2011年 07月 31日
Liszt: P-Sonata B min. Etc@Khatia Buniatishvili |
昨年来、クラシック音楽CDの店舗販売では最後の拠り所としていたHMVが規模縮小し、そしてローソンへの経営譲渡とあいなり、店頭を漫ろ歩いてCDを手に取って選ぶ楽しみがなくなってしまった感がある。そういったこともあり、今まで余り足を踏み入れたことのなかった横浜MORE'Sのタワレコへふらりと寄った。その時になんとなく手に取って、今年はリスト・イヤーだったと思い返し、この地味なモノクローム調ジャケットのCDを余り期待もせずにバスケットに放り込んだ。数日経って、これまた期待もせずに針を降ろしてみて、驚天動地の内容に頭を殴られた時のような衝撃を覚えた。

http://www.hmv.co.jp/product/detail/4046626
Liszt: Piano Works
Franz Liszt:
Liebestraum, S541 No. 3 in A flat major
Piano Sonata in B minor, S178
Mephisto Waltz No. 1
La Lugubre Gondola II, S200 No. 2
Prelude and Fugue in a minor, BWV 543 (J.S. Bach), S. 462/1
Khatia Buniatishvili (Pf)
フランツ・リスト:
・愛の夢 第3番変イ長調 S.541-3
・ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178
・メフィスト・ワルツ第1番『村の居酒屋での踊り』 S.514
・悲しみのゴンドラ 第2稿 S.200/2
・前奏曲とフーガ イ短調 BWV.543(J.S.バッハ曲/リスト編曲 S.462-1)
カティア・ブニアティシヴィリ(ピアノ)
ソニー・クラシカルが最近になって専属契約を締結したグルジア出身のカティア・ブニアティシヴィリは、どうやら、欧米では驚異的かつ賞賛に値する若手アーティストであって、未来のピアノの巨匠のひとりと見なされているようだ。このソニーからのソロ・デビューアルバムはフランツ・リストに捧げる内容であり、特にファウスト主題にフォーカスされたものである。冒頭の愛の夢 第3番はゲーテのファウストから特徴付けられていて、あの有名な台詞 "O stay! Thou art so fair!" (邦訳=時よ止まれ!汝はあまりに美しい)から来ている。そして、メフィストワルツはニコラス・レーナウのファウストの詩の挿話によってインスパイアされている。 そのうえで、ブニアティシヴィリはファウスト、マーガレットおよびメフィストをこのアルバムの中心となるロ短調ソナタに読み込んでいるようなのだ。なるほど、ジャケットの黒はファウストの出で立ち(黒マント)を意味し、白はメフィストの姿を象徴していたというわけか・・。
このアルバムを通しで聴いてみた後で分かることなのだが、愛の夢3番はロ短調ソナタの助走、いや序奏であるということ。十二分にリラックスし、殊に弱音部の研ぎ澄まされた透過性の高いパッセージとふくよかな中音量部の華麗な歌わせ方を聴いていると、その次に展開されるであろう怒濤の大作への予告編として位置付けられているのが分かるのであった。
そして、この長大なソナタのなんという美麗で型破りな演奏であろうか。2009年のルガーノ祭へアルゲリッチが呼んでいたというトピックスはずっと後になって知ったのだが、確かにアルゲリッチが可愛がる理由がそこにあるというのが理解できる天才的な解釈だ。リストのソナタといえば、このところのぶっ飛び路線としてはポリーナ・レスチェンコが記憶に新しい。しかし、このブニアティシヴィリの演奏はそれとは互角、或いは上を行くまさに驚異のパフォーマンスであり近年の快挙と言ってよい内容である。レスチェンコよりかは温度感が低く、そして青白い炎が放射されるような鋭敏でハイスピードな解釈であり、レスチェンコの暖色系でエネルギッシュな路線とは反対方向を目指している。どちらもリスト解釈としては「あり」なのだが、ブニアティシヴィリの方が精密感があって、かつ超絶技巧が強調された内容と言える。また、ピアノの打鍵技法がほぼ完璧であり、恐ろしく精密かつノイズの無い高速パッセージは胸の透く加速感が味わえる。
