Schubert: Schwanengesang Etc.@Mark Padmore,Paul Lewis |
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Schubert:
Schwanengesang, D957
Auf dem Strom, D943, Op. post. 119
Die Sterne, D939 (Leitner)
Mark Padmore (tenor) & Paul Lewis (Pf)
Richard Watkins (hr) D943
シューベルト:
1. 歌曲集『白鳥の歌』 D.957
2. 流れの上で D.943
3. 星 D.939
マーク・パドモア(テノール)
ポール・ルイス(ピアノ)
リチャード・ワトキンス(フレンチ・ホルン:2)
白鳥の歌というとヘルマン・プライの名録音が世間的にはよく知られ、昨今ではペーター・シュライアーの録音も評判をとっているようだ。また古くからバリトンで歌う白鳥の歌も出回っており、F=ディースカウなども録音しており、声域の違いによる情感表現の深みの違いも様々である。
マーク・パドモアとポール・ルイスによるシューベルト三部作のチクルスはこれで完結となるようで、かつてMusicArenaでは冬の旅を取り上げている。因みに、三つの片割れである美しき水車小屋の娘は未聴。
白鳥の歌は、元々がシューベルト自身の着想の下に構成された作品集でないことは有名な話で、他の歌曲集とは異なって作曲者自身が生前にその完成形を見ることはなかったのである。パドモアが歌うこの作品のピークは2こぶあって、一つは前半のLudwig Rellstab(レルシュタープ)による歌曲の4番目に位置するStändchen、即ちシューベルトのセレナーデとして有名なあの一節だ。そしてもう一つのピークはHeinrich Heine(ハイネ)の詩による歌曲集のトップ、つまり第8曲目のDer Atlas(アトラス)だ。
白鳥の歌の詳細内容はここでは割愛するが、シューベルトの絶筆とされる第14番最終曲=Johann Gabriel Seidl(ザイドル)の詩による歌曲、Die Taubenpost(鳩の便り)が切々と歌い上げられてこの歌曲集は静かに閉じる。
パドモアは非常に技巧的で華のあるテナーで、セレナーデがその真骨頂。とてもフローラルで、この抑揚に満ちたポップな曲想が彼の声域とマッチしていて出色だ。反面、この歌曲集を支配するシューベルトの濃い陰翳を歌うには少々声色が明るい。例えばアトラスは、悲劇的で重々しくそして陰鬱な歌い込みが期待されているところ、ちょっと軽くノイジーな感触は否めなく、このあたりが好みが別れるところだろう。個人的には悪くないとは思っているがもうちょっとダウンテンポで、暗く朗々としたドスの効いた迫力が欲しいと思わされる。しかし、そうは言ってもこの録音はとりもなおさず第一線級の出来映えであって、万人にお勧めできる優秀な演奏だ。
Auf dem Strom(流れの上で)は、このアルバムのもう一つの目玉であり、ワトキンスのHrが非常に良い出来映えだ。Hrとパドモアの声域がこれまたうまい具合にオーバーラップするため、ユニゾンも2声ポリフォニーもとても美しい調和を聴かせてくれ、幽玄なアンビエント空間へと誘われて行く。このHrは肉声テナーの様に雄弁に歌いまくる。
この録音のためにポール・ルイスが選んだのはスタインウェイの極上ピアノで、強いブリリアンスと少々細めにフォーカスする音程へと調律を施されたもの。硬質で澄んだ冷涼な音色がパドモアのバックを支えている。
(録音評)
Harmonia Mundi USA HMU907520、通常CD。録音は2010年、Air Studios, Lyndhurst Hall, Londonとある。プロデューサーはいつも通りのRobia G. Young、録音エンジニアはBrad Michelだ。音質はSACDの必要性を殆ど感じない優れたもので、特徴的なのは三次元方向へと散乱するパドモアの声。ピアノはステージの少々奥まった場所に定位し、その前で体を左右に揺すりながらパドモアが熱唱するという姿が手に取るように見える。また、ワトキンスのホルンが超絶的に美しく、また、音の拡散が広範囲に及ぶのであるが発音源がこれまた見え透くような鋭い定位を示しており、まさに生のステージを眼前にしている雰囲気に包まれるのだ。オーディオ性能的にも非常に優れた録音だ。やはり、HMUの声楽録音技法は他の優秀レーベルに比しても一段頭抜けている。
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