J.S.Bach: Goldberg Variations BWV988@Fretwork |
http://www.hmv.co.jp/product/detail/4215120
Bach, J S: Goldberg Variations, BWV988
arranged for viols by Richard Boothby
Fretwork:
Susanna Pell, Asako Morikawa, Liam Byrne, Reiko Ichise,
Richard Tunnicliffe, Richard Boothby - viole da gamba
J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲
(リチャード・ブースビー編による6つのヴィオラ・ダ・ガンバ版)
フレットワーク
スザンナ・ペル、森川麻子、ライアン・バーン、市瀬礼子、
リチャード・タニクリフ、リチャード・ブースビー
ゴルドベルクは、言うまでもなくバッハ作品の中でも最上位の完成度と位置づけられる作品の一つだ。何度も申し述べている通り、この曲は二段鍵盤付きクラヴィーア(=つまりチェンバロ)での演奏を想定して書かれたものであるが、ここへ来てそれとは全く異なる楽器への編曲版が登場した。リチャード・ブースビーの手により自身のヴィオール・コンソート=フレットワーク向けに編曲されたこの版は、遙か昔の音世界に向けて想起され、それを寧ろ積極的に選択しているという点においては間違いなく尋常なトランスクリプションではない。この様な無茶な企みを正当化するとするならば、それはバッハの時代においても既に時代遅れとなっていたヴィオール属を、敢えてバッハ自身が好んでいたと言う一点を理由に挙げることが可能かも知れない。
Boothbyはこの版において、トレブル、テナーおよびバス・ド・ヴィオールのそれぞれに分割されたパートを巧みに様々に組み合わせて編曲しており、そして彼は幾つかの魔術的な効果・・・例えば、第20変奏においては蜘蛛の糸のように細く繊細なパッセージワークを一挺のテナーに弾かせ、それに寄り添うようにバス・ド・ヴィオールを全編ピチカートで伴奏をさせるなど、およそ普通では思いつかない方法でこの偉大な変奏曲を再構築していると言うこと。
このゴルドベルクの編曲と録音は素晴らしくて、何ものの言をも待たないと思う。元々のゴルドベルクはチェンバロ独自の発音機構に爪弾かれてポロンポロンと紡がれる音楽である。これを持続音を発するヴィオール属、いや現代におけるヴァイオリン属の祖先を敢えて用いてこのゴルドベルクの持つ風情と質感を再構築しようというから徒者ではないチャレンジなのだ。ここではあまり多くを語ろうとは思わない。風雅でレトロだけれどもパワー感のないヴィオールの調べとは一線を画する精密で計算し尽くされた現代的なバッハ・ソリューションであり、この鮮烈な弦楽器向け編曲は、クラヴィーアの弱点であるナロー・レンジを克服させつつ更なる色艶と光沢をゴルドベルクに与えていると断言できる。しかもマイナス要素は微塵も感じられない。演奏する側に立つとこれほど厳しい譜面はないのではなかろうか。純音で綴られるクラヴィーア曲を、音程の揺らぎをもともと内包するヴィオール属だけでトレースすることの困難さは火を見るより明らかだ。しかし、フレットワークの通常ではありえないエフォートがそれを可能としている証左がここに録音されているのである。ゴルドベルクのファンは一度は聴いておいて欲しい一枚。
(録音評)
Harmonia Mundi USA、HMU907560、通常CDの2枚組だ。録音は2011年3月、場所は、Orford Church, Suffolk, Englandとある。プロデューサーは例によってRobina G. Youngだ。この盤は通常CDだが、音質はSACDと同等、いやそれを上回る鮮明でアンビエントな出来映えで、ヴィオールの哀愁に満ちた響きを余すところなく捉えている。しかもフレットワークの超絶的なチームワークをも鮮明に捉えており、彼らが発するタイムラグもずれも一切無い精緻な古楽アンサンブルの一挙手一投足を万全に収めている。録音レベルはそれほど高くはないが直進するヴィオール属のビームが極めて強く、僅かな音量セッティングでも音が四方八方へ強く飛散するのだ。素晴らしい録音だ。
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大震災と原発ホニャララ状態によって、霞がかかったようなこの一年--「たかが音楽、されど音楽」であったのよ。 ◆古楽 ☆まだまだ若いモンには負けてないで賞 ドミニク・ヴィス……三輪車乗ってドン・キホーテを歌う、なんてのはこの人にしかできないよなあ。 ☆コスト・パフォーマンス賞 「元禄~その時、世界は 第3回 西と東~もしも鎖国がなかったら」……東京藝大の古楽・古典芸能系の総力を結集(?)して催された架空演奏会。これがたった1500円で鑑賞できるとは、ありがたいこってす。国民の血... more