この後のトラックに関しては、極限を披露したアスリートが演技後にする整理体操のようなもので、聴く側の極度に緊張した耳をもストレッチにより心地良くほぐしてくれる。
ソニーは、今までグルジアなどの旧ソ連圏のアーティストの掘り起こしを積極的に行っていた。スクリデ、バティアシュヴィリなどの例があるなか、このブニアティシヴィリは大当たりと言えるのではないか。凄いピアニストを連れてきたものだ。ソロ・デビューはこの年齢となったが、才能の開花という点においてはデュ・ラ・サールなどの域に既に達していて、今後が非常に楽しみな逸材である。
(録音評)
Sony Classical、88697766042、通常CD。録音は2010年10月10-14日、場所はベルリン、マイスターザールとある。演奏内容が著しく高度で優れているだけでなく、音質もまた画期的な超優秀録音である。特にソニーとしては出色の出来映えであり、今までのどんなピアノ録音よりも圧倒的に優れている。音質傾向は地味でありながら各レンジのフラットさと透過度の高さ、そしてサウンドステージのナチュラルな構築と深さという点においては今までこのレーベルでは成し得なかった領域に達しているのだ。どうしたことか・・。ふとライナーを眺めていたらプロデューサーのクレジットにRainer Maillardの名が記してある。どうしたことか?マイラートはエミール・ベルリーナ・スタジオの社員であり、即ちドイツ・グラモフォンがリリースするクラシック音楽メディアの殆どの音質を決めるという枢要な立場にいた人物であり、その重責を担う人間がソニーの録音を担当するとはどういうことなのかが一瞬理解できなかった。エミール・ベルリーナからレンタルして来たのか、はたまたソニーがマイラートを引き抜いてしまったのか、或いはマイラートが独立してフリーになったのか・・、無論その辺の事情は明らかではない。しかし、明確なのはマイラート独特のトランスペアレントな録音技法がこのCDに注入されていることであり、光沢や華美な演色が一切含まれないナチュラルなDGサウンドがソニー・クラシカルから出ているという信じ難い状況が目の前で起きているのは事実だ。これはちょっとした異変である。
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Liszt: Piano Works
Franz Liszt:
Liebestraum, S541 No. 3 in A flat major
Piano Sonata in B minor, S178
Mephisto Waltz No. 1
La Lugubre Gondola II, S200 No. 2
Prelude and Fugue in a minor, BWV 543 (J.S. Bach), S. 462/1
Khatia Buniatishvili (Pf)
フランツ・リスト:
・愛の夢 第3番変イ長調 S.541-3
・ピアノ・ソナタ ロ短調 S.178
・メフィスト・ワルツ第1番『村の居酒屋での踊り』 S.514
・悲しみのゴンドラ 第2稿 S.200/2
・前奏曲とフーガ イ短調 BWV.543(J.S.バッハ曲/リスト編曲 S.462-1)
カティア・ブニアティシヴィリ(ピアノ)
ソニー・クラシカルが最近になって専属契約を締結したグルジア出身のカティア・ブニアティシヴィリは、どうやら、欧米では驚異的かつ賞賛に値する若手アーティストであって、未来のピアノの巨匠のひとりと見なされているようだ。このソニーからのソロ・デビューアルバムはフランツ・リストに捧げる内容であり、特にファウスト主題にフォーカスされたものである。冒頭の愛の夢 第3番はゲーテのファウストから特徴付けられていて、あの有名な台詞 "O stay! Thou art so fair!" (邦訳=時よ止まれ!汝はあまりに美しい)から来ている。そして、メフィストワルツはニコラス・レーナウのファウストの詩の挿話によってインスパイアされている。 そのうえで、ブニアティシヴィリはファウスト、マーガレットおよびメフィストをこのアルバムの中心となるロ短調ソナタに読み込んでいるようなのだ。なるほど、ジャケットの黒はファウストの出で立ち(黒マント)を意味し、白はメフィストの姿を象徴していたというわけか・・。
