2012年 12月 17日
Schumann: P-Con Op.54 Etc@Miki Yumihari, C.Arming/Berlin Deutsches SO. |
弓張美季という日本人ピアニストのHarmonia Mundiデビュー盤とのこと。曲はPコンOp.54と幻想小曲集と、意欲的なオール・シューマン・プログラムとなっている。

http://tower.jp/item/3107837/
Schumann:
Piano Concerto Op.54
1. Allegro affettuoso
2. Intermezzo: Andantino grazioso
3. Finale: Allegro vivace
Fantasiestucke Op.12
1 Des Abends D-flat major
2 Aufschwung F minor
3 Warum? D-flat major
4 Grillen D-flat major
5 In der nacht F minor
6 Fabel C major
7 Traumes wirren F major
8 Ende vom Lied F major
Miki Yumihari(Pf)
Deutsches Symphonie-Orchester Berlin / Christian Arming(Cond)
シューマン:
ピアノ協奏曲 イ短調 op.54
1. Allegro affettuoso
2. 間奏曲: Andantino grazioso
3. フィナーレ: Allegro vivace
幻想小曲集 op.12
1. 夕べに 変ニ長調
2. 飛翔 ヘ短調
3. なぜに 変ニ長調
4. 気まぐれ 変ニ長調
5. 夜に ヘ短調
6. 寓話 ハ長調
7. 夢のもつれ ヘ長調
8. 歌の終わり へ長調
弓張美季(ピアノ)
クリスティアン・アルミンク(指揮)、ベルリン・ドイツ交響楽団
弓張美季と言う名は初めて目にした。店頭では割とひっそりとした場所にあって目立たなかったが、ジャケットの裏のコピーライトが2012年だったのであまり気にも留めずにバスケットに放り込んだ一枚。家に持ち帰って眺めるまでは気が付かなかったのであるが、日本人女性ピアニストがHarmonia Mundiに録音するのは実は初めてではなかろうかと思った。
この演奏は実に鮮烈だ。シューマンの特質である底抜けに明るくて、どこまでも蒼く透き通った青空のようなPコンであり、私的にはストライクど真ん中の、ここしかないというピンポイントを抉った解釈と演奏なのだ。弓張というソリスト、そして昨今では露出の多いアルミンクの演奏設計は素晴らしくて、例えば世界的メジャーレーベルのどの同曲リリースよりも優れた録音の一つといって良いだろう。勿論、世界中でリリースされた同曲の全CDを聴いているわけではないが、シューマンのPコン自体、それほどたくさん録音される曲ではない。
弓張のピアノはこのPコンに非常に合った音色であり、即ち、軽量フェザータッチにしてソリッド&ブリリアント。ここのところややウッディなシューマンを聴く機会が多かったので、ここまでメタリックなシューマンは目が覚めるような新鮮さだ。メタリックといっても鋳鉄やステンレス鋼のような荒々しくて無粋な響きではない。さりとて純チタンや純マグネシウムのような非鉄金属特有のカンカンいう音でもない。そう、どちらかというとアルミ合金に近くて、そのなかでもジュラルミンとかシルミンといった内部損失がそこそこあって靱性と軽量性能が両立した、ピアノのブランドで言えばNYスタインウェイそのものの音がするのである。不思議なもので、後でライナーを読み返すと弓張はスタインウェイ・コンクールというコンペティションで賞を獲得しているという。なるほどと膝を打つ聴感一致だ。
最初からの速度感を失わないまま、そして中間楽章から継ぎ目なしにフィナーレへと突入し、そして、ひゅーっと疾風のように駆け抜けて行く爽快感はこの人の持ち味かも知れない。また、アルミンク/ベルリン・ドイツ響の細密で淀みない機敏なバックもまたこの軽量フェザータッチのPfにマッチしていて好感度が大だ。
