2011年 11月 24日
Mahler: Sym#4@Philippe Herreweghe/Orchestre des Champs-Élysées |
今年の年初にφ(PHI:フィーと発音)レーベルからリリースされたマラ4。このφレーベルはヘレヴェッヘが自ら立ち上げた自主制作レーベルであり、この盤が初めてのリリースである。これからは主としてシャンゼリゼ管弦楽団の演奏をリリースして行くという。

http://www.hmv.co.jp/product/detail/3944138
マーラー: 交響曲第4番ト長調(1900)
ローズマリー・ジョシュア(ソプラノ)
シャンゼリゼ管弦楽団(古楽器使用)
フィリップ・ヘレヴェッヘ(指揮)
ハルモニア・ムンディとの30年にわたるパートナーシップを維持してきたフィリップ・ヘレヴェッヘは、Outhereグループとの提携により自らのレーベルであるφ(PHI)を立ち上げた。この記念すべき一枚目がこのマラ4ということになる。
ヘレヴェッヘの指導下で、シャンゼリゼ管は作曲された当時のままの演奏スタイルおよび忘れ去られたこれら音楽の色彩感を取り戻すために、ここまで20年ほどを費やしてきた。このマラ4だが、全体がピリオド楽器による解釈と演奏が主眼であり、作曲当時にマーラーが抱いていた決然とした美学で貫かれている(はずだ)が、これは現代における標準的なマーラー解釈からは程遠いものである。シャンゼリゼ管の持つ豪華な色彩感を超越し、またスコア(楽譜)の綿密な研究を超越し、この録音は、19世紀から20世紀に移るウィーンの作曲家の世界に対するヘレヴェッヘの深い知見を再認識させられるものなのだ。
ヘレヴェッヘはかつてはレオンハルトといった重鎮、その後の世代であればミンコフスキといった著名どころを筆頭に演奏活動においては彼らと積極的に協業し、バロック期のアンシェント主義的な演奏を通じてピリオド・アプローチで名を上げた指揮者であり、古典合唱曲の指揮者として高名な人物だ。そのヘレヴェッヘは昨今、バロック期以後の古典派、ロマン派の作家が生きた時代の忠実なる再現をテーマとした活動を始めており、このマラ4もその重要な一部分とみなされる。シャンゼリゼ管はそういった時代考証的な楽器蒐集、スコア解釈と演奏を最も得意とする特別な楽団であり、このCDで聴かれるマラ4のインプレッションがその彼らの存在意義を如実に示しているのだ。
能書きはこれくらいにして、実際にこの演奏はどうなのかを簡単に記す。一言でいうと"Simple & Straight, however sounding warm"とできるであろうか。弦楽4部は現代のそれとあまり変わることはないが、ヴィブラートは基本排除、そしてポルタメントも極小化という大原則の下にとても澄んだ音色を聴かせる。他の録音と大きく変わっているのはその他のパート、即ちキー・メカニズムが全く異なる木管、バルブやピストン構造が大きく異なる金管(主力のHrはひょっとしたらフレンチではなくてナチュラルホルンかも知れない・・)、そして口径や材質が大きく異なる打楽器隊の音色だ。弦楽4部以外はかなり古い楽器が使われており、即ち、マーラーがこの第4交響曲をリリースした西暦1900年頃に主流であった楽器を敢えて用いているということ。音量やダイナミックレンジという点においては現代オケが揃える高性能楽器には相当劣る。しかし、なんとも典雅であって歪み感の少ない直進性の強い楽音であろうか。実際にはのっぺりとした現代楽器の方が歪率は低いのであるが、聴感上は古楽器の方が澄明な印象が強い。直熱三極管の音がストレートで耳に迫るものがあるのと似ていて、逆に高性能バイポーラTrやMOS-FETがのっぺりした感じに鳴るのととても似ている。
ヘレヴェッヘの解釈は、ロマン派の常套である事大がかった臭いは一切無く、何にも媚びない孤高のマーラーだ。まるでバッハの管弦楽組曲を淡々と鳴らし切るリヒターの様な風情が伝わる。では、テンペラメンタルな場面が皆無かというと、実は各楽章のトゥッティなどでは巧妙に、しかも短時間、奥ゆかしく揺らしたりして(=アゴーギク)、その点においては「マーラーらしさ」を完全には消し去ってはいないのだ。最終楽章ではオペラの名手Sopを持ってきていてドラマティックな展開かと思いきやこれまたシンプルでしんみりと来る角笛が展開され、とても静かに平穏に曲は閉じられる。こういう演出色を排除したマーラーもありかと思う次第だ。絢爛豪華でインプレッシブなマーラーに染まっている現在の後期ロマン派解釈に一石を投じる演奏である。
(録音評)
φ(フィー)レーベル、盤の番号は正真正銘の一番、LPH001となる。音質はPCM的なソリッドでクールなもの。ふくよかさや温度感と言ったものが一切排除されたカミソリのような切れ味の録音だ。場所は超絶的な音響で有名なグルノーブルのMC2(Maison de la Culture, Grenoble)で、このひんやりとしたホールトーンを如実に切り取ってきた様な収録だ。奥へ奥へと深く展開するサウンドステージを背景に、ヘレヴェッヘが繰り出すストレートなリードに呼応するシャンゼリゼ管の楽器たちが動的に浮かび上がるのだ。
