Rachmaninov: P-Con#1 Etc@Katia Skanavi, M.Tabachnik/Brussels PO |

http://tower.jp/item/3091688/
S. Rachmaninov:
Piano Concerto No.1
A Rhapsody on a Theme of Paganini
Katia Skanavi(Pf)
Brussels Philarmonic, Michel Tabachnik(Cond)
ラフマニノフ:
ピアノ協奏曲 第1番 嬰ヘ短調 Op.1
パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43
カティア・スカナヴィ(ピアノ)
ミシェル・タバシュニク(指揮)
ブリュッセル・フィルハーモニー管弦楽団
スカナヴィというピアニストは来日もしていて、その名はプレイガイド等で目にしたことはあったが、演奏会に行ったこともないし録音を聴いたこともなかった。コンペティションではロン・ティボーやヴァン・クライバーンで上位入賞を果たしており、マリア・カラス・コンテストではウィナーとなっているなど、それなりにプレゼンスの高いソリストだがCD録音は少なくて日本国内では無名といってよいだろう。
この人のピアノの弾き方は結構ショッキングで、なかなかに耳につく特徴をもっている。Pコン1番は余りにポピュラーな曲ゆえ昨今ではなかなか差別化が難しいところだが、スカナヴィは冒頭から特異な音を出して注意を引き付ける。つまり、入りからしてミスタッチっぽい濁りが連発で、言ってみれば荒れた鍵盤捌きなのだ。このオケがおとなしい性質なのか指揮者がモデレートな性格なのかは分からないが、スカナヴィの怒涛の展開に押されまくっているのだ。極致は後半のカデンツァで、これはもう独創的というかやり放題というか、ビロード感触にして甘美で感傷的なラフ1番の常套的解釈からは大きく外れたものだ。ダイナミックで荒れ狂う凄まじいこのカデンツァはまさに固唾を飲んで聴くといった風情。時間軸に対する揺らぎが大きく、左右手に展開する幅広いスケールと速い分散和音のパッセージは半ば破綻しているのだが、なぜか聞き耳を立ててどきどきしながら聴き入ってしまう魔術的な魅力がある。
緩徐楽章は1楽章とは異なって実にたおやか、別人が弾いているようななめらかな質感が特徴でスタインウェイをおおらか、かつ優美に鳴らし込んでいる。そして最終楽章に突入。息せき切ってまたまた荒れた展開かと思いきや、今度は超精密高速スケールと左手対旋律がマシンのように繰り出され、これまた予測を裏切る緻密さなのだ。細やかで指が驚くほど動いている割に音量は1~2楽章よりも更に出ていて、ここでもオケの最大音量を上回る勢いなのだ。ここでの弾き方はやはり起伏の激しいアゴーギクが中心となり、これは最盛期のホロヴィッツに雰囲気が似ている。要は聴かせどころをしっかりと分かったうえでがっちりと聴く側の耳をグリップして離さないというやり方。このエキセントリックな弾き方のラフで昨今記憶に残るといえば、作品は異なるがギュルスィン・オナイに通じるものがある(オナイの録音だとラフ3番が手元にある)。
後半にはパガニーニ・ラプソディが入っているが全曲ではなくて抜粋版となる。緩徐な曲をいくつか抜いているがだいたい原形を留める分量は入っていてなかなかに楽しめる。弾き方は前半Pコンの3楽章の弾き方を踏まえていて、つまり高速で隙の無い指回しと夥しい音数が提示され、そして華やかで晴れやか、ドライなパガニーニ主題がディレイなしに叩かれるのだ。今年度、ラフのPコンとパガニーニ・ラプソディを並べた同種のアルバムではユジャ・ワンのDG版(Pコンは2番)が出たが、これはダイナミックさと繊細さ、そして解釈の多様性、ベーシックな操鍵技巧など、どこをとってもこのスカナヴィ盤とは比較にならない。
もうちょっと他の作品も聴いてみたいと思わせるだけの魅力、そして潜在能力を感じる荒削りなピアノであるが、今のところ国内ではあまり多くの録音は入手できないようでありちょっと残念。
(録音評)
Lyrinxレーベル、LYR2277、SACDハイブリッド。録音は2010年11月16-19日、ブリュッセルとある。ライナーによればオリジナルDSD録音とあり、確かに細かなディテールを拾い出して面構成で作り出された音はPCMっぽくはない。そしてマイクプリはLyrinxオリジナルの管球式らしい。このレーベルのアルバムは他にも数枚所有しているがいずれも超高音質で素晴らしいものだったが、このSACDの場合にはちょっと外していて音場展開が変だ。サウンドステージが奥へは展開せず、左右に広がりながら前へ前へと迫り出してくるのだ。コンサートホールの被り付きで斜め上45度を見詰めて聴いている感じ、と言えば雰囲気は伝わるだろうか。つまり音場と音像定位する位置との関係性の設定に関して癖があるところが難点。それを除けばそれほど悪い録音ではない。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