Opening Gala Concert@Ishibashi Memorial Hall |
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3879732
・ブラームス:ピアノ四重奏曲第1番ト短調op.25
横山幸雄(ピアノ)
矢部達哉(ヴァイオリン)
今井信子(ヴィオラ)
原田禎夫(チェロ)
・ウィデルケール:デュオ・ソナタ
広田智之(オーボエ)
曽根麻矢子(チェンバロ)
・J.S.バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ第1番ト長調BWV1027
今井信子(ヴィオラ)
曽根麻矢子(チェンバロ)
大学が所有して永らく愛されてきた音楽ホールとしては昭和女子大の人見記念講堂が上げられる。一方、IMHは1974年の秋口に上野学園が竣工させた日本国内初のオルガンを備えるクラシック専用を標榜する小型ホールであり、当時、満席時平均残響時間=1.5秒という先鋭的な特性を備えたこのお洒落な変形ホールは他の多くの優秀中小型ホールの先駆けとなった記念碑的存在なのだ。その名ホールが2007年に建て替えのため一旦閉鎖、そして3年の歳月をかけて再建立されて昨年めでたく再オープンに漕ぎ着けた。
私が大学に入学したのが1978年の春で、この頃にはIMHは既にクラシック専用の音の良いホールとして名声を馳せていた。大学のサークル関係の伝手もあってこのホールで毎週開かれる金曜コンサートのチケットを手にしては足繁く上野に通い、オルガンの調べに浸ったものだ。時には国鉄の線路を挟んで対面にある東京文化の大ホール/小ホールへもハシゴしたりしてクラシックを堪能した良き時代でもあった。勿論、その頃にはサントリーも芸劇も存在せず、クラシックの演奏会といえば上野(もしくは日比谷、杉並公会堂、NHKホールあたり)だったというわけだ。
このガラコンサートのCDだが、出演が上野学園、いや日本の音楽教育界/ソリストを代表するフルキャストといってよい豪勢な顔ぶれだ。横山幸雄(Pf)、矢部達哉(Vn)、今井信子(Va)、原田禎夫(Vc)、広田智之(Ob)、曽根麻矢子(Cem)と、普通に一堂に会する機会はもうないであろう。
冒頭のブラームス・Pカルテット1番Op.25の出来映えは素晴らしく、そしてそれぞれのパート担当の特徴と趣が非常に良く表出された傑作演奏だ。これこそがVSOP(Very Special One-time Performance)と呼ぶべき演奏なんだろう。同様の録音は、例のDG盤が挙げられ、そちらはかなり受け狙いというか、オールスターを配したゴージャス版だったわけで、内容的にも煌びやかなものだった。が、こちらのブラPカルテットは燻し銀と表現するに相応しい落ち着いた出来映えながら地を這うようなベースラインが特徴となる堅実かつ実直な演奏なのだ。
ウィデルケールのデュオ・ソナタというのは初めて聴く曲だが、伸びやかで屈託なく美しく、まさに記念演奏会に相応しい華やいだ雰囲気を演出している。最後のBWV1027は、だいぶ枯れてはいるけれど毅然とした生命の勁さと軽妙洒脱な豊富な人生経験を想像させられる今井信子のブロードな魅力が溢れた逸品だ。この二曲でちょっと残念なのは曽根のチェンバロが上手く録れていないことで、ソリスト偏重が過ぎて通奏低音のバランスがよろしくない。
トータルすれば素晴らしい記念盤である。今後、IMHとキングの連携によりこのホールでの優秀演奏をシリーズ化してリリースしていくというから実に楽しみだ。
(録音評)
キングレコード、KICC878、通常CD。録音は2010年5月、上野学園・石橋メモリアルホールでのライブ収録。音色は地味で、華美な光沢や不必要な演出が含まれず非常に好感が持てるもの。しかし、キングのいつものパターンなのだがサウンドステージの作り方がどうにも下手くそで耳を覆うばかり。キングは浜離宮でも結構録っているのであるが、いずれもこの盤と近しいような発散した音場でしか録れていない。欧州の各主力レーベルとの違いが歴然とし過ぎていて、改めて録音技術水準が追いついていないことを思い知らされる。恐らく、新IMHのアンビエントはもっともっと香しくて三次元的拡がりを示すものである可能性が高く、それは近いうちに実地に確かめてこようと思っている。因みに、初代IMH、そして今回とアコースティック設計を担当した永田音響設計のファウンダー、永田穂氏がライナーの後扉に賛辞を書いている(因みに、彼はNHK技研時代には東京文化会館の大/小ホールの設計も手掛けている)。
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