2012年 10月 04日
Schumann: Vc-Con Etc@Ophélie Gaillard, T.Soare/NRO Roumanie |
Apartéレーベルの新譜で、ガイヤールが弾くシューマンのVcコン、およびリストの小品集。サポートはティベリウ・ソアレ/ルーマニア国立放送管弦楽団、リスト小品のピアノ伴奏はデルフィーヌ・バルダン。

http://tower.jp/artist/742068/
Schumann: Cello Concerto in A minor, Op.129
Liszt:
Elegie No.1, S130
Elegie No.2, S131
Romance oubliée, for viola/cello/violin & piano, S132
Die Zelle in Nonnenwerth, S382
La Lugubre Gondola for cello & piano, S134
Orchestre de la Radio Nationale de Roumanie, Tiberiu Soare
Ophélie Gaillard (Vc) & Delphine Bardin (Pf)
シューマン:チェロ協奏曲イ短調 op.129
リスト:
エレジー第1番
エレジー第2番
忘れられたロマンス
ノンネンヴェルトの僧房
悲しみのゴンドラ
オフェリー・ガイヤール(Vc/Francesco Goffriller (1737)=CICより貸与)
デルフィーヌ・バルダン(Pf)=リスト
ルーマニア国立放送管弦楽団、ティベリウ・ソアレ(Cond)
シューマンのチェロ協奏曲は、彼の著名な作品ラインに比較して永らくマイナーな曲と見なされてきた。また、更には独奏楽器の扱いがあまり適切ではない・・・主として高域弦が多用され時にVn音域のダブルストップも要求されそしてカデンツァらしい見せ場もない・・・ことでも不評を買っていたようだ。これらの癖はシューマンの中後期の作品にはよく見られるのであるが、奏者側ではこれらの魅力を引き出すため、その特異性をちゃんと理解しなければならない。それは巨匠パブロ・カザルスが述べた、シューマンのVcコンは「個人が聴くことを望んで出来うる最初から最後まで荘厳な最高傑作のうちの一つ」との賛辞が好例だ。かように、この作品は、優れたチェリストたちの手により現在ではその立ち位置を確立したのであった。
シューマンとリストの関係は、クララの不理解によってしばしば不明瞭なものとされていた。またリスト自身は時々シューマンに嫉妬しつつも、抜きん出た彼の才能を誰よりも認識、理解していたようだ。そして、周囲の理解が得られず概ね不評であった作品たちをワイマールにて自身で度々タクトを振って初演したりしていたのだという。しかし、彼は経済的理由・・・貴重な収入源・・・としてこれらのシューマン原作の譜面の編曲に頼っていた一面もある、というのが本当の背景だったのかも知れないが。尚、リストがこの"一風変わった"Vcコンの存在を知っていたかどうかは、いろいろと調べてみたが判然としない。
ガイヤールはこのアルバムの後半部分にVc独奏(with Pf伴奏)の作品を5個選んで並べた。最初の二つはリストが若い頃に書いた歌曲でPf伴奏を想定したもの。残りの三つは晩年の作品であり、冷静かつ大胆な語り口を示す。もともとバロック音楽のスペシャリストとして売り出したガイヤールは、実はロマン派のレパートリーもこれまた得意であって、かつ好んでいるようなのだ。
さて、このアルバムの出来映えだが、結論から言うと身震いするほどに素敵でアーティスティックなプレゼンスに満ちている。シューマンのVcコンは全編が繋がっていて長大な単一楽章と捉えられる作品で、とりあえずは三つの楽章に別れてはいるがその境界は曖昧、なだらかな曲想変位を示す。シューマンの作品は長調のものがおしなべてその明媚で陽性な特徴を放散しているが、このVcコンはイ短調が主調とされている。確かにアンニュイでマイナー進行の旋律ではあるが定時的に挟まる陽転の展開がシューマンの天性の明るい気質を隠し切れないでいる風だ。チェロのソロパートは独奏楽器というよりかはオーケストレーションに溶け込んで寄り添う主席Vc奏者のような役割が与えられている。しかし、ガイヤールはその不利なポジショニングを一皮剥いだアグレッシブな表現を展開していて実に洒脱、軽妙かつ独特の色香も漂わせる立ち位置を示している。無理はしないまでも、シューマンの明の部分を積極的にマグニファイしてオケを牽引しているのだ。反面、時折不意に暗転する旋律のやるせなさが独特の噎び泣きによって克明に刻まれている。確かに、楽譜上は低音弦にあたる部分まで下がってそこに留まりつつ野太く人間的な慟哭を聴かせる作品ではない。ガイヤールの演奏は、そういった不利なハンディを補って余りある多面性・多様性・意外性を中高域部にて駆使した素晴らしい解釈だと思う。