幻想小曲集は、一転してまるで違う曲想と音色に驚く。この急転した対比は何なのか。ピアノは確かにスタインウェイであるが低域弦に独特の厚みとハーモニクスが乗っていて一聴するとベーゼンドルファーのようなくぐもった音色で湿潤に描かれるシューマンのもう一つの明媚かつ暗鬱な両極端な音世界・・。ピアノを習っていた人であればこの曲集はある意味お馴染みかも知れない。ツェルニー50番と同時に渡されるロマン派教本としてはショパンのOp.10と、この幻想小曲集が多い気がするのだ。この曲集は、組み立てかたと作曲の手法は子供の情景Op.15に酷似している。子供の情景は元々は成長しきった大人が子供の頃を憧憬もしくは懐かしむという趣向で書かれた作品である。この幻想小曲集は子供の情景よりかは旋律・和声ともに彫り込みが遙かに深くて起伏に富み、心情描写も複雑で屈折した面がある。そして一つずつの曲のテーマ持続性も長くて、それで個人的には勝手に「子供の情景」に対比する意味で「大人の情景」と呼んでいたりする。
ここでの弓張の表現は、Pコンで見せた底抜けに明るくて陽性、そして軽くてハイスピードなピアニズムを封印し、丹念で重く、そして中庸の音価を確実に繋ぎ合わせてシューマンの別の一面を構築して見せている。ある意味では無言歌である「夕べに」に始まるこの曲集は、その演奏設計が難しいと思う。ダイナミックで雄々しいが、純音で美しい「飛翔」の襞の深さは格別の出来映え。和声展開がちょっと変わっている「気まぐれ」の冒頭部、主題が出るまでの苛つく転調の繰り返しに込められた息を呑むような情感の出し入れは素晴らしいとしか言いようがない。そして、混沌とした子供っぽい展開の「寓話」、気紛れで諧謔味が特徴の「愛のもつれ」は指も縺れそうな超絶技巧が要求される曲だがなんともゆとりある懐で難なく弾き進む。この曲集においてシューマンが音型のショーケースに並べた様々な感情のエレメントを、弓張はことごとく巧妙な音たちを動員して明確に提示してくるのだ。音楽の作りが骨太で、かつ明晰で隙のない構築手法、劇的だがレイショナルな解釈は素晴らしいと言わざるを得ない。
こんな演奏をする日本人ピアニストが欧州で活躍している、ということで欧米での評判を知りたくなって大手・著名なレコード通販サイトやダウンロード販売サイトを検索してみた。しかし、奇異なことにレコード番号、演奏者とシューマンの作品名のいずれでも全くヒットしない。それでは、ということでHarmonia Mundi Franceのホームページに行って調べたが一切掲載はなくてレコード番号も該当なしだった。ジャケットやライナーには日本語併記(ちょっとたどたどしくて怪しい日本語だけれども・・)されているけれども、他はどう見ても普通のHarmoni Mundi盤であり、変わったところはない。だが、この盤が欧米で売られていないのはどうやら確からしい。ひょっとすると自費出版に近い形態のリリースなのか、或いはキングインターが発注して録音した盤なのか・・、いずれにせよその辺りは定かではない。
さはさりとて、どんな経緯で作られたCDであれ、演奏そのものはとても優れているし、弓張というピアニストは個性も才能も豊かで、かつこのシューマン・アルバムも秀逸な出来映えであることには違いはないのだ。これは快挙といってよい出来のCDであって、弓張に快哉を送る。
(録音評)
Harmonia Mundi HMC905270、通常CD。録音は、Pコンが2011年3月10日、幻想小曲集が2011年8月14日となっている。場所はいずれもベルリンのテルデックス・スタジオ。音質だが、紛れもないHarmonia Mundiのものであって、音場空間がニュートラルに形成される優れた出来映え。欧州メジャーがテルデックスをなぜ好んで使うのか、だが、それはこのニュートラルな音色と、アンビエント成分を過度に削がない音響特性にあるのであろう。つまりスタジオという閉所であって演奏/制作に没頭できる環境にありながら、仕上がりの音色もライブステージに劣らない品質に出来るという一挙両得が好まれる理由だろう。Pコンの方はちょっと遠くから俯瞰するようなアコースティックな調音としており、また幻想小曲集の方はオンマイク気味でピアノの胴体を間近に窺うアングルで、弓張の微細なキータッチを濃やかに捕捉している。なかなか優秀な録音だ。
