2012年 03月 04日
Secret Voices - Music from Codex Las Huelgas@Anonymous 4 |
積み残していた2011年リリースの未評価CDもいよいよ最後となる。終わりを飾るのはHarmonia Mundi USAの昨年末の新譜で、Anonymous 4が歌うラス・ウエルガスの写本(聖歌集)からの抜粋、SACDハイブリッドだ。

http://www.hmv.co.jp/product/detail/4568403
Secret Voices - Music from Codex Las Huelgas
FIRST LIGHT
1 Virgines egregie
2 Ave maris stella
3 Claustrum pudicicie / Virgo viget / FLOS FILIUS
MORNING
4 Fa fa mi / Ut re mi
5 O maria virgo / O maria maris stella / [IN VERITATE]
6 Benedicamus domino: cum cantico
MASS
7 Salve porta / Salve salus / Salve sancta parens
8 Kyrie: Rex virginum amator
9 Gloria: Spiritus et alme
10 Verbum bonum et suave
11 Salve virgo regia / Ave gloriosa mater / [DOMINO]
12 Sanctus & Benedictus
13 Gaude virgo nobilis / Verbum caro factum / ET VERITATE
14 Agnus dei: Gloriosa spes reorum
15 O monialis conscio
16 Benedicamus domino: Belial vocatur
EVENING
17 In virgulto gracie
18 Ave regina celorum / Alma redemptoris mater / [ALMA]
19 Benedicamus domino à 3 (rondellus)
NIGHT
20 Si vocatus ad nupcias
21 Mater patris et filia
22 Benedicamus domino à 2
23 Omnium in te christe
Anonymous 4 (Chor.)
(First Light~はじめの光)
・かがやかしき処女
・海原の星をたたえよ
・モテット:節度ある修道院-聖処女は-FLOS FILIUS
(朝)
・ファ・ファ・ミ-ド・レ・ミ
・ コンドゥクトゥス・モテット:おお、聖なるマリア
・ベネディクトゥス
(ミサ)
・聖なる母をたたえよ...
・キリエ
・グローリア
・セクエンツィア:「アヴェ」と叫び続けよう
・モテット:高貴なる処女をたたえよ
・サンクトゥス&ベネディクトゥス
・高貴なる処女に喜べ
・アニュス・デイ
・ブルゴスの修道女たちよ
・奸計はいたる所に
(夕刻)
・恵みの庭で
・天の女王を賛美せよ
・神をたたえよう
(夜)
・婚礼に呼ばれたら
・父なる主の母にして娘
・主をたたえよ
・あなたのすべてを信じます
アノニマス4
ラス・ウエルガス写本については、HMVにあるキング・インターの和訳解説や、その他Web検索でも広く知ることが出来るのでここでは敢えて詳細は書かない。
スペイン北部のブルゴスの地に1187年、当時の国家=カスティーリャ(Reino de Castilla)の王、アルフォンソ8世(Alfonso VIII, 1155/11/11 - 1214/10/5)により建立されたシトー派女子修道院のサンタ・マリア・デ・ラス・ウエルガス王立修道院 (Monasterio de Santa María la Real de Las Huelgas)があり、現存する建物・修道院としてはかなり古いものだ。ラス・ウエルガスの写本(Codex Las Huelgas)は14世紀初頭に編纂されたとされる手書きの写本であり、修道院設立以来、ここのシスターたちによって歌い継がれてきた殆ど全ての歌が収録されている。詳細内容についてはここに詳しく掲載されているが、それによれば全186曲ということである。収められているのは12世紀末~14世紀初頭までの歌曲で、13世紀のものが中心となるようだ。即ち、歌っているアノニマス4が得意とするアルス・アンティクア(ars antiqua)の楽曲形態ということになる。
これらの歌曲は、当時のパリから伝えられたとされるノートルダム楽派の力強い語気と曲風にイスパニアの土着風曲想も含まれているようで、パリ、そしてラテン系の明るさと、どことなく侘びた純朴さが同居している感が拭えない。驚くことに186曲のうちの過半(140曲有余)が既にポリフォニーで書かれており、この写本が後の宗教曲やその他の世俗曲の礎となった可能性は否定し得ない。
