂点を極めつつ(というか東京SQが下降線をたどったという印象は全くない)、そして惜しまれつつ終いとするのは正解だとも思うのだ。
さて、このSACDハイブリッドだが、Harmonia Mundi USAの録音であり音質的には世界最高レベルに数えて間違いはない。内容的にもここ数年のうちの集大成と言ってよい内容だし、これで彼らの聴き納めと思うと感慨もひとしおだ。プログラムはCl五重奏曲とP五重奏曲というブラームスの真骨頂のうちの二つで、非の打ちどころのない演奏となっている。
若いマナシーが老獪な東京SQの面々とどう渡り合ってClを吹いているのかは気になるところだったが、それは杞憂であった。結論から言うと極上のコラボレーションが成立していて、ビーヴァーや池田はじめSQの暖かいサポートと掛け合いの妙が気持ち良いアンサンブルを構築せしめている。Clがここまでの可能性を持った優れた木管楽器であることを改めて認識させられた。ここでのClは、暖かくも時に鋭くそしてある時にはFg並みの太い低域も響かせ、そしてFlやピッコロ、もしかするとObに類似した澄んで涼しい音色も出す、まさに七変化なのだ。ブラームスのこの時期の作品ゆえ枯れてい激しさもないのだが、この一種侘びた世界が縦横に広がるブラームス晩年の独特の作品を、これまた枯れた境地で淡々と弾き切るSQの面々とマナシーのシンパシーが素晴らしいのひとことだ。
PクインテットはPfをナカマツが担当する。彼が操るヴィンテージのPfは基底は仄暗くそして重厚そうだが、実際にはタッチが素早く軽快だ。弾き方そのものが重苦しいのではなくて曲想がそうさせるのだ。一楽章の第一主題が特に重くて激しく暗い感じ。これに合わせるべくVcのごりごりとした音域をクライヴがPfに負けずにしっかりと支えている。そこに乗っかる格好で池田とビーヴァーの啜り泣くVnが相乗効果を発揮し、実に暗鬱なこの期のブラームスの本質ともいえる負のエナジー感を抉り出していくのだ。軽妙な前半のClクインテットとはまるで違う激しさ&ドロッとした憂愁を紡いでいく。勿論、途中で幾度か明転する場面では飛翔感を伴うハイスピードで低湿度の和声が気持ちよく放散され、陰鬱なパートとの対比はまるで梅雨空とその中休みの落差に似たところがある。このブラームスの作品がここまで明晰に芯を突く、そして明暗と硬軟をうまく出し入れする演奏で聴かされるのは久しぶりという感じ。まるでライブのコンサートを聴いている風情だ。最終楽章のエナジー感は得も言われぬものがあって、アップテンポで歩を進める旋律の上下動が一種のトランス状態を作り出すことに成功している。
我々は超一流のこの楽団を今月失うこととなリ、これは非常に残念なこと。東京の名を引き継ぎたいという若手が現れてほしいところなのだが、それとてもままならないのであろう。
(録音評)
Harmonia Mundi USA、HMU807558、SACDハイブリッド。録音は2011年11月、ソウダー・コンサートホール(アメリカ)とある。このSACDは最初うまく鳴らなかった。Pさん邸のオフ会にも持ち込んだがやはり予期した音ではなかった。Pさんからは例えばHarmonia Mundi USAの過去の高解像度録音SACDをいくつかかけてバーンインすると効果的であることを教えてもらい、自宅に帰って同等の学習処理を施した。こうするとプラセボ効果なのか、なんだか改善された気にはなってくるが、じつはよくよく聴いてみると当初の破綻形質は消えておらずやっぱり厳しい再生状況であることが分かった。
ある日、別のCDを聴いているときに右側スピーカーの高音域にある種の歪感を感じた。プリ→パワー間のラインケーブルを指で触ると音が微妙に変化する。これは接触がよろしくない状況と判断し、結線をいったん外して左右ともに接点を確認。目視では特段の劣化は認められなかったが念のためメラミンフォームを使ってちょっとだけ磨いたりして元に戻した。どうせならとSPケーブル等も確認し締め直したりした。そうしたところ、このSACDはまるで別物のようにヴィヴィッドに鳴りはじめた。仄暗く奥行きが深い音場が展開され、Pfを除く各パートがピンポイントで定位する。なお、Pfは奥まった位置から拡散気味に定位するように音像設計しているらしく、SQの各パートを包み込むようなサラウンド系の音作りが施されている。これはこれで生ステージと同じ聴こえ方の設定なので非常に頷ける録り方。このSACDは音質的には地味だが、実は非常に音が良い。但し再生は難しいと思料される。
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