2013年 06月 01日
Lise de la Salle Recital@Kioi Hall |
今週月曜、これで最後となるProject 3×3のリーズのリサイタル。場所は昨年と同じ紀尾井ホール。
月曜は私にとっては微妙な日程で、夕刻に週次会議が設定されていて抜けられず、会場へは駆け込みとなる。加えて翌火曜の早朝は毎週重要な会議があって出勤が早いため急いで帰って寝たいところ。
Ravel: Miroirs
Noctuelles
Oiseaux tristes
Une barque sur l'océan
Alborada del gracioso
La vallée des cloches
Debussy: Preludes Book1 & 2
Les sons et les parfums tournent dans l'air du soir
Les fees sont d'exquises danseuses
Voiles → Danseuses de Delphes
Feux d'artifice → La danse de Puck
La fille aux cheveux de lin
Ce qu'a vu le vent d'Ouest
--- 20 minutes break ---
Prokofiev: Romeo and Juliet, Ten Pieces for Piano, Op.75
Folk Dance
Scene: The Street Awakens
Minuet: Arrival of the Guests
Juliet as a Young Girl
Masquers
Montagues and Capulets
Friar Laurence
Mercutio
Dance of the Girls with Lilies
Romeo and Juliet before Parting
--- encore ---
Liszt: Liebeslied S 566 (Schumann: Widmung)
Chopin: Nocturne in e Minor op.72-1
Rachmaninov: Prelude Op.23 No. 7
Lisé de la Salle (Pf)
May,27 2013 @Kioi Hall, Tokyo, Japan
ラヴェル:鏡
蛾
悲しい鳥たち
海原の小舟
道化師の朝の歌
鐘の谷
ドビュッシー: 前奏曲集(第1集、第2集より抜粋)
音と香りは夕べの大気の中に漂う(Book1-4)
妖精たちはあでやかな舞姫(Book2-4)
帆(Book1-2) →(変更)デルフィの舞姫(Book1-1)
花火(Book2-12) →(変更)パックの躍り(Book1-11)
亜麻色の髪の乙女(Book1-8)
西風の見たもの(Book1-7)
--- 休憩 20分 ---
プロコフィエフ:バレエ「ロメオとジュリエット」ピアノ向け10の小品 Op.75
民衆の踊り
情景:街の目覚め
メヌエット:客人たちの到着
少女ジュリエット
仮面
モンタギュー家とキャピュレット家
僧ロレンツォ
マーキュシオ
百合の花を手にした娘たちの踊り
ロメオとジュリエットの別れ
--- アンコール ---
シューマン/リスト編: 愛の歌「献呈」S566
ショパン: ノクターン 第19番 ホ短調 作品72-1
ラフマニノフ: 前奏曲 ハ短調 作品23-7
リーズ・ドゥ・ラ・サール(ピアノ)
2013年5月27日 東京 紀尾井ホール
今年も時間的にはかなり逼迫した。会社正門前からタクシーを拾ったとき、時計は18:30を回っていた。新一の橋交差点が渋滞しており、冒頭プログラムは諦めざるをえないか・・、と思っていたがアークヒルズ前からATT脇、溜池交差点を迂回して山王下へ抜ける斜めの道が思いのほか順調で、弁慶橋を通過するまで10分強で済んだ計算。開演時刻まで15分ほど残しタクシーはニューオータニ前に滑り込んだ。紀尾井ホールに入って席に向かうとき、ロビーでPさんにお会いした。kenjiさん夫妻もおいでになっているはずという。
今回はチケットを取るのに出遅れたため一階席後方となり、二階席の庇の迫り出しが近くて音響的にはあまり良好とは言えなかったが、それでもそんなに悪くはなかった。去年のリサイタルでは、ピアノの調律がおかしくて前半のシューマン:子供の情景が悲惨な状況であったが、今回は初っ端から万全であった。前半はブリリアンスが強めの散乱気味の調律となっていて、リスト/ドビュッシーにマッチするようなフレーバーを目指したものと考えられた。特にドビュッシーの6音音階に特化したような明るく膨張するチューンはなかなか秀逸。
