Kurtág: Complete Works for SQ@Athena Quartett |
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Kurtág: Complete Works for String Quartet
Kurtág:
Moments musicaux (6), Op. 44 for string quartet
Hommage a Jacob Obrecht
Officium breve in memoriam Andreae Szervánsky, Op. 28
Aus der Ferne V for string quartet
Hommage a Mihaly Andras (12 Microludes for string quartet)
Aus der Ferne III
String Quartet, Op 1
Arioso - Hommage a Walter Levin 85, in Alban Bergs Manier
two versions: wooden/metallic mallets
Athena Quartett
Saskia Viersen(Vn), Margherita Biederbick(Vn),
Miriam Götting(Va), Kathrin Bogensberger(Vc)
Hannah Klein(Va, Op.44)
クルターグ:
1.『アリオーソ』ヴァルター・レヴィン85才へのオマージュ~アルバン・ベルクの様式による
~木製の弱音器で (2009)
2.6つの楽興の時 Op.44 (2005)
3.ヤコブ・オブレヒトへのオマージュ (2004/2005)
4.オフィチウム・ブレーヴ~A.セルヴァンスキの追憶に (1988/89)
5.『彼方からV』 (1999)
6.M.アンドラーシュへのオマージュ~12のミクロリュード (1977/78)
7.『彼方からIII』 (1991)
8.弦楽四重奏曲Op.1 (1959)
9.『アリオーソ』ヴァルター・レヴィン85才へのオマージュ~アルバン・ベルクの様式による
~金属製の弱音器で (2009)
アテナ四重奏団
S.フィエルゼン(ヴァイオリン)、M.ビーデルビック(ヴァイオリン)
M.ゲッティング(ヴィオラ:1, 3-9)、H.クライン(ヴィオラ:2)
K.ボーゲンスベルガー(チェロ)
以下はPTNAから引用したクルターグ(Kultág, György 1926~)のプロフィール:
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クルターグ・ジェルジュはルーマニア生まれのハンガリーの作曲家(ハンガリーの場合、人名は日本と同様に姓→名と並べるのが通例)。ルーマニア西部のティミショアラでピアノ、作曲を学ぶ。46年、ハンガリーのリスト音楽院に入学。48年に市民権を獲得。ヴェレシュ、ファルカシュに作曲を、カドーシャにピアノを、ヴァイネルに室内楽を師事。
57年にはパリ音楽院でミヨー、メシアンの作曲の授業に出席。71年には奨学金を得てベルリンで学ぶ。
67年よりリスト音楽院教授(ピアノ科、のちに室内楽科)。バルトークのピアノ作品、ヴェーベルン、シュトックハウゼン、リゲティらに影響を受け、一方でバッハ的対位法やルネサンス的対位法の影響もみられる。EMB、Universalの両社から作品が出版されている。
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この手の音楽には明るくないので、雄弁な解説は難しいのであるが、一言でいうと静謐で研ぎ澄まされたダイアログで綴られているということ。一つ一つの作品はとても短く(数十秒~数分)、それぞれがあまり連関なく、まるで付箋のメモや手帳、葉書に数行ずつ認(したた)められた短歌集という風情である。情景描写と心象描写がまるで肉声で歌う(いや、「喋る」が正しい表現かも知れない)様に入り交じっている音楽(というか音)の組立てであり、ある時は大雨に襲われたり風が吹いたり雷が鳴ったりという情景であったり、ある時は寂しくって不安な心象を訥々と述べたりと、とても繊細にしてちょっと重たいパッセージが続く。
調性は辛うじて感じられるが、これは、影響を強く受けたというバルトークのピアノ作品に多く見られる程度の破壊された調性であって、ほぼ無調性と考えて良い。拍子は割と明確に付いていて4拍子系と6拍子系を主として使っている。和声は存在するがその殆どが不協和音で、偶然、また突然に純和音やユニゾンが出現したりして忙しい感じでハーモニーが出し入れされる。また、無音が効果的に挟まれることにより緊張感が高まって次のコンテキストへの期待を少しずつ煽って焦らすような手法も取り入れている。
弦楽四重奏曲Op.1は、ぱっと聴く限りにおいては無秩序なダイアログの並びなのだが、なんとなくバッハの対位法的な展開とリチェルカーレの様な繰り返しが含まれていて、この作家が目指した形式主義的な側面も垣間見られる。6つの楽興の時が最もダイナミックレンジが広い作品で、明とも暗とも言えない重苦しい空気感が支配する情景/心情描写が展開される。冒頭と最後がアリオーソとなっており、これは同じ曲を別のミュートを装着して弾くように指定されたものだ。このアリオーソはクルターグ自身がタイトルに入れている通り、アルバン・ベルクの様式に則っていて、なんとも不安定、かつ浮遊感をもつ連綿性が支配する音楽。だが、数度聴いているとそれがこれしかないという調和感を生み出すから不思議だ。同じ曲で終始するというのは例えばゴルドベルグが主題のアリアに始まり、種々の変奏を繰り返した末に主題のアリアへ還(かえ)りつき、そして静かに閉じる、という風情に似ていなくもない。
異音が止めどなく続くシェーンベルクや武満とは違い、基本は静謐なダイアログで構成される音楽ゆえ、BGM的に鳴らしておいても奇異な感じはせず、寧ろ場の空気にある種の癒しとか小さな緊張とかを仄かに放散してくれるところが良い点だ。これは、まるで音によるお香のようなもの。因みに、アテナ四重奏団の面々の精密極まりないダイナミックレンジの広い弦楽演奏は特筆に値する。彼女らの演奏は普通の古典派やロマン派作品で聴いてみたいところ。
(録音評)
NEOS 11033、SACDハイブリッド。録音は2008年から2010年に掛けて、場所はOp.44の一部がKöln, Studio Stolberger Straße、残りがKöln, Deutschlandfunk, Kammermusiksaalとある。例によって48kHz/24bitでレコーディングしたものをDSDコンバートしている。音質は無色透明でちょっと暗く、解像度も音場の広さも尋常ではないくらい優れている。アテナ四重奏団の楽器は比較的大きめの像を結ぶが肥大化はしていない。楽器は近いがサウンドステージは深々と奥へ展開するという理想的な収録コンディションだ。ハイレゾPCM音源をDSDに焼いたものは実像的な実在感が強く、なかなか明晰な骨太音質なのである。
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