Bizet, Chabrier: Orchestral Works@Francois Xavier Roth/Les Siecles |

http://tower.jp/item/2345088/
Bizet and Chabrier: Orchestral Works
Bizet: Symphony in C maj.
Chabrier: Suite Pastorale
Bizet: Jeux d'enfants (Petite Suite), Op. 22
Francois Xavier Roth(Cond), Les Siecles
ビゼー: 交響曲 ハ長調
シャブリエ: 田園組曲
ビゼー: 組曲「子供の遊び」 Op.22
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)、ル・シエクル
ロトの名は主席指揮者就任お披露目でのマラ1で知った。地味で愚直だが頭に貼り付くこのマーラー解釈は今年聴いた中でも上位に来る異色の出来映えだった。その後暫く経ったが何とはなく気になっていて、いつかは今の前に担当したことのあるオケ、あるいは出来れば、彼自身が創設したというピリオド・オケのル・シエクルを含め、過去の録音を聴いてみたいと漠然と思っていた。そうしたところ店頭でこれに出会ったという次第。
最初と最後がビゼーの作品で、どちらもあまり有名でないかも知れないがこれはこれで色々な時代背景が含まれた、また色んな有名作家のエッセンスも感じられる佳作である。ビゼーといえばカルメンとアルルの女なのだが、標題音楽の対極に位置する交響曲はあまり有名ではない。その交響曲は2~3曲を書いたらしいのであるが現存する譜面はこの屈託のないハ長調のこれのみだ。時代的背景のためか旋律はシンプルかつ飛躍のない手堅いもので、ザルツブルクのモーツァルトっぽい脳天気さが感じられる。一方、割とダイナミックに聴かせる和声はベートーヴェンからの影響が色濃いようで、力強い色彩とエナジーを前面に押し出したものだ。但し、驚愕するような鮮烈さは持ちあわせず、どこかに先達たちのフレーバーを感じてしまう。最後に入っている子供の遊びは、ピアノ連弾曲からビゼー自身が幾つか選んでオーケストレーションした作品。こちらにはオペラ的なウィットに飛んだ旋律展開、意外性を伴った和声展開が見られて興味深い。アルルの女に慣れた耳にはこちらの作品の方がビゼー色が味わえるのかも知れない。但し、一つ一つの曲は極めて短く、もうちょっと深堀りした展開も聴いてみたいな、と思ったところで次に移るのだ。
このアルバムにおける白眉はシャブリエだ。この田園組曲は、前に入っているビゼーの子供の遊びと同じくピアノ組曲が原曲となり、その中からシャブリエ自身が4曲を選んでオーケストレーションした作品だ。原題はDix pieces pittoresques=「10の絵画風小品」という。但しこれらは連弾ではなくてピアノ独奏譜である。この曲のオケ版は探してみたが手元にはCDはなかった。しかし、なぜか堅固な脳内定位をしていて、多分どこかで聴いたことがあるはずだ。恐らく東フィルか読響の定期に組み込まれていたプログラムをどこかのホールで聴いた記憶だろう。
一方、原曲のピアノ独奏版は、シュトロッセが録音した全曲バージョンが手元にある。シュトロッセのピアノ独奏版とロト/ル・シエクルのこのオケ版を聞き比べると大変に面白い。オケ版である田園組曲の第1~2曲はピアノ版では第6~7番に相当する。10の絵画風小品は相当な超絶技巧を要する難曲であり、ピアノ一台で人を唸らせることはなかなか困難と思われる。しかし、オケ版では様々な楽器が使える上に高速パッセージは各パートが分担して素早く弾き抜ければ速度感は一定の速さを保つことが出来る。そして、ピアノ場合にはトリルや装飾音符、微細な分散和音、付点音符を縦横に鏤めることによりエスプリを表現しているのに対し、オケ版ではフルートとリード系木管楽器を組み合わせて軽妙な陰影を付けることに成功している。このIdylle(牧歌)、Danse villageoise(村の踊り) におけるロト/ル・シエクルの演奏は素晴らしいのひとこと。オーケストレーションすることによるメロディ・ラインの混濁や和声部の膨満は認められず、ピアノ独奏における引き締まったシャープなアウトラインをそのまま引き継いでいる。最後まで聴き終えた後もDanse villageoiseの独特のリフレインが頭内を駆け巡るのだった。
(録音評)
MIRARE MIR036、通常CD。録音は2007年1月、場所はCité des Congrés de Nantes、つまりラ・フォル・ジュルネの主会場である。音質は地味すぎるので一聴するとどうということのない普通の録音だと思ってしまうのであるが、よくよく聴き込むと非常に奥深い漆黒のサウンドステージに、オケの各パートの楽器一挺一挺が絞り込まれたピン・フォーカスでもってリアルに点描されているのが見えるのだ。ロトの実直かつ飾らないリードと音作りとがマッチした造作であって、なかなかに大人の調音なのであった。音楽的には非常に面白いが、オーディオ的に見ても装置の普段の実力が試されるという点においては興味惹かれる一枚だ。つまり、こういったナチュラルな階調がごく普通にさりげなく再現できるかどうかが聴きどころとなる。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