MusicArena Awards 2012 |
※なお、今まではcurrent year基準でAwardsを選んできたが、これからはfiscal year(日本の一般的な会計年度=4月~3月)に合わせた基準に変えざるを得ないと思っている。
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MusicArena Awards 選考基準
・2012年度中に国内リリースされたCD/SACD(国内盤・輸入盤を問わず)
・演奏面/音質面ともに優れたもの
・前衛的な取り組みであると認められるもの
・以上を考慮して以下の各賞を選考する
MusicArena Grand Prix - 最優秀作品を1点選出
MusicArena Semi-Grand Prix - 優秀作品を2点選出
MusicArena Performance of the year - 演奏に特に秀でた作品を数点選出
MusicArena Sound of the year - 録音品質に特に秀でた作品を数点選出
MusicArena Special Encouraging Prize - 将来を嘱望する奏者の作品を数点選出
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※以下、ジャケット写真をクリックすると詳細解説が開きます
MusicArena Grand Prix 2012

マーラー: 交響曲第2番ハ短調 復活
ミヒャエラ・カウネ(Sop)
ダグマル・ペチコヴァー(Alt)
北ドイツ放送合唱団、ラトヴィア国立合唱団
シモーネ・ヤング
ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団
レーベル:OEHMS

ブルックナーのチクルスで定評を博していたシモーネ・ヤング/ハンブルクは遂にマーラーへと踏み出した。従前に見られた女性的な丹念な描き込みかと思いきや、大胆な筆致で鮮やかに描き切っている渾身のマーラーだ。虚飾は一切ない代わりに混ざり気のない極彩色で目くるめく展開を示し、いわばとてもHi-Fiなマーラーなのだ。まさに21世紀に相応しいハイスピードなマーラーの連発を予感させる鮮烈な一枚。CD-DAの録音品質という点においてもエポック・メーキングな一枚なのだ。
MusicArena Semi-Grand Prix 2012

メンデルスゾーン:
ヴァイオリン協奏曲ホ短調Op.64 他
アリーナ・イブラギモヴァ(ヴァイオリン)
ウラディミール・ユロフスキ
エイジ・オヴ・インライトゥメント管弦楽団
レーベル:Hyperion

イブラギモヴァはピリオド・アプローチを得意とする新進気鋭のロシア系英国在住ヴァイオリニストである。彼女が繰り出すドライで硬質なタッチで紡がれるメンコンは、一般的にイメージされるメロウでアンニュイなこの曲の演奏とはひと味もふた味も異なっていて一聴に値する。太くてごりっとした低音弦に対して糸を引くような繊細かつ隙のない高音弦の鳴らし分けは独特。ユロフスキ/エイジ・オヴ・インライトゥメント管弦楽団の好サポートとも相俟ってハードボイルドな仕上がりとなっているメンコンだ。
MusicArena Semi-Grand Prix 2012

佐村河内 守: 交響曲第1番 HIROSHIMA
大友直人(指揮) 、東京交響楽団
レーベル:DENON

佐村河内守は全聾の作曲家として既に名を馳せているところである。それはかつてのベートーヴェンのようだ、との話題性先行のセンセーショナルな一過性トレンドとも思われるのだが、実際には彼が身につけている作曲家としての真価に対して少々失礼なことと思うのだ。佐村河内は現代におけるマーラーともいうべき厚く重層感を伴ったオーケストレーションを得意領域とする作家であり、またこの作品のテーマとなっている重く苦渋に満ちた闇の世界を高度な次元で描き上げている点が素晴らしいのだ。大友/東京SOの鬼気迫る迫真の演奏も素晴らしい。
MusicArena Performance of the year 2012