このカスティーリャの時代においては、女性のリテラシーは無いに等しく、男性の備える知性や音楽・文化レベルに及ぶべくもなかったそうであるが、ラス・ウエルガスにおいてはシスターたちに系統的な音楽訓練を施しており、その教材=solfeggio=Fa Fa Mi / Ut Re Mi=日本語で言うところのドレミファ音階による練習=本アルバムの第4トラックに収録=もユニークなものだ。現代においても聴音訓練をソルフェージュと言うが、もうこの時代からこの様な手法が確立されていたとは意外だ。そういったバックボーンもあってか長い時間をかけてこの聖歌集にあるような賛美歌/歌曲が育まれていったのであろう。
このアルバムでは、写本の全186曲の中から、歌われるシーン別にピックアップしたものを日の出から就寝までの時系列で並べている。これ自体が珍しいのか否かは分からないが、徹夜祷や晩祷に使われる聖歌の順序と似ていなくはないもの。 旋律はどれもが素朴で美しい。和声はせいぜい3声程度と規模的には小さなもの。そして付点のリズムや凝った節回しは皆無であり、ひたすらに平穏かつしんみりとした鄙びた風情を漂わせている。アノニマス4の四人の音程安定性は驚異的ですらあり、淀むことも微動することもなくフラットな歌唱を展開する。この人たちの声は本当に透明だ。
800年ほど前のスペインの修道院でこういった趣の歌声が切々と響いていたのだろうか・・、と、悠久の時の隔たりを感じつつスピーカーに向かっていると、目を瞬かせる刹那にだけ生きている自分がここに在ることを痛感する。
(録音評)
Harmonia Mundi USA、HMU807510、SACDハイブリッド。録音はちょっと古くて2009年11月、2011年4月、場所はSauder Concert Hall, Goshen College, Indiana 及び Skywalker Sound, a Lucasfilm Ltd Company, Marin County, Californiaとある。プロデュースは例によって Robina G. Young、録音エンジニアは Brad Michel、録音から最終編集に至るまでDSDで処理されている。
音質は現代で得られる最高水準と言えるもので、極めてナチュラルにして明晰、そして付帯音が皆無な滑らかなもの。処理方式や解像度といったスペックでは推し量ることのできない優れたマイクアレンジと感性で捉えられた完全アカペラの一枚だ。CDレイヤーも超優秀であるが、この盤の場合にはスーパー・アナログをも凌ぐ自然な風合いとソノリティをSACDレイヤーで味わいたいもの。純粋肉声における新たなスタンダードの誕生だ。
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♪ よい音楽を聴きましょう ♫

http://www.hmv.co.jp/product/detail/4568403
Secret Voices - Music from Codex Las Huelgas
FIRST LIGHT
1 Virgines egregie
2 Ave maris stella
3 Claustrum pudicicie / Virgo viget / FLOS FILIUS
MORNING
4 Fa fa mi / Ut re mi
5 O maria virgo / O maria maris stella / [IN VERITATE]
6 Benedicamus domino: cum cantico
MASS
7 Salve porta / Salve salus / Salve sancta parens
8 Kyrie: Rex virginum amator
9 Gloria: Spiritus et alme
10 Verbum bonum et suave
11 Salve virgo regia / Ave gloriosa mater / [DOMINO]
12 Sanctus & Benedictus
13 Gaude virgo nobilis / Verbum caro factum / ET VERITATE
14 Agnus dei: Gloriosa spes reorum
15 O monialis conscio
16 Benedicamus domino: Belial vocatur
EVENING
17 In virgulto gracie
18 Ave regina celorum / Alma redemptoris mater / [ALMA]
19 Benedicamus domino à 3 (rondellus)
NIGHT
20 Si vocatus ad nupcias
21 Mater patris et filia
22 Benedicamus domino à 2
23 Omnium in te christe
Anonymous 4 (Chor.)
(First Light~はじめの光)
・かがやかしき処女
・海原の星をたたえよ
・モテット:節度ある修道院-聖処女は-FLOS FILIUS
(朝)
・ファ・ファ・ミ-ド・レ・ミ
・ コンドゥクトゥス・モテット:おお、聖なるマリア
・ベネディクトゥス
(ミサ)
・聖なる母をたたえよ...