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♪ よい音楽を聴きましょう ♫

http://tower.jp/item/3107837/
Schumann:
Piano Concerto Op.54
1. Allegro affettuoso
2. Intermezzo: Andantino grazioso
3. Finale: Allegro vivace
Fantasiestucke Op.12
1 Des Abends D-flat major
2 Aufschwung F minor
3 Warum? D-flat major
4 Grillen D-flat major
5 In der nacht F minor
6 Fabel C major
7 Traumes wirren F major
8 Ende vom Lied F major
Miki Yumihari(Pf)
Deutsches Symphonie-Orchester Berlin / Christian Arming(Cond)
シューマン:
ピアノ協奏曲 イ短調 op.54
1. Allegro affettuoso
2. 間奏曲: Andantino grazioso
3. フィナーレ: Allegro vivace
幻想小曲集 op.12
1. 夕べに 変ニ長調
2. 飛翔 ヘ短調
3. なぜに 変ニ長調
4. 気まぐれ 変ニ長調
5. 夜に ヘ短調
6. 寓話 ハ長調
7. 夢のもつれ ヘ長調
8. 歌の終わり へ長調
弓張美季(ピアノ)
クリスティアン・アルミンク(指揮)、ベルリン・ドイツ交響楽団
弓張美季と言う名は初めて目にした。店頭では割とひっそりとした場所にあって目立たなかったが、ジャケットの裏のコピーライトが2012年だったのであまり気にも留めずにバスケットに放り込んだ一枚。家に持ち帰って眺めるまでは気が付かなかったのであるが、日本人女性ピアニストがHarmonia Mundiに録音するのは実は初めてではなかろうかと思った。
この演奏は実に鮮烈だ。シューマンの特質である底抜けに明るくて、どこまでも蒼く透き通った青空のようなPコンであり、私的にはストライクど真ん中の、ここしかないというピンポイントを抉った解釈と演奏なのだ。弓張というソリスト、そして昨今では露出の多いアルミンクの演奏設計は素晴らしくて、例えば世界的メジャーレーベルのどの同曲リリースよりも優れた録音の一つといって良いだろう。勿論、世界中でリリースされた同曲の全CDを聴いているわけではないが、シューマンのPコン自体、それほどたくさん録音される曲ではない。
弓張のピアノはこのPコンに非常に合った音色であり、即ち、軽量フェザータッチにしてソリッド&ブリリアント。ここのところややウッディなシューマンを聴く機会が多かったので、ここまでメタリックなシューマンは目が覚めるような新鮮さだ。メタリックといっても鋳鉄やステンレス鋼のような荒々しくて無粋な響きではない。さりとて純チタンや純マグネシウムのような非鉄金属特有のカンカンいう音でもない。そう、どちらかというとアルミ合金に近くて、そのなかでもジュラルミンとかシルミンといった内部損失がそこそこあって靱性と軽量性能が両立した、ピアノのブランドで言えばNYスタインウェイそのものの音がするのである。不思議なもので、後でライナーを読み返すと弓張はスタインウェイ・コンクールというコンペティションで賞を獲得しているという。なるほどと膝を打つ聴感一致だ。
最初からの速度感を失わないまま、そして中間楽章から継ぎ目なしにフィナーレへと突入し、そして、ひゅーっと疾風のように駆け抜けて行く爽快感はこの人の持ち味かも知れない。また、アルミンク/ベルリン・ドイツ響の細密で淀みない機敏なバックもまたこの軽量フェザータッチのPfにマッチしていて好感度が大だ。
