2012年 08月 27日
Balakirev: P-Sonata, Islamey Etc@Etsuko Hirose |
広瀬悦子のMIRAREでの3枚目のアルバムはバラキレフだった。ちょっと前に買ってから頻繁に聴いている。親しい仲間内のオフ会でも初対面のお宅訪問でも持参して掛けていて、ちょっとしたヘビロテとなっている一枚。

http://tower.jp/item/3086112/
Mily Balakirev: Piano Works
Une vie pour le Tsar (A life for the Tsar)
Au jardin Etude - idylle en re bemol majeur (D flat major)
Toccata
Piano sonata in B flat minor
- Andantino / Mazurka / Intermezzo / Finale
L'Alouette (The Lark)
Islamey
Etsuko Hirose(Pf)
ミリイ・バラキレフ(1837-1910):作品集
1. グリンカ/バラキレフ:皇帝に捧げた命(1855-1899)
バラキレフ:
2. 庭園にて(1884)
3. トッカータ(1902)
4. ソナタ 変ロ短調(1850-1905)
5. グリンカ/バラキレフ:ひばり(1855-1899)
6. バラキレフ:イスラメイ(1869)
広瀬悦子(ピアノ)
バラキレフはロシア五人組の中心的人物であり、ロシア民族楽派のグリンカが自らの後継者として認めて親交を深めていた時の重鎮的な作曲家だ。日本国内ではあまり熱心に演奏されていないようだが、その熱情的で牽引力の強いメロディ・ラインは欧州では人気がある。
冒頭の皇帝に捧げた命は、グリンカが1836年に作曲した同名のロシア語オペラから主題を引用して書かれた作品で、力強くてセンチメンタルな作品だ。広瀬が今まで聴かせたことのない重厚なピアニズムが縦横に展開され面食らってしまった。とにかく深くて強いタッチで、かつ音数が非常に多いわりには全く騒々しくないという典型的な巧いピアノである。
このアルバムの中心と思われるPソナタ(一般的には第2番とされる)は、ショパンやシューマン的なロマンチシズムに満ちた優美で憂愁な旋律と、直進的でダイナミック、そしてシンプルな構造を伴ったリスト的な強い旋律が交錯する大規模ソナタだ。右手と左手の旋律交代が頻繁な難曲と思われるのであるが、そういった技巧的な側面を殆ど表に見せない流麗な演奏設計は広瀬の特徴で、左右ともに難なく軽やかに弾き抜けていく。
ひばりもグリンカの歌曲集からの編曲であり、とにかく美しくて切ない旋律だ。特に右手の緻密かつ繊細なトリルとトレモロで表現される雲雀の鳴き声を擬制するスケールが素晴らしい。ここまで精密で熱気を帯びたピアノ版ひばりはあまり聴いたことはない。広瀬のピアノは本当に巧い。
最後に入っているイスラメイは知る人ぞ知る難曲中の難曲とされ、古くからその時代のヴィルトゥオーゾが自らのテクニックを披露するために用いたりしているし、世のアマチュア好事家が自らの指回りの高速性・正確性を誇示するためにYouTubeなどに演奏風景をアップロードしている例が多く観察される。つまりこの曲に関する高速演奏性能のみを競っているふうに見えるのだ。
この作品の勇壮で直進性の強いメロディーラインと独特の民族性を内包した和声はある意味魅惑的だが、一方では楽曲的・譜面的には単調で起伏が少ないように思っていた。しかし、この広瀬の演奏を聴いていままでのこうした考えが変わった。純粋技巧的にはリストの練習曲などの方が難度が高いかも知れないが、この曲を音楽的に昇華させたうえでうまくまとめ上げて作品としてちゃんと聴かせるにはそれ相応のテクニックと表現力、それと胆力が必要と思わされるのであった。
広瀬の今後の更なる活躍と飛翔を暗示させられる、非常に面白い一枚である。
(録音評)
MIRARE MIR181、通常CD。録音は2012年2月、場所はCité Nantes Events Centerで、ラ・フォル・ジュルネ・ナント2012 Le Sacre Russeプログラムの一部として制作された一枚である。音質は重厚かつ深いアンビエントに支えられた優れたもので、定位が素晴らしく、かつピアノのアタック音と広瀬の気配感が非常にリアルだ。
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♪ よい音楽を聴きましょう ♫

