2012年 04月 15日
Trésors de Russie@Engerer,Gatti,Hillier/Estonian PCC. |
Harmonia Mundiの新譜で、邦題を「ロシアの至宝」と題された3枚組のコンピレーション盤。今年2012年のラ・フォル・ジュルネのテーマがロシア音楽であることから発売となったとされるボックスのようだ。ラ・フォル・ジュルネはMIRAREの社長が主催する音楽祭ゆえ、Harmonia Mundiがなんらかの連動キャンペーンを張るとは想像もしなかったのであるが。

http://www.hmv.co.jp/product/detail/4951452
Trésors de Russie - Treasures of Russia
CD1: Mussorgsky: Pictures at an Exhibition Etc.
Brigitte Engerer (piano)
CD2: Tchaikovsky: Symphony No.6 in B minor Op.74 'Pathetique' Etc.
Royal Philharmonic Orchestra, Daniele Gatti
CD3: Rachmaninov: Vespers, Op.37
Estonian Philharmonic Chamber Choir, Paul Hillier
CD1
ムソルグスキー:
・組曲『展覧会の絵』
・禿山の一夜(ピアノ版)
・ゴパーク
・涙
・子供の頃の思い出より 第1番「乳母と私」
・スケルツォ 嬰ハ短調
・子供の思い出
ブリジット・エンゲラー(ピアノ)
録音時期:1987年6月
録音場所:パリ、Salle Adyer
録音方式:デジタル(セッション)
CD2
チャイコフスキー:
・交響曲第6番ロ短調 op.74『悲愴』
・弦楽セレナード ハ長調 op.48
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
ダニエル・ガッティ(指揮)
録音時期:2005年5月26-27日
録音場所:ロンドン、ワットフォード・コロシアム
録音方式:デジタル(セッション)
CD3
ラフマニノフ:
・晩祷 op.37
エストニア・フィルハーモニー室内合唱団
ポール・ヒリアー(指揮)
録音時期:2004年5月24-27日
録音場所:エストニア、ハープサル・ドーム・チャーチ
録音方式:デジタル(セッション)
いずれも既発の音源であり、特にエンゲラーの展覧会の絵は廃盤となって久しくてなんとか入手したいと思っている矢先だったのでこれ幸いと買った。しかも、値段があまりに安く、この展覧会の絵だけを単品購入するよりも安いかも知れない。このうち3枚目のヒリアー/エストニア・フィルハーモニー室内合唱団の晩祷はSACDハイブリッドとなっており新譜リリース年代は2004年、それが一度廃盤となってから2008年に再発された時に買って持っているので予め被っていることを承知の上だった。また、ガッティ/ロイヤル・フィルのチャイ4は持っていて、悲愴と5番もいつかは買わねばと思いながらついつい見過ごしていて、気が付いてみたら悲愴は廃盤となってがっかりしていた矢先だった。
この盤を買った主眼である若かりし日のエンゲラーが弾く展覧会の絵だが、録音は1987年というから今から25年前。エンゲラーは確か今年60歳の還暦を迎えるはずなので35歳の頃の録音ということになる。かなり前のこの録音は目から鱗だ。超絶技巧をひけらかすでもなくあっけらかんと軽々と簡単に弾き抜けている。そういった指先のマジックに耳が囚われがちであるが、この演奏の核心はエンゲラーの若々しく鮮やかかつ斬新な解釈にある。重々しくてやるせない古城からチュイルリー、またサミュエル・ゴールデンベルク&シュミイレから牛車に至る流れ、そして高鮮度で彩色が美しいリモージュの市場から暗転するカタコンブ、重厚なババ・ヤーガを経てのフィナーレ=キエフ大門へと繋がる大きなうねりをマクロ的に捉えて表現しているのだ。ムソルグスキーの真骨頂を集めたショーケースのようなこの作品は、プロムナードを介して主題の異なるまるっきり別の作品(絵画)を幾つも並べている「展覧会」のようなオムニバス構成的な解釈が多数派という中にあって、各曲の間に潜む共通のストーリー性を丁寧に掘り起こすという特異な解釈なのだ。即ち、プロムナードは単なる箸休めや気分転換、回廊のそぞろ歩きの描写ではなく、各曲の全てのモチーフの源泉となっていることにあらためて気付かされるのだ。和声も旋律も拍取りも、どこかにプロムナードのエレメントが必ず隠れているという、この組曲の秘密の一端を垣間見た気がするのだ。因みに余白に入っている禿山の一夜、子供の頃の思い出からの抜粋等もとても優れていて儲けものという感じだ。
