Le Boeuf dur le Toit -Swinging Paris@Alexandre Tharaud |
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1. Chopinata [3:28]
Fantasy foxtrot on themes by Chopin
Clement Doucet, Editions Musicales Sam Fox, 1927
2. The Man I love [2:03]
George Gershwin, WB Music Corp. , 1924
3. Yes sir, that's my baby [1:30
Walter Donaldson, Irvin Berlin, 1925
4. Do it again [1:36]
George Gershwin, WB Music Corp. , 1922
5. Hungaria [2:45]
Fantasy foxtrot on themes by Liszt
Clement Doucet, Editions Musicales Sam Fox, 1928
6. Let's do it with Madeleine Peyroux [4:42]
Cole Porter, WB Music Corp. , 1928
7. Doll dance [2:05]
Nacio Herb Brown, Editions Musicales Sam Fox, 1926
8. J'ai pas su y faire with Juliette [3:36]
Paul Cartoux, Edgard Costil/Maurice Yvain, Francis Salabert Editions, 1923
9. Blue River [3:12]
Arrangement for two pianos by Jean Wiener and Clement Doucet, 1928
Alfred Bryan
10. Why do I love you? [2:29]
Arrangement for two pianos by Jean Wiener and Clement Doucet, 1925
George Gershwin
11. A Little slow Fox with Mary [2:31]
Arrangement for two pianos by Jean Wiener and Clement Doucet, 1928
Emmerich Kalman
12. Covanquihno [2:23]
Arrangement for two pianos by Jean Wiener and Clement Doucet, 1928
Giuseppe Milano
13. Poppy Cock [1:35]
Arrangement by Clement Doucet, Editions Musicales Sam Fox, 1931
Paul Segnitz
14. Blues [2:29]
Jean Wiener, Universal Editions, 1929
15. Isoldina [2:06]
Novelty piano solo on themes from Tristan et Isolde
Clement Doucet, Editions Musicales Sam Fox, 1928
16. Blues chante [2:44]
Excerpt from Trois Blues chantes for vocals and piano with Natalie Dessay
Jean Wiener, Editions Max Eshig, 1923
17. Gonna get a girl with Benabar [2:30]
Al Lewis/Howard Simon, Paul Ash, Sally S Simpson Music,
18. Henri, pourquoi n'aimes-tu pas les femmes? wih Guillaume Gallienne & The Virgin Voices [2:22]
Excerpt from Louis XIV
Serge Verber/Georges van Parys, Philippe Gabriel Pares, Warner Chappell Music France, 1929
19. Tango des Fratellini [1:37]
Excerpt from Le Boeuf sur le Toit and arrangement for piano solo
Darius Milhaud, Editions Max Eshig, 1919
20. Five o'clock Maurice Ravel [1:50]
Excerpt from L'Enfant et les Sortileges, 1925, arrangement for piano by Roger Branga, Editions Durand
21. Caramel mou with Jean Delescluse [5:14]
