2012年 09月 03日
Nielsen & Tchaikovsky: Vn-Cons@Vilde Frang, E.G.Jensen/Danish RSO |
ノルウェー出身の気鋭Vnソリスト、ヴィルデ・フラングが弾くチャイコンとニールセンのVnコン。フラングのEMIデビューから数えて三枚目のアルバムという。

http://tower.jp/item/3102274/
Nielsen & Tchaikovsky: Violin Concertos
Tchaikovsky: Violin Concerto in D major, Op.35
Allegro moderato
Canzonetta: Andante
Finale: Allegro vivacissimo
Nielsen: Violin Concerto, Op.33 (FS61)
Praeludium: Largo - Allegro cavalleresco
Intermezzo: Poco adagio - Rondo: Allegretto scherzando
Vilde Frang (Vn)
Danish Radio Symphony Orchestra, Eivind Gullberg Jensen
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35
ニールセン:ヴァイオリン協奏曲作品33
ヴィルデ・フラング(ヴァイオリン)
エイヴィン・グルベルグ・イェンセン指揮・デンマーク国立交響楽団
ノルディック(=北欧、即ち、名の知れた作曲家を輩出している国で言えば一般的にはデンマーク、フィンランド、ノルウェー、及びスウェーデン: このうちデンマーク、ノルウェー、スウェーデンを特段にスカンジナヴィアとも言う)の作品とロシアの作品を並べたアルバムは少ないと思う。どうも、フラングのEMIデビュー盤はシベリウスとプロコフィエフを並べたアルバムだったようだ。この盤は2010年1月に全欧リリースされているのだが、何故か国内ではほんの2ヶ月ほど前にEMIジャパンから輸入盤が再発(新発?)となっている。因みにこの盤は未聴。
デビュー盤に付けられたEMIジャパンのコメントによれば、ヴィルデ・フラングは1986年ノルウェー生まれ、オスロで音楽を始めハンブルクの高等音楽院でコリア・ブラッハーに師事。間もなくクロンベルク・アカデミーでアナ・チュマチェンコに師事、アンネ=ゾフィ・ムター基金のスカラシップを獲得。10歳でノルウェーでデビューして後、ヤンソンスの注目がきっかけとなって国際的に活躍を始めスカンディナヴィア、英国、ドイツ、オーストリア、スイス、バルト諸国、US、シンガポール、台湾のオーケストラと共演。音楽祭にも参加し、シャンベリのベル・エア・フェスではアルゲリッチ、カプソン兄弟、クレーメル、バシュメット、ヴェンゲーロフと共演。2008年、スカンディナヴィア、2009年USのツアーでは、ムターとバッハの二重協奏曲で共演。2008年11月にはMats Ek.の新作バレエ「レティカ」でオケ・ピット内でブラームスのヴァイオリン協奏曲を弾くという珍しい試みにも参加(王立スウェーデン・バレエ)。
EMIレーベルは東芝が永らく共同保有してきた名門レコード会社だが、数年前に東芝が保有株式の全てを英国本国のEMIに売却し音楽産業からは撤退していた。そしてつい最近になって、英国EMIはソニーに音源資産ごと買い取られることとなり、今や世界最大の音楽レーベル=ソニー・グループの一員となっている。さはさりとて、EMIはとりもなおさずクラシック盤の世界では名門中の名門であり今まで幾多の著名ソリストが在籍し夥しい名録音を残している。また、それほど活発ではないものの、有望でハイセンスな新人発掘も行っており、このフラングもそういった中で見いだされてきた一人と言えようか。フラングは上述の経緯からか巷間ではムターの秘蔵っ子などとと喧伝されているようであるが、それは単なるセールストークであろう。だが、ムター基金を得たり当代切っての大御所ヤンソンスが注目するというのは尋常ならざる実力の持ち主であることは間違いはないところであろう。
このフラングのチャイコンだが、余りにもベタ過ぎる選曲であるため明晰な論評は出来ない。とにかく瑕疵の全くない、それでいて良く歌うチャイコンであり、またVnの旋律展開、あるいはカデンツァには力のある独特の節回しが付けられていて聴いていて楽しいし、なかなかに度胸のある捌きを見せている。度胸があって堂々としているといえばロシア出身のイブラギモヴァが脳裏に浮かぶが、イブラギモヴァほどの筋肉質ではなくて、優美でおとなしく、可憐な表情も垣間見られる。ちょっと系列は違うけれども、少し前までソニーに在籍していたバイバ・スクリデのまろび出るふくよかな音作りに似たところがある。あまり特徴的なところが感じられなかったこのチャイコンだが、何度か聴いていると滲み出る巧さ、よくよく考え抜かれた独奏設計が見えてきて周到な演奏であることがわかる。新しいチャイコン録音としては新スタンダードに選んでも差し支えないほどハイレベルな演奏である。
