Britten: Suites for cello solo #1-3@Daniel Müller-Schott |
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Britten: Suites for cello solo, Nos. 1-3
Daniel Müller-Schott (cello)
ブリテン:
・無伴奏チェロ組曲第1番 Op.72
・無伴奏チェロ組曲第2番 Op.80
・無伴奏チェロ組曲第3番 Op.87
ダニエル・ミューラー=ショット(チェロ/1727年製ゴフリラー、ウィーン)
ベンジャミン・ブリテンから作品を献呈されるということは20世紀のクラシック音楽家にとってはこの上ない栄誉なことだったろう。そして、作品の全シリーズがある特定のアーティスト以外に献呈されたなら例外的に嬉しかったに違いない。ある特定のアーティストとは、ピーター・ピアーズのことだが(=テノール歌手:ブリテンの生涯のパートナーとして知られている=ブリテンは男色傾向であったとの揶揄から来ている)。
ブリテンのこの三つのチェロ組曲はその「例外」にあたる。この作品はムスティスラフ・ロストロポーヴィチに献呈するため約10年を費やして書かれ、そして、この曲は彼らによって初演されたのだ。 一般的にいうとこの曲はチェリストにとって最も優れた、そして最もチャレンジャブルな三つの題材とされている。ショットはロストロポービッチと共に学んだことのある人物であり、この野心的な作品に対しひたむきな熱意と卓越した演奏家魂によって正面から対峙しているのである。
これらの三曲は現代音楽と言ってよい領域の作品であり、調性は今ひとつはっきりとはしない。しかし、拍子は明確であり、そういった点においてはアルバンベルク、シェーンベルクのようなおどろおどろしさはない。
最初の組曲はブクステフーデやバッハを想起させられるバロック形式を踏襲したもののようで、調性は不明瞭ながら特定の(ちょっと退屈だが)テーマがほぼ加工無しのリフレインで何度も登場する。ショットはこの繰り返しをちょっとずつ心境を変化させながら綴っていく。
二番目の組曲は実に躍動的だ。勿論、調性があってないようなものなので、乗るとか乗らないとかは聴く側の感性によるであろうが、ここでのショットの演奏はとても魅力的なもの。楽器の出す音の美しさも手伝ってか、ちょっとトランス出来る部分だ。最後のシャコンヌの出来映えは、この方面には余り明るくない自分であっても魅惑的と感じるブリリアンスを内包している。しかし、不安定この上ない無調性の旋律はどうにかならないものか・・。
最後は一転静かと思われるが、実は反動的な部分と動的な部分が交雑した謎の曲で、さりとて不安が増強されるかというとそうでもなく、ここまで聴いてきたからかも知れないが耳が慣れて来ていて、たとえ協和音でなくとも平安を感じたり、またそうではなかったりと、様々な情感の明滅が短期間に去来し、また長めの持続音とゆったりとしたパッセージが次の心情ステージへと誘っていく。パッサカリアと銘打った楽章は、確かにバロック期のバッハなどの同名の作風に通ずるものはある。但しかなり変わっている。
この作品が正攻法のブリテン作品なのかどうかは分からないが、前衛的であることだけは確かで、旋律や和声の美しさ、規律正しい拍の強靱さといった通常の表現手法からは大きく離脱している。しかし、後になってみて分かるのは、何げに耳に残る断片が非連続的に短時間出現していたことで、あとから何度もあの辺りをもう一度聴き返してみよう、と試みることになるのだ。そういった点においてもうちょっと傍に置いて付き合ってみるディスクとなりそうな気配。
(録音評)
ORFEO C 835111 A、通常CD。録音データに関しては例によって詳細には書いてない。音質は実に生々しく、かつ艶めかしい。ショットが弾くこのチェロは特別に良い響きがする名品らしく=1727年製のMatteo Goffriller作"Ex Shapiro"、もの凄く引き込まれる深い音を出す。こんな生きた、ある種バリトンのような肉声を出すチェロは聴いたことがない。演奏が凄いので音質を云々と意識する暇がないくらいなのだが、間違いなく秀逸な録音だ。
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