Shimmy movement, for vocals, drums and piano
Jean Cocteau/Darius Milhaud, Editions Max Eshig, 1921
22. Haarlem [3:05]
Jean Wiener, Universal Editions, 1929
23. Collegiate [1:37]
Fox-trot
Moe Jaffe et Nat Bonx, Shapiro, Bernstein & C° Inc. , 1925
24. Georgian's Blues [3:45]
Jean Wiener, Editions Francis Day, 1926
25. Saint Louis Blues [2:33]
William Christopher Handy
Arrangement for harpsichord by Jean Wiener, 1938
26. Clement's Charleston [1:25]
Jean Wiener, Editions Francis Day, 1926
Alexandre Tharaud
Jean Delescluse, Bénabar, Juliette/Guillaume Gallienne
Frank Braley, Natalie Dessay & Madeleine Peyroux
アレクサンドル・タロー(ピアノ)
ナタリー・デセイ(ソプラノ:16)
フランク・ブラレイ(ピアノ:9,10,11,12)
ダヴィド・シュヴァリエ(バンジョー:17,23)
フローラン・ジョドゥレ(ドラムス:13,21)
アレクサンドル・タローの新譜は驚くべき新機軸であった。彼は、目まぐるしくも躍動的だった1920年代のLe Boeuf sur le toit、即ち、パリのホット・スポットとなった伝説のパリ・キャバレーおよびこれにまつわる国際的なカルチャーを祝福するアルバムを創るため、彼と親しい音楽仲間やグループに働きかけたのだ。当時のジャズ音楽の流れは、ラヴェル、ミヨー、ヴィエネルおよびドゥーセのようなフランスの作曲家、およびガーシュウィン、カーンおよびコール・ポーターのようなアメリカの作曲家を広く合流、集めさせていた。
このCD「Le Boeuf sur le toit」は、私が今まで録音してきたものとは全ての点で完全に異なる、とライナーのなかでタロー自身が述べている。彼のVirgin、あるいはHarmonia Mundiにおける今までのアルバムはそれぞれが単一の作曲家・・バッハ、スカルラッティ、ショパンなど・・に着目した伝統的な純クラシックの伝統的体裁であったが、このアルバムではクラシックおよびポピュラー音楽の領域から万華鏡のような20を超える曲目を並べているのだ。例えば、ラヴェル、ミヨー、ガーシュウィン、カーン、ポーター、カーマン、W.C.ハンディー(=ブルースの父といわれている)、フランスのピアノ・デュオ、ヴィエネルおよびドゥーセなどなど・・。彼ら歴史上の大作曲家たちが大同団結して合流した場所は、目まぐるしい1920年代の伝説のパリ・キャバレー、Le Boeuf sur le toitと名付けられたパリのホット・スポットであり、パリ人が国際的なカルチャーと交わった坩堝(るつぼ)だったというわけだ。
その名前の意味は「屋根の上の雄牛」で、作曲家Darius Mihaud(ダリユス・ミヨー)の作品に因んでキャバレーの所有者であるLouis Moysèsによって命名された。ミヨーはブラジル旅行の後にシンコペーション的なダンス・リズムを多用したこの題名の曲を書き、それをオーケストレーションした作品、つまり超現実主義バレエ作品=屋根の上の雄牛として完成させた。ジャン・コクトー(20世紀半ばのフランスの芸術的な生命のルネッサンス的教養人)は、このバレエの台本を書き、これら一連の取りまとめを行ったとされている。
タローは次のように説明している: コクトーは殆ど毎晩ここに通い、驚くべき著名なピアニストや作曲家=Le Boeuf dur le Toitの精神を具現化したジャン・ヴィエネルらと時々ドラムスで共演していた。ピアニストClément Doucet(クレマン・ドゥーセ)もまた定期的にここで演奏していた。そしてレストランでは毎晩のようにラヴェル、サティ、そしてプーランク、ダリユス・ミヨー、ジェルメーヌ・タイユフェールなどのフランス六人組の面々、そして多分、ストラヴィンスキーも店内のその辺で出会うことが出来たであろう。そこにはまた、フランスの人気歌手であったモーリス・シュバリエ、イヴォンヌ・ジョルジュ、ミスタンゲット、アリス・プラン(=モンパルナスのキキ)など、そして多くの芸術家たち、例えばマン・レイ、ピカビア、ディアギレフ、ココ・シャネル、ジョルジュ・シムノン、アンドレ・ジッドなどが集ったという。その彼らはそれぞれ別の領域で活躍する人達であったけれども、みんな「狂乱の1920年代」のエキサイティングなジャズや新興音楽を求めてLe Boeuf dur le Toitに来ていた。このキャバレーでのジャズの歴史の重要性は、ジャム・セッション(即興のジャズ演奏)=フランス語で言うところのfaire le boeufがいまだに不滅であることにより推し量ることができる。