やはりこのアルバムの中心はニールセンだ。この2楽章形式の大規模協奏曲はロマンティックでありながらちょっと変わった和声が塗り込められた独特、孤高のVnコンだ。2楽章形式ではあるが、それぞれが前半と後半に別れた成り立ちをしているため全4楽章形式といっても構わない構造である。旋律は謎めいたところがありながらデリカシーとシンプルさが感じられて魅惑的だ。また魔術的に美しい和声が断片的に現れ、堂々とした広大な空間感を演出しているのは北欧の作家に共通した特徴だろうか。ニールセンと同郷であるフラングはこの作品を録音することを熱望して来たと言い、これをもってニールセンの熱烈な支持者/推進者となりたいとの意思表示なのかも知れない。フラングの演奏はチャイコンの時とはまるで別人のように動的で闊達、そして明媚な色彩感に溢れた多彩な解釈を示している。やはり郷土作家の作品への思い入れ方はちょっと違うと言うべきであろうか。
尚、エイヴィン・グルベルグ・イェンセン/デンマーク国立交響楽団のサポートはなかなかの出来映えであって、これまた瑕疵のない高水準の演奏である。低音~中高音に至るまで荒れやミスのない緻密で美しいハーモニーが構築されている。テクニック的にはSFSOに通じるものがありながらちょっと冷涼な風情を醸すあたりはかつてのヴァンスカ/オスロ・フィルに類似したプレゼンスを感じさせてくれる。
目下、フラングのデビュー盤であるプロコ/シベリウスが気になっていて、恐らく早晩買ってしまうのであろう・・。
(録音評)
EMI 6025702、通常CD。録音は2011年8月29-31日、場所はDanish Radio Koncerthuset, Copenhagen, Denmark、プロデューサー Jorn Pedersen、トーンマイスター Jan Oldrup、エディター Julia Thomas、ミキシング Philip Hobbsとある。音質も仕上がりの程度も流石と言わざるを得ない完成度だ。余計で目立つ嫌な音が全く入っておらず、演奏内容やオケの方向性とも合致した無混濁でちょっとクールなピュア・サウンドが心地良い。また、下から上までのf特はフラット基調で地味であり、かつダイナミックレンジも極めて広い。世界を代表する名門レーベルが一定の品質管理手法の下に作り上げる現代録音とはかくあるべし、との矜持が感じられる一枚。こういったお手本的な録音が、良い意味でソニー・グループ全体へ大いに影響を与えて欲しいものと期待する。
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http://tower.jp/item/3102274/
Nielsen & Tchaikovsky: Violin Concertos
Tchaikovsky: Violin Concerto in D major, Op.35
Allegro moderato
Canzonetta: Andante
Finale: Allegro vivacissimo
Nielsen: Violin Concerto, Op.33 (FS61)
Praeludium: Largo - Allegro cavalleresco
Intermezzo: Poco adagio - Rondo: Allegretto scherzando
Vilde Frang (Vn)
Danish Radio Symphony Orchestra, Eivind Gullberg Jensen
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35
ニールセン:ヴァイオリン協奏曲作品33
ヴィルデ・フラング(ヴァイオリン)
エイヴィン・グルベルグ・イェンセン指揮・デンマーク国立交響楽団
ノルディック(=北欧、即ち、名の知れた作曲家を輩出している国で言えば一般的にはデンマーク、フィンランド、ノルウェー、及びスウェーデン: このうちデンマーク、ノルウェー、スウェーデンを特段にスカンジナヴィアとも言う)の作品とロシアの作品を並べたアルバムは少ないと思う。どうも、フラングのEMIデビュー盤はシベリウスとプロコフィエフを並べたアルバムだったようだ。この盤は2010年1月に全欧リリースされているのだが、何故か国内ではほんの2ヶ月ほど前にEMIジャパンから輸入盤が再発(新発?)となっている。因みにこの盤は未聴。
デビュー盤に付けられたEMIジャパンのコメントによれば、ヴィルデ・フラングは1986年ノルウェー生まれ、オスロで音楽を始めハンブルクの高等音楽院でコリア・ブラッハーに師事。間もなくクロンベルク・アカデミーでアナ・チュマチェンコに師事、アンネ=ゾフィ・ムター基金のスカラシップを獲得。10歳でノルウェーでデビューして後、ヤンソンスの注目がきっかけとなって国際的に活躍を始めスカンディナヴィア、英国、ドイツ、オーストリア、スイス、バルト諸国、US、シンガポール、台湾のオーケストラと共演。音楽祭にも参加し、シャンベリのベル・エア・フェスではアルゲリッチ、カプソン兄弟、クレーメル、バシュメット、ヴェンゲーロフと共演。2008年、スカンディナヴィア、2009年USのツアーでは、ムターとバッハの二重協奏曲で共演。2008年11月にはMats Ek.の新作バレエ「レティカ」でオケ・ピット内でブラームスのヴァイオリン協奏曲を弾くという珍しい試みにも参加(王立スウェーデン・バレエ)。