グリンカ/バラキレフ:皇帝に捧げた命
バラキレフ: イスラメイ 他
広瀬悦子(ピアノ)
レーベル:MIRARE

このところ国際舞台で幅広い活動を展開している広瀬の充実ぶりを垣間見ることの出るハイセンスで力の入った独奏アルバムだ。日本人とは思われない高度な技巧とスケールの大きな表現幅で取り組んだ鬼才=バラキレフ作の名曲たちは、民族楽的で一種独特なヴィヴィッドな生気を帯びて踊り出し、そして聴くものの胸に迫ってくるのだ。広瀬は今後さらにレパートリを拡大し大活躍していく予感が薫る一枚。
MusicArena Performance of the year 2012

J.S.バッハ:
・ソナタ 第1番 ト短調 BWV1001
・パルティータ 第1番 ロ短調 BWV1002
・ソナタ 第2番 イ短調 BWV1003
イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)
レーベル:Harmonia Mundi

ファウストのバッハ無伴奏の第1段は数年前に出て大好評だったのであるが、この続編がようやく出た。ファウストの昨今の充実ぶりはこの透徹されたコンテキスト構築力、音数の多さから見て取れる。そして単に高い技巧だけでは決して成しえない、内面的熟成が発露してこそのハイレベルな無伴奏といえるのだ。このバッハは素晴らしい出来栄えである反面、聴く側にも体力的・精神的消耗を強いるのである。
MusicArena Sound of the year 2012

ショスタコーヴィチ:
ピアノ協奏曲第1番ハ短調 Op.35 他
アンドレイ・コロベイニコフ(ピアノ)
オッコ・カム、ラハティ交響楽団
レーベル:MIRARE

アンドレイ・コロベイニコフはロシア出自の若手気鋭の一人である。超絶的なテクニックを売り物にしているというよりもそこはかとない歌心に長けたロマンティックな音楽表現が身上だ。このところのロシア系男性ピアニストはみな個性的で充実した活動をしており、他にもメルニコフ、スドビン、ルガンスキーなどがあげられる。このアルバムではショスタコの前衛性を透明度の高い理知的なピアノ解釈とオッコ・カム/ラハティSOの洒脱な音楽的表現によって高度に昇華した演奏へと導いているし、録音品質の優秀性においては昨今例を見ないほどの出来栄えとなっている。
MusicArena Sound of the year 2012

オケゲム & セーアンセン:レクイエム
ポール・ヒリアー
アルス・ノヴァ・コペンハーゲン
レーベル:DACAPO

コーラス界の大御所ポール・ヒリヤーが世に問うハイセンスで新機軸の声楽アルバムだ。オケゲムの作品がルネサンス期に書かれたものとはとても考えられない斬新さで、かつ、リゲティ/ルクス・エテルナなどに見られる広大な空間感と浮遊感が全編を通して味わえる珠玉の一枚。録音技術としては他と一線を画する出色の出来栄えであり、リニアPCMレコーディング/DSDマスタリングの最高峰と断言できる超絶的な仕上がりだ。三次元立体巨大空間にすっぽりと収められてしまう格好となるリスナーはただただそのリアルな音場に固唾を飲み、唖然とするのみだ。
MusicArena Special Encouraging Prize 2012

シューマン:
ピアノ協奏曲 イ短調 op.54、幻想小曲集 op.12
弓張美季(ピアノ)
クリスティアン・アルミンク
ベルリン・ドイツ交響楽団
レーベル:Harmonia Mundi

弓張美季の名は知らなかったがこの演奏を聴いて度肝を抜いた。なんと躍動的で芯のあるピアノを弾く人物であろうか。Pコンの方は、ひゅーっと疾風のように駆け抜けて行く爽快感、そしてアルミンク/ベルリン・ドイツ響の細密で淀みない機敏なバックが特徴。幻想小品集のほうは丹念で重く、中庸の音価を確実に繋ぎ合わせてシューマンのアンニュイな心情を構築している。全般に音楽の作りが骨太、かつ明晰で隙のない構築手法、劇的だがレイショナルな解釈は素晴らしいと言わざるを得ない。優れた日本人ピアニストはまだまだたくさんいると思い知った。今後ますますの活躍に期待する。
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最終選考まで残った秀作たち:












♪ よい音楽を聴きましょう ♫