出だし、ラヴェルの鏡:蛾ではリーズの指が上滑りしている感じであったが2曲目に入るとがっちりとグリップが効いてきて音量も一気に増加した。そこからはタッチと体重の乗りが安定しており、重厚な低域弦に重畳されるシュアな中高域弦がホール全体に冴えわたっていた。息を呑むような写実性と広大なダイナミックレンジ、そして煌びやかに揺らぐ色彩感が白眉な「海原の小舟」で一つの頂点を作り、そしてその高いテンションのまま「道化師の朝の歌」へと突き進む。
このアラベスク風の旋律、それを支える弱起→シンコペーテッドな伴奏部を繰り返す左手分散和音の正確な刻みに今のリーズの充実ぶりが凝縮されていた。紀尾井ホールのスタインウェイがボディごと悲鳴を上げる。リーズの基礎体力/腕力は年々増してきており、当然にその打力は昨年を大幅に上回っている。このピアノ/ステージ/ホールの基本性能では混変調が目立ってサチュレート気味なのだ。これくらいの音量と音数であるならばオケ版に勝るとも劣らない出来栄え。一気呵成に弾き終えた途端、なぜかここで拍手が。もう一曲残しているのだが。リーズは一瞬苦笑しつつ最後の鐘の谷へと神経を再度集中する。ラベルのこの締めは割と静謐で観念的、幻想的な曲で、弱音部コントロールが難しいのだが、ここでは純音を丁寧、大らかに紡いで大きな最後の山を築いた。ここでいったん小休止。
そして個人的には非常に好きなドビュッシーのプレリュード集からの抜粋。もうちょっとたくさん弾いてくれると嬉しかった。場合によってはラヴェルの鏡を外して更に5曲ほど足して合計10曲くらいエントリーされていたなら個人的にはベストだったが。直前の入れ替えでうち2曲変更となったが、個人的にはアクロバティックな花火は聴いてみたかった。しかし、入れ替え後のパックの踊りも楽しくて優劣つけがたいところ。リーズのドビュッシーは、恐らくはこんな風に弾かれていくんだろうと想像をしていた部分があっただけに、それを目の当たりにできてとても有意義だった。結論から言うと、考えていたよりもずっと濃密でたおやか、それでいて色んなインパクトが詰まった隈取の太い、かつ繊細でもあるドビュッシーだった。つまり、ガラスを砕いて飛散させたようなきらきらとしたブリリアンスと、重厚感のある=つまりドスの効いた=中低域の強打鍵が両立していて、しかも彼女の独特の大振りのアゴーギクは嫌味にならずに更に磨きがかかっていた。
ブレークを挟んだプロコだが、調律を変えていて前半とはまるで趣が異なった響きを演出していた。散乱するブリリアンスを徹底的に削ぎ落とした純粋正弦波を基調としたチューニングとなっていたのだ。これは元々スタッカート系で不協和音成分の多いプロコのロミジュリ向けに特化した味付けであり中々に気の利いた調律と思った。この曲を前半と同じ調律で鳴らすと高調波歪がワンワンと強く唸って不快となるところ、元々の楽曲に潜む歪成分をあらかじめ想定したうえで最終的に出てくる音に含まれる混変調歪の総量を制御したふしがあるのだ。この純粋正弦波を目指した調律が奏功してか、最低域弦の透過性が際立っていて極低音の風が吹いてくるのだ。この超低音域のブロードな伸びは前半では聴き取れなかったもの。
ロミジュリは、モーツァルト&プロコを収めた若いころのCDに同一曲が入っているが、今回のリサイタルの演奏はまるで別物のように激しく強く躍動する内容であり、数年とはいえリーズの成長と変化ぶりが如実に聴き取れて興味深いものだった。音楽の表現能力において彼女はここ数年着実に成長してきており、そして、若手の中では随一ともいえるプレゼンス、いや、ワンアンドオンリーの語法を獲得していたのであった。
所定のプログラムが阿鼻叫喚のうちに終わったが拍手が鳴りやむことはなかった。リーズは合計三曲、どれもそこそこ有名で昨今他のピアニストたちもアンコール向けに好んで使い始めている曲を弾いた。愛の歌・献呈は過去にCD録音もあってリーズの得意中の得意なのだが、ショパンのノクターンのうちマイナーなOp.72-1が実にマニアックで好感度が大きかった。ちょっと意外で、またまた新しい魅力を聴かされたのが最後のラフだった。次にリリースしてくるCDはラフの音の絵(絵画的練習曲集)、ソナタ集、前奏曲集のいずれかではなかろうか※、との想像を掻き立てられるほど強いインスピレーションを再度与えてくれる秀演であった。(しかし、流れから行くと順当なところとしてはラヴェルあるいはドビュッシーだとは思う)
結局、ブレークを挟んで3時間に迫る演奏を終え、リサイタルは終了。直後からロビーに出てサイン会を淡々とこなしていた。リーズはこれから先どこまで成長するのであろうか。一つ断言できるのは、フランスのこの世代を代表する名ピアニストになるであろうこと。そして齢を重ねた先には、ケフェレックや故エンゲラーのようなインプレッシブで滋味深いピアノを弾くベテラン名手の姿が重なって見えるのだった。