・キリエ
・グローリア
・セクエンツィア:「アヴェ」と叫び続けよう
・モテット:高貴なる処女をたたえよ
・サンクトゥス&ベネディクトゥス
・高貴なる処女に喜べ
・アニュス・デイ
・ブルゴスの修道女たちよ
・奸計はいたる所に
(夕刻)
・恵みの庭で
・天の女王を賛美せよ
・神をたたえよう
(夜)
・婚礼に呼ばれたら
・父なる主の母にして娘
・主をたたえよ
・あなたのすべてを信じます
アノニマス4
ラス・ウエルガス写本については、HMVにあるキング・インターの和訳解説や、その他Web検索でも広く知ることが出来るのでここでは敢えて詳細は書かない。
スペイン北部のブルゴスの地に1187年、当時の国家=カスティーリャ(Reino de Castilla)の王、アルフォンソ8世(Alfonso VIII, 1155/11/11 - 1214/10/5)により建立されたシトー派女子修道院のサンタ・マリア・デ・ラス・ウエルガス王立修道院 (Monasterio de Santa María la Real de Las Huelgas)があり、現存する建物・修道院としてはかなり古いものだ。ラス・ウエルガスの写本(Codex Las Huelgas)は14世紀初頭に編纂されたとされる手書きの写本であり、修道院設立以来、ここのシスターたちによって歌い継がれてきた殆ど全ての歌が収録されている。詳細内容についてはここに詳しく掲載されているが、それによれば全186曲ということである。収められているのは12世紀末~14世紀初頭までの歌曲で、13世紀のものが中心となるようだ。即ち、歌っているアノニマス4が得意とするアルス・アンティクア(ars antiqua)の楽曲形態ということになる。
これらの歌曲は、当時のパリから伝えられたとされるノートルダム楽派の力強い語気と曲風にイスパニアの土着風曲想も含まれているようで、パリ、そしてラテン系の明るさと、どことなく侘びた純朴さが同居している感が拭えない。驚くことに186曲のうちの過半(140曲有余)が既にポリフォニーで書かれており、この写本が後の宗教曲やその他の世俗曲の礎となった可能性は否定し得ない。
このカスティーリャの時代においては、女性のリテラシーは無いに等しく、男性の備える知性や音楽・文化レベルに及ぶべくもなかったそうであるが、ラス・ウエルガスにおいてはシスターたちに系統的な音楽訓練を施しており、その教材=solfeggio=Fa Fa Mi / Ut Re Mi=日本語で言うところのドレミファ音階による練習=本アルバムの第4トラックに収録=もユニークなものだ。現代においても聴音訓練をソルフェージュと言うが、もうこの時代からこの様な手法が確立されていたとは意外だ。そういったバックボーンもあってか長い時間をかけてこの聖歌集にあるような賛美歌/歌曲が育まれていったのであろう。
このアルバムでは、写本の全186曲の中から、歌われるシーン別にピックアップしたものを日の出から就寝までの時系列で並べている。これ自体が珍しいのか否かは分からないが、徹夜祷や晩祷に使われる聖歌の順序と似ていなくはないもの。 旋律はどれもが素朴で美しい。和声はせいぜい3声程度と規模的には小さなもの。そして付点のリズムや凝った節回しは皆無であり、ひたすらに平穏かつしんみりとした鄙びた風情を漂わせている。アノニマス4の四人の音程安定性は驚異的ですらあり、淀むことも微動することもなくフラットな歌唱を展開する。この人たちの声は本当に透明だ。
800年ほど前のスペインの修道院でこういった趣の歌声が切々と響いていたのだろうか・・、と、悠久の時の隔たりを感じつつスピーカーに向かっていると、目を瞬かせる刹那にだけ生きている自分がここに在ることを痛感する。
(録音評)
Harmonia Mundi USA、HMU807510、SACDハイブリッド。録音はちょっと古くて2009年11月、2011年4月、場所はSauder Concert Hall, Goshen College, Indiana 及び Skywalker Sound, a Lucasfilm Ltd Company, Marin County, Californiaとある。プロデュースは例によって Robina G. Young、録音エンジニアは Brad Michel、録音から最終編集に至るまでDSDで処理されている。
音質は現代で得られる最高水準と言えるもので、極めてナチュラルにして明晰、そして付帯音が皆無な滑らかなもの。処理方式や解像度といったスペックでは推し量ることのできない優れたマイクアレンジと感性で捉えられた完全アカペラの一枚だ。CDレイヤーも超優秀であるが、この盤の場合にはスーパー・アナログをも凌ぐ自然な風合いとソノリティをSACDレイヤーで味わいたいもの。純粋肉声における新たなスタンダードの誕生だ。

♪ よい音楽を聴きましょう ♫
by primex64
| 2012-03-04 18:00
| Vocal
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