2010年 12月 04日
Beethoven:P-Sonata#24 Op.78 Etc@Mari Kodama |
ペンタトーンの夏の新譜で、日本でも人気急上昇中の児玉麻里のベトPソナタ集、SACDハイブリッド。制作シーンを撮ったDVDも同梱され、お得感のある2枚組となっている。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3878458
R.V.Beethoven:
Piano Sonata No.25 in G major, Op.79
Piano Sonata No.24 in F sharp major, Op.78 "Therese"
Piano Sonata No.9 in E major, Op.14 No.1
Piano Sonata No.10 in G major, Op.14 No.2
Piano Sonata No.19 in G minor, Op.49 No.1
Piano Sonata No.20 in G major, Op.49 No.2
Mari Kodama (piano) 児玉麻里(ピアノ)
児玉麻里はここ数年、ペンタトーンでベトPソナタのチクルスを録ってきていて、これが5枚目のリリースとなる。児玉はレコーディングだけではなく世界各地でベトPコンの全曲演奏を試みており、昨今では逆輸入という感じで浜離宮朝日ホールにおけるリサイタルも賞賛される出来映えとなっていて、目下注目中のベト弾きの一人ではなかろうか。また、児玉の旦那で日系有名指揮者であるケント・ナガノとの競演でロスやサンフランでのベトPコン・シリーズも息の長い定評を博するなど、遅咲きながらなかなかの活躍ぶりである。
今までリリースされているペンタトーンのこのチクルスは買ってはいないが、今回、ちょっと変わったセレクションとなっているこの5枚目を買った。要は好きな25番・郭公と24番テレーゼがフィーチャーされていたからだ。3楽章ヴィヴァーチェがショパンの胡蝶に酷似したこの郭公は、ベートーヴェンのピアノ曲における一つの象徴と個人的には思っているし、形式主義を貫きつつもストレートで素直な音楽表現のテレーゼは、メロディ・メーカーとしてのベートーヴェンの価値を改めて確認できる佳作と思っている。ベトのPソナタの美点は悲愴/月光/熱情だけにあるわけではないのである。
この人のピアノは、特にベトPソナタは、なかなかに濃密にして味わいが深い。軽量感と速度感がもて囃される昨今にあって、正面からまともにベートーヴェンのピアノ譜面に相対峙している様で、それが寧ろ新鮮な感じなのだ。質量を伴った、しっかりとした歩調で深く鋭く旋律を切り刻みつつ、さりとてベッタリと張り付くような鈍重なフィーリングは微塵もない。基本はノンレガート、そして緩徐部はレガートを貫いていてなかなかに潔いのである。和声に載る旋律の隅々にまで児玉の自信に満ちた解釈が活きていて、いわば確信犯的な割り切りと大胆な構図でこの種のベトPソナタを描いていく。
従前のリリースは聴いていないので知らないのであるが、この5枚目のリリースはどうやら小規模作品だけを収録したもののようだ。従って作曲年代の順序で並んでいるわけでもなく調性の順序でもない。どれも、恐らくはソナチネと言える規模の作品であって、言うならばモーツァルトのソナタに似たような屈託のない素直な習作的な曲ばかりと言える。そのぶん演奏は難しいと考えられる。つまり奏者の個性の挟み込みを作品自体のシンプルさが拒絶しているようなところがあって、どんなに策を弄してもおかしな事になることから、結局は裸の譜面の本来論的な根底に込められた作家の真意を探る旅となるのである。
結論であるが、この児玉の曲想はこの不安定な時代背景にあって価値ある安定度をもたらしてくれる落ち着いた力強さを持っていて、ベートーヴェン解釈としては優れていると解する。ベートーヴェンが書いたソナタ全32曲を改めて俯瞰する機会を与えてくれたと感じている。
(録音評)
Pentatoneレーベル、PTC5186304、SACDハイブリッド+DVDの二枚組。録音はPolyhymnia International B.Vの担当。音質はここ一年ほどで確立されつつある新生ペンタトーン・サウンドで、不必要で過度なブリリアンスが徹底的に排除されたクリーンなものだ。以前のペンタトーンはキラキラとしたアクセントがついていてそれはある人たちにとっては不快だったらしい(オフ会仲間の一人で耳の良い悪口の人物は「味の素臭い」と表現していた)。しかし、この盤の音質はニュー・スタンダードと言える素晴らしく地味系&透過度の高い録音だ。
ピアノはスタインウェイD-274とあるが、調律のせいか児玉のキータッチのせいか非常に野太くて実在感が強烈、そしてメタリックさやピーキーさのないしっとりとした音が楽しめる。どちらかというとヤマハのCF系を彷彿とさせる重心の低いピアノの音である。