http://tower.jp/item/3086112/
Mily Balakirev: Piano Works
Une vie pour le Tsar (A life for the Tsar)
Au jardin Etude - idylle en re bemol majeur (D flat major)
Toccata
Piano sonata in B flat minor
- Andantino / Mazurka / Intermezzo / Finale
L'Alouette (The Lark)
Islamey
Etsuko Hirose(Pf)
ミリイ・バラキレフ(1837-1910):作品集
1. グリンカ/バラキレフ:皇帝に捧げた命(1855-1899)
バラキレフ:
2. 庭園にて(1884)
3. トッカータ(1902)
4. ソナタ 変ロ短調(1850-1905)
5. グリンカ/バラキレフ:ひばり(1855-1899)
6. バラキレフ:イスラメイ(1869)
広瀬悦子(ピアノ)
バラキレフはロシア五人組の中心的人物であり、ロシア民族楽派のグリンカが自らの後継者として認めて親交を深めていた時の重鎮的な作曲家だ。日本国内ではあまり熱心に演奏されていないようだが、その熱情的で牽引力の強いメロディ・ラインは欧州では人気がある。
冒頭の皇帝に捧げた命は、グリンカが1836年に作曲した同名のロシア語オペラから主題を引用して書かれた作品で、力強くてセンチメンタルな作品だ。広瀬が今まで聴かせたことのない重厚なピアニズムが縦横に展開され面食らってしまった。とにかく深くて強いタッチで、かつ音数が非常に多いわりには全く騒々しくないという典型的な巧いピアノである。
このアルバムの中心と思われるPソナタ(一般的には第2番とされる)は、ショパンやシューマン的なロマンチシズムに満ちた優美で憂愁な旋律と、直進的でダイナミック、そしてシンプルな構造を伴ったリスト的な強い旋律が交錯する大規模ソナタだ。右手と左手の旋律交代が頻繁な難曲と思われるのであるが、そういった技巧的な側面を殆ど表に見せない流麗な演奏設計は広瀬の特徴で、左右ともに難なく軽やかに弾き抜けていく。
ひばりもグリンカの歌曲集からの編曲であり、とにかく美しくて切ない旋律だ。特に右手の緻密かつ繊細なトリルとトレモロで表現される雲雀の鳴き声を擬制するスケールが素晴らしい。ここまで精密で熱気を帯びたピアノ版ひばりはあまり聴いたことはない。広瀬のピアノは本当に巧い。
最後に入っているイスラメイは知る人ぞ知る難曲中の難曲とされ、古くからその時代のヴィルトゥオーゾが自らのテクニックを披露するために用いたりしているし、世のアマチュア好事家が自らの指回りの高速性・正確性を誇示するためにYouTubeなどに演奏風景をアップロードしている例が多く観察される。つまりこの曲に関する高速演奏性能のみを競っているふうに見えるのだ。
この作品の勇壮で直進性の強いメロディーラインと独特の民族性を内包した和声はある意味魅惑的だが、一方では楽曲的・譜面的には単調で起伏が少ないように思っていた。しかし、この広瀬の演奏を聴いていままでのこうした考えが変わった。純粋技巧的にはリストの練習曲などの方が難度が高いかも知れないが、この曲を音楽的に昇華させたうえでうまくまとめ上げて作品としてちゃんと聴かせるにはそれ相応のテクニックと表現力、それと胆力が必要と思わされるのであった。
広瀬の今後の更なる活躍と飛翔を暗示させられる、非常に面白い一枚である。
(録音評)
MIRARE MIR181、通常CD。録音は2012年2月、場所はCité Nantes Events Centerで、ラ・フォル・ジュルネ・ナント2012 Le Sacre Russeプログラムの一部として制作された一枚である。音質は重厚かつ深いアンビエントに支えられた優れたもので、定位が素晴らしく、かつピアノのアタック音と広瀬の気配感が非常にリアルだ。

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by primex64
| 2012-08-27 00:09
| Solo - Pf
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