Photos: Copyright(c) 2013 P-san
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♪ よい音楽を聴きましょう ♫
月曜は私にとっては微妙な日程で、夕刻に週次会議が設定されていて抜けられず、会場へは駆け込みとなる。加えて翌火曜の早朝は毎週重要な会議があって出勤が早いため急いで帰って寝たいところ。
Ravel: Miroirs
Noctuelles
Oiseaux tristes
Une barque sur l'océan
Alborada del gracioso
La vallée des cloches
Debussy: Preludes Book1 & 2
Les sons et les parfums tournent dans l'air du soir
Les fees sont d'exquises danseuses
La fille aux cheveux de lin
Ce qu'a vu le vent d'Ouest
--- 20 minutes break ---
Prokofiev: Romeo and Juliet, Ten Pieces for Piano, Op.75
Folk Dance
Scene: The Street Awakens
Minuet: Arrival of the Guests
Juliet as a Young Girl
Masquers
Montagues and Capulets
Friar Laurence
Mercutio
Dance of the Girls with Lilies
Romeo and Juliet before Parting
--- encore ---
Liszt: Liebeslied S 566 (Schumann: Widmung)
Chopin: Nocturne in e Minor op.72-1
Rachmaninov: Prelude Op.23 No. 7
Lisé de la Salle (Pf)
May,27 2013 @Kioi Hall, Tokyo, Japan
ラヴェル:鏡
蛾
悲しい鳥たち
海原の小舟
道化師の朝の歌
鐘の谷
ドビュッシー: 前奏曲集(第1集、第2集より抜粋)
音と香りは夕べの大気の中に漂う(Book1-4)
妖精たちはあでやかな舞姫(Book2-4)
亜麻色の髪の乙女(Book1-8)
西風の見たもの(Book1-7)
--- 休憩 20分 ---
プロコフィエフ:バレエ「ロメオとジュリエット」ピアノ向け10の小品 Op.75
民衆の踊り
情景:街の目覚め
メヌエット:客人たちの到着
少女ジュリエット
仮面
モンタギュー家とキャピュレット家
僧ロレンツォ
マーキュシオ
百合の花を手にした娘たちの踊り
ロメオとジュリエットの別れ
--- アンコール ---
シューマン/リスト編: 愛の歌「献呈」S566
ショパン: ノクターン 第19番 ホ短調 作品72-1
ラフマニノフ: 前奏曲 ハ短調 作品23-7
リーズ・ドゥ・ラ・サール(ピアノ)
2013年5月27日 東京 紀尾井ホール
今年も時間的にはかなり逼迫した。会社正門前からタクシーを拾ったとき、時計は18:30を回っていた。新一の橋交差点が渋滞しており、冒頭プログラムは諦めざるをえないか・・、と思っていたがアークヒルズ前からATT脇、溜池交差点を迂回して山王下へ抜ける斜めの道が思いのほか順調で、弁慶橋を通過するまで10分強で済んだ計算。開演時刻まで15分ほど残しタクシーはニューオータニ前に滑り込んだ。紀尾井ホールに入って席に向かうとき、ロビーでPさんにお会いした。kenjiさん夫妻もおいでになっているはずという。
今回はチケットを取るのに出遅れたため一階席後方となり、二階席の庇の迫り出しが近くて音響的にはあまり良好とは言えなかったが、それでもそんなに悪くはなかった。去年のリサイタルでは、ピアノの調律がおかしくて前半のシューマン:子供の情景が悲惨な状況であったが、今回は初っ端から万全であった。前半はブリリアンスが強めの散乱気味の調律となっていて、リスト/ドビュッシーにマッチするようなフレーバーを目指したものと考えられた。特にドビュッシーの6音音階に特化したような明るく膨張するチューンはなかなか秀逸。
出だし、ラヴェルの鏡:蛾ではリーズの指が上滑りしている感じであったが2曲目に入るとがっちりとグリップが効いてきて音量も一気に増加した。そこからはタッチと体重の乗りが安定しており、重厚な低域弦に重畳されるシュアな中高域弦がホール全体に冴えわたっていた。息を呑むような写実性と広大なダイナミックレンジ、そして煌びやかに揺らぐ色彩感が白眉な「海原の小舟」で一つの頂点を作り、そしてその高いテンションのまま「道化師の朝の歌」へと突き進む。