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http://www.hmv.co.jp/product/detail/3878458
R.V.Beethoven:
Piano Sonata No.25 in G major, Op.79
Piano Sonata No.24 in F sharp major, Op.78 "Therese"
Piano Sonata No.9 in E major, Op.14 No.1
Piano Sonata No.10 in G major, Op.14 No.2
Piano Sonata No.19 in G minor, Op.49 No.1
Piano Sonata No.20 in G major, Op.49 No.2
Mari Kodama (piano) 児玉麻里(ピアノ)
児玉麻里はここ数年、ペンタトーンでベトPソナタのチクルスを録ってきていて、これが5枚目のリリースとなる。児玉はレコーディングだけではなく世界各地でベトPコンの全曲演奏を試みており、昨今では逆輸入という感じで浜離宮朝日ホールにおけるリサイタルも賞賛される出来映えとなっていて、目下注目中のベト弾きの一人ではなかろうか。また、児玉の旦那で日系有名指揮者であるケント・ナガノとの競演でロスやサンフランでのベトPコン・シリーズも息の長い定評を博するなど、遅咲きながらなかなかの活躍ぶりである。
今までリリースされているペンタトーンのこのチクルスは買ってはいないが、今回、ちょっと変わったセレクションとなっているこの5枚目を買った。要は好きな25番・郭公と24番テレーゼがフィーチャーされていたからだ。3楽章ヴィヴァーチェがショパンの胡蝶に酷似したこの郭公は、ベートーヴェンのピアノ曲における一つの象徴と個人的には思っているし、形式主義を貫きつつもストレートで素直な音楽表現のテレーゼは、メロディ・メーカーとしてのベートーヴェンの価値を改めて確認できる佳作と思っている。ベトのPソナタの美点は悲愴/月光/熱情だけにあるわけではないのである。
この人のピアノは、特にベトPソナタは、なかなかに濃密にして味わいが深い。軽量感と速度感がもて囃される昨今にあって、正面からまともにベートーヴェンのピアノ譜面に相対峙している様で、それが寧ろ新鮮な感じなのだ。質量を伴った、しっかりとした歩調で深く鋭く旋律を切り刻みつつ、さりとてベッタリと張り付くような鈍重なフィーリングは微塵もない。基本はノンレガート、そして緩徐部はレガートを貫いていてなかなかに潔いのである。和声に載る旋律の隅々にまで児玉の自信に満ちた解釈が活きていて、いわば確信犯的な割り切りと大胆な構図でこの種のベトPソナタを描いていく。
従前のリリースは聴いていないので知らないのであるが、この5枚目のリリースはどうやら小規模作品だけを収録したもののようだ。従って作曲年代の順序で並んでいるわけでもなく調性の順序でもない。どれも、恐らくはソナチネと言える規模の作品であって、言うならばモーツァルトのソナタに似たような屈託のない素直な習作的な曲ばかりと言える。そのぶん演奏は難しいと考えられる。つまり奏者の個性の挟み込みを作品自体のシンプルさが拒絶しているようなところがあって、どんなに策を弄してもおかしな事になることから、結局は裸の譜面の本来論的な根底に込められた作家の真意を探る旅となるのである。
結論であるが、この児玉の曲想はこの不安定な時代背景にあって価値ある安定度をもたらしてくれる落ち着いた力強さを持っていて、ベートーヴェン解釈としては優れていると解する。ベートーヴェンが書いたソナタ全32曲を改めて俯瞰する機会を与えてくれたと感じている。
(録音評)
Pentatoneレーベル、PTC5186304、SACDハイブリッド+DVDの二枚組。録音はPolyhymnia International B.Vの担当。音質はここ一年ほどで確立されつつある新生ペンタトーン・サウンドで、不必要で過度なブリリアンスが徹底的に排除されたクリーンなものだ。以前のペンタトーンはキラキラとしたアクセントがついていてそれはある人たちにとっては不快だったらしい(オフ会仲間の一人で耳の良い悪口の人物は「味の素臭い」と表現していた)。しかし、この盤の音質はニュー・スタンダードと言える素晴らしく地味系&透過度の高い録音だ。
ピアノはスタインウェイD-274とあるが、調律のせいか児玉のキータッチのせいか非常に野太くて実在感が強烈、そしてメタリックさやピーキーさのないしっとりとした音が楽しめる。どちらかというとヤマハのCF系を彷彿とさせる重心の低いピアノの音である。
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by primex64
| 2010-12-04 23:11
| Solo - Pf
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