Bach: A Strange Beauty@Simone Dinnerstein, Stephan Mai/SKB |
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J.S.Bach:
Chorale Prelude BWV639 'Ich ruf' zu dir, Herr Jesu Christ'
Keyboard Concerto No.5 in F minor, BWV1056
Chorale Prelude BWV734 'Nun freut euch, lieben Christen gmein'
English Suite No.3 in G minor, BWV808
Keyboard Concerto No.1 in D minor, BWV1052
Cantata BWV147 'Herz und Mund und Tat und Leben': Jesu, bleibet meine Freude
Simone Dinnerstein(Pf)
Stephan Mai(Cond), Staatskapelle Berlin
J.S.バッハ:
・コラール『主イエス・キリストよ、われ汝に呼ばわる』BWV639(フェルッチョ・ブゾーニ編)
・クラヴィーア協奏曲第5番ヘ短調BWV1056
・コラール『たしかにその時は来れり』BWV307(ヴィルヘルム・ケンプ編)
・イギリス組曲第3番ト短調BWV808
・クラヴィーア協奏曲第1番ニ短調BWV1052
・コラール『主よ、人の望みの喜びよ』BWV147(マイラ・ヘス編)
シモーヌ・ディナースタイン(ピアノ)
ベルリン国立歌劇場室内管弦楽団
なかなかに力の入った、濃厚なバッハ解釈だ。そうはいっても前作のイメージを大きく逸脱、或いは凌駕するようなエキセントリックな解釈ではないし、今時のモダン・ピアノで曲芸よろしく弾き倒したような話題作り狙いの演奏でもない。ある意味、バロック時代の弱音鍵盤楽器=チェンバロとアンサンブルを正統進化系でもって現代にアダプトするとこうなる、といった一つの答えがここにあるような気がする。BWV639のブゾーニ編の静謐さも、BWV307のケンプ編の明媚な展開も、原曲に比して大幅な起伏を強調しているようには聴こえない。
ちょっと意外だったのがイギリス組曲3番で、この翳りある名曲を真摯にトレースするディナースタインの演奏を何度も聴き返しているうちに、グスタフ・レオンハルトのイギリス組曲を連想してしまって、後半に至るともう完全に両者が視界の中で重なってしまうのだ。畳み掛けてくるリチェルカーレとフーガといった対位法の極致においてはディナースタインのバッハ理解はかつてのピリオド界/オリジナル主義の巨匠たちとほぼ同じスタンスといってもよい境地に達していると思われる。
たしかに、現代ピアノでしか成し得ない豊かな強弱表現、そして圧倒するダイナミックレンジと高速パッセージといった楽器固有の高性能を存分に活かした演奏であるが、根底に流れるバッハの対位法はチェンバロによるものとはどこも違うところはなくて、単に表現幅が拡張され、そして歪感の少ない音色で構成されたより洗練されたパッセージに置き換わっていると解釈すべきだ。
チェンバロ組曲BWV1052は出色の出来映えである。チェンバロ+バロックアンサンブルがオリジナルである云々はもはや議論する価値のない事柄であって、この際はディナースタインの先鋭なバッハ解釈とぶ厚く朗々とした演奏に耳を傾けるべきであろう。やはり、この演奏もレオンハルトや最盛期のリヒターが聴かせてくれていた求道的かつ内面的な輪唱が際限なく繰り返される名演を彷彿とさせられるもので、ディナースタインのバッハ解釈の真骨頂はここにあることを明確に示している。
今回のこのバッハは「A Strange Beauty」(=哲学者フランシス・ベーコンが「究極の美しさにはどこかに奇妙なところがある」と述べたことに由来)と題したテーマ・アルバムであるが、是非、次にはイギリス組曲全曲、またフランス組曲も聴きたいし、チェンバロ協奏曲(BWV1000番台)の全曲演奏に期待したいもの。もし、現代ピアノによってバッハ全曲録音を成し遂げるとするなら、この人しかいない、という評判を取るところまで見せて欲しいものだ。
(録音評)
Sony Classical 88697817422、通常CD。これは直輸入盤だが、国内盤もリリースされたようだ。録音は2010年6月12日~14日、場所はベルリンのルンドフンクツェントゥルム、第1ホールとある。音質はソニー・クラシカルの今までの典型パターンとはちょっと異なっていて密度感が濃く、欲張らないレンジと共に質実剛健な音質となっている。ピアノの太さが際立っており、ちょっとオンマイク気味に捉えられたディナースタインのキータッチが克明に捉えられている。一方でシュターツカペレ・ベルリンのアンサンブルはそこそこの空間感を表現していて自然な展開。ピアノは漆黒のトーンだったのだが、これに比べると中高域のブリリアンスを足していて、全体的に細密な感じを演出している。これはこれでありの調音だ。
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