2010年 11月 21日
Paganini: 24 Caprices Op.1@Julia Fischer |
今度のユリアの新譜はパガニーニ:24のカプリースの全曲録音だった。デッカの夏のリリースで、既に評判は幾つも出ていて賛否両論といったところ。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3848390
Paganini: Caprices for solo violin, Op.1 Nos.1-24 (complete)
Julia Fischer (violin)
ユリアの評判を今更云々するわけではないが、彼女が優秀なVn奏者であることは論を待たない。そしてこのアルバムを聴いてそれが再確認できるわけだが、どうも、技巧的に秀でていて感情表出が豊かであれば、即ち感動的な良い演奏が出来るのかというと、どうもそうではないらしい。
どのトラックも水準以上の構成力とテクニック、素早く卒のない操弦・操弓から紡ぎ出される鋭く乱高下する旋律、ダブルストップによる無駄のない美しい和声であって、これは一般的には素晴らしい部類のカプリースだろう。が、どうも情が通っていないというか、どこかに醒めてテンションの低い部位があるというか、聴いた後も何とも言えない半端な感じが残ってしまうのだ。
あまり比べたくはないけれど、神尾真由子のカプリースは、技巧的にはユリアのこれに僅かに劣るであろうし、細やかな弦の統制力、感情表現の揺れ幅といったメンタル面でのコントロールに関してもユリアが少々洗練されていると思う。しかし、エネルギーと集中力、そしてなにより気迫の伝わり方が違うようで、演奏の楽しさ、音楽の構造体としての出来映え、規模感からみれば神尾のカプリースの方が圧倒的に楽しめる。
とはいえ、これはこれで素晴らしい出来映えで破綻のない24のカプリースの登場と言える。全般的に速めのテンポ取りを基調としつつ、モデラートの曲ではたっぷりとしたアゴーギクを効かせて円やかな旋律を醸し出しているし、激情が迸るパートにおいてもそれなりに激しい擦過音と共に乱れのないダブルストップを維持するなどどこをとっても卒のない仕上がりなのだ。
ジャケットは、恐らくは生前の鬼才パガニーニの正装を模したと思われる黒ずくめのスーツ姿で、男性的で精悍な印象を演出しているのであろうが、実際に紡がれている音楽はそういったデモーニッシュなパガニーニのイメージを反映したものではなく、どちらかというと女性的で上品、そして清潔な印象が支配的といえる。これは神尾の鬼気迫る男性的な解釈とは正反対だ。
最終24曲目の疾風のような集大成は、色々と他者比較はしたくなるところだが、この際それをしないのがお約束というものだろう。(いや、他者比較に於いてもがっかりすると言うことは決してないはず・・)
(録音評)
DECCA 4782274、輸入盤の通常CD。録音は2008年9月1~5日と2009年4月8-9日、場所はミュンヘンのAugust Everding Saalとある。録音担当はPolyhymniaであり、音質は細身で高解像度系に振った鮮やかなもの。Vnの音像は小さく中央奥に定位する。アンビエンスは割と豊かで、自然な残響の基でユリアの変幻自在、華奢でフローラルなVnを鮮やかに捉えている。大手レーベルとしては相当にハイレベルな録音だ。
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http://www.hmv.co.jp/product/detail/3848390
Paganini: Caprices for solo violin, Op.1 Nos.1-24 (complete)
Julia Fischer (violin)
ユリアの評判を今更云々するわけではないが、彼女が優秀なVn奏者であることは論を待たない。そしてこのアルバムを聴いてそれが再確認できるわけだが、どうも、技巧的に秀でていて感情表出が豊かであれば、即ち感動的な良い演奏が出来るのかというと、どうもそうではないらしい。
どのトラックも水準以上の構成力とテクニック、素早く卒のない操弦・操弓から紡ぎ出される鋭く乱高下する旋律、ダブルストップによる無駄のない美しい和声であって、これは一般的には素晴らしい部類のカプリースだろう。が、どうも情が通っていないというか、どこかに醒めてテンションの低い部位があるというか、聴いた後も何とも言えない半端な感じが残ってしまうのだ。
あまり比べたくはないけれど、神尾真由子のカプリースは、技巧的にはユリアのこれに僅かに劣るであろうし、細やかな弦の統制力、感情表現の揺れ幅といったメンタル面でのコントロールに関してもユリアが少々洗練されていると思う。しかし、エネルギーと集中力、そしてなにより気迫の伝わり方が違うようで、演奏の楽しさ、音楽の構造体としての出来映え、規模感からみれば神尾のカプリースの方が圧倒的に楽しめる。
とはいえ、これはこれで素晴らしい出来映えで破綻のない24のカプリースの登場と言える。全般的に速めのテンポ取りを基調としつつ、モデラートの曲ではたっぷりとしたアゴーギクを効かせて円やかな旋律を醸し出しているし、激情が迸るパートにおいてもそれなりに激しい擦過音と共に乱れのないダブルストップを維持するなどどこをとっても卒のない仕上がりなのだ。
ジャケットは、恐らくは生前の鬼才パガニーニの正装を模したと思われる黒ずくめのスーツ姿で、男性的で精悍な印象を演出しているのであろうが、実際に紡がれている音楽はそういったデモーニッシュなパガニーニのイメージを反映したものではなく、どちらかというと女性的で上品、そして清潔な印象が支配的といえる。これは神尾の鬼気迫る男性的な解釈とは正反対だ。
最終24曲目の疾風のような集大成は、色々と他者比較はしたくなるところだが、この際それをしないのがお約束というものだろう。(いや、他者比較に於いてもがっかりすると言うことは決してないはず・・)
(録音評)
DECCA 4782274、輸入盤の通常CD。録音は2008年9月1~5日と2009年4月8-9日、場所はミュンヘンのAugust Everding Saalとある。録音担当はPolyhymniaであり、音質は細身で高解像度系に振った鮮やかなもの。Vnの音像は小さく中央奥に定位する。アンビエンスは割と豊かで、自然な残響の基でユリアの変幻自在、華奢でフローラルなVnを鮮やかに捉えている。大手レーベルとしては相当にハイレベルな録音だ。
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by primex64
| 2010-11-21 14:03
| Solo - Vn
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