残りの部分は珠玉と言ってよいリスト作品が並んでいる。リストという作家の、ある意味で深層心理、つまり裏の意外な一面を抉った玄人好みの作品ばかりを選んだ感じなのだ。冒頭の二つのエレジーは、暗い背景が基調にある、勁(つよ)い作風の佳作であり、ここは、前半のシューマンVcコンでついぞ聴かれなかった低音弦の明晰な呟きが堪能できるところ。ある種の欲求不満から解放してくれるこのアルバムにおける展開部とも言えるパートだ。忘れられたロマンス~最後までは、これまた渋くたゆたうリスト晩年のどろっとした旋律に不思議な浮遊感を伴った和声が乗った独特の作品群だ。使われている耳に残る特徴的な和声は、そのエッセンスが後のフォーレの作品でも多用されているコード進行に極めて似ていて、このハンガリー出身の孤高の大家がフランス印象楽派に与えた影響は多大だったのだろうと改めて思い知る。
ルーマニアのオケはマイナーだが実に巧者であって抜かりはない。また後半の伴奏を努めるデルフィーヌ・バルダンのPfはガイヤールのメランコリックな弦捌きとマッチしていて霊妙、とても良い雰囲気なのだ。
(録音評)
Aparté AP031、通常CD。録音はRadio Romania ConcertHall=シューマン、IRCAM(Institut de Recherche et Coordination Acoustique/Musique: ポンピドゥー・センター)=リストとある。録音年月日は記載されていないがコピーライト表示は2012年となっている。音質はApartéの特徴である聴感上の軽量感に抜群の音楽性を付加した優秀なもの。Apartéは資本や配給こそHarmonia Mundiのラインだが、アンビエントの作りとしてはnaïveに似ており、また直進的でピュアな楽器の捉え方はBISに類似している。オーディオ・ファイル的な聴き方をすると凡庸なのかも知れないが、これまた普段着の生成(きなり)の雰囲気が再生できるかどうかが鍵となる。再生に成功すれば極々自然なサウンドステージ、および明晰な音像が眼前に出現するはずだ。
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♪ よい音楽を聴きましょう ♫

http://tower.jp/artist/742068/
Schumann: Cello Concerto in A minor, Op.129
Liszt:
Elegie No.1, S130
Elegie No.2, S131
Romance oubliée, for viola/cello/violin & piano, S132
Die Zelle in Nonnenwerth, S382
La Lugubre Gondola for cello & piano, S134
Orchestre de la Radio Nationale de Roumanie, Tiberiu Soare
Ophélie Gaillard (Vc) & Delphine Bardin (Pf)
シューマン:チェロ協奏曲イ短調 op.129
リスト:
エレジー第1番
エレジー第2番
忘れられたロマンス
ノンネンヴェルトの僧房
悲しみのゴンドラ
オフェリー・ガイヤール(Vc/Francesco Goffriller (1737)=CICより貸与)
デルフィーヌ・バルダン(Pf)=リスト
ルーマニア国立放送管弦楽団、ティベリウ・ソアレ(Cond)
シューマンのチェロ協奏曲は、彼の著名な作品ラインに比較して永らくマイナーな曲と見なされてきた。また、更には独奏楽器の扱いがあまり適切ではない・・・主として高域弦が多用され時にVn音域のダブルストップも要求されそしてカデンツァらしい見せ場もない・・・ことでも不評を買っていたようだ。これらの癖はシューマンの中後期の作品にはよく見られるのであるが、奏者側ではこれらの魅力を引き出すため、その特異性をちゃんと理解しなければならない。それは巨匠パブロ・カザルスが述べた、シューマンのVcコンは「個人が聴くことを望んで出来うる最初から最後まで荘厳な最高傑作のうちの一つ」との賛辞が好例だ。かように、この作品は、優れたチェリストたちの手により現在ではその立ち位置を確立したのであった。
シューマンとリストの関係は、クララの不理解によってしばしば不明瞭なものとされていた。またリスト自身は時々シューマンに嫉妬しつつも、抜きん出た彼の才能を誰よりも認識、理解していたようだ。そして、周囲の理解が得られず概ね不評であった作品たちをワイマールにて自身で度々タクトを振って初演したりしていたのだという。しかし、彼は経済的理由・・・貴重な収入源・・・としてこれらのシューマン原作の譜面の編曲に頼っていた一面もある、というのが本当の背景だったのかも知れないが。尚、リストがこの"一風変わった"Vcコンの存在を知っていたかどうかは、いろいろと調べてみたが判然としない。
ガイヤールはこのアルバムの後半部分にVc独奏(with Pf伴奏)の作品を5個選んで並べた。最初の二つはリストが若い頃に書いた歌曲でPf伴奏を想定したもの。残りの三つは晩年の作品であり、冷静かつ大胆な語り口を示す。もともとバロック音楽のスペシャリストとして売り出したガイヤールは、実はロマン派のレパートリーもこれまた得意であって、かつ好んでいるようなのだ。