ガッティは個人的にはかなり好きな指揮者であるが、表舞台での活躍や録音数もそれほど多くはなく、持っているCDも数は少ない。それだけに前述したチャイ4の出来映えがとても印象に残っていて、その延長線上、またはその演繹的発展過程を期待するのであるが、残念ながらロイヤル・フィルとの一連の後期交響曲チクルスは買いそびれていた。それでも、この3枚組ボックスには悲愴が入っているので4~6のうちいまだに売っている5番を残してなんとか手元に確保できたこととなる。それだけでもこの3枚組を買った意義はあったと思う。その悲愴だが、予想通りというか、予想した線の先にある発展的進化系とでもいうべき素晴らしい内容だ。とてもハードでクール、隙のない速めのテンポ、そして過剰なテンペラメントやべたつく臭いエモーションとは全く無縁の立体的構築美であり、やはりチャイの後期交響曲としては至高の域に達している解釈の一つである。先日取り上げたソヒエフの若々しく鮮烈なチャイコフスキー解釈も素晴らしいのであるが、燻し銀の様な鈍色をした落ち着きあるチャイコフスキー解釈も捨てがたい魅力なのだ。その落ち着きと無駄のない構築美を兼備するガッティの三次元的音楽特性はかなり希有な存在と言える。
晩祷に付いては一度論評しているので今回は割愛する(上記のハイパーリンクURLを参照のこと)。
(録音評)
Harmonia Mundi HMX2908385、1~2枚目は通常CD、3枚目はSACDハイブリッド。録音日時・場所等は曲目欄参照。1枚目の展覧会の絵の音質は四半世紀前のものとは思われない澄明なものであり、ピアノの定位、ブリリアントなスタインウェイの弦の実在感ともに文句の付けようがない。Harmonia Mundiが当時からこの様な巧妙なピアノ録音を達成していたとは驚くほかない。悲愴の方だが、年代がかなり新しくなり、従って品位はさすがに高くて、またワットフォード・コロシアムというアンビエンスに秀でたロンドン郊外のこのホール特性を見事に活かした美しい響きの録音だ。今般流行している超高性能立体CD-DAには一歩及ばないにせよ、各楽器の音色の正確さと定位、サウンドステージの深さ等、現在においても十分なクォリティを備えた秀作である。 因みに3枚目は今回は聴いていないので割愛する。
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♪ よい音楽を聴きましょう ♫

http://www.hmv.co.jp/product/detail/4951452
Trésors de Russie - Treasures of Russia
CD1: Mussorgsky: Pictures at an Exhibition Etc.
Brigitte Engerer (piano)
CD2: Tchaikovsky: Symphony No.6 in B minor Op.74 'Pathetique' Etc.
Royal Philharmonic Orchestra, Daniele Gatti
CD3: Rachmaninov: Vespers, Op.37
Estonian Philharmonic Chamber Choir, Paul Hillier
CD1
ムソルグスキー:
・組曲『展覧会の絵』
・禿山の一夜(ピアノ版)
・ゴパーク
・涙
・子供の頃の思い出より 第1番「乳母と私」
・スケルツォ 嬰ハ短調
・子供の思い出
ブリジット・エンゲラー(ピアノ)
録音時期:1987年6月
録音場所:パリ、Salle Adyer
録音方式:デジタル(セッション)
CD2
チャイコフスキー:
・交響曲第6番ロ短調 op.74『悲愴』
・弦楽セレナード ハ長調 op.48
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
ダニエル・ガッティ(指揮)
録音時期:2005年5月26-27日
録音場所:ロンドン、ワットフォード・コロシアム
録音方式:デジタル(セッション)
CD3
ラフマニノフ:
・晩祷 op.37
エストニア・フィルハーモニー室内合唱団
ポール・ヒリアー(指揮)
録音時期:2004年5月24-27日
録音場所:エストニア、ハープサル・ドーム・チャーチ
録音方式:デジタル(セッション)
