2010年 12月 19日
Chopin: Nocturnes Vol.1@Luis Fernando Pérez |
MIRAREの春の新譜で、ルイス・フェルナンド・ペレスのショパン/ノクターンの第1集ということになる。ペレスはショパン・イヤーである今年のLa Folle Journée au Japon(LFJ)出演のため来日したので、彼の演奏をリアルで聴いたことがある人はそれなりにいると思われる。

http://www.hmv.co.jp/product/detail/3800292
ショパン:ノクターン集 vol.1
・変ホ長調作品9-2
・へ長調作品15-1
・嬰ヘ長調作品15-2
・嬰ハ短調作品27-1
・変ニ長調作品27-2
・変イ長調作品32-2
・ト長調作品37-2
・嬰ヘ短調作品48-2
・ハ短調作品48-1
・「遺作」嬰ハ短調
ルイス・フェルナンド・ペレス(ピアノ)
輸入元のキング・インターなどの触れ込み、また、LFJを聴いた評論家によれば今までに見たこともないショパン、強靱で大胆、パワフルなピアノということで、とても独創的で奇を衒った演奏かと思われるかも知れないが、このアルバムを聴く限りにおいては実はこれらの評はまるで当たっていない。
このノクターン集はOp.9-2から始まっている。これは余り例のないことで、普通なら冒頭はOp.9-1に決まっている。というのも、ペレスの習慣らしく、とてもポピュラーな曲から入って聴衆の耳に溶け込みやすくする工夫だとかで、演奏会でもそういった構成にしているそうだ。
Op.9-2はごく普通の、強いて言うならちょっと抑制気味で内省的な弾き方である。節目となるような小節の入りの右手の一音をちょっと遅らせたり、sfz(スフォルツァンド)気味に強調したりと、独特のアクというかアーティキュレーションを持ったピアニストである。チェンバロ演奏では割と日常的に使われる抑揚表現方法であるが、現代ピアノ、しかもショパン演奏においてこれを使うのは変わっているかも知れない。この弾き方はエマール(Pierre-Laurent Aimard)を想起させられる。尚、後から知ったことだが、ペレスはエマールに師事した事があったらしく、この癖はたまたまかも知れないがその経歴からは頷けることだ。
後続のノクターンは静謐に、しかも微細な描き込みと丹念な旋律トレースにより非常に滑らか、かつ無駄のない展開と言える。但し前述のアーティキュレーションが良い方向へと奏功して、ショパンが持つ孤高のリリシズムを浮き彫りにしていくといったら言い過ぎだろうか。名曲・嬰ヘ長調Op.15-2の美しさは極致であり、ペレスの技巧の桁外れた高さを見せつけられる。しかし、評にあるようなパワフルで剛健な印象は全くなく、柔和で、まろぶような均整の取れた和声が印象的だ。
使用ピアノはスタインウェイのDシリーズとあるからコンサート・グランド級の大型楽器であるはずだが、どうもそんな大仰な音は出て来なくて、乱暴な言い方をするとプレイエルやエラールのフォルテピアノのような優しくて暴れのない暖かなサウンドが奏でられるのである。これは、ペレスの左手の強靱なコントロール能力にその秘密があるようで、強奏部の左手伴奏を現代ピアノ風に打ち抜けばスタインウェイは剛健でソリッド、ハイスピードな低域を発するのであるが、敢えてそれをせず、抑制された打鍵に留めているのである。そうすることにより右手が担う繊細な主旋律を不必要にマスクせず、従って全体的に混濁のないウェル・バランスなショパンとなるのである。
ここまでの推移とはまるで違う、パワフルでタイト、そして熱情的な解釈を見せるのがハ短調Op.48-1である。ペレスはうって変わって剛健でソリッド、そして大音量、高速でこの曲を弾ききっている。しかし、一音一音が明晰であって混濁も「音符の団子」も認められないクールな弾きっぷりである。有楽町LFJでの演奏はこのパターンであった可能性が高い。全編こういった弾き方であったなら冒頭の評にある表現に当て嵌まるのである。しかし、ペレスの神髄はこの毅然としたショパンではなく、どこか茫洋としながら苦悩する詩人の書いた珠玉のメロディーを抑制的・内省的な曲想で紡いでいくところにある気がしてならない。いずれにせよ、ショパン解釈としてはある種の優れた一面を提示してくれている演奏だ。なかなかに奥の深いショパン解釈だ。
(録音評)
MIRAREレーベル、MIR111、通常CD。録音は2010年2月8~10日、場所は Sala Mozart, Zaragoza Auditóriumとある。この施設は1994年に竣工した超近代的、超高音質で知る人ぞ知る中規模ホールで、かのブーレーズやメータ、ポリーニなどもお気に入りだとか。
音質は透徹された超Hi-Fiサウンドであり、カミソリの刃が立ったような危うさを感じさせる恐怖すら覚える超前衛的なものである。これはこの現代ホールの音質をそのまま映し出していると思われる。国内でここに比肩、また類似するのは石橋メモリアルくらいだろうか。ここで生の演奏会を一度は聴いてみたいと思わされる数少ない録音だ。いやはや、世の中には凄い音のホールがあるものだ。