このアラベスク風の旋律、それを支える弱起→シンコペーテッドな伴奏部を繰り返す左手分散和音の正確な刻みに今のリーズの充実ぶりが凝縮されていた。紀尾井ホールのスタインウェイがボディごと悲鳴を上げる。リーズの基礎体力/腕力は年々増してきており、当然にその打力は昨年を大幅に上回っている。このピアノ/ステージ/ホールの基本性能では混変調が目立ってサチュレート気味なのだ。これくらいの音量と音数であるならばオケ版に勝るとも劣らない出来栄え。一気呵成に弾き終えた途端、なぜかここで拍手が。もう一曲残しているのだが。リーズは一瞬苦笑しつつ最後の鐘の谷へと神経を再度集中する。ラベルのこの締めは割と静謐で観念的、幻想的な曲で、弱音部コントロールが難しいのだが、ここでは純音を丁寧、大らかに紡いで大きな最後の山を築いた。ここでいったん小休止。
そして個人的には非常に好きなドビュッシーのプレリュード集からの抜粋。もうちょっとたくさん弾いてくれると嬉しかった。場合によってはラヴェルの鏡を外して更に5曲ほど足して合計10曲くらいエントリーされていたなら個人的にはベストだったが。直前の入れ替えでうち2曲変更となったが、個人的にはアクロバティックな花火は聴いてみたかった。しかし、入れ替え後のパックの踊りも楽しくて優劣つけがたいところ。リーズのドビュッシーは、恐らくはこんな風に弾かれていくんだろうと想像をしていた部分があっただけに、それを目の当たりにできてとても有意義だった。結論から言うと、考えていたよりもずっと濃密でたおやか、それでいて色んなインパクトが詰まった隈取の太い、かつ繊細でもあるドビュッシーだった。つまり、ガラスを砕いて飛散させたようなきらきらとしたブリリアンスと、重厚感のある=つまりドスの効いた=中低域の強打鍵が両立していて、しかも彼女の独特の大振りのアゴーギクは嫌味にならずに更に磨きがかかっていた。
ブレークを挟んだプロコだが、調律を変えていて前半とはまるで趣が異なった響きを演出していた。散乱するブリリアンスを徹底的に削ぎ落とした純粋正弦波を基調としたチューニングとなっていたのだ。これは元々スタッカート系で不協和音成分の多いプロコのロミジュリ向けに特化した味付けであり中々に気の利いた調律と思った。この曲を前半と同じ調律で鳴らすと高調波歪がワンワンと強く唸って不快となるところ、元々の楽曲に潜む歪成分をあらかじめ想定したうえで最終的に出てくる音に含まれる混変調歪の総量を制御したふしがあるのだ。この純粋正弦波を目指した調律が奏功してか、最低域弦の透過性が際立っていて極低音の風が吹いてくるのだ。この超低音域のブロードな伸びは前半では聴き取れなかったもの。
ロミジュリは、モーツァルト&プロコを収めた若いころのCDに同一曲が入っているが、今回のリサイタルの演奏はまるで別物のように激しく強く躍動する内容であり、数年とはいえリーズの成長と変化ぶりが如実に聴き取れて興味深いものだった。音楽の表現能力において彼女はここ数年着実に成長してきており、そして、若手の中では随一ともいえるプレゼンス、いや、ワンアンドオンリーの語法を獲得していたのであった。
所定のプログラムが阿鼻叫喚のうちに終わったが拍手が鳴りやむことはなかった。リーズは合計三曲、どれもそこそこ有名で昨今他のピアニストたちもアンコール向けに好んで使い始めている曲を弾いた。愛の歌・献呈は過去にCD録音もあってリーズの得意中の得意なのだが、ショパンのノクターンのうちマイナーなOp.72-1が実にマニアックで好感度が大きかった。ちょっと意外で、またまた新しい魅力を聴かされたのが最後のラフだった。次にリリースしてくるCDはラフの音の絵(絵画的練習曲集)、ソナタ集、前奏曲集のいずれかではなかろうか※、との想像を掻き立てられるほど強いインスピレーションを再度与えてくれる秀演であった。(しかし、流れから行くと順当なところとしてはラヴェルあるいはドビュッシーだとは思う)
結局、ブレークを挟んで3時間に迫る演奏を終え、リサイタルは終了。直後からロビーに出てサイン会を淡々とこなしていた。リーズはこれから先どこまで成長するのであろうか。一つ断言できるのは、フランスのこの世代を代表する名ピアニストになるであろうこと。そして齢を重ねた先には、ケフェレックや故エンゲラーのようなインプレッシブで滋味深いピアノを弾くベテラン名手の姿が重なって見えるのだった。
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by primex64
| 2013-06-01 23:28
| Concert/Recital
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