2013年 03月 09日
J.S.Bach: Vc Suites No.1-6, BWV1007-1012@Pieter Wispelwey |
Evil Penguinレーベルの秋口の新譜で、ウィスペルウェイの3度目の録音となるバッハ無伴奏Vcソナタ全集。本プログラムを収めたCDが2枚に、バッハ研究家でヴィオール奏者でもあるローレンス・ドレイフュス、ジョン・ブットの解説等を収めたDVDが付く計3枚組・紙ボックス装幀での提供。なお、同内容で日本国内向け盤がキングから年末にリリースされているが、買ったのは安価な輸入盤。
http://tower.jp/item/3148968/
Bach, J S: Cello Suites Nos. 1-6, BWV1007-1012
Pieter Wispelwey (cello)
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲(全曲)
[CD1] 第1番 ト長調 BWV1007、第2番 ニ短調 BWV1008、第3番 ハ長調 BWV1009
[CD2] 第4番 変ホ長調 BWV1010、第5番 ハ短調 BWV1011、第6番 ニ長調 BWV1012
ピーター・ウィスペルウェイ(チェロ)
※使用楽器:
第1~5番: Pieter Rombouts, 1710年
第6番: ピッコロ・チェロ(18世紀、製作者不明)
ピッチ: A=392Hz
穏健でナチュラルなバッハである。この落ち着きは楽器のチューニングにもよるものであり、ピッチがA=392Hzとなっている。ドレイフュスらの研究によればこのピッチは、バッハのいわゆるケーテン時代、ケーテン宮廷で採用されていたピッチだそうで、通常チューニングの440Hzよりも純正律だと1.5音ほど低い。このため、高域弦のトップエンドまで無理なく伸びやかに弾ききることが出来るそうで、その効果は実際現れていると思う。
1番ト長調BWV1007は明媚で屈託のない名曲であるが(TV-CMの影響から、人によってはヨーヨー・マを連想するかも知れない・・)、ウィスペルウェイは肩肘張ることなく、少し速めのテンポ取りだけれども滑らかに弾いている。妙に情感が突出した弾き方や、ごりごりと深く刻み込むようなオーバーアクション気味の曲想とは無縁であり、全体的にさらさらと引っかかりなく気持ちよく紡いでいるのだ。
この曲集には短調曲が二つあって、2番ニ短調BWV1008の方は細かく上下動するスケールについてはかなりの技術を要する曲で、かつ無伴奏で弾くには声数が多く、聴く者の頭内に重層化された残像を如何にうまく作るかがポイントだ。ウィスペルウェイの奏法が非凡な技巧に支えられていることを思い知る極上の演奏となっていてこれは圧巻だ。もう一つの短調曲である5番ハ短調BWV1011はこの作品の白眉である。抉るような低音弦の深い襞、芯を突く強いダブルストップ、明瞭なスタッカートが何とも印象的で男性的な解釈だ。といっても深刻で暗いということはなくて、ウィスペルウェイの天性の明るさと飄々とした歌心が随所に活かされているので聴いていて息苦しくなると言うことはない。
最終の6番ニ長調BWV1012だけが楽器が異なっており、ピッチが半オクターブほど上がったような印象を覚える仕上がりだ。楽器そのものが小さくてフレットの幅も狭いためかスケール取りが更に微細・精密にコントロールされている名人芸的な操弦だ。非常に長いこの組曲は、やっぱり飄々とした彼ならではの軽量ハイスピードなコーダで締めくくられる。爽やかな風が吹き渡るような、それでいて優しく小声で歌いかけるようなジェントリーなバッハであった。明るめで刺激を抑えた曲想に係る構築力、演奏設計、技巧ともに素晴らしいのひとこと。日常生活の背景に常に小音量で流しておきたいと思える数少ない無伴奏Vc組曲全集といえる。
(録音評)
Evil Penguin EPRC012、通常CD。なお、国内流通仕様盤はキング・インターナショナル:KKC5246で昨年末にリリースされている。収録は2012年6月9-14日 セレンデピトゥス・スタジオ(ベルギー)、DVD収録は、オックスフォード、聖マグダレンカレッジとある。
音質だが、弦や弓、また弾いているウィスペルウェイの指、息遣いまでもが克明に捉えられ、かつ定位感が半端なく優秀であって、まさにそこに生身のウィスペルウェイが腰掛けて演奏している姿が見えるという、リアルなホログラム録音なのだ。残響と音場はごく自然で美しく拡がっている。スピーカーの存在を消し去ることに成功している安定した音響システムにおいてはこれほど気持ちよく楽器が遊離する音源はそうそうはないだろう。部屋のどこで聴いていてもバッフルのちょっと奥にウィスペルウェイが定位するのだ。