いずれも既発の音源であり、特にエンゲラーの展覧会の絵は廃盤となって久しくてなんとか入手したいと思っている矢先だったのでこれ幸いと買った。しかも、値段があまりに安く、この展覧会の絵だけを単品購入するよりも安いかも知れない。このうち3枚目のヒリアー/エストニア・フィルハーモニー室内合唱団の晩祷はSACDハイブリッドとなっており新譜リリース年代は2004年、それが一度廃盤となってから2008年に再発された時に買って持っているので予め被っていることを承知の上だった。また、ガッティ/ロイヤル・フィルのチャイ4は持っていて、悲愴と5番もいつかは買わねばと思いながらついつい見過ごしていて、気が付いてみたら悲愴は廃盤となってがっかりしていた矢先だった。
この盤を買った主眼である若かりし日のエンゲラーが弾く展覧会の絵だが、録音は1987年というから今から25年前。エンゲラーは確か今年60歳の還暦を迎えるはずなので35歳の頃の録音ということになる。かなり前のこの録音は目から鱗だ。超絶技巧をひけらかすでもなくあっけらかんと軽々と簡単に弾き抜けている。そういった指先のマジックに耳が囚われがちであるが、この演奏の核心はエンゲラーの若々しく鮮やかかつ斬新な解釈にある。重々しくてやるせない古城からチュイルリー、またサミュエル・ゴールデンベルク&シュミイレから牛車に至る流れ、そして高鮮度で彩色が美しいリモージュの市場から暗転するカタコンブ、重厚なババ・ヤーガを経てのフィナーレ=キエフ大門へと繋がる大きなうねりをマクロ的に捉えて表現しているのだ。ムソルグスキーの真骨頂を集めたショーケースのようなこの作品は、プロムナードを介して主題の異なるまるっきり別の作品(絵画)を幾つも並べている「展覧会」のようなオムニバス構成的な解釈が多数派という中にあって、各曲の間に潜む共通のストーリー性を丁寧に掘り起こすという特異な解釈なのだ。即ち、プロムナードは単なる箸休めや気分転換、回廊のそぞろ歩きの描写ではなく、各曲の全てのモチーフの源泉となっていることにあらためて気付かされるのだ。和声も旋律も拍取りも、どこかにプロムナードのエレメントが必ず隠れているという、この組曲の秘密の一端を垣間見た気がするのだ。因みに余白に入っている禿山の一夜、子供の頃の思い出からの抜粋等もとても優れていて儲けものという感じだ。
ガッティは個人的にはかなり好きな指揮者であるが、表舞台での活躍や録音数もそれほど多くはなく、持っているCDも数は少ない。それだけに前述したチャイ4の出来映えがとても印象に残っていて、その延長線上、またはその演繹的発展過程を期待するのであるが、残念ながらロイヤル・フィルとの一連の後期交響曲チクルスは買いそびれていた。それでも、この3枚組ボックスには悲愴が入っているので4~6のうちいまだに売っている5番を残してなんとか手元に確保できたこととなる。それだけでもこの3枚組を買った意義はあったと思う。その悲愴だが、予想通りというか、予想した線の先にある発展的進化系とでもいうべき素晴らしい内容だ。とてもハードでクール、隙のない速めのテンポ、そして過剰なテンペラメントやべたつく臭いエモーションとは全く無縁の立体的構築美であり、やはりチャイの後期交響曲としては至高の域に達している解釈の一つである。先日取り上げたソヒエフの若々しく鮮烈なチャイコフスキー解釈も素晴らしいのであるが、燻し銀の様な鈍色をした落ち着きあるチャイコフスキー解釈も捨てがたい魅力なのだ。その落ち着きと無駄のない構築美を兼備するガッティの三次元的音楽特性はかなり希有な存在と言える。
晩祷に付いては一度論評しているので今回は割愛する(上記のハイパーリンクURLを参照のこと)。
(録音評)
Harmonia Mundi HMX2908385、1~2枚目は通常CD、3枚目はSACDハイブリッド。録音日時・場所等は曲目欄参照。1枚目の展覧会の絵の音質は四半世紀前のものとは思われない澄明なものであり、ピアノの定位、ブリリアントなスタインウェイの弦の実在感ともに文句の付けようがない。Harmonia Mundiが当時からこの様な巧妙なピアノ録音を達成していたとは驚くほかない。悲愴の方だが、年代がかなり新しくなり、従って品位はさすがに高くて、またワットフォード・コロシアムというアンビエンスに秀でたロンドン郊外のこのホール特性を見事に活かした美しい響きの録音だ。今般流行している超高性能立体CD-DAには一歩及ばないにせよ、各楽器の音色の正確さと定位、サウンドステージの深さ等、現在においても十分なクォリティを備えた秀作である。 因みに3枚目は今回は聴いていないので割愛する。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2012-04-15 20:58
| Compilation
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