J.S.Bach: Cantata BWV51 Etc@Elizabeth Watts,Harry Bicket/English Concert |
http://www.hmv.co.jp/product/detail/4024691
J.S. Bach: Cantatas & Arias
Bach, J S:
Cantata BWV31 'Der Himmel lacht, die Erde jubilieret': Letzte Stunde, brich herein
Cantata BWV57 'Selig ist der Mann': Ich wünsche mir den Tod
Cantata BWV199 'Mein Herze schwimmt im Blut'
Cantata BWV105 'Herr, gehe nicht ins Gericht mit deinem Knecht': Wie zittern und wanken
Cantata BWV84 'Ich bin vergnügt mit meinem Glücke': Ich bin vergnügt mit meinem Glücke
Cantata BWV51 'Jauchzet Gott in allen Landen'
Elizabeth Watts (Sop)
The English Concert, Harry Bicket(cond)
J.S.バッハ:カンタータ集
・『天は笑い、地は歓呼す』BWV31より第8曲アリア
・『試練に耐えうる人は幸いなり』BWV57より第3曲アリア
・『わが心は地の海に漂う』BWV199(ソプラノ・ソロのカンタータ/全曲)
・『主よ、汝のしもべの審きにかかずらいたもうなかれ』BWV105より第3曲アリア
・『全地よ、神にむかいて歓呼せよ』BWV51(ソプラノ・ソロのカンタータ/全曲)
エリザベス・ワッツ(ソプラノ)
イングリッシュ・コンサート
ハリー・ビケット(指揮)
エリザベス・ワッツは2006年のキャスリーン・フェリア賞、及び2007年のカーディフ歌唱賞を獲得した。そしてハルモニアムンディへのデビュー作はバッハの輝かしいカンタータとアリア集であり、これはハリー・ビケット率いるバロック・アンサンブルの雄、イングリッシュ・コンサートのサポートを得ての実現と相成った。
余り期待もせずに手に取った一枚だが、これがとんでもない深い感動を与えてくれる一枚となるとは思いもしなかった。通奏低音の付かない、或いは対位法(=対旋律や副旋律が必要なのでソロ歌唱では無理)を伴わない歌曲をバッハがいっぱい書いていたという事実も鮮烈だった。ドイツ語歌詞で切々と紡がれるこの曲集は何ともしみじみと訴えかけてくるものがあり、特に仕事で疲弊しつつ、精神のどこかが傷んだ状態でこれを聴くと、特効薬が裂傷から沁み入るように治癒に向かう感じなのだ。どの歌曲も短めでシンプル、そして仄暗く抑揚は平坦、そして明るく転じる場面もあるがそれも束の間、またもやちょっとダークな世界へと戻っていく。
これまたドイツ語にも明るくはないのであるが、ライナーの歌詞を独和辞典を片手に読み解きながら聴くと、キリスト教文化の深遠で奥ゆかしい一面が感じ取れてこれまた勉強になる。堅固な欧米列強国家群を形成するに至ったベースの信仰や祖先がこの様な精神状態にあったのか否かは現在では垣間見ることは出来ないのかも知れないが、宗教の持つ力というか根強さというか、そういった人が何かを信じる時の勁さ(つよさ)は測り知れないものがあると思うのだ。
ワッツというこのうら若いソプラノの声は、実はソプラノと言うにはちょっと低い帯域かも知れない。しかしメゾソプラノ(或いはコントラルト、アルト)よりかは明らかに高い声域までカバーする。従ってソプラノという分類で間違いはないと思うが、いわゆるコロラテューラを想像して聴くとかなり違和感があると思う。この人の声は非常に耳に残る。勿論、技巧的には間違いなく最高度に達しており、これは疑いの余地はない。しかし、そうではなく耳に残るのだ。アルト的なピラミッドバランスから感じられる落ち着き・・? ともちょっと違う。何とも湿潤で浸透力のある持続声、そして、どんなに細かで高速・高難度なスケール転移においても全く破綻なく、そして歪感が皆無な超安定な声帯から発せられる音波が聴く者の鼓膜にまとわりついて離れないのだ。例えるのが難しいが、ブーレーズがマーラー歌曲シリーズで重用したユリアーネ・バンゼ(Sop)やミシェル・デ・ヤング(Ms)に近い表現力とグリップ力があると感じた。
冒頭にも記した、ワッツが2006年に受賞したキャスリーン・フェリア賞のキャスリーン・フェリアとは、英国の天才コントラルト歌手であり、正式な音楽教育を受けていないにも拘わらず非常な努力によって成功したこと、バッハなどのバロック期のアリアを得意としていたこと、また40歳ちょっとと若い歳にして早世したこと等からいまだに惜しまれている人物であり、そういった背景を知るならばこの高度な歌唱力も頷けるのである。またまた期待が膨らむソリストが現れた。尚、ビケット/イングリッシュ・コンサートのサポートが非常に優秀で聴かされるものであることも付記しておく。
(録音評)
Harmonia Mundi USA、HMU807550、SACDハイブリッド。録音は2010年1月、All Hallows Church, Fospel Oak(ロンドン)、プロデューサーは例によってRobina G. Young、録音エンジニアはBrad Michelとある。音質は地味で暗く、そして、あからさまな高解像度を抑圧したこのレーベルとしては珍しいものだ。オンマイク気味の捉え方も異例であり、そして音調も強く太い。しかし、よくよく聴くと定位は精密、そして音場も奥へと深くて非常に優秀な録音であることが分かる。ワッツの声のビームは時に強く鋭く迫ってくる。シンプルなバッハ作品の素性に合わせた地味で飾らない調音は流石と言わざるを得ない。
1日1回、ここをポチっとクリック ! お願いします。