ライナーでは「私は、今日のフランスの音楽はLe Boeuf sur le toit抜きでは考えられなかったと実際に思っています。」とタローは続けている。「このCDのプログラムは、ヴィエネル、ドゥーセおよびミヨーが書きこのキャバレーで定番として演奏されていたピアノ曲を含んでいます。またそれだけではなくて、恐らくここへは足を踏み入れたことのないアメリカの作曲家・・ジョージ・ガーシュイン、ジェローム・カーンなどの作品も含まれているのです。」と記している。
タローは彼の仲間内でも特に選り抜きのグループの参画を仰いでこのCDを制作した。クラシックの領域からはピアニストとしてFrank Braley (タローいわく彼はガーシュインきちがい)、パーカッションではFlorent Jodelet、テナー歌手はJean Delescluse(歌唱、或いはもっと正確に言うとジャン・ヴィエネルのブルースにおけるヴォーカル・トランペット)、そして当代最高のソプラノの一人であるNatalie Dessay(ナタリー・デセイ)といった錚々たる顔ぶれが並んでいる。
ジャズとポピュラー音楽の領域からは、ギタリストのDavid Chevallier(デービッド・シュヴァリエ)=ここではバンジョーを演奏、および3人のシンガーソングライター: Madeleine Peyroux、JulietteとBénabar(この二人はシャンソン歌手として有名)、また俳優のGuillaume Galliene(有名劇場であるComédie-Française専属の喜劇歌手の大御所)などが参画している。
次の記述がちょっと感動的だった。即ち、タローはこのCDを彼の祖父チャールズ・オーヴェルニュ(=1920年代に映画オーケストラ、ダンスバンドやブラッスリー、また歌手向けのスタジオ・ミュージシャンとして活躍したクラシック領域出身のジャズ的なヴァイオリニスト)に対するオマージュと位置付けているとのこと。「彼は万能の音楽家でした。」とタローが述懐する。「また、私は、幅広いセンス・・それが小規模なポピュラー・ソングあるいはラフマニノフの壮大なコンチェルトであろうとも、また、オペラハウスから小さなカフェに至るまでフルセットで音楽を体現するセンス・・で音楽を伝道できる音楽家たろうとする、その考え方が好きなのです。」と述べている。
このアルバムを聴きながらライナーを読みつつ、つらつらと要約を書いていたら前置きが非常に長くなってしまった。結論を述べると、このアルバムは非常に楽しく、そして、蘊蓄のあるクロスオーバー作品であり、当時、旧大陸と新大陸のカルチャーが交わって華やかだった頃のパリに集ったラベル、ガーシュウィン、ストラヴィンスキーらが創った一時代を想像するに好適な内容である、と、個人的には思っている(勿論、そんな時代に生きたこともないしパリに行ったり住んだこともないのだが・・)。航空機のない当時、大西洋航路で一週間以上もかかったニューヨークとパリの間で芽生えていたガーシュウィンとラヴェルの親交は有名な話である。しかし、具体的にどういった音楽的な結び付きがあったのかは想像の域を超えることはなかった。
だが、タローが企画したこのアルバムは、その当時の時代的息吹を猥雑な面から臨場感をもって体感させてくれていると確信している。時代考証的には、本当に当時こんな雰囲気の音楽がキャバレーで演奏されていたか否かは確かめようがないのではあるけれども。そして、タローというストイックなピアニストがこんな一面を持っていて、また、こんなジャジーなインプロヴィゼーションが弾けるということも大いなる発見だった。アメリカの本場のコンテンポラリージャズとは異なって禁煙ライブハウス的、或いは、精密で折り目正しい清潔な「ジャズ的な」ピアノではあるけれども、お巫山戯(ふざけ)、お遊び? それでいて世俗的カルチュラルな一面を愚直に描いていて面白い一枚と言えよう。
最初に入っている、ぜんまいが壊れかけたようなショパンのメドレー、そしてライトでポップなガーシュウィンまでは何とか頷けるものの、コール・ポーターが出てきたのには驚いた。そして初めて聴くヴィエネルやドゥーセの独特の頽廃ムードに至ると、これがアレクサンドル・タローという確たる正統派クラシックスのピアニストがここまで幅広にやるのか、という半ば呆気にとられた、いや、一本取られたとの清々しい気分にさせられるのだった。これってグラミー賞狙い?との疑念はこの際言わない約束だ。
(録音評)
Virgin Classics 4407372、通常CD。録音はパリでのセッションとある。録音担当は例によってEMIが担っているが、Virgin向けの味付けは忘れておらず、スウィートでフローラルな香りがお洒落だ。アルバムのコンセプトが狙っているところとマッチする調音であってこれは大人の音質&フレーバーである。正統的なクラシック盤ではないけれども欲張ったバス・ブーストやハイエンドの輪郭強調などはされておらず、割と正攻法のまとめ方と言える。真面目に相対して聴くのも良し、またBGM的に常時鳴らしておくにも邪魔にならない絶妙な音決めである。
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