幻想小曲集は、一転してまるで違う曲想と音色に驚く。この急転した対比は何なのか。ピアノは確かにスタインウェイであるが低域弦に独特の厚みとハーモニクスが乗っていて一聴するとベーゼンドルファーのようなくぐもった音色で湿潤に描かれるシューマンのもう一つの明媚かつ暗鬱な両極端な音世界・・。ピアノを習っていた人であればこの曲集はある意味お馴染みかも知れない。ツェルニー50番と同時に渡されるロマン派教本としてはショパンのOp.10と、この幻想小曲集が多い気がするのだ。この曲集は、組み立てかたと作曲の手法は子供の情景Op.15に酷似している。子供の情景は元々は成長しきった大人が子供の頃を憧憬もしくは懐かしむという趣向で書かれた作品である。この幻想小曲集は子供の情景よりかは旋律・和声ともに彫り込みが遙かに深くて起伏に富み、心情描写も複雑で屈折した面がある。そして一つずつの曲のテーマ持続性も長くて、それで個人的には勝手に「子供の情景」に対比する意味で「大人の情景」と呼んでいたりする。
ここでの弓張の表現は、Pコンで見せた底抜けに明るくて陽性、そして軽くてハイスピードなピアニズムを封印し、丹念で重く、そして中庸の音価を確実に繋ぎ合わせてシューマンの別の一面を構築して見せている。ある意味では無言歌である「夕べに」に始まるこの曲集は、その演奏設計が難しいと思う。ダイナミックで雄々しいが、純音で美しい「飛翔」の襞の深さは格別の出来映え。和声展開がちょっと変わっている「気まぐれ」の冒頭部、主題が出るまでの苛つく転調の繰り返しに込められた息を呑むような情感の出し入れは素晴らしいとしか言いようがない。そして、混沌とした子供っぽい展開の「寓話」、気紛れで諧謔味が特徴の「愛のもつれ」は指も縺れそうな超絶技巧が要求される曲だがなんともゆとりある懐で難なく弾き進む。この曲集においてシューマンが音型のショーケースに並べた様々な感情のエレメントを、弓張はことごとく巧妙な音たちを動員して明確に提示してくるのだ。音楽の作りが骨太で、かつ明晰で隙のない構築手法、劇的だがレイショナルな解釈は素晴らしいと言わざるを得ない。
こんな演奏をする日本人ピアニストが欧州で活躍している、ということで欧米での評判を知りたくなって大手・著名なレコード通販サイトやダウンロード販売サイトを検索してみた。しかし、奇異なことにレコード番号、演奏者とシューマンの作品名のいずれでも全くヒットしない。それでは、ということでHarmonia Mundi Franceのホームページに行って調べたが一切掲載はなくてレコード番号も該当なしだった。ジャケットやライナーには日本語併記(ちょっとたどたどしくて怪しい日本語だけれども・・)されているけれども、他はどう見ても普通のHarmoni Mundi盤であり、変わったところはない。だが、この盤が欧米で売られていないのはどうやら確からしい。ひょっとすると自費出版に近い形態のリリースなのか、或いはキングインターが発注して録音した盤なのか・・、いずれにせよその辺りは定かではない。
さはさりとて、どんな経緯で作られたCDであれ、演奏そのものはとても優れているし、弓張というピアニストは個性も才能も豊かで、かつこのシューマン・アルバムも秀逸な出来映えであることには違いはないのだ。これは快挙といってよい出来のCDであって、弓張に快哉を送る。
(録音評)
Harmonia Mundi HMC905270、通常CD。録音は、Pコンが2011年3月10日、幻想小曲集が2011年8月14日となっている。場所はいずれもベルリンのテルデックス・スタジオ。音質だが、紛れもないHarmonia Mundiのものであって、音場空間がニュートラルに形成される優れた出来映え。欧州メジャーがテルデックスをなぜ好んで使うのか、だが、それはこのニュートラルな音色と、アンビエント成分を過度に削がない音響特性にあるのであろう。つまりスタジオという閉所であって演奏/制作に没頭できる環境にありながら、仕上がりの音色もライブステージに劣らない品質に出来るという一挙両得が好まれる理由だろう。Pコンの方はちょっと遠くから俯瞰するようなアコースティックな調音としており、また幻想小曲集の方はオンマイク気味でピアノの胴体を間近に窺うアングルで、弓張の微細なキータッチを濃やかに捕捉している。なかなか優秀な録音だ。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2012-12-17 01:29
| Concerto - Pf
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