このアルバムを通しで聴いてみた後で分かることなのだが、愛の夢3番はロ短調ソナタの助走、いや序奏であるということ。十二分にリラックスし、殊に弱音部の研ぎ澄まされた透過性の高いパッセージとふくよかな中音量部の華麗な歌わせ方を聴いていると、その次に展開されるであろう怒濤の大作への予告編として位置付けられているのが分かるのであった。
そして、この長大なソナタのなんという美麗で型破りな演奏であろうか。2009年のルガーノ祭へアルゲリッチが呼んでいたというトピックスはずっと後になって知ったのだが、確かにアルゲリッチが可愛がる理由がそこにあるというのが理解できる天才的な解釈だ。リストのソナタといえば、このところのぶっ飛び路線としてはポリーナ・レスチェンコが記憶に新しい。しかし、このブニアティシヴィリの演奏はそれとは互角、或いは上を行くまさに驚異のパフォーマンスであり近年の快挙と言ってよい内容である。レスチェンコよりかは温度感が低く、そして青白い炎が放射されるような鋭敏でハイスピードな解釈であり、レスチェンコの暖色系でエネルギッシュな路線とは反対方向を目指している。どちらもリスト解釈としては「あり」なのだが、ブニアティシヴィリの方が精密感があって、かつ超絶技巧が強調された内容と言える。また、ピアノの打鍵技法がほぼ完璧であり、恐ろしく精密かつノイズの無い高速パッセージは胸の透く加速感が味わえる。
この後のトラックに関しては、極限を披露したアスリートが演技後にする整理体操のようなもので、聴く側の極度に緊張した耳をもストレッチにより心地良くほぐしてくれる。
ソニーは、今までグルジアなどの旧ソ連圏のアーティストの掘り起こしを積極的に行っていた。スクリデ、バティアシュヴィリなどの例があるなか、このブニアティシヴィリは大当たりと言えるのではないか。凄いピアニストを連れてきたものだ。ソロ・デビューはこの年齢となったが、才能の開花という点においてはデュ・ラ・サールなどの域に既に達していて、今後が非常に楽しみな逸材である。
(録音評)
Sony Classical、88697766042、通常CD。録音は2010年10月10-14日、場所はベルリン、マイスターザールとある。演奏内容が著しく高度で優れているだけでなく、音質もまた画期的な超優秀録音である。特にソニーとしては出色の出来映えであり、今までのどんなピアノ録音よりも圧倒的に優れている。音質傾向は地味でありながら各レンジのフラットさと透過度の高さ、そしてサウンドステージのナチュラルな構築と深さという点においては今までこのレーベルでは成し得なかった領域に達しているのだ。どうしたことか・・。ふとライナーを眺めていたらプロデューサーのクレジットにRainer Maillardの名が記してある。どうしたことか?マイラートはエミール・ベルリーナ・スタジオの社員であり、即ちドイツ・グラモフォンがリリースするクラシック音楽メディアの殆どの音質を決めるという枢要な立場にいた人物であり、その重責を担う人間がソニーの録音を担当するとはどういうことなのかが一瞬理解できなかった。エミール・ベルリーナからレンタルして来たのか、はたまたソニーがマイラートを引き抜いてしまったのか、或いはマイラートが独立してフリーになったのか・・、無論その辺の事情は明らかではない。しかし、明確なのはマイラート独特のトランスペアレントな録音技法がこのCDに注入されていることであり、光沢や華美な演色が一切含まれないナチュラルなDGサウンドがソニー・クラシカルから出ているという信じ難い状況が目の前で起きているのは事実だ。これはちょっとした異変である。

by primex64
| 2011-07-31 21:47
| Solo - Pf
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