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ショパン:ノクターン集 vol.1
・変ホ長調作品9-2
・へ長調作品15-1
・嬰ヘ長調作品15-2
・嬰ハ短調作品27-1
・変ニ長調作品27-2
・変イ長調作品32-2
・ト長調作品37-2
・嬰ヘ短調作品48-2
・ハ短調作品48-1
・「遺作」嬰ハ短調
ルイス・フェルナンド・ペレス(ピアノ)
輸入元のキング・インターなどの触れ込み、また、LFJを聴いた評論家によれば今までに見たこともないショパン、強靱で大胆、パワフルなピアノということで、とても独創的で奇を衒った演奏かと思われるかも知れないが、このアルバムを聴く限りにおいては実はこれらの評はまるで当たっていない。
このノクターン集はOp.9-2から始まっている。これは余り例のないことで、普通なら冒頭はOp.9-1に決まっている。というのも、ペレスの習慣らしく、とてもポピュラーな曲から入って聴衆の耳に溶け込みやすくする工夫だとかで、演奏会でもそういった構成にしているそうだ。
Op.9-2はごく普通の、強いて言うならちょっと抑制気味で内省的な弾き方である。節目となるような小節の入りの右手の一音をちょっと遅らせたり、sfz(スフォルツァンド)気味に強調したりと、独特のアクというかアーティキュレーションを持ったピアニストである。チェンバロ演奏では割と日常的に使われる抑揚表現方法であるが、現代ピアノ、しかもショパン演奏においてこれを使うのは変わっているかも知れない。この弾き方はエマール(Pierre-Laurent Aimard)を想起させられる。尚、後から知ったことだが、ペレスはエマールに師事した事があったらしく、この癖はたまたまかも知れないがその経歴からは頷けることだ。
後続のノクターンは静謐に、しかも微細な描き込みと丹念な旋律トレースにより非常に滑らか、かつ無駄のない展開と言える。但し前述のアーティキュレーションが良い方向へと奏功して、ショパンが持つ孤高のリリシズムを浮き彫りにしていくといったら言い過ぎだろうか。名曲・嬰ヘ長調Op.15-2の美しさは極致であり、ペレスの技巧の桁外れた高さを見せつけられる。しかし、評にあるようなパワフルで剛健な印象は全くなく、柔和で、まろぶような均整の取れた和声が印象的だ。
使用ピアノはスタインウェイのDシリーズとあるからコンサート・グランド級の大型楽器であるはずだが、どうもそんな大仰な音は出て来なくて、乱暴な言い方をするとプレイエルやエラールのフォルテピアノのような優しくて暴れのない暖かなサウンドが奏でられるのである。これは、ペレスの左手の強靱なコントロール能力にその秘密があるようで、強奏部の左手伴奏を現代ピアノ風に打ち抜けばスタインウェイは剛健でソリッド、ハイスピードな低域を発するのであるが、敢えてそれをせず、抑制された打鍵に留めているのである。そうすることにより右手が担う繊細な主旋律を不必要にマスクせず、従って全体的に混濁のないウェル・バランスなショパンとなるのである。
ここまでの推移とはまるで違う、パワフルでタイト、そして熱情的な解釈を見せるのがハ短調Op.48-1である。ペレスはうって変わって剛健でソリッド、そして大音量、高速でこの曲を弾ききっている。しかし、一音一音が明晰であって混濁も「音符の団子」も認められないクールな弾きっぷりである。有楽町LFJでの演奏はこのパターンであった可能性が高い。全編こういった弾き方であったなら冒頭の評にある表現に当て嵌まるのである。しかし、ペレスの神髄はこの毅然としたショパンではなく、どこか茫洋としながら苦悩する詩人の書いた珠玉のメロディーを抑制的・内省的な曲想で紡いでいくところにある気がしてならない。いずれにせよ、ショパン解釈としてはある種の優れた一面を提示してくれている演奏だ。なかなかに奥の深いショパン解釈だ。
(録音評)
MIRAREレーベル、MIR111、通常CD。録音は2010年2月8~10日、場所は Sala Mozart, Zaragoza Auditóriumとある。この施設は1994年に竣工した超近代的、超高音質で知る人ぞ知る中規模ホールで、かのブーレーズやメータ、ポリーニなどもお気に入りだとか。
音質は透徹された超Hi-Fiサウンドであり、カミソリの刃が立ったような危うさを感じさせる恐怖すら覚える超前衛的なものである。これはこの現代ホールの音質をそのまま映し出していると思われる。国内でここに比肩、また類似するのは石橋メモリアルくらいだろうか。ここで生の演奏会を一度は聴いてみたいと思わされる数少ない録音だ。いやはや、世の中には凄い音のホールがあるものだ。
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by primex64
| 2010-12-19 22:07
| Solo - Pf
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