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http://www.hmv.co.jp/product/detail/3944138
マーラー: 交響曲第4番ト長調(1900)
ローズマリー・ジョシュア(ソプラノ)
シャンゼリゼ管弦楽団(古楽器使用)
フィリップ・ヘレヴェッヘ(指揮)
ハルモニア・ムンディとの30年にわたるパートナーシップを維持してきたフィリップ・ヘレヴェッヘは、Outhereグループとの提携により自らのレーベルであるφ(PHI)を立ち上げた。この記念すべき一枚目がこのマラ4ということになる。
ヘレヴェッヘの指導下で、シャンゼリゼ管は作曲された当時のままの演奏スタイルおよび忘れ去られたこれら音楽の色彩感を取り戻すために、ここまで20年ほどを費やしてきた。このマラ4だが、全体がピリオド楽器による解釈と演奏が主眼であり、作曲当時にマーラーが抱いていた決然とした美学で貫かれている(はずだ)が、これは現代における標準的なマーラー解釈からは程遠いものである。シャンゼリゼ管の持つ豪華な色彩感を超越し、またスコア(楽譜)の綿密な研究を超越し、この録音は、19世紀から20世紀に移るウィーンの作曲家の世界に対するヘレヴェッヘの深い知見を再認識させられるものなのだ。
ヘレヴェッヘはかつてはレオンハルトといった重鎮、その後の世代であればミンコフスキといった著名どころを筆頭に演奏活動においては彼らと積極的に協業し、バロック期のアンシェント主義的な演奏を通じてピリオド・アプローチで名を上げた指揮者であり、古典合唱曲の指揮者として高名な人物だ。そのヘレヴェッヘは昨今、バロック期以後の古典派、ロマン派の作家が生きた時代の忠実なる再現をテーマとした活動を始めており、このマラ4もその重要な一部分とみなされる。シャンゼリゼ管はそういった時代考証的な楽器蒐集、スコア解釈と演奏を最も得意とする特別な楽団であり、このCDで聴かれるマラ4のインプレッションがその彼らの存在意義を如実に示しているのだ。
能書きはこれくらいにして、実際にこの演奏はどうなのかを簡単に記す。一言でいうと"Simple & Straight, however sounding warm"とできるであろうか。弦楽4部は現代のそれとあまり変わることはないが、ヴィブラートは基本排除、そしてポルタメントも極小化という大原則の下にとても澄んだ音色を聴かせる。他の録音と大きく変わっているのはその他のパート、即ちキー・メカニズムが全く異なる木管、バルブやピストン構造が大きく異なる金管(主力のHrはひょっとしたらフレンチではなくてナチュラルホルンかも知れない・・)、そして口径や材質が大きく異なる打楽器隊の音色だ。弦楽4部以外はかなり古い楽器が使われており、即ち、マーラーがこの第4交響曲をリリースした西暦1900年頃に主流であった楽器を敢えて用いているということ。音量やダイナミックレンジという点においては現代オケが揃える高性能楽器には相当劣る。しかし、なんとも典雅であって歪み感の少ない直進性の強い楽音であろうか。実際にはのっぺりとした現代楽器の方が歪率は低いのであるが、聴感上は古楽器の方が澄明な印象が強い。直熱三極管の音がストレートで耳に迫るものがあるのと似ていて、逆に高性能バイポーラTrやMOS-FETがのっぺりした感じに鳴るのととても似ている。
ヘレヴェッヘの解釈は、ロマン派の常套である事大がかった臭いは一切無く、何にも媚びない孤高のマーラーだ。まるでバッハの管弦楽組曲を淡々と鳴らし切るリヒターの様な風情が伝わる。では、テンペラメンタルな場面が皆無かというと、実は各楽章のトゥッティなどでは巧妙に、しかも短時間、奥ゆかしく揺らしたりして(=アゴーギク)、その点においては「マーラーらしさ」を完全には消し去ってはいないのだ。最終楽章ではオペラの名手Sopを持ってきていてドラマティックな展開かと思いきやこれまたシンプルでしんみりと来る角笛が展開され、とても静かに平穏に曲は閉じられる。こういう演出色を排除したマーラーもありかと思う次第だ。絢爛豪華でインプレッシブなマーラーに染まっている現在の後期ロマン派解釈に一石を投じる演奏である。
(録音評)
φ(フィー)レーベル、盤の番号は正真正銘の一番、LPH001となる。音質はPCM的なソリッドでクールなもの。ふくよかさや温度感と言ったものが一切排除されたカミソリのような切れ味の録音だ。場所は超絶的な音響で有名なグルノーブルのMC2(Maison de la Culture, Grenoble)で、このひんやりとしたホールトーンを如実に切り取ってきた様な収録だ。奥へ奥へと深く展開するサウンドステージを背景に、ヘレヴェッヘが繰り出すストレートなリードに呼応するシャンゼリゼ管の楽器たちが動的に浮かび上がるのだ。

by primex64
| 2011-11-24 00:00
| Symphony
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