Mark Levinson No.38L 不調 |
ところが、今度は本体のボリューム・ノブで音量調節が出来なくなっていることを発見。ラックに収めてリモコンでばかり操作しているものだからいつからおかしくなったのかは不明だ。昨年、ハーマンから戻ってきてからすぐに不調になっていた可能性があり、ではハーマンにもう一度送るか、とも思ったのであるが、No.38Lはいつの間にかハーマンの修理不能リストに入れられていた。
まぁ、そうは言っても保守パーツが残っている部位の修理くらいはやってくれそうなものではあるが。今回の不調の原因として考えられるのはマイコンがおかしくなったか、またはノブの軸と直結しているロータリー・エンコーダがおかしくなっているかだが、リモコンからは正常に制御できていることからロータリー・エンコーダが疑わしい。
先日、我が家でミニオフを開催した際にその道のプロであるPさんに症状切り分けをしてもらい、そしてロータリー・エンコーダが原因であることがほぼ確定していた。
No.38LにはHP(Hewlett Packard)製のロータリー・エンコーダが使用されている。
これは、2相パルスを使用して増加値または減少値を生成する、パネル実装型のインクリメンタル・エンコーダ製品であり、その型番はHEDS-5701#C12と判明した。
ところがHP社は既にこの種のフォトカプラ/エンコーダ製品からは撤退して久しい。
Pさんに更に調べてもらったところ、HPからこの種の製品ラインを丸ごと引き継いだAvago Technology(アバゴ・テクノロジー)という会社が現在でもエンコーダ製品を製造販売していることがわかった。
※データシート→HEDS-5700シリーズ
余談だがHP社の計測器部門はAgilent Technologies(アジレント・テクノロジーズ)が丸ごと引き継いでおり、現在でも製品の開発生産販売を継続している。
残念なことに、型番末尾の#以下のC12という製品は既に廃番なのか或いはマドリガル・オーディオの特注品だったのか、現在は製造販売されていない。Cは100CPR、即ち100 Cycles Per Revolution(=1回転で100パルスを発生する)を意味し、次の桁の1はStatic Drag(=クルクルとは自走回転せずシャフトを回した時だけパルスを出す)、最後の桁の2がシャフト形状(=直径1/4インチのシャフトで突端部がフラット加工されている)を意味する。
また更にPさんに調べてもらったところ、恐らく死んでいるのはエンコーダ・モジュールだけで、それは別売されているらしいことがわかった。つまり、ホイールまで含んだエンコーダの完成品は更に細分化できて、その中に入っているフォト・インタラプタ(光学検出部)を組み込んだパルス発生モジュールのみを新品購入すれば復活するのではないか、とのことだった。
このエンコーダ・モジュールは各ホイールでCPRの値が違えども共通部品なのでシリーズごとに1種類しかないという。このモジュールの型番はHEDS-9100#H00と判明した。
※データシート→HEDS-9000/9100シリーズ
自宅の近所(=本社:新横浜)で電子パーツのネット販売をしているチップワンストップという会社があって、ここはPさんが仕事でも使っているというお勧めの店だ。ここから単体のエンコーダ・モジュールが購入できることが判明。Webの当該ページを調べたら在庫あり&即納とあったので迷わず発注をかけた。
たかだか2~3千円のパーツなのに送料は無料だという。運悪く土日を挟んだが3営業日後に無事到着した。
No.38Lのボンネットを開け、大きなアルミ削り出しの音量調節ノブを外し、そしてフロントパネル裏からロータリー・エンコーダを取り外す。
更にこのエンコーダを分解するという手筈だ。
シャフトをケーシングに固定するCリング(Eリングの爪無しバージョン)の取り外しは専用工具がないため多少苦労するが、ラジオペンチで押さえながら小型ドライバで外す。なお、この時にバネ弾性でCリングが遠くへ飛ばないよう細心の注意が必要。
Cリングが外れたらシャフトからケーシングが抜けるようになる。
ケーシングの蓋と本体部とはフックとラッチで嵌合、即ち咬み合わさる様になっていて、マイナスの精密ドライバでノッチをこじ開けると簡単に開く。内部の構造はとてもシンプルで僅かな内蔵部品から成る。
金属製のホイールは一周に100個のスリットが刻んであり、これがフォト・インタラプタの光軸を瞬間的に遮ることでパルスカウントするようになっている。そして台形をしていて5本の信号ピンが出ているものが問題のエンコーダ・モジュールだ。これらの部品はケーシングにネジなどを使わずに嵌合される構造だ。
この作りは大量生産に向く合理的な設計だし、無調整で精度を一発で出すには理想的だ。
もともと嵌っていた疑義のあるエンコーダ・モジュールを今回チップワンストップで購入した新品に交換し、あとは分解した時と逆の順序で組み立てるだけだ。
Cリングの嵌め込みは抜く時よりも簡単で、指の圧力だけでシャフトに刻まれたノッチへするりと入る。
この状態で結線して電源を投入し、マイコンが立ち上がってから指でエンコーダのシャフトをそろそろと廻してみる。
音量表示がちゃんと増減することから、Pさんの予測通りフォト・インタラプタかパルス発生部が傷んでいたということが確認できた。
お陰をもってNo.38Lの音量調節ノブは機能回復した。
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