さて、このアルバムの出来映えだが、結論から言うと身震いするほどに素敵でアーティスティックなプレゼンスに満ちている。シューマンのVcコンは全編が繋がっていて長大な単一楽章と捉えられる作品で、とりあえずは三つの楽章に別れてはいるがその境界は曖昧、なだらかな曲想変位を示す。シューマンの作品は長調のものがおしなべてその明媚で陽性な特徴を放散しているが、このVcコンはイ短調が主調とされている。確かにアンニュイでマイナー進行の旋律ではあるが定時的に挟まる陽転の展開がシューマンの天性の明るい気質を隠し切れないでいる風だ。チェロのソロパートは独奏楽器というよりかはオーケストレーションに溶け込んで寄り添う主席Vc奏者のような役割が与えられている。しかし、ガイヤールはその不利なポジショニングを一皮剥いだアグレッシブな表現を展開していて実に洒脱、軽妙かつ独特の色香も漂わせる立ち位置を示している。無理はしないまでも、シューマンの明の部分を積極的にマグニファイしてオケを牽引しているのだ。反面、時折不意に暗転する旋律のやるせなさが独特の噎び泣きによって克明に刻まれている。確かに、楽譜上は低音弦にあたる部分まで下がってそこに留まりつつ野太く人間的な慟哭を聴かせる作品ではない。ガイヤールの演奏は、そういった不利なハンディを補って余りある多面性・多様性・意外性を中高域部にて駆使した素晴らしい解釈だと思う。
残りの部分は珠玉と言ってよいリスト作品が並んでいる。リストという作家の、ある意味で深層心理、つまり裏の意外な一面を抉った玄人好みの作品ばかりを選んだ感じなのだ。冒頭の二つのエレジーは、暗い背景が基調にある、勁(つよ)い作風の佳作であり、ここは、前半のシューマンVcコンでついぞ聴かれなかった低音弦の明晰な呟きが堪能できるところ。ある種の欲求不満から解放してくれるこのアルバムにおける展開部とも言えるパートだ。忘れられたロマンス~最後までは、これまた渋くたゆたうリスト晩年のどろっとした旋律に不思議な浮遊感を伴った和声が乗った独特の作品群だ。使われている耳に残る特徴的な和声は、そのエッセンスが後のフォーレの作品でも多用されているコード進行に極めて似ていて、このハンガリー出身の孤高の大家がフランス印象楽派に与えた影響は多大だったのだろうと改めて思い知る。
ルーマニアのオケはマイナーだが実に巧者であって抜かりはない。また後半の伴奏を努めるデルフィーヌ・バルダンのPfはガイヤールのメランコリックな弦捌きとマッチしていて霊妙、とても良い雰囲気なのだ。
(録音評)
Aparté AP031、通常CD。録音はRadio Romania ConcertHall=シューマン、IRCAM(Institut de Recherche et Coordination Acoustique/Musique: ポンピドゥー・センター)=リストとある。録音年月日は記載されていないがコピーライト表示は2012年となっている。音質はApartéの特徴である聴感上の軽量感に抜群の音楽性を付加した優秀なもの。Apartéは資本や配給こそHarmonia Mundiのラインだが、アンビエントの作りとしてはnaïveに似ており、また直進的でピュアな楽器の捉え方はBISに類似している。オーディオ・ファイル的な聴き方をすると凡庸なのかも知れないが、これまた普段着の生成(きなり)の雰囲気が再生できるかどうかが鍵となる。再生に成功すれば極々自然なサウンドステージ、および明晰な音像が眼前に出現するはずだ。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2012-10-04 00:28
| Orchestral
|
Trackback
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Comments(2)

おはようございます。あ、おめでとうございます、ですか(^^;
どうぞ、本年もよろしくお願いいたします。
今年の初鳴らしはガイヤールちゃんのシューマンとマリ=ル・ゲさんのロシアの旅、この正月は鳥居さんがくぐれないものですので当方の気持ちに沿ったちょいと渋めな趣の音楽をかけております。
今年は、いや、今年こそはw皆様にとり良い年となりますことをお祈りします。
また、マスターさまには今年も良い音楽へのお導きをお願いいたします。
ではでは。
どうぞ、本年もよろしくお願いいたします。
今年の初鳴らしはガイヤールちゃんのシューマンとマリ=ル・ゲさんのロシアの旅、この正月は鳥居さんがくぐれないものですので当方の気持ちに沿ったちょいと渋めな趣の音楽をかけております。
今年は、いや、今年こそはw皆様にとり良い年となりますことをお祈りします。
また、マスターさまには今年も良い音楽へのお導きをお願いいたします。
ではでは。
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koyama さん
旧年中もMusicArenaをご支持くださり誠にありがとうございます。
今年もご期待に添えるよう一つでも多くの評を書いてまいりたいと思います。ガイヤール&ルゲとは本当に渋いです。koyamaさんにとって今年は佳い年でありますようお祈り致しております。
旧年中もMusicArenaをご支持くださり誠にありがとうございます。
今年もご期待に添えるよう一つでも多くの評を書いてまいりたいと思います。ガイヤール&ルゲとは本当に渋いです。koyamaさんにとって今年は佳い年でありますようお祈り致しております。