EMIレーベルは東芝が永らく共同保有してきた名門レコード会社だが、数年前に東芝が保有株式の全てを英国本国のEMIに売却し音楽産業からは撤退していた。そしてつい最近になって、英国EMIはソニーに音源資産ごと買い取られることとなり、今や世界最大の音楽レーベル=ソニー・グループの一員となっている。さはさりとて、EMIはとりもなおさずクラシック盤の世界では名門中の名門であり今まで幾多の著名ソリストが在籍し夥しい名録音を残している。また、それほど活発ではないものの、有望でハイセンスな新人発掘も行っており、このフラングもそういった中で見いだされてきた一人と言えようか。フラングは上述の経緯からか巷間ではムターの秘蔵っ子などとと喧伝されているようであるが、それは単なるセールストークであろう。だが、ムター基金を得たり当代切っての大御所ヤンソンスが注目するというのは尋常ならざる実力の持ち主であることは間違いはないところであろう。
このフラングのチャイコンだが、余りにもベタ過ぎる選曲であるため明晰な論評は出来ない。とにかく瑕疵の全くない、それでいて良く歌うチャイコンであり、またVnの旋律展開、あるいはカデンツァには力のある独特の節回しが付けられていて聴いていて楽しいし、なかなかに度胸のある捌きを見せている。度胸があって堂々としているといえばロシア出身のイブラギモヴァが脳裏に浮かぶが、イブラギモヴァほどの筋肉質ではなくて、優美でおとなしく、可憐な表情も垣間見られる。ちょっと系列は違うけれども、少し前までソニーに在籍していたバイバ・スクリデのまろび出るふくよかな音作りに似たところがある。あまり特徴的なところが感じられなかったこのチャイコンだが、何度か聴いていると滲み出る巧さ、よくよく考え抜かれた独奏設計が見えてきて周到な演奏であることがわかる。新しいチャイコン録音としては新スタンダードに選んでも差し支えないほどハイレベルな演奏である。
やはりこのアルバムの中心はニールセンだ。この2楽章形式の大規模協奏曲はロマンティックでありながらちょっと変わった和声が塗り込められた独特、孤高のVnコンだ。2楽章形式ではあるが、それぞれが前半と後半に別れた成り立ちをしているため全4楽章形式といっても構わない構造である。旋律は謎めいたところがありながらデリカシーとシンプルさが感じられて魅惑的だ。また魔術的に美しい和声が断片的に現れ、堂々とした広大な空間感を演出しているのは北欧の作家に共通した特徴だろうか。ニールセンと同郷であるフラングはこの作品を録音することを熱望して来たと言い、これをもってニールセンの熱烈な支持者/推進者となりたいとの意思表示なのかも知れない。フラングの演奏はチャイコンの時とはまるで別人のように動的で闊達、そして明媚な色彩感に溢れた多彩な解釈を示している。やはり郷土作家の作品への思い入れ方はちょっと違うと言うべきであろうか。
尚、エイヴィン・グルベルグ・イェンセン/デンマーク国立交響楽団のサポートはなかなかの出来映えであって、これまた瑕疵のない高水準の演奏である。低音~中高音に至るまで荒れやミスのない緻密で美しいハーモニーが構築されている。テクニック的にはSFSOに通じるものがありながらちょっと冷涼な風情を醸すあたりはかつてのヴァンスカ/オスロ・フィルに類似したプレゼンスを感じさせてくれる。
目下、フラングのデビュー盤であるプロコ/シベリウスが気になっていて、恐らく早晩買ってしまうのであろう・・。
(録音評)
EMI 6025702、通常CD。録音は2011年8月29-31日、場所はDanish Radio Koncerthuset, Copenhagen, Denmark、プロデューサー Jorn Pedersen、トーンマイスター Jan Oldrup、エディター Julia Thomas、ミキシング Philip Hobbsとある。音質も仕上がりの程度も流石と言わざるを得ない完成度だ。余計で目立つ嫌な音が全く入っておらず、演奏内容やオケの方向性とも合致した無混濁でちょっとクールなピュア・サウンドが心地良い。また、下から上までのf特はフラット基調で地味であり、かつダイナミックレンジも極めて広い。世界を代表する名門レーベルが一定の品質管理手法の下に作り上げる現代録音とはかくあるべし、との矜持が感じられる一枚。こういったお手本的な録音が、良い意味でソニー・グループ全体へ大いに影響を与えて欲しいものと期待する。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2012-09-03 00:03
| Concerto - Vn
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