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Bach, J S: Cello Suites Nos. 1-6, BWV1007-1012
Pieter Wispelwey (cello)
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲(全曲)
[CD1] 第1番 ト長調 BWV1007、第2番 ニ短調 BWV1008、第3番 ハ長調 BWV1009
[CD2] 第4番 変ホ長調 BWV1010、第5番 ハ短調 BWV1011、第6番 ニ長調 BWV1012
ピーター・ウィスペルウェイ(チェロ)
※使用楽器:
第1~5番: Pieter Rombouts, 1710年
第6番: ピッコロ・チェロ(18世紀、製作者不明)
ピッチ: A=392Hz
穏健でナチュラルなバッハである。この落ち着きは楽器のチューニングにもよるものであり、ピッチがA=392Hzとなっている。ドレイフュスらの研究によればこのピッチは、バッハのいわゆるケーテン時代、ケーテン宮廷で採用されていたピッチだそうで、通常チューニングの440Hzよりも純正律だと1.5音ほど低い。このため、高域弦のトップエンドまで無理なく伸びやかに弾ききることが出来るそうで、その効果は実際現れていると思う。
1番ト長調BWV1007は明媚で屈託のない名曲であるが(TV-CMの影響から、人によってはヨーヨー・マを連想するかも知れない・・)、ウィスペルウェイは肩肘張ることなく、少し速めのテンポ取りだけれども滑らかに弾いている。妙に情感が突出した弾き方や、ごりごりと深く刻み込むようなオーバーアクション気味の曲想とは無縁であり、全体的にさらさらと引っかかりなく気持ちよく紡いでいるのだ。
この曲集には短調曲が二つあって、2番ニ短調BWV1008の方は細かく上下動するスケールについてはかなりの技術を要する曲で、かつ無伴奏で弾くには声数が多く、聴く者の頭内に重層化された残像を如何にうまく作るかがポイントだ。ウィスペルウェイの奏法が非凡な技巧に支えられていることを思い知る極上の演奏となっていてこれは圧巻だ。もう一つの短調曲である5番ハ短調BWV1011はこの作品の白眉である。抉るような低音弦の深い襞、芯を突く強いダブルストップ、明瞭なスタッカートが何とも印象的で男性的な解釈だ。といっても深刻で暗いということはなくて、ウィスペルウェイの天性の明るさと飄々とした歌心が随所に活かされているので聴いていて息苦しくなると言うことはない。
最終の6番ニ長調BWV1012だけが楽器が異なっており、ピッチが半オクターブほど上がったような印象を覚える仕上がりだ。楽器そのものが小さくてフレットの幅も狭いためかスケール取りが更に微細・精密にコントロールされている名人芸的な操弦だ。非常に長いこの組曲は、やっぱり飄々とした彼ならではの軽量ハイスピードなコーダで締めくくられる。爽やかな風が吹き渡るような、それでいて優しく小声で歌いかけるようなジェントリーなバッハであった。明るめで刺激を抑えた曲想に係る構築力、演奏設計、技巧ともに素晴らしいのひとこと。日常生活の背景に常に小音量で流しておきたいと思える数少ない無伴奏Vc組曲全集といえる。
(録音評)
Evil Penguin EPRC012、通常CD。なお、国内流通仕様盤はキング・インターナショナル:KKC5246で昨年末にリリースされている。収録は2012年6月9-14日 セレンデピトゥス・スタジオ(ベルギー)、DVD収録は、オックスフォード、聖マグダレンカレッジとある。
音質だが、弦や弓、また弾いているウィスペルウェイの指、息遣いまでもが克明に捉えられ、かつ定位感が半端なく優秀であって、まさにそこに生身のウィスペルウェイが腰掛けて演奏している姿が見えるという、リアルなホログラム録音なのだ。残響と音場はごく自然で美しく拡がっている。スピーカーの存在を消し去ることに成功している安定した音響システムにおいてはこれほど気持ちよく楽器が遊離する音源はそうそうはないだろう。部屋のどこで聴いていてもバッフルのちょっと奥にウィスペルウェイが定位するのだ。
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by primex64
| 2013-03-09 19:14
| Solo - Vc
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