2013年 01月 19日
Rachmaninov: P-Sonatas #1 & #2@Nikolai Lugansky |
前回に引き続き、今日において群を抜いたパフォーマンスを聴かせるロシア系男性ピアニストの新譜から。naïve傘下のAmbroisieレーベルからの昨秋のリリースとなる。

http://tower.jp/item/3143226/
Rachmaninov:
Piano Sonata No.1 in D minor, Op.28
Allegro moderato
Lento
Allegro molto
Piano Sonata No.2 in B flat minor, Op.36
Allegro agitato
Non allegro. Lento
Allegro molto
Nikolai Lugansky (Pf)
ラフマニノフ:
ピアノ・ソナタ第1番 ニ短調op.28
ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調op.36 (ルガンスキー版)
ニコライ・ルガンスキー (Pf)
ルガンスキーは前回とりあげたスドビンと同様、強靱かつ精緻なピアニズムを擁するロシア出身のピアニストであり、1994年のチャイコフスキー・コンクールのピアノ部門で2位(このときは1位なし)を獲得したのを起点に、今や現代を代表する有力若手と目される一人である。ルガンスキーはごく若い頃、ロシアの歴史的著名ピアニストにして高名な指導者でもあったタチアナ・ニコラーエワの薫陶を受けており、この頃既に彼女は彼の輝かしい将来を嘱望していたようだ。その後の彼の活躍を見ればニコラーエワのその予言は当たっていたことが裏付けられるだろう。
ルガンスキーはラフマニノフに関して現代最高の演奏者のうちの1人とされているが、このアルバムを聴くと即座にその理由が理解できる。ルガンスキーは今までの誰もが(=ラフマニノフ自身を含め)弾いてきたラフマニノフのPソナタとはちょっと異なる解釈を示している。ダイナミックで暗鬱かつ美しいメロディーラインに耳が囚われがちとなるラフ作品たちだが、彼の解釈はそうしたマクロな曲の景観をムーディーに組み立てることはせず、マイクロスコピックなテクスチャを精密に編み上げて行くことにより全体像を構築している。これはルガンスキー個人のラフマニノフ像であると思われ、ある意味譜面に正確というか、情緒的な解釈やパーソナライズされた曲想を余り挿入せずに淡々と語っている風なのだ(情感を抑制ぎみにして音楽構築する手法自体はメジューエワに相通じる)。これがラフの真意であったかどうかは分からないけれど、思わず膝を打ってしまう実直な演奏設計なのである。
Pソナタ2番は非常に多くの演奏機会があるけれども、1番は割と稀な収録であり、事実、私の手元にも1番の録音は数少ない。因みにこの1番は、ラフマニノフがゲーテのファウストの主役に基づいて書いたプログラムであり、割と野心的な歌劇を書いた時のアプローチに近いものがある気がする。この二つのソナタはまるで別の作家が書いた様に、一見すれば全く異なるフレーバーを持った作品ではあるけれども、前述のルガンスキーの解釈手法によれば、やはり同じラフマニノフの作品であって相通ずるところがあると気が付く。
2番に関してはルガンスキーのアレンジが入っているので、通常、耳に馴染んでいる原曲とは違った雰囲気を醸してはいるけれども、この試みは成功しているようで、音の密度感が更に高くて、和声の濃さと旋律のスピード感を補完することに寄与しているようだ。両方のピアノ・ソナタは技巧的には非常にチャレンジャブルなものであり、また、描こうとしている世界の深遠さも尋常ではなく、従って現代においてもなお難曲中の難曲とされている所以。
この二つのソナタの出来映えは、文句なく当代最高と言ってよく、他に比肩できるとするならば往時のギレリス、リヒテル、またホロヴィッツくらいしか思い浮かばない。蛇足だが、ルガンスキーが発するこの冷え冷えとしたピュアな純音、揺るぎのない超絶技巧、それでいて真っ直ぐに聴くもののシンパシーに訴えかけてくる雄弁な語り口は壮年期のギレリスにそっくりである。このルガンスキーといいスドビンといい、またメルニコフといい、今の実力派男性ピアノ陣はロシア系が旬なのかもしれない。
(録音評)
Ambroisie AM208、通常CD。録音は2012年5月、ポットン・ホール (イギリス)とある。洒脱なセンスで定評のnaïve系としては珍しく、ちょっと暗め、かつフローラルな香り成分が抑制されたタイトでクールな音質となっている。スタインウェイの透徹された音はルガンスキーの曲想に非常に合っていてメタリックだけれども、しかしピーキーには鳴かず、それていて低音弦の太さとスピード感が両立している理想的なピアノ収録と思われる。現在では欧州の有力レーベルのクラシック分野におけるCD-DAの品質は最高峰を極めてしまっていて、どの盤を聴いても殆ど差が出ないくらいハイレベルなのであるが、その中にあっても一級品の録音品質である。
