Rapsodia@Patricia Kopatchinskaja |

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Kopatchinskaja: Rapsodia
# Ciocârlia
・Enescu: Impressions d'enfance for violin and piano, Op.28
# Doina et hora marită
・Enescu: Violin Sonata #3 in A minor Op.25
"dans le caractère populaire roumain"
・Ligeti: Ballad & Dance for Duo Violins
# Doina for cimbalom solo
# Hora for cimbalom solo
・Kurtág: Eight Duets for Violin and Cimbalom, Op. 4
・Dinicu: Hora Staccato
・Ravel: Tzigane
・Sánchez-Chiong: Crin
# Căluşari 1 - Căluşari 3
Patricia Kopatchinskaja (violin),
Emilia Kopatchinskaja (violin & viola),
Viktor Kopatchinsky (cimbalom),
Martin Gjakonovski (double bass) & Mihaela Ursuleasa (piano)
パトリシア・コパチンスカヤ/『ラプソディア』
・民謡:チョクルリア(ひばり)
・エネスコ:『幼き頃の印象』op.28~フィドル弾き
・民謡:ドイナとホラ・マリタ
・エネスコ:ヴァイオリン・ソナタ第3番『ルーマニア民謡風に』
・リゲティ:2つのヴァイオリンのためのバラードとダンス
・民謡:ツィンバロン・ソロのためのドイナとホラ
・クルターク:ヴァイオリンとツィンバロンのための8つのデュオop.4
・ディニーク:ホラ・スタッカート
・ラヴェル:ツィガーヌ
・サンチェス=チョン:クリンより
・民謡:3つのカルシャリ
パトリシア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン)
ミハエラ・ウルズレアサ(ピアノ)
エミリア・コパチンスカヤ(ヴァイオリン、ヴィオラ)
ヴィクトル・コパチンスキー(ツィンバロン)
マーティン・ヤコノフスキー(コントラバス)
針を降ろしてまず耳が行くのは、コパチンスカヤの派手で力のある操弦術だ。どうしてどうして、これがとても多彩で表情が豊か、そして鮮やかな弾きっぷりなのだ。女流Vnソリストは昨今では優秀な人材が数多活躍するが、このコパチンスカヤは先達たちを尻目に更なる魅惑をそそる優れた表現能力を備えた奏者である。
作品はどれもが旧東欧圏の色合いを濃くした特異なものであり、民族的、地方的な「土の臭い」が強い、アクのある選曲だ。なるほどモルドヴァという旧ソ連の一角を担った小さなエリアの特質か? と想像を強く巡らせるに余りある異国情緒だ。勿論、私は彼の地へ行ったこともないしその地方出身者との交際もないのだが・・。
収録曲の作風以外の特徴としては、彼女のファミリーとの競演と言うことが挙げられる。父親のヴィクトル・コパチンスキーはCimの名手、そして母親のエミリア・コパチンスカヤはVnとVaの名手なのだ。つまり、必ずしもパトリシアのVnだけにフォーカスしたアルバムではなく、他のソリストの演奏と解釈もふんだんに含まれた多彩かつ楽しいアルバムなのだ。欧州のマイナーな民謡を挟みつつ前衛作品を交互に並べたこの構成はかなり新しいし刺激も強くて、そしてソリストのキャラクタも鮮明化される方向で、実に楽しめて美味しいアルバムなのである。
著名なところとしてはリゲティの独特の旋法によるバラード&ダンス、ラヴェルのツィガーヌ(ツィンバロン編曲版)なども入っていて、何度聴いても飽きない面白さと明確な芸術性、音楽的嗜好が感じられる優秀盤である。特にツィガーヌはVn+Pf伴奏版からの編曲らしく、なるほどこういった展開方法も有りか? と膝を打つスリルが味わえる。尚、父親の弾くツィンバロンが巧すぎてパトリシアのVnが霞んでしまうのがこのアルバムの唯一の欠点。
(録音評)
naive V5193、通常CD。録音は少し古くて2009年3月、場所はDeutschlandfunk Kammermusiksaal, Kölnとあり、naiveとケルンのドイツ放送との共同制作だ。機材は、マイクがSchoeps NK2S、Sennheiser MKH20、Neumann KM140など、レコーダーと編集機はSequoiaとある。
音質はちょっとノスタルジックな演出で曲想と曲目、演奏スタイルに合わせたものと思われる。特に冒頭のチョクルリア(ひばり)は完全な暖色系、しかも敢えてナローレンジに振った古色蒼然としたものである。しかし、曲によって微妙に音質傾向を変えており、エネスコのVnソナタなどは完全な高解像度系といえる。
Cim(ツィンバロン)の捉え方はVnのそれよりも暖色かつソフトフォーカスで優しい肌触りだが、パトリシアのVnは寒色系でクールな捉え方だ。コンバスのローエンドは十分に伸びていて成功すれば重厚なピラミッドバランスのアンサンブルが眼前に現出するであろう。naiveにありがちな音質傾向ではなく、恐らくはドイツ放送のカラーなのだと思う。