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Rachmaninov:
Piano Sonata No.1 in D minor, Op.28
Allegro moderato
Lento
Allegro molto
Piano Sonata No.2 in B flat minor, Op.36
Allegro agitato
Non allegro. Lento
Allegro molto
Nikolai Lugansky (Pf)
ラフマニノフ:
ピアノ・ソナタ第1番 ニ短調op.28
ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調op.36 (ルガンスキー版)
ニコライ・ルガンスキー (Pf)
ルガンスキーは前回とりあげたスドビンと同様、強靱かつ精緻なピアニズムを擁するロシア出身のピアニストであり、1994年のチャイコフスキー・コンクールのピアノ部門で2位(このときは1位なし)を獲得したのを起点に、今や現代を代表する有力若手と目される一人である。ルガンスキーはごく若い頃、ロシアの歴史的著名ピアニストにして高名な指導者でもあったタチアナ・ニコラーエワの薫陶を受けており、この頃既に彼女は彼の輝かしい将来を嘱望していたようだ。その後の彼の活躍を見ればニコラーエワのその予言は当たっていたことが裏付けられるだろう。
ルガンスキーはラフマニノフに関して現代最高の演奏者のうちの1人とされているが、このアルバムを聴くと即座にその理由が理解できる。ルガンスキーは今までの誰もが(=ラフマニノフ自身を含め)弾いてきたラフマニノフのPソナタとはちょっと異なる解釈を示している。ダイナミックで暗鬱かつ美しいメロディーラインに耳が囚われがちとなるラフ作品たちだが、彼の解釈はそうしたマクロな曲の景観をムーディーに組み立てることはせず、マイクロスコピックなテクスチャを精密に編み上げて行くことにより全体像を構築している。これはルガンスキー個人のラフマニノフ像であると思われ、ある意味譜面に正確というか、情緒的な解釈やパーソナライズされた曲想を余り挿入せずに淡々と語っている風なのだ(情感を抑制ぎみにして音楽構築する手法自体はメジューエワに相通じる)。これがラフの真意であったかどうかは分からないけれど、思わず膝を打ってしまう実直な演奏設計なのである。
Pソナタ2番は非常に多くの演奏機会があるけれども、1番は割と稀な収録であり、事実、私の手元にも1番の録音は数少ない。因みにこの1番は、ラフマニノフがゲーテのファウストの主役に基づいて書いたプログラムであり、割と野心的な歌劇を書いた時のアプローチに近いものがある気がする。この二つのソナタはまるで別の作家が書いた様に、一見すれば全く異なるフレーバーを持った作品ではあるけれども、前述のルガンスキーの解釈手法によれば、やはり同じラフマニノフの作品であって相通ずるところがあると気が付く。
2番に関してはルガンスキーのアレンジが入っているので、通常、耳に馴染んでいる原曲とは違った雰囲気を醸してはいるけれども、この試みは成功しているようで、音の密度感が更に高くて、和声の濃さと旋律のスピード感を補完することに寄与しているようだ。両方のピアノ・ソナタは技巧的には非常にチャレンジャブルなものであり、また、描こうとしている世界の深遠さも尋常ではなく、従って現代においてもなお難曲中の難曲とされている所以。
この二つのソナタの出来映えは、文句なく当代最高と言ってよく、他に比肩できるとするならば往時のギレリス、リヒテル、またホロヴィッツくらいしか思い浮かばない。蛇足だが、ルガンスキーが発するこの冷え冷えとしたピュアな純音、揺るぎのない超絶技巧、それでいて真っ直ぐに聴くもののシンパシーに訴えかけてくる雄弁な語り口は壮年期のギレリスにそっくりである。このルガンスキーといいスドビンといい、またメルニコフといい、今の実力派男性ピアノ陣はロシア系が旬なのかもしれない。
(録音評)
Ambroisie AM208、通常CD。録音は2012年5月、ポットン・ホール (イギリス)とある。洒脱なセンスで定評のnaïve系としては珍しく、ちょっと暗め、かつフローラルな香り成分が抑制されたタイトでクールな音質となっている。スタインウェイの透徹された音はルガンスキーの曲想に非常に合っていてメタリックだけれども、しかしピーキーには鳴かず、それていて低音弦の太さとスピード感が両立している理想的なピアノ収録と思われる。現在では欧州の有力レーベルのクラシック分野におけるCD-DAの品質は最高峰を極めてしまっていて、どの盤を聴いても殆ど差が出ないくらいハイレベルなのであるが、その中にあっても一級品の録音品質である。

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by primex64
| 2013-01-19 12:07